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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第四部 運命の聖女編
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第四部 第12話 もう1人の新ヒロインは女勇者


 不思議と早く目が覚めた朝、まだ学校が始まるまで数日あるが学内の雰囲気に慣れるために散歩にでも出かけようとしたその時。


「そういえば、郵便ポストを確認していなかった……あれっ誰かから手紙だ……」

「へぇ、もうお手紙が届くんだね。もしかしたら魔法力で届けてもらったのかも……誰から?」

「アオイからだ……一旦、部屋に戻ろう……」


 昨日は、投函されていることすら気がつかなかった幼なじみアオイからの手紙。淡いピンク色の桜模様が春らしい封筒とお揃いの便箋セット。手紙を開くとふんわりと桜の香りが漂ってきて、練り香水を便箋につけてくれたことが分かる。

 テーブルの上に手紙を大切に広げて、何度も確認……そういえば手紙を書くと約束してくれていた。


「悪いことしちゃったな……こんなに早く手紙を送ってくれたなんて、気がつかなかった。せめて昨日のうちに気づいていれば、今日の朝には返事を出せていたのに……。便箋セット持っていたっけ? 昨日買ってくればよかった……」

「仕方がないよ、イクト君。昨日は久しぶりに女アレルギーを発症して身体が参っていたし。それにほら……アオイちゃんへのプレゼントも用意している事だし……ねっ」


 オレがダーツ魔法学園に転校してすぐに送ってくれたのだと思うと申し訳ない気持ちになる。アオイがいなくて寂しいと感じながらも、すぐにミンティアと仲良く外出していたのだから。



 * * *



 イクト君へ


 お元気ですか?

 イクト君がネオ関西に旅立ってから1日が過ぎてしまいました。休みの日はほとんど毎日イクト君に会っていたのに、しばらく会えないなんて……まだ実感がなくて、何だか心が寂しいです。

 でも、イクト君は立派な勇者様になるためにネオ関西の学校に転校したんだから、会えなくても我慢するね。


 そうそう……今日は、毎年みんなでお花見に行ってた桜の公園に行ったよ。イクト君がいない初めてのお花見は寂しかったけれど、今年は特に満開ですごく綺麗でした。

 もしかしたら、イクト君のいない寂しさを桜の花が慰めてくれたのかもしれません。


 みんなでお花見の写真を撮ったので送ります。満開の桜の写真をイクト君に……。


 ねぇイクト君、またいつか……冒険者としての勉強が落ち着いたら桜の花をみんなでみようね! アオイより。



 * * *



 手紙には毎年お母さんや妹アイラ、アオイの家族らと一緒に見に行っていた桜の写真が数枚同封されていた。ほんのりと色づく桜の花びらはとても美しく、懐かしい。

 ダーツ魔法学園の校内にも桜はたくさん咲いているが、少しずつ色合いや風貌が異なるのだ。しばらくは故郷の桜を見ることが出来ないのだと思うと寂しさが増す。


「そっか……オレが転校した次の日は恒例のお花見会だったんだ。転校の準備で忙しかったし見頃と少しだけずれちゃったから、結局オレは参加出来なかったけど」


 アオイからもらった桜の写真を、実家から持参した白いフレームの写真立てに収めて机に飾る。


「朝食を済ませたら売店に寄って便箋セットを買おう。学校オリジナルのセットがあるらしいから、分かりやすいし……」

「うん、ちゃんとこの学校で買ったものならアオイちゃんも安心するだろうしね!」


 ざわつく売店は、転校生であるオレでもすぐに発見できるほど賑わっていた。よく考えてみれば、みんな故郷を離れて冒険者になるための勉強をしているのだ。必要なものは学内で揃える生徒が多いだろう。


「ええと。便箋セットは……エステル、どこだか分かる?」

「うーんと……便箋、便箋……」


「あっイクト君! 昨日は楽しかったね。便箋セットを探しているの? はい、これっ……ダーツ魔法学園のエンブレム付きで人気なんだ」


 待ち合わせをした訳ではないが、ミンティアと偶然、売店で出会う。オレが便箋セット売り場を探していることに気づいたようで、素早く学園エンブレム付きの便箋セット売り場を教えてくれた。


「ミンティア、ありがとう……なかなか見つからなくて困っていたから。これから部屋に戻って、故郷の家族や友達に手紙を書くんだ」

「そっか……じゃあ私も今日はお兄ちゃんに手紙を書こうかな? じゃあイクト君、またね……」


 ミンティアとは不思議なくらいリラックスして会話をする事ができ、お互いの距離を適度に保ちつつ、徐々に親しさを増していく。


 自室に戻り、アオイ宛に手紙の返事を書く。オレの後方から守護天使エステルが複雑な心境で見守っているのを何となく感じ取った。


『イクト君……今はまだ小学生だから大丈夫だけど、このまま大きくなったら……。アオイちゃんとミンティアちゃんのどちらかを選ばなくてはいけなくなっちゃうよ……どうするの?』



 しかし、勇者イクトは複数の女性たちと運命的な因果で結ばれている『伝説のハーレム勇者』なのだ。守護天使エステルは前世のイクトがハーレム勇者として活躍していた全盛期を知らないので、将来は三角関係になると予想していたのである。


