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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第8章 凱旋登板 天才投手・鶴見誠一郎
88/150

第9話 鶴見と根性論

 2点を奪い逆転に成功した8回の裏。

 代打・代走攻勢に出たため、4組は大きく守備を変えることに。その結果、


1番 ファースト 神城

2番 ショート 小崎

3番 ピッチャー 塩原

4番 レフト 佐々木

5番 セカンド 富山

6番 サード 前園

7番 ライト 三国

8番 センター 寺本

9番 キャッチャー 小村


 以上のようなオーダーに変更。

 この回より塩原が中継ぎとして登板。ダブルスイッチによって3番に入り、キャッチャーは小村、ファーストに神城、セカンドに富山、サードに前園、そして驚くことにショートには左投げの小崎。センターに寺本、ライトに三国。レフトの佐々木を除く全員が何かしらの交代に関わる形に。

 そして2年1組のこの回の攻撃は9番のピッチャーから。

 もちろん1組はピッチャーを打席に送りはしない。

『8回の裏、2年1組、選手の交代です。9番、鹿島に代わりまして榛原。背番号60』

 代打に1組唯一の女子枠選手・榛原を送る。

『(ほんと、凄い体格じゃのぉ。神部は言うて見た目は大きくはないけど、榛原は見てからに大きいけぇのぉ)』

 1組女子枠・榛原。身長は神部と同じ170強だが、体重は堂々たる100キロ越え。まだ記録はされていないが、入学時点での教員予想では女子第1号ホームランの候補は彼女。それ以外の候補は神部、もしくはランニングホームランと言う形ならば俊足の新本とのこと。ただし2人とも滅多に打席の無い中継ぎ投手と言う立ち位置。ほぼその可能性は無いに等しく、候補は榛原のみであろう。

 その榛原。打撃練習では快音を飛ばし、公式戦でのホームランを予期させるような柵越えを見せているようだが、試合はそう簡単に甘くない。

 地面スレスレのリリースポイントから浮き上がる塩原のストレート。そして浮き上がったかと思えば急に沈む得意球・スクリュー。それらで完全に手玉に取られ、満足なバッティングをさせてもらえない。

 それでも弾き返した速い打球はショートの真正面。左投げの小崎が守るショートだが、本職の前園ほどではないが流麗な動きで1塁へと送球。

「アウトっ」

「ほぉ。意外と小崎くん、ショートで使えるかもしれませんねぇ」

 何も不思議な事ではない。

 この学校はそもそも一般レベルでは怪物級の選手が多く集まっている学校。そうした怪物が中学以前、一般レベルの野球部に入った場合にどこを守るかというと、よっぽどの素人集団である場合はファーストもありうるが、基本的にはピッチャー・キャッチャー・ショートといったあたり。それは左投げの選手も例外ではない。キャッチャー・ショートあたりの左投げは珍しいが、下手な右投げに守らせるよりは上手い左投げに守らせた方がいい。との理屈で守備に付くことがないわけではないのである。

 上手い右投げがいる土佐野専では小崎も野手転向時に外野を選択したが、中学校時代の守備位置はピッチャーとショート。さらに言えばこの試合で1組の3番を打つ伊与田に関しては、入学時点で左投げのサード。去年の6月くらいに外野へ転向するまでは内野手であった。

