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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第四部 運命の聖女編
110/355

第四部 第14話 超美麗ムービーRPG


 若干波乱含みのシーンも垣間見れたがなんとか無事に大魔王先生による特別講義が終わった。その後、勇者コースの生徒達は担架で運ばれた上級生勇者を省き教室へ……待ちに待った昼休みだ。


 大きな配膳台をガラガラと鳴らしながら給食当番の生徒たちが配膳準備をし始めた。そして、担当のラナ先生から、昼食についてのアナウンス。


「ダーツ魔法学校は、原則として食堂が多数あり本来的には昼食も食堂で摂ることが可能です。しかしながら、みなさんの勇者としての成長を管理するために給食日が設けられています。本日は、教室でコミュニケーションを取りながら給食を楽しんで下さい!」

「はーいっ」

「なお、昼食後は始業式イベントであるダーツ魔法学園オリジナル特別ムービーを上映します」


 不思議なことに、この学校では午後から始業式をやるのだという。しかも、学園オリジナルの特別ムービーがメインイベントのようだ。

 いろいろと謎が多いが取り敢えずは昼食タイムを満喫しよう。レインとともに配膳の列に並び、昼食を受け取る。


「おっ思っていたよりお洒落な感じのメニューが多いな。ご飯はピラフだし、野菜スープは西洋風だし……さすがレストランをいくつも校内で運営しているだけのことはあるよ」

「今日はお魚のムニエルがメインだね、お惣菜も多いし、ゆで卵も付いているし。オヤツはストロベリーヨーグルトかぁ……美味しそう」


 みんなの栄養をしっかり考えたメニューというだけあって、野菜、魚、炭水化物、乳製品とバランスの良いメニュー構成だ。味付けはどちらかというと薄味で、素材を大事に味覚を鍛える効果もあるらしい。


「どうして午前中を授業にしてまで、午後に始業式をやるのだろ? その特別ムービーっていうのが重要なのかな」


 給食の冒険者ランチを食べながらふと呟くと、女勇者レインが俺の疑問に答えてくれた。


「あっそうか。……イクト君は転校生だからこの学校の始業式初めてだよね。実は始業式はね、ダーツ校長先生が若い頃のムービーを上映するんだ。超大作で合計6時間のムービーで長いから、午後に上映することになったんだよ」


「6時間ッ? 映画並み……いや映画以上じゃないかっ。そんなにすごいのよく製作するな……もしかしたら学園長は映画製作が趣味なのか?」

「うん、自伝を書いたりその自伝を元に映画を作ったりしているの。実は、ダーツ校長先生は、モブモブ戦士っていう異世界で1番弱い職業だったらしいけど、努力を重ねて誰よりも強くなったんだ。だから、校長先生の冒険記録ムービーを見れば、どんな生徒も頑張ろうって思えるんだよ。たぶん……」

「たぶん? なぜ多分、何か不安な点でもあるのか」


「初めて見る人は、あまりのビジュアルレベルの高さに自信喪失する人もいるらしいけど、イクト君は大丈夫だね……。イケメンだから……」

「イケメンとムービーと……一体なんの関係が?」

「出演者のレベルが高すぎて、皆装備品や外見の磨き方に不安を覚えるんだって。でも、私はあのムービーに出てくる女勇者様みたいになれたらって思いながら見てたよ。楽しみだな……あのムービー大好きなんだ……」


 そう言って柔らかく微笑む女勇者レイン、どうやら女勇者レインはそのムービーのファンのようだ。


「大いなる女性勇者で、ふとした時に優しい表情を見せる一面も持ち合わせるあのヒロイン……凄かった」

 ウットリとしながら女勇者様について語るレインはただの女勇者様信者と化している。

「そ、そう……随分と凄そうな女勇者だね。きっと無茶苦茶美人なんだろう……」


 よく分からないが、そのムービーのヒロインは女勇者のようだ。やっぱり、女勇者を目指す女の子は女勇者様に憧れているんだ。



 * * *



 その後シアタールームで行われる始業式。音響施設もバッチリ揃っていそうな豪華な会場に驚きつつ座り心地の良い椅子に背を預ける。特に校長先生のお言葉もないまま、大画面のスクリーンを前に大人しく座らされるという不思議な始業式のスタイルだがこれも学校の個性と言える。

「ダーツ校長先生の若い頃って、どんななんだろう?」

「……それが、出演者の誰が若い頃の校長先生なのかよく分からないんだよね。ほら、なんと言っても【モブ】って言われる職業についていた人だから……。一説には校長先生の本名がモブって説もあるけどね」

「職業がモブか……よく考えてみればすごい出世頭だ。校長先生って……なかなかモブから魔法学園の校長になんてなれないよ」


 ジリリリリリ……上映のベルが鳴り、ついにムービーが幕を開けた。


 ダイナミックなサウンドと麗しい風景がウリのそのムービーは、オレの知っているRPGとはひと味違っていた。


 魔導師の杖を構える美女、SF風の未来都市ネオ心斎橋、バイクを使った逃走劇と魔法バトル、そして未来都市を走るタイガーの群れ……。


(ずいぶんと未来的な世界観が舞台だ……てっきり中世風のファンタジーが展開されると思っていたけど……)


 登場人物は皆ヘアサロンに行ってきたばかりかのような、ビジュアル系でメイクもばっちりだ……。女性は皆オシャレな斜め前髪で、メイクバッチリのミニスカ美女ばかり。男性は皆髪を斬新にデザインし眉を整えて、シルバーアクセサリーを装備しまくって、革のズボンを履くのが定番のようだ。


 RPGの冒険者というより、ファッションモデルのようである。このメンバーでファッションショーをやればかなり盛り上がるだろう。ファッション雑誌の表紙を飾ったり、ポスターになったりしていそう……。




