オマケ-複雑怪奇な珍プレー 解説
どうも
プロ野球への天道の作者、日下田弘谷です。
今回はオマケということで、第8章/第7話における
「複雑怪奇な珍プレー」の解説です。
経緯は説明しますが、状況を忘れた、そもそも読んでない。という方は読まれた方がよく分かるかと思います。では状況説明を。
<状況説明>
先攻・4組 0 ― 2 後攻・1組
7回の表、4組の攻撃
1アウト1・3塁
1塁ランナー・小崎 3塁ランナー・神城 バッター・佐々木(4番打者)
以上のような状況でしたね。
それでは解説開始です。
プレーの起きた順に数字を付けており、それぞれ疑問を解説していきます。
①佐々木が大きなレフトフライを打ち上げた時、神城は3塁にて触塁、小崎はスタートを切りました
□疑問1―なぜここで小崎はスタートを切った?
・答え
佐々木(打者走者)、神城、小崎、全員は打球が抜けると判断したわけです。
よって打った佐々木はもちろん、1塁ランナー・小崎もスタートを切ったわけです。
□疑問2―では、なぜ逆に神城(3塁ランナー)はスタートを切っていない?
・答え
1塁ランナーは落球確認後にスタートすると、本来奪えるはずだった塁を奪えなくなる可能性があります(落球前スタートなら本塁まで行けたが、落球後では3塁までしかいけなかったなど)。
しかし3塁ランナーは落球前だろうと後だろうと、本塁を奪う時間は十分にあります。
そこで『万が一捕球された場合』に備えて、タッチアップしたわけです。仮に捕球されればそこからスタートでホームイン。落球ならもっと余裕を持ってホームイン。
結果は変わりません。
<豆知識>
「タッチアップ」とはフライ時にランナーが占有塁に接触する行為
その後にスタートした行為は正しくは「タッチアップ」とは言わないようです
ただ、世間的には広義的な意味で呼ばれますけどね。
②その打球をレフト・伊与田が好捕。神城はホームを突いてスタートを切る。
小崎は2塁を踏んだ直後、3塁コーチ・神部祐太郎の指示で『2塁を踏まずに』1塁へと戻ってしまいます。
□疑問3―帰塁時に2塁を踏まなくてはいけないの?
・答え
通常の走塁であれ、逆走であれ、1塁⇒2塁⇒3塁⇒本塁(逆走ならその逆)に沿って走塁をする必要があります。そのため扱いとして小崎は、ベースを踏み忘れており、2塁に送球されればアピールプレーでアウトになります。
◎疑問4―なぜ小崎(1塁ランナー)は2塁を踏んで戻らなかったの?
・答え
焦っていたからです。
③1塁ランナーコーチが小崎に2塁を踏むように指示。1塁付近まで来ていた小崎は、あわてて2塁に戻ります。またキャッチャー・竹中も気付いており、2塁送球を指示。実際に1組守備陣は2塁でランナーを殺しに行きます。
□疑問5―神城(3塁ランナー)は無視していいの?
・答え
神城の足からしてホームは間に合わないと判断しました。それよりも1アウトであり、フライ捕球時点で2アウトになっています。つまり、神城の生還より先に小崎を2塁で殺せられれば無得点になります。
□疑問6―どうして無得点になるの?