 だから、この数日後に訪れる新たな美少女との出会いを守護天使エステルは予測できなかったのだ。イクトには新たな運命の女性が、実はもう1人いるということに……。



 * * *



 ついに迎えた新学期初日、学年が上がる時ではあるが勇者コースは全学年が共同で授業を受けていく特別コースだ。今年の新入り勇者はオレ1人だけだった。


「みなさん! 今日から勇者コースの新しい仲間になる、イクト君よ。仲良くするように」


「はーい!」


 勇者コースは少人数で、1学年に1人か2人しか所属者がいない。小学生と中学生が共同で授業を受けるというスタイルに緊張を覚えていたが、案外年齢を気にせず馴染んでいる。


 勇者コースの担当ラナ先生は、女賢者でメガネがよく似合う黒髪ロングヘアの知的な美女だ。各授業によって、専門家から勇者になるための訓練を受けることができる。剣技、体術、魔法、オールマイティが特徴の勇者の勉強はなかなか大変そう。


 すると、ムードメーカーっぽい上級生勇者が親しげに声をかけてくる。

「東の方から来たんだろう? 最初は慣れないかもしれないけれど……まぁ頑張ろうぜっ」

「あっはいっよろしくお願いします」

 

 和気あいあいとしたムードで歓迎されているはずなのに、不思議と感じるプレッシャー。年齢がバラバラなうえに皆『勇者』という特殊な生徒ばかり。前世が勇者だったとはいえ、オレは珍しく少し緊張した。


「じゃあ……イクト君は同い年のレイン君のとなりに座ってね」


 レインという少年がひとこと、「よろしく……」とオレに挨拶してくれる……。オレも雰囲気に流されて「うん、よろしく……

と普段よりもストイックな雰囲気の挨拶になってしまった。何だか同い年なのに、ずいぶんクールキャラだ。


 レイン君は黒髪のおデコがすこし見えるザクザクした短めのヘアスタイルで、頭に勇者特有の細いサークレットを装備している。宝石のような美しい青い目の持ち主で、いわゆる美少年というのはこういう子のことを言うのか……と思わず感心した。


 1時間目の勇者の心得の授業が終わると、2時間目は体術の訓練だった。転校初日のわりにいきなり実技的な訓練をやるんだな。ラナ先生が監修する中、もう1人格闘専門の男の先生も加わって本格的なバトル訓練の予感がする。


「ふふっ今日はイクト君が転校してきた記念の日……きちんとバトルが出来るようになるためのいわゆるチュートリアルというものを行うわよ。じゃあさっそくレイン君と組み手の訓練をしてねっ」


「はいっ!」


 オレの相手は、同い年の美少年勇者のレイン君である。


「……お手柔らかに……」


 レイン君はひとことそう言うと、東洋の拳法と思われる構えをして、あっという間にオレのことを追いつめた。


「はぁっ!」


 びゅっ! 

 素早さで攻めてくるレイン君の攻撃を寸前でかわすオレ。オレにも一応前世勇者の意地があり、レイン君に負けないように踏ん張る。

 何度か攻撃をかわしていくうちにレイン君はスピードはあるものの、いわゆる体力はオレの方が高い……という事に気がついた。それに、オレにはお父さんから伝授されているレスリング技がある。


(転校初日だからと言って、負けるわけにはいかない)


 オレはレイン君の隙を見計らい、レイン君の身体を後ろから捕まえて動きを封じようとした。


「今だ! レイン君、隙ありっっ」


 だいぶレイン君の体力が切れ始めた頃を狙って、レイン君の胸のあたりを掴んだ瞬間だった。


 むにゅううっムニッッッッ!


「むにっ?」

「きゃあぁあああっ! あぁんっダメっ」


(ムニって何っキャァって何っ? えっえっ今の手に残る柔らかい感触は……? まさか、まさか……今のは成長中のいわゆるおっぱいというやつなんじゃ……)


 思わず、押し倒すような形で身体が絡み合ってしまい、なおかつ不可抗力だが技を仕掛けた影響で想定外におっぱいを揉んでしまった。女アレルギーなのに……どうしよう……。


 オレに発育中のおっぱいを揉み揉みと揉まれて、思わず可愛らしい悲鳴をあげるレイン君……? いや、レインちゃんとかレインさんと呼んだ方がいいのでは?


 ピピー!


「そこまで! レイン君、キミ仮にも勇者何だから、きゃあとか言っちゃダメだぞ! いくら女の子だからって、このままじゃ一人前の女勇者になれないぞ!」


 体術担当の先生が厳しく指導する。どうやらレインを立派な女勇者に育てたいようだ。動揺して攻撃の手が止まってしまったことを何度も注意している。


「はい……気をつけます……。頑張って……一人前の女勇者を目指します!」


 レインは女勇者……女勇者……だと……!

 そう……一見、超美少年に見えるこのレイン君こそ、勇者コースの紅一点女勇者レインだったのだ。


「イクト君……さっきの技、すごかったよ。また体術の訓練……しよう……」

「体術の練習……う、うん。そうだね……えっとまたよろしく……」


 すこし目をそらし頬を赤く染める女勇者レイン君は、ボーイッシュながらも超美形なことも手伝って、オレはドキドキして顔を真っ赤にしてしまった。


「ふぅ……」

 タオルで汗を拭う仕草は、まだ少女だというのに、そこはかとなく色っぽい感じすらしてきた。おそらく、オレの肉体も小学4年生になっているから素直に同い年くらいの女の子に色気を感じてしまうのだろう。


 そしてオレは、魔法にでもかけられたかのごとくその場で硬直したまま、動けなくなってしまったのだった。


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