(オープニング)


 敵Aに追い詰められる美脚の女勇者……。既に立ち姿からしてモデルポーズで決めており、このストーリーがビジュアルに命がけのオシャレ系ムービーである事が伺われる。


『おったで! 女勇者の仲間がネオ道頓堀でたこ焼きランチ中や!』

『勝つのはワシらや! 』


(あれっ見た目は敵も味方も超美麗なのに、何故か言葉遣いは随分と親しみやすいネオ関西弁だ。意外な展開……)


 大いなる女勇者は、ネオ道頓堀で敵に囲まれて最大のピンチに陥っていた。そこに颯爽と現れる、タイガーに乗ったイケメン。


『オレが助けに来たからにはもう安心やで! 女勇者さん!』


 バシバシ! タイガーの肉球パンチが、敵の投げた武器を弾き飛ばす……思わぬ反撃にたじろぐ敵達。


『なんでや〜』



 全員ネオ関西弁のため、ネオ関東出身のオレはネオ関西弁のイントネーションに慣れることで精一杯だった……。もしかしたら、この人たち、外見が超美形なだけで実は結構面白い? 何となく女勇者の仲間達の命が狙われてるっぽい感じのストーリーだが、いちいち関西弁でコミカルな描写が要所要所に登場するため案外緊張感はなかった。


 そして、未だにダーツ校長の若い頃が誰なのか分からぬまま2時間が経過。一旦、休憩時間を挟んでストーリー中盤が上映される。


 夕日を背に、何かを悔やむ女勇者さん。いつのまにか崖の上に立って悩んでいるあたり、相当ショックな出来事があったんだろう。


『私は守れへんかった……たこ焼きを食べそびれた人達を……けれどこのまま終わらせるわけにはいかんのや……!』

 立ち去ろうとする女勇者さんをお付きの美少年が追いかけようとする。

『待ってえな! 女勇者さん!  行かんといて!』

 美少年の制止を振り切り、何処かへと消える女勇者さん。まさか、ここで主人公交代なのか……。

『……お前は生きるんや……!』


 ヒロインの女勇者さんは、どうやら仲間の誰かがたこ焼きを食べそびれたようで、大切な人達のランチタイムを守れなかったことを気にしているようだが、何が何だか未だによく分からない。

 ところでいつダーツ校長先生は出てくるのだろう? まさか、女勇者さんと一緒にいる美少年?


(6時間後ストーリー終盤)


 ラストバトルは廃墟やら秘密工場やら怪しいムードがてんこ盛りだったが女勇者さんの未知なるチートスキルが炸裂して敵は全て一掃される。だが失ったものは大きかった。この街から、女勇者さんが去るなんて……。


『女勇者さーん! カムバックやー』


(ナレーション)

  大いなるチートスキルを受け継いだ女勇者さんの美しさは、これからも永遠に語り継がれるであろう……。

 次回! コスプレスキル修行でパワーアップして帰ってきた女勇者さんのいろんなコスチュームが最大のウリだっ。水着、和装、バニーガール風ファッションまで着こなす生まれ変わった女勇者さんの無双に期待してね!

 最新作は、来年度始業式で公開……お楽しみに……!


 次回、作製作費50億円の超大作……カミングスーン!


 パチパチパチパチ!

 美麗エンディングムービーが終わり、拍手が響く。


 6時間の超大作ムービー始業式が幕を閉じた。休憩時間が2時間おきに入ったが、かなりの長さだった。実は、中盤まではこの数年間毎年上映されている内容だったそうで上級生たちは後半の上映から参加している者もあった。


 満足そうな表情で、突然壇上に現れるダーツ校長先生。

『どうやった? ワシの初恋の女勇者さんの活躍は……美人やったろ? 生徒諸君も女勇者さんを見習って、強い勇者を目指さなあかんで!』


 結局、ダーツ校長先生がムービーのどの登場人物だったのかよく分からないまま、始業式は終了した。

 けれど登場人物のすべてがビジュアルレベルの高いイケメンと美女ばかりだったせいか、自分の顔を鏡でチェックする生徒もチラホラいる……。


「……相変わらず、助っ人のアニキは超絶イケメンだったよ。オレもあんな感じになれたらなぁ」

「流石にあそこまで超美形になれなくても雰囲気くらいは真似してみたいよね」

「ねぇ……私、髪型……ちょっと変えてみような?」


 これが、女勇者レインの言っていた自信喪失系ムービーか……。


 翌日、ムービーの影響で学校内にある美容院は予約で持ちきりとなった。上級生に至っては眉毛を整えたり、購買に売ってる謎のシルバーアクセサリーが売り切れたり、革のズボンを履いてくる生徒が増えるなどの経済効果を生み出していた。


「なんかさ……生徒たちの雰囲気が凄くなったよね。みんなビジュアルに目覚めているっていうか……」

「うん、今年は新しいメンバーも加わってビジュアルぶりに拍車がかかっていたから。それにホラ……ムービーで使った装備品やアクセサリー……実際に売店で売られているの」

「えっ? まさかあのムービーは実際のビジネスを兼ねていた……。いや、考えすぎか」


 このムービーを公開することで、学校内の生徒にファッション感覚を身につけさせ、購買の商品を売ることがムービーの真の狙い。


「もしかして校長先生が大出世したのって……商売が上手だから……?」

「あはは……そうかもね!」


 屈託無く笑うレインに思わずドキッとする。さすがは女勇者だ……可愛らしくも麗しい。


 だが、オレがこの日から女勇者レインに心が強く惹かれるようになったのは……ムービーの影響だけではないのは事実だった。


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