スリーアウト成立が生還よりも早いからです。つまり仮に神城が生還しても「もう君たちの攻撃は終わっています。だから得点になりません」という扱いになるわけですね。
逆にもしも神城の生還が2塁アウトよりも早ければ得点が認められます。ただしこれはスリーアウトが生還した走者(※1)およびその前位走者のアウト(※2)、およびフォースアウト(※3)でない場合に限ります。
※1:例えば「神城(ホームを踏んだランナー)のスタートが早い」とアピールして認められれば、それは生還が取り消されます。
※2:(例)1アウト満塁で大きな外野フライ。これにより3塁ランナー、および2塁ランナーが生還するも、「3塁ランナーのスタートが早い」というアピールが認められてアウトになったとします。フライ捕球で2アウト、3塁アピールで3アウトとなるわけですが、この場合は3塁ランナーより後ろのランナー、つまり2塁ランナーの生還も取り消されます。
※3:2アウト3塁で内野ゴロ。3塁ランナーはスリーアウト成立より先にホームを踏むが、バッターが1塁でアウト。これは3アウト目がフォースアウトのため得点は認められません。
注意:2アウトランナー1・3塁でヒット。3塁ランナーは生還。1塁ランナーは3塁へ。バッターは1塁へ到達。となった時、仮に1塁ランナーが2塁を踏み忘れていたとします。これを守備側が2塁で「1塁ランナーが踏み忘れている」とアピールした場合、1塁ランナーは『進塁義務のある塁を踏んでいない』ためフォースアウト。得点は認められません。
④小崎は2塁ベースを駆け抜け、守備側は2塁へと送球。直後に神城はホームを踏みます。
□疑問7―どうして小崎は走り抜けたの?
1塁・本塁およびオーバーラン以外で走り抜けることはほぼありません。
ではなぜこうしたか。それは小崎が『神城の生還後にアウトになる』必要があったからです。極端な話、神城が生還してしまえばアウトになってしまってもいい。そもそも、2塁でセーフになっても、1塁に転送されれば「スタートが早い」と結局アウトになってしまいます。2塁で間一髪のプレーなのに、そこで1塁への帰塁など間に合うわけがありません。
□疑問8―でも、走り抜けたらタッチアウトになるよね?
タッチアウトになる前に神城がホームを踏んだらいいからです。小崎としては2塁でアピールアウトになる前に生還は無理だが、アピール不成立後のタッチアウト前に生還するのは可能だ。と予想したわけです。
□さらに詳しく疑問7―(続)どうして小崎は走り抜けたの?
スライディングは速度を落として塁に留まるための方法であり、スライディングと走り抜けでは走り抜けの方が早いからです。と言うと、「ヘッドスライディングの方が早い」という意見も出ますが、ここで言うスライディングとは足からのスライディングのこと。ヘッドスライディングは土佐野専では、怪我のリスクが高いとの理由で推奨していません(禁止ではないです)。
さらにもう一つ。野球のルールには「タッチを回避する目的で、走塁線上を3フィート(約90センチ)離れると走塁放棄でアウトになる」というものあがります。小崎が神城の生還まで時間を稼ぐ必要がある。つまりタッチを回避する必要があります。そこで小崎は駆け抜けて野手との距離をとったわけです。これなら『タッチ回避』で走塁線を外れたのではなく、『オーバーラン』になりますからね。
⑤2塁でのアピールプレーは不成立(セーフ)。神城がホームを踏んだ後に、2塁付近で小崎はアウトでチェンジとなる。
□疑問8―どうして得点が認められたの?
スリーアウトよりも先に神城がホームを踏んでおり、そのスリーアウトの内容がタッチアウトだったからです。詳しくは疑問6へ。
と、こういったところでしょうか。
本文で広川監督も言っていますが、要は小崎(1塁ランナー)が2塁を踏んで戻っていれば万事解決だったわけです。文句は作中の彼に言ってください。ただし、リアルにいる同姓の方に言ってはいけませんよ。
蛍が丘高校野球部の再挑戦 第4話/第2章 でもややこしいプレーがありましたが、野球は非常にルールのややこしいスポーツです。これだけ堂々と野球のルール説明をしている自分でもたまに「あれ? こういう時はどうだっけ?」と思うことがあるくらいです。この難解さが野球のコアなファンを作るのを妨げているのでしょうか?
逆にそれが野球の奥深さを作って――ゴホゴホ(咳込み)
どうでもいい雑談も終わったところで、今回のオマケは終わりとしましょう。
今回の件に限らず、作中のプレーについて「これってどういう意味?」とか「ルール間違えてるで?」といった疑問、指摘は遠慮なくどうぞ。
以上、日下田弘谷でした。
……ぶっちゃけ、『ひげた』は読めても『ゆきや』とは読めないよな。この名前。




