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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第四部 運命の聖女編
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第四部 第5話 二世勇者の悩み

 

 実は元ハイレベル冒険者だったオレの父親とその仲間たちが、所属教会の長期クエスト扱いで魔獣討伐の旅に出て3年が経った。

 そもそもお父さんが旅に出ることになったきっかけは、まだ幼いオレに伝説の勇者の転生疑惑が起こり、魔獣討伐への斡旋が始まった事である。

 流石に、当時幼稚園児だったオレを無理矢理冒険の旅に担ぎ出すような真似をする者はいないと思われていたが、騒ぎが大きくなる前にお父さんが勇者として魔獣討伐の前線に出る決意をしたのだ。


(お父さん……今頃どの辺りを冒険しているんだろう。また、そのうちテレビ番組で特番が組まれるんだろうけど……心配だなぁ)


 オレは小学校低学年になり、今のところ女アレルギーも発症していない。それなりにみんなが平和な暮らしが出来るのも、お父さんをはじめとする討伐部隊のおかげ。

 時折、冒険者を応援するテレビの特番で紹介されるため、一部の人の間では有名人である。


『今日の勇者活躍紹介コーナーは、ぶっちぎりの攻撃力でお馴染みの勇者モモタナさんです。いやぁ、いつもお強くて頼もしいです』

『ははは……これも世のため人のためですよ。私の腕力が、平和をもたらすなら……ふんヌゥッ!』

 バキバキバキ……! 魔獣一派が設置した邪悪魔法の鉱石を、格闘スキルで破壊していくイクトの父……モモタナ。

『すっ凄いですね、まさか武器を使わず格闘スキルのみで魔法鉱石を粉砕するとは……。お見それしました。では、みなさんお待ちかねのバトル指南コーナーです。モモタナさんたちハイレベル冒険者のスキルを参考に訓練に励んでください』

『ははは……ではみなさんご一緒に……ふんヌゥッ! 必殺、爆裂回転回し蹴り……うぉりゃああああ』

『きゃあーモモタナさーん』


 気がつけば、オレのポジションはハーレム勇者の生まれ変わり疑惑のある少年ではなく、有名勇者の息子というポジションに落ち着いていた。



 * * *



「ねぇねぇ……イクト君のお父さんって、魔獣討伐に行ってるあの有名なモモタナさんなんでしょう? やっぱり、イクト君も将来勇者になるの」

「イクト君、テレビの特番でお父さんのことやっていたわよ! クールな顔立ちなのに、戦うときは覆面マスクで凄いわよね! 今度お家に戻ってきたら、サインよろしくね。応援していますって伝えておいて」

「は、はぁ……ありがとうございます。父に伝えておきます」



 小学校から自宅への帰路につく途中、お父さんの活躍を番組で見た視聴者の人から話しかけられる機会がたびたび増えた。賑やかな商店街を通る時は、特に……だ。


 一緒に帰宅していた同じクラスの子が、何気なくオレの将来について質問してきた。

「また、イクト君のお父さんのファンの人に遭遇したね。二世は大変だよなぁ……それで、そのうちやっぱり跡を継ぐの?」

「えっ……別に、今のところは勇者の特訓とかもしていないし……護身術をたまに習う程度かな」

「ふぅん……でもさ、これだけ期待されているんだし、今から進路の1つとして勇者を考えておいた方がいいと思うよ。じゃあ……また明日!」

「ああ、気をつけて……また明日学校で」


 下校時の空はオレンジ色の夕焼け色……人通りの多い商店街には、さらに買い物客が増えていく……暗くなる前に帰らないと。


 オレのお父さんは『覆面マスク勇者モモタナ』という名前で冒険をしている。『覆面マスク勇者』とは、顔には覆面をかぶり、黒ビキニ系の格闘用パンツの軽装備で戦うマッチョ系装備スタイルのことを言う。主に、インターネットでよく取り上げられていた名称だ。

 モモタナは桃太郎を意識したリングネーム、覆面マスクなのは覆面レスラーを意識しているらしい。だが、テレビ視聴者達はただのマッチョ系覆面マスク勇者としてみているようだ。


 最近では、お父さんのファンからオレに子供用の覆面マスクセットが送られてくることもある。


「それにしても……伝説のハーレム勇者の生まれ変わりというイクト君の噂話しを揉み消すために、旅に出たのに……。今では、マッチョ系覆面マスク勇者の息子として、イクト君の知名度が上がっちゃったね」

 オレのボディガード役でもある守護天使のエステルが、ふと感想をもらす。


「あのまま何も出来ない幼稚園児のオレが旅に駆り出されないで済んだわけだし、お父さんには感謝しているよ。けど……最近、息子さんも勇者になるんでしょうって言われるようになっちゃったんだよなぁ」

「さっきも、お友達に後を継ぐことを考えた方が良いってアドバイスされたもんね」

「ははは……やっぱりそういうイメージがついちゃったよな。けど、伝説の勇者の生まれ変わりって思われていろんな人に注目されるよりはプレッシャーが少ないよ……多分」


 このままだと、そのうち覆面マスクを継ぐことになるだろう……お父さんはいいよな、マッチョだから。残念ながら、オレはそんなにムキムキマッチョな体格には育ちそうもないので、覆面マスク勇者を継いだところでお父さんのようにカッコよく着こなすことは不可能だろう。


(どうしよう……前世ではあんまり筋肉付いていなかったし……今回もそんなに筋肉には期待できなさそう。いや、今から青汁とかグリーンスムージーとか飲んで、健康体を目指しながら毎日訓練すれば、もしかしたら……)


