第四部 第7話 新ヒロイン、運命の聖女登場
ネオ関西にある、寄宿舎制の超有名魔法学校に転校する事になったオレ。守護天使エステルとともに新幹線でネオ大阪駅に到着。
13時30分ごろ発の新幹線に乗ってきたものの、すでに時刻は16時過ぎ……日が暮れる前にダーツ魔法学園に辿り着きたいものである。
「はぁ……新幹線での旅もあっという間だったな。もう、ネオ関西に到着か……時間は、もう16時……あんまりのんびりしていられないな。それにしても人が多い……迷子にならないように気をつけないと……」
「本当だね、イクト君。案内によると、ここから徒歩1分の距離にあるバスターミナルから専用のスクールバスが出ているんだって」
「へぇ専用のバスなら迷う心配もないし、安心だな。行こう」
人混みをかき分けて、荷物を手にバスターミナルに移動する。『ダーツ魔法学園専用スクールバスはこちら』という案内を頼りに、列に並ぶ。
オレとエステルの目の前には、ベージュ色のブレザーの制服姿の生徒が数人。パッと見は冒険者育成学校の生徒という感じではなく、一般学校の学生と変わらない雰囲気だ。
だが、よく見ると魔法使い用を手にしていたり、ペット用のカゴに使い魔を連れていたりとやはり冒険者っぽい片鱗が見受けられる。
「あっイクト君、バスが来たよ」
バスターミナルからダーツ魔法学園行きのバスに乗り、揺られること20分……ようやく目的地であるダーツ魔法学園に辿り着いた。
* * *
ダーツ魔法学園は外国のパブリックスクールを意識した西洋風の造りで、敷地面積もドーム数個分と広大だ。夕暮れ時の学園は、オレンジ色の光に包まれておりロマンティックなムード。こんな綺麗な場所で数年間勉強できるなんて、夢みたいだ。
案内図によると、エントランススペースをはじめ学園内には講義を行うための校舎が数棟、体育館、図書館、教会、プラネタリウム併設の博物館、飲食店、など……数えきれないほどの施設が設置されている。
もちろん、寄宿舎制という特徴から生徒たちが生活するための施設としてスーパーや美容院、銭湯なども導入されており、わざわざ街に出なくても安心して生活が可能。
「うわぁ……ずいぶんと大きい学校だなぁ……学校っていうよりは街って感じだ」
「本当、すごいよね……色々見て廻りたいけどもう、夕方だし。受付で入居手続きをしないと……」
すれ違う生徒の中には、そのまま冒険者として戦いに出られそうな鎧や魔法使いローブ姿の者も多い。おそらく、学校の外に出るときは学生服着用、学校内での実習時は専用装備着用というように制服を使い分けているのだろう。
「ええと……寄宿舎の手続きをする場所は……寄宿舎管理の総合案内所へお越し下さい……か。うーん、広すぎて、今いち分かりにくいな」
「どうしよう、誰かに寄宿舎の管理をしている案内所の道順を訊いた方が早いかも」
オレとエステルは案内図を頼りに、迷いながらも寄宿舎の受付に向かう。だが、今現在の自分たちが何処にいるのか分からなくなってしまっていた。
「あれっ……ここどこだろう……? ギルドクエスト管理施設予定地……。まだ、完成していない施設まで来ちゃった」
ほとんどの冒険者は、個人でクエストをこなすわけではなくギルドを介してクエスト活動をするのが定番だ。特に、魔獣との戦いが長期化してからは、レベルの高い冒険者は魔獣討伐部隊に参加している者がほとんどである。
そのため、民間からの依頼は初心から中級までの冒険者が、ギルドクエストとして引き受けるようになったのだという。
ダーツ魔法学園の生徒も中等部くらいになれば、それなりのランクのクエストをこなせる実力を持っているらしい。だから、冒険者としてのクエスト運営施設であるギルドが学園内に設置されてもなんら不思議はないのだが。
「ギルドクエスト? 今のところ、学園内ではクエストの受注は未定だって説明だったけど……。そのうち、学生にもクエストに挑戦させる予定だったのか」
「そうかもね。学園が直接クライアントからクエストを引き受ける予定なのか、それとも外部のギルドからの依頼を共同で引き受けるのかはよく分からないけど。在学中に、冒険者デビューする事になるのかも……とにかく、早く寄宿舎へ……」
再び寄宿舎の管理施設を目指す……だが、先導を切っていたエステルの羽ばたきが止まって、地面に足をストンとおろす。
「……エステル……もしかして、完全に迷ったとか?」
「……大丈夫だよ、イクト君。こうなったら、次にすれ違った守護天使に道を尋ねてみる!」
さっきから、似たような道をグルグルとまわっているだけだし、手っ取り早く誰かに案内してもらった方が身のためだろう。もしかしたら、ギルド施設の建設工事の関係で案内図にある道が封鎖されているのかもしれない。
すると、タイミングよくふわふわとピンク髪の守護天使がオレ達のそばを通りかかった。
「あのピンク髪の守護天使に、道案内を頼もう!」
「う、うん。そうだね……初めてのネオ関西での守護天使業務……うぅ、緊張するなぁ。えっと……新幹線で買ったネオ関西弁をちゃんと使って……」
守護天使エステルは金髪を揺らし緊張しながら、ネオ関西弁の書籍で覚えた通りに「儲かりまっか?」と挨拶をする……覚えたてとはいえ、なかなか流暢なネオ関西弁だ。これなら、会話もスムーズに進むはず……。
