憧れの渦鞭毛藻
気がつくと、憧れていた。
後ろの席の、男の子。
俗に言うイケメンというやつで、頭もよくて、運動神経もよくて。
女の子はもちろん、男の子にも人気だった。
いいなぁ、私にないものを持ってる。
羨ましくて、ほぅ、とその後ろ姿に息をつく。
まるで、水族館をゆらゆらと泳ぐエイを見上げるときのような感覚になった。
斜め前の子や、隣の子が彼に気軽に話しかけられるのが不思議でしかたなかった。
凄いなぁ、やっぱり違うのかなぁ。
自分の掌を見て、胸が重くなる。
顔は平均より下の方。勉強もできなくて、運動音痴で、唯一のとりえ、なんてのもない。
いいなぁ、いいなぁ。
なんであんなにキラキラしてるんだろう。
私にないものばかり持ってるからかな、努力してるからかな。
あの人が太陽なら、私はきっとそれにも照らされないほど遠い場所にある暗い星だ。
プリントを配るとき、中々手が伸びてこなかったので振り向いた。
「あぁ、ごめん」
そういう彼の瞳の中に、何かが輝いていた。
星だ。
ふと頭に海の中で蛍が光っているような現象を思い出した。
渦鞭毛藻。
確か、植物プランクトンの一種で、波に打ち寄せられたときストレスを感じて、光る。
ふと顔を見ると、彼の目もとは疲れているように見えた。
キラキラも、大変なんだ。
「えっと・・・なに?」
「あ」
男の子は笑う。
きっと貴方は遠い遠い場所にいる私の名前を知りはしない。
でも、こんな私でも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだから手を伸ばしても、
「あの、」
いいだろうか。