「イクト君、どうしたの考え込んで……やっぱりムキムキ覆面マスク勇者になるのはプレッシャー……?」

「えっ……ああ、なんていうか、あんなにムキムキを極めているお父さんと比べられるとちょっぴり気になるかも」

「そっか……イクト君は自分らしく、無理しない形で進路を選んでも良いと思うけどね。考えすぎないで、自然に任せた方が良いよ」

「ありがとう、エステル」


 こんなことなら伝説のハーレム勇者の生まれ変わりですって、自分から告白しておけば良かった。

 複雑な心境で自宅に到着し、ベルを鳴らして玄関のドアを開ける。

「ただいま! お母さん……いないのか……あれっお客さんが来ている?」


 ベルの音を聞きつけて、幼稚園児の妹アイラがパタパタと駆け寄ってきた。アイラのくりっとした大きな目がさらに大きく開き、落ち着きなく話し始める。どうやら、何かオレに伝えたい情報を持っているようだ。

「お兄ちゃん、エステル、お帰りなさい! ねぇねぇ……なんかね……お母さんお客さんと難しいおはなしをしているの。学校がどうとかって、話しているよ」

「難しいおはなし……何だろう?」


 そういえば来客者の靴が、玄関に置いてあったな。尖った爪先のブラウンの靴で、魔法使いが履いていそうなものである。


 客間から、何やら緊迫したムードの話し声がが聞こえる。

「……ですから……そろそろイクト君を……ええ」

「うちのイクトは、特別な訓練をしていませんし……いきなりプロ志望の子たちと一緒に勉強するのは大変かと」


 なんだろう? 訓練、プロ志望……? 一体、なんの……もしかしてさっきも話題が出た勇者とか?


「えっと……ただいま、お母さん……お客さんですか? はじめまして」

 何となく、挨拶をして様子を伺う……お客さんは想像通り魔法使い風の女性だった。


「はじめまして……あなたがイクト君ね、おかえりなさい。あら、守護天使も一緒なのね。実は、寄宿舎の魔法学校に転校して本格的な勇者の勉強を……と思ったんだけど……。また、日を改めてお伺いしますわ。興味があったら、パンフレットを見てね」

「えっ寄宿舎制の魔法学校……転校……オレが……?」

「あら、イクトおかえりなさい。そういうお話があったんだけど……一応、すぐにはお返事が出来ないし……取り敢えずエステルちゃんと一緒に部屋に戻っていて」

「う、うん。行こう、エステル……」


 その後、お客さんは帰って行ったが超有名寄宿舎魔法学校のパンフレットが客間に置かれていた。



 * * *



「ダーツ魔法学園……寄宿舎生活で一流の冒険者を目指そう……か」

「イクト……実は、超有名寄宿舎魔法学校の先生がいらしてね、イクトを転校させたいと言っているの。学費無料で全部面倒見てくれるそうなんだけど……あなた勇者になる気はある?」

「学費が無料……やっぱりお父さんみたいな勇者になることを期待して……?」


 パンフレットの勇者育成コースに、付箋が貼ってある。おそらく、さっきの魔法使いの女性が勧めていたコースこそが、この勇者コースなのだろう。

「お兄ちゃん、みてみて! この学校いろんなコースがあるよっ。アイラだったらね、この格闘家の専門コースに入りたいなぁ。お父さんみたいな格好いい格闘スキルをたくさん覚えるの。お兄ちゃんは、やっぱり勇者コースに入りたいの?」

「うーん……勇者コースの学生服によるなぁ。どれどれ……勇者コースでは2種類の装備を用意しております……1つは他のコースと共通のブレザータイプの学生服。もう1つは、伝統的な勇者の装備スタイルとなりバトルの実習日には、1日中着用することになります」

「ふぅん……制服が2種類あるんだね。お父さんの覆面マスクとは雰囲気が違うけど……」


 勇者コース特有のバトル用制服は、いかにもRPG風のマントにオシャレなデザインだ。サークレット(頭の装備)を身につけていて、なかなかかっこいい勇者コスチュームである。これなら、普通体型のオレでも安心して装備できる。


「多分、お父さんみたいに覆面マスクのレスラー状態で戦う勇者は珍しいんだよ。まず、上半身をめいっぱい鍛えないとカッコよく着こなせないし」

「ふぅん……レスラータイプの勇者になるのって結構大変なんだね」

「ああ、だからお父さんはあんなにファンがたくさんいるわけで……。でも、伝統的な勇者スタイルならオレでも装備できそう……」

「アイラはね……ひらひらのついた可愛い格闘ドレスで戦ってみたいなぁ」


 オレとアイラがバトル時の装備スタイルについて語り合っていると、まるでタイミングを見計らったようにピンポーン! というベルの音が鳴り響いた。

「宅配でーす……イクト君にモモタナさんのファンの方から……」


 まさかまた、覆面マスクセットが送られてきたのか?


「イクトが大きくなってからも使えるように、いろんなサイズの覆面マスクセットが送られてきたわね……。どっちにしろ、イクトはそのうち勇者になる運命なのかしら」


 お母さんが覆面マスクを見て、ため息をついた。


「イクト……選んでちょうだい。この町で16歳になるまで生活して、覆面マスク勇者を継ぐか、超有名寄宿舎魔法学校に転校して伝統的なRPG勇者に転職するか……」


 覆面マスク勇者か、伝統的RPG風勇者か。

 訊かれなくても、マッチョになれそうもないオレの答えは決まっている……。


「お母さん。オレ、超有名寄宿舎魔法学校に転校して、伝統的RPG勇者を目指すよ!」


 それは、オレの勇者としての……そして新たな美少女たちとの出会いをもたらす運命の転機だった。



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