相手の守護天使は、まさに天使の名に相応しい余裕の微笑みで、「御機嫌よう、新しい生徒さんと守護天使さんかしら? 私はこの学園の聖女コースに在校する生徒の守護天使を務めている、リリカと申します。手続きをされるのなら、こちらよ! 案内いたしますわ」と美しくも丁寧なお嬢様言葉で返される。
『御機嫌よう』
『〜いたしますわ』
しかも、聖女コースに所属する生徒の守護天使を務めている……。聖女コースなんて存在してたっけ? いわゆる、特別コースってやつだろうか。心なしか、リリカの背景から清楚で清らかな天使オーラが見える気がする。
想定外のお嬢様守護天使の登場に、オレと守護天使エステルは動揺した。
「あ、あの……私ネオ関東から来た、守護天使のエステルって言います。ネオ関西弁の本に、この地区での挨拶はみんな『儲かりまっか?』『ボチボチでんな』じゃないといけないって、書いてあったんですけど……」
まさかの展開に、思わず標準語に戻ったエステルが慌てて例のネオ関西弁の本を見せると、リリカはクスクス笑って……。
「その本は有名ですけど、お笑い芸人守護天使がネタで書かれた本なので、本気にしてはいけませんことよ! 早く気づいて良かったですわ」
「えっっ? じゃ、じゃあ、別にネオ関西で主義天使業務をするからって標準語でもオーケーだったってことっ?」
「ええ、でも地元の守護天使同士で会話をする時は、お国言葉で話す子もいますし。基本的に、活動のスタイルは自由ですのよ。けど、さっきの方言はまるでネオ関西出身者のように正しいイントネーションでしたわっ」
ネタで書かれた本……オレはやっぱりと思ったが、守護天使エステルは必死に勉強していたので、悪くてネタ本なんじゃないかとは言えなかった。
「まぁ、早めに指摘されて良かったじゃないかエステル。しかも、正しいイントネーションだっていうし」
「うぅ……結構頑張って勉強したのに……。あっそれは、ともかくとして実は折り入って頼みがあるんです。実は、手続きを行うために寄宿舎の総合管理のところまで行かなきゃいけなくて。でも、工事現場付近で道に迷っちゃって……」
「まぁ! それは大変ですわ……寄宿舎の総合管理施設は、ギルド施設を新しく建設する関係で場所が移動になったんですの。きっとパンフレットの案内図が、少し古いタイプのものなのね……。任せて下さいな、私が案内しますわっ」
お嬢様らしいふわふわとしたオーラを漂わせているわりには、テキパキと仕事をこなす守護天使リリカ。道案内のおかげで、手続きを済ませたオレ達。
あらかじめ用意されていた部屋の鍵を受け取って、リリカにお礼を言い寄宿舎へ。
「勇者コースは、他のコースに比べて少人数制だからみんな個室を使用出来るのよ。けどまぁ、ほとんどの勇者は守護天使が一緒に暮らすから2人部屋みたいなものだけどね。じゃあ、新しい生活……頑張って!」
管理人さんからひと通り寄宿舎生活の説明をしてもらい、新しい部屋でひと休み。
勇者専門コースは生徒数が少ないため、全員個室なのだという。守護天使エステルも一緒なので完全な個室とは言えないが、気兼ねなく生活できそうだ。
部屋は6畳ほどの大きさで、大きめのロフト付き。ハシゴで登るタイプのロフトは、守護天使であるエステルの寝室となる。ミニキッチンとバストイレ付きで、備え付け家具にベッド、デスク、本棚、タンス、鏡、クローゼット、ミニ冷蔵庫、と揃っていた。
できればミニテーブルも欲しいな、明日ホームセンターに見に行くか……などと考えているとエステルが、「そろそろ夕食の時間だね。イクト君、今日は疲れているし食堂でごはんにするでしょ? 行こう」と、夕飯に誘ってきた。
「確かに食材もないし、疲れているから手料理も大変だろうし……今日は食堂を使うか」
オレとエステルは、寄宿舎が集まる建物の中心部にある食堂に移動。食堂はリストランテと呼ばれていて教会をイメージした美しい建物で、生徒達が夕飯を食べに集まっていた。
ふと気づくと、人の目線がなんとなくこちらに集まっている気がする。だからと言って、別にオレ自身に注目が集まっているという訳でもなく……。
「聖女様や!」
「聖女様が来寄ったで!」
「聖女たん萌え!」
など、生徒達のざわついた声が聞こえる……もしかしたら、例の聖女コースの生徒が注目されているのだろうか。特別受験の珍しいコースだっていう話だし、生徒も目立つ存在なのだろう。
「そういえばさっきの守護天使リリカは、アイドル聖女ヒロインの守護天使をしていると言っていたな」
「うん。詳しく話しを訊けなかったけど、ダーツ魔法学園は聖女って職業の育成をしていたんだね」
オレが気にせずメニューを見て少し迷っていると、「このリストランテのオススメディナーは、セットメニューAコースですわ! デミグラスソースたっぷりの手作りハンバーグですのよ」
優しく可愛らしい声に話しかけられて、思わずドキッとする……守護天使リリカの話し方に似たお嬢様テイストの口調。
オレが振り向くと、ミント色の髪に青い目でロングヘアーのオレと同い年くらいの美少女が、聖女ヒロインに相応しい優しい表情で微笑んでいた。
「キミは……? もしかして、噂の聖女コースの……」
聖女ヒロインからは清楚、美少女、聖女といった清らかで美しいオーラが常に放たれている。
「はじめまして、イクト君! 私の運命の勇者様」