第五部 第2話 所属ギルド決定
二学期最初の朝、学園長の長い朝の朝礼が終わると勇者コースや聖女コース、およびこれからギルドへクエスト入会を希望する生徒たちに向けて説明会が開催された。
「えーそれでは、学園ギルドに所属するみなさんに生徒会本部の代表であるルーンさんから励ましのお言葉があります」
パチパチパチ……! 何処からともなく、拍手が鳴り始めた。
「ルーン会長だぁ……私、本物を近くで見るの初めて……! 可愛い……!」
「あぁ……憧れのルーン会長。オレも賢者試験に合格していればなぁ」
何処からともなく、ルーン会長を絶賛する声が聞こえてくる。
無理もないか……学生服に魔法使いのマントを装備したルーン会長は、まるでラノベやスマホゲームに登場する超絶激レアキャラのような神々しい輝きを放っていた。
もし万が一、スマホゲームの中でルーン会長がガチャで手に入るイベントが実装されたら、手持ちのデジタルコインをすべて投げ打ってでもガチャを回し続けてしまいそうなほどのオーラの強さだ。
「本日は、みなさんの学園における所属ギルドが決定する大事な日です。クエスト中は、机上の理論では予測し得ない事態も発生します。もっとも大事なことは、メンバー内の人命です。HPの少ないメンバーがいる場合や、モンスターのレベルが予想以上に高い場合は撤退も視野に入れるようにしましょう……」
オレたちより1学年上のルーン会長は、金髪をバレッタで束ね、トレードマークのメガネをヘアバンドがわりに頭にかけていてちょっぴりクールな印象。
だが、中身は純情で可愛い面もあると噂の美人生徒会長……ルーン会長への眼差しは男子のみならず、賢者試験合格者に憧れる女子生徒たちの視線も熱い。
「そういえば、学園ギルド本部って生徒会が仕切っているんだっけ」
隣の席で一緒にお話を聞いていたレインと、クジ引きまでの待ち時間の間何となく世間話。
「うん。確か今は生徒会長のルーン会長が、ギルドのお仕事を引き受けているらしいよ。凄いよね、ルーン会長って。すでに、賢者の資格認定を受けているらしくて、卒業後は研究コースに進級するのがもう決定しているんだって!」
ギルドと生徒会の密な関係を何となく知らされる。学生ながらも、すでにギルド運営に携わっている役員たちは将来のギルドリーダー候補といったところだろうか。
「へぇ……と言うことは、ルーン会長は賢者に転職後も学園に留まってギルドの運営を手伝うのか。じゃあ、しばらく学園ギルドは安泰だな。ルーン会長って、歴代でも成績優秀者なんだろう? まぁ、オレは生徒会に所属していないから、話す機会もないけどさ……」
ほんの一瞬だが、生徒会役員に立候補して【生徒会ギルド】に所属しとけば良かったかな……という考えが頭をよぎった。
希望ギルドの申請がなかった場合は、クジ引きで公平にスキルに合った振り分けられる。と、言っても勇者とパートナー聖女は二人一組なので、必ず同じギルドになるのだが……。
* * *
新たにギルドクエストを行うことになる新人に向けてクジが始まった。トンガリ帽子を被った魔法使いファッションの占いコースの先生達が、クジ引き係をしてくれる。
さっそく列に並び箱に手を入れ、ガサゴソとクジを引く。魔法で作られたシンプルなクジに書かれていたのは十字架のマーク。引いたクジを受付係の先生に手渡す。
「イクト君は十字架のマークですか? じゃあ教会のギルドの所属ね。パートナーのミンティアさんも回復魔法の使い手だし、きっと上手くいくわよ」
どちらかというと、オレの所有スキルよりもミンティアの回復魔法スキルが重視されて所属が決まってしまった気がする。
オレの隣でクジ引きをしたレインは、星のマークだ。どちらかというと、攻撃魔法などの使い手が所属しているギルドである。また、噂だけかも知れないが調査任務が多いらしい……大丈夫だろうか?
