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蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-  作者: 星里有乃
第四部 運命の聖女編
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第四部 第4話 意外な転生編、始まる


「イクト君って、伝説の勇者の生まれ変わりなの。なんで、魔獣を倒しに行かないの? 早く魔獣を倒しに行ってよ」

「やっぱり、前世がハーレム勇者だったから前世時代のカノジョ達が奥さんになろうとしてイクト君に群がってくるんでしょ? ボクだったら、前世とは別の女の子を恋人にしたいなぁ。イクト君は、そういう願望はないの?」

「いくらモテるって言っても、生まれ変わるたびに同じ顔ぶれと付き合うのって疲れない? オレだったら、前世の知り合いは避けて自由に遊びたいけどなぁ」


 うららかな昼下がりに、幼稚園児とは思えない殺伐とした質問合戦が繰り広げられる。しかも、質問というより自分自身の恋愛観を押し付けてくる子までいる。


 きっかけは幼稚園で、普段あまりオレと会話しない男の子が話しかけてきたと思ったら、オレの前世について聞いて……それから質問ぜめが始まった。


「えっなんで、突然……っていうか、どうしてオレがハーレム勇者の生まれ変わりだって確定しているんだよっ」


 昨日、占い師がハーレム勇者の資質が目覚めてきて、不吉だなんだ言ってきたばかりだというのに。今度は、幼稚園でまでそんなこと言われるのか。


 あまりの質問者数の多さに見兼ねた守護天使エステルが、「イクト君のお父さんが伝説の勇者にあやかって名前を頂いただけで、イクト君は今のところ勇者ではありません」とオレの代わりに答えた。


(ナイス、フォローエステル!)


「そうだよ、エステルの言う通りだよ。しかも、占いとか噂話とかを本気にして……そういうのを信じ込む奴がいるから、悪いビジネスが横行するんだ」

 完全に噂話を信じ切っている一部の園児たちに、きっぱりと噂を否定する。


「占い、噂話……じゃあ、イクト君はハーレム勇者の生まれ変わりじゃないの?」

「生まれ変わりとか、前世っていうのは確認しようがないから適当な噂を流しやすくなるんだよ。もう少し、現実を見てから物事を言えよっ」


 地球時代の現代と同じ文明レベルのこの異世界は、カテゴリーで分けると俗に言う『ローファンタジー』という世界観だ。別に、占いやスピリチュアルが物事を決めるすべてという訳ではない。

 つまり、ここが異世界だからといって、みんながやたら前世の因縁だの宿命だのを信じ切っているのがおかしい。

 それに現在の職業は勇者ではなく、普通の幼稚園児である。魔獣だって見たことも聞いたこともない謎の魔獣だというし、前世のオレだって敵う相手かどうか不明だ。


 これ以上、噂が酷くなるのを防ぐためか、先生が体重計のような測定器を運んできて、園児たちに説明し始めた。


「はーい、皆さん落ち着いてください。ここ最近、前世についての噂話が酷くなっています。そこで、子ども用のステータス測定器を園内に導入することになりました」

「今から、それぞれ測定器でステータスを測ります。職業や体力などが瞬時にデータとしてオープンされますよ」

「イクト君、早速乗ってみて下さい……キミが今現在、勇者ではないことを証明した方が良いでしょう」

 先生たち数名に促されて、みんなの前で測定器に乗せられる。すると、測定器からステータス情報が割り出された。


 気になるイクトのステータスは、以下の通り。


【メンバー:1】

 幼稚園児イクト 職業:幼稚園児

 レベル:不明(成長段階)

 HP:50

 MP:10

 攻撃武器種:特になし

 装備武器:特になし

 装備防具:幼稚園児の上着、幼稚園児の半ズボン、黄色い帽子

 装飾品:クラス分けの名ふだ

 呪文:幼稚園児のおまじない

【備考】

 幼稚園児のうちに、趣味や特技を見つけ出して将来の職業を考えてみよう。子どもの可能性は無限大だ!


「ほら、イクト君の職業欄はみなさんと同じ幼稚園児です。そもそも、園児のうちから勇者の職につくことは不可能であるとされています」

「園児のうちに、魔獣を倒しに行くなんてありえないことですよ。みなさんも、悪い噂を本気にせずにきちんとお勉強しましょう」



「なんだ……違うのか……」


 測定器から読み上げられたステータスの内容から、オレが今のところ勇者では無いということを理解したのか。ちょっとがっかりした様子で、園児たちはお砂場遊びの方に帰って行った。


「はあ……大変だったな。あの……先生、ありがとうございます」

 ようやく過ぎ去った質問ぜめにホッとしつつ、測定器をステータス測定器を導入してくれた先生たちにお礼を言う。

「いいのよ……子どものうちから、スピリチュアルにハマりすぎるのも良くないから。きちんと教育していかないと……。でも、イクト君が将来勇者になりたいなら先生たちも応援するわよ」

「最近テレビ番組やラジオで前世についてばかり特集を組んでいるから、勇者イクトス様と似た名前の子はみんな勇者になるように勧められているみたいなの。きっとその影響ね……」


(今までハーレム状態で、いろんな女の子と遊びすぎたのか。伝説の勇者といえばハーレム、ハーレムといえば勇者イクト)


 伝説のハーレム勇者と同じイクトという名前で、プチハーレムを構築していたんじゃ噂が出るのも仕方がないのかもな。

 正確には、古代勇者の称号は救世主を意味するイクトスという名前だ。だが、その後に現れた勇者がイクトスにあやかってイクトという名前を名乗り、しかも伝説とも言えるハーレムを構築してから次第にハーレム勇者の代表的な名前としている定着してしまった。


 オレはマリアやアズサ、エリスといった美少女達との交流を少し自重し、クールでストイックな幼稚園児という設定にイメチェンすることにした。しかしながら、そのイメチェンがかえって女人気を上げることになってしまったが、仕方がない。


「イクト君……最近クールでカッコいいよね。マリアちゃんたちとも、あんまり遊ばなくなったし。告白してみようかな?」

「でも、イクト君って無茶苦茶可愛い魔族の女の子と婚約しているらしいよ。その関係で、マリアちゃんたちとも遊ばなくなったとか……」

「えぇーなんかショック……。しかも、婚約中の女の子って魔族なんだ……」

「イクト君って、もしかしたら本当に勇者様になるかもしれないんでしょう。なのに、婚約者は魔族? それともそれが世界平和のためのハーレムなのかな」


 マセた女の子たちの噂話が、幼稚園内で繰り広げられる。結局、オレに関する噂は今の時点では勇者ではないものの、将来勇者になるかも知れないという認識に変化しただけだった。

 オレは気がつくと、西地区幼稚園内で1番モテる男子幼稚園児になっていた。ミーハーな園児の女の子達からすると、将来伝説の勇者になるかもしれないオレと今のうちにフラグを建てておきたいらしい。

 だが、女の子に逆プロポーズされるたびに、幼馴染のアオイと婚約していると言って断っていた。


「はぁ……いちいち告白を断りのも申し訳ないし……。こんな時、アオイがそばにいてくれたらなぁ……世間の公式カップルとして認識されてしまえば、告白してくる子もいなくなるのに」



 * * *



 オレは今後のことを考えて、小学校からはアオイと一緒の学校になれるように親に相談することにした。


「ねぇ……オレ、小学校からはアオイと同じ学校に通いたいんだけど。越境通学でも何でもいいから、申し込んでくれないかな」

「えっ……アオイちゃんと同じ小学校に進学したいの? あのね、イクト……アオイちゃんは、魔族御用達のエスカレーター式幼稚園に通っているから、人間のイクトは受験すらできないのよ。種族の違いで仕方のないことだから、可哀想だけど諦めてね」

「えっ? 受験すら不可能……」


 そんなバカな、魔族と人間の差がこんなところで出るなんて……。


 幼稚園内でモテまくっているせいで、オレのハーレム勇者の生まれ変わり疑惑は後を絶たない。落ち込んでテレビをつけると、不吉なCMが放送されていた。


『伝説の勇者の生まれ変わりを発見したら、すぐに魔獣対策本部まで連絡してください。戦地に向かってもらい世界を平和に導いてもらおう』


 いたいけな幼稚園児のオレが、超強いと謳われる魔獣に勝てるわけないし……今すぐ駆り出されるわけにはいかない。

 けれどオレが伝説の勇者の生まれ変わりという噂は、町内でも有名になっているようで「イクト君はいつ討伐の旅に出るんですか? 」という電話が、たくさん自宅にかかってくるようになった。



 ある日の夕飯時、お父さんが意を決した表情でオレとお母さんに語った。


「ノリでイクトに伝説の勇者様と同じ名前をつけてしまったのは、全部お父さんの責任だ……だからお父さんが魔獣を討伐しに行くよ!」

 アジの開きを大根おろしで食べていたお母さんの手が止まる……箸がカタリと音を立ててテーブルに転げた。

「えっ……あなた本気なの?」


 なんだって? オレからすると、突然の展開だが見兼ねたお父さんは少しずつ準備をすすめていた様子。


「もう、近所の教会の人とも話し合ったんだ。オレは明日の朝、幼馴染の白魔法使いセリア、エルフ剣士のアリサ、神官のカリスと共に魔獣討伐の旅に出るっ」


 幼馴染のメンバーが、すべて女性の名前なのが気になるんだけど。しかも、そのメンバー構成って例の幼稚園でいつも遊んでいたマリア、アズサ、エリスの3人組の保護者たちなんじゃ……。


「あなた……そのメンバーって、あなたが結婚前にギルドで組んでいた例の3人組じゃない! イクトの幼稚園にあの3人組のお子さん達が通ってきていたから怪しいと思っていたけど、まだつながりがあったのね」

「仕方がないだろう、オレとセリア達はギルドで苦楽を共にしてきた仲間なんだぞ。そう簡単には縁は切れないさ。特に、セリアとは幼なじみだしな。安心しろ……全員腕は落ちていないから」

「たびたび、外出すると思っていたら……あなた危険なクエストを秘密裏に受けて……。あなただけじゃなく、メンバーの人達だって今では家庭を持っているのよ……万が一、何かあったら……」


 危険なクエスト、秘密裏……オレのお父さん何者なの? もしかして、結構期待されていた冒険者だったのか。


 お父さんとお母さんの話し合いは深夜まで続いた。結局、今の魔獣は昔お父さんが飼っていたペットのチワワが変化した姿だと主張し始めて、責任を取るために討伐の旅に向かう事となった。


「行ってくるよ……教会がようやくオレのことを勇者だと認定してくれたんだ。やれるだけのことはやってくるさ」

「お父さん……」


 勇者とその仲間達といった風貌の4人……。意外な事に、民間人だと思われていたオレのお父さんやマリアらの母親達はかつて上級レベルの冒険者パーティーだったそうで、ハイレベルの装備に身をまとい期待の冒険者として旅立つ姿はまるで別人だ。


 早朝の日差しを浴びて旅立つお父さんの背中を見送るオレとお母さん。共に見送ることになったまだ、小さい妹のアイラ、守護天使エステル。一緒に見送るお父さんの仲間達の娘であるマリア、アズサ、エリス……そしてそれぞれの家族達。


 意外な転生編のストーリーが始まってしまった。


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