「レインさんは星のマークですか? 私の受け持つ占星術系のギルドね。後で案内するわ……レインさんは女勇者だから、1人で勇者役と聖女役をこなすことになって大変だけど。うちのギルドでその都度サポートメンバーを紹介するから」
1人で2人分の仕事をこなさなくてはいけないレイン。やはり、パートナー聖女もいないし大変なのか……。
「ありがとうございます! イクト君、別のギルドになったけど……頑張ろう」
「そうだな、でもレイン無理しちゃダメだぞ。さっきルーン会長が言っていたように、危なくなったら撤退して……。あぁやっぱり、同じギルドに所属出来るようにあらかじめ一緒に申請しとけばよかったな」
今更後悔しても遅いのかもしれないが、女勇者という特別なポジションのせいでパートナーを作ることが出来ないレインのことが心配になってしまう。
「うん……イクト君も研修無理しないでね」
未練がましくレインのことを気にするオレにクジ引きを担当していた占い師の先生が、にこやかに所属ギルドの地図を手渡してくれた。早く手続きをするようにやんわりと促しているのだろう。
「イクト君。所属先決まったんだね……レインちゃんとは別のギルドになったんだ。あのね、私……足手まといにならないように頑張るね……」
そう言って、遠慮がちに優しく微笑むミンティア。今日から正式にミンティアとオレは冒険のパートナーという関係になる。
本来は意思の疎通が上手くいかないといけない組み合わせだが。ミンティアとオレの場合は、婚約の話が持ち上がった事により、最近はギクシャクしていた。
「ねえイクト君……手繋いでもいい? 昔はイクト君とよく手をつないで歩いたよね。いつの間にか意識して繋がなくなったけど……また昔みたいに楽しく……」
ミンティアの潤んだ瞳がオレの視線とぶつかる。オレは異世界転生してきた人間だから、現実世界の基準で物事を考えがちだ。
15歳で結婚出来るというアースプラネットの基準に戸惑ったが、よく考えてみれば現実世界でも昔は15歳で成人していたじゃないか。
それによく知らない誰かと結婚させられる訳じゃなく、ずっと意識してきたパートナーのミンティアと結婚出来れば安心だ。
きっと……大丈夫。けれど、その一方でレインを想うと胸がチクチク痛む。
レインのことが気になりながらも、潤んだ瞳でミンティアに迫られると拒否出来ないオレは、なんだかんだ言って優柔不断なんだろう。
「ああ、行こう!」
オレは久しぶりにミンティアの手を取り、教会までの道のりを歩いて行った……自分でもよく分からない、心の不安の正体を見ないようにしながら……。
* * *
朝礼が行われていた体育館から徒歩10分程、ダーツ魔法学園の裏庭にあるレンガ造りの教会がこれからオレが所属する事になるギルドの本拠地だ。
ギルドの入り口では既に新たなメンバーを迎える準備が始まっており、新たな所属者の名前は既に連絡済みのようだった。
ステンドグラスが輝く教会内をキョロキョロと見回していると、ブラウンの髪をポニーテールに結んだオレ達より少し年上くらいの美少女が明るく手を振っている。
「キミが勇者の卵のイクト君だね! パートナー聖女の子も一緒かな? 後で聖女さんの方も本人確認するからね。私の名前はクラン、ギルド所属者やサポーターの案内役だよ。隣町のギルドメンバー養成高等学校出身。武器は、弓で狩人兼詩人なんだ」
「ギルドの運営は、ダーツ魔法学園以外の生徒も携わっているんですか?」
「うん。もちろん仕切っているのはダーツ魔法学園の生徒会本部だけどね。サポートメンバーとして、他校からこのギルドに通うものも多いから」
俗に言う、ダーツ魔法学園出身者と他校出身者のパイプ役という事なのだろう。
「たしかに、人数が多いと思ったら……」
「このギルドは聖騎士団という事になっているけど、回復呪文の使い手を集めているだけで、実際の聖職者はまだ少ないんだ。どちらかというと後方支援系のギルドだよ。よろしくね」
どちらかというと後方支援系……か。
前線バリバリのギルドはまだオレには早いし、運がいいのか……。
「初めまして! 勇者コースのイクトです。まだ未熟ですがよろしくお願いします」
「はじめまして……ミンティアと申します。ギルドのお役に立てるよう頑張ります」
オレとミンティアが揃って挨拶すると「あはは、まるでもう2人は夫婦みたいだなあ、仲良くやろうね!」と深い意味はなかったのかも知れないが、クランさんのセリフにオレもミンティアも思わず顔を赤くして、何も言えなくなってしまう。
「もう! お兄ちゃん、こっちで手続きだよ」
家族申請でオレと自動的に同じギルドに最年少で所属する事になっていた妹のアイラが、パタパタとツインテールを揺らしながらオレ達を呼ぶ。
オレとミンティアの間には、微妙に照れた空気が流れていたのであった。