『(横川くんが体調不良で守備に付けないゆえの応急処置のつもりでしたが、たまにはこういうのもいいかもしれませんね)』

 痛んだ鰆にあたった本人には悪いが、広川自身としては教員としての新感覚に気付かされて感謝の限りである。

 この回の先頭を切ってこれから1番に回るところだが、こうなっては止められない驚異の投手陣。

 本当の意味で浮き上がるストレートを投げる塩原相手に、1番の斎藤は空振り三振。2番の大津はライトフライと簡単に抑え込まれる。

「うぅ、悪かったって」

「まったく。そういう男女感覚の無さって言うのが心配なんだよ。本当に」

「あ、あのぉ。確かに宮島さんも悪かったですけど、それくらいに……」

 アイシングの時も説教をされ続けていたのであろう宮島。心が折れてしまった状態でなお秋原に説教されつつ、神部が弱気に彼に助け船を出しつつベンチへと戻ってくる。

「あ、8回裏、ですねどうでした?」

 秋原はベンチに帰ってくる守備陣を見て試合へと興味が移る。それで説教から解放された宮島は、疲弊した様子でベンチ奥へ。その背中を叩く神部は、

「わ、私は、そのぉ……秋原さんよりは気にしてませんから。元気出してください」

「本当に?」

「はい。あの時はちょっと驚いて感情的になっちゃいましたけど……事故。そう。あれは事故ですから。気にしてないです」

「そっか。ごめんな」

「いえいえ。本当に気にしてないですから」

 と励まし。秋原のムチに対して神部はアメと、そのギャップで宮島の好感度を上げていく。もちろん本人にそこまでの考えはないわけだが。

「お帰りなさい。試合はそうですね。見ての通り、3―2で9回の表に入るところです」

「わぁ。逆転してる~」

「大野くんの同点打と、小村くんの逆転打です」

「へぇ。大野くん、小村くん。ナイバッチ~」

 ベンチ裏で説教&アイシングをして試合を見ていなかった秋原。広川から得点について説明を受け、一足遅れて2人に賞賛を送る。

「ありがと~」

 素直に感謝する大野。対して

「言うてゲッツー崩れやで?」

 素直にはありがたく受け取れない小村。

 ただ逆転をしたには違いない。

 1組は本来ならば勝利の方程式に基づきクローザーの福山を送る予定であったが、リードされた以上は投入できない。右腕・九条を9回表のマウンドへ。クローザーよりも格の落ちる投手の継投。4番からの攻撃でもありぜひ追加点を奪いたい4組だが、そう簡単にはいかない。いくら格落ちでも1組の投手というのもあるが、前のイニングの代打・代走攻勢で選手が大幅に変わっている。この回の攻撃は、4番・佐々木、5番・富山、6番・前園と中軸にしては心もとない打線。

 なんとか佐々木が主砲らしい働き。レフト前ヒットで出塁するが、守備の人・富山が空振り三振。続くやや守備の人・前園はキャッチャーファールフライ。ツーアウト1塁で三国と、まぁまぁ期待に足るバッターにこそ回るが、ピッチャー九条の気迫あふれる投球にねじ伏せられショートゴロ。追加点が届かない。

「こうなっては仕方ないです。立川くん。後はお願いします」

「ふっ。やはりチームの危機を救うは我か。とくと好投をお見せいたそう」

 立川が開幕戦初勝利を賭けたマウンドへ。

 1年前の開幕戦。対1組戦のスコアは16―0と圧倒的。勝ちどころか好ゲームも、悪あがきすらも許されず、もはや一方的虐殺とも言えるようなスコア。しかし今となってはどうだろうか。

4組 3 ― 2 1組

 圧勝とまでは言わないが、9回裏突入時点で1点のリード。好ゲームどころか勝ちが目に見える展開である。

『(みなさん……本当に成長しましたね。あの頃とは大違いです)』

 広川は携帯端末を取り出すと、教員用のページにログイン。試合速報を確認する。

『1年生学内リーグ戦 1組 19 ― 0 4組 〈8回表〉』

『(やはり、ですか。監督の長久も苦戦してそうですね)』

 たった1年。

 されど1年。

 その短くも長い1年の間に変わった。

 落ちこぼれの名はもう4組には似合わない。むしろその落ちこぼれのゆえんたる大敗北から学び成長し続けた。その成長の大きさはきっと1組の差ではない。もちろんその成長は元々の実力差を覆すほどではないだろう。だがしかし、少なくともこの試合は勝っている。ならば少しくらい欲を出しても、野球の神様は文句を言わないだろう。

『9回の裏。2年4組の攻撃は、3番、レフト、伊与田』

『(勝ちましょう。そして、去年の自分たちとは決別です。新たな1年を始めましょう)』



「ストライクスリー、バッターアウト」

 低めに沈めるフォークボール。

 魔球といっても過言ではない立川のフォークボールに、伊与田もバットへ当てることもできず空振り三振。幸先良好の立ち上がり。

 本当に大きく変わったものだ。1点差。一発を浴びれば同点と言う緊張感の中、堂々たるピッチングを見せるクローザー・立川。彼のバカみたいに落ちるフォークボールを、捕れずとも前には落とす小村。そして後ろを守る7人にも過剰な緊張の顔はない。

『4番、ファースト、三村』

 ランナー無しで4番の三村。打席に入った彼は敵意も焦りも緊張もない、ただ『集中』と、その2文字が似合う表情。その顔とは対照的に腕からは力を抜き去り、体の正面で軽くバットを構える神主打法。

 もし宮島や神城らが真似しても、きっと威圧感の『い』の字も感じないこの態度。だが彼がそれをすることで、どこからか現れた威圧感が立川に襲い掛かる。しかしそれに屈することなんてない。

「ストライーク」

 初球。インコース高めのブラッシング。やや入ってしまいストライクとなったが、顔面近いその球にも三村は動じない。そして立川もさながら『計算通り』といった余裕綽々な態度。

『(ふっ。この私にかかればこの程度のバッターは大した相手ではない)』

 余裕綽々と言うよりはただのアホか?

 立川はその余裕、もといアホな気楽さの中、三村に向けて第2球。

「ファール」

 アウトコースへのスライダーをカットされファールボール。

 追い込んだ立川。追い込まれた三村。

 お互いに表情は崩さない。

 勝利へ繋がる1球となるか。3球目。

「ボール」

 遊び球無しの3球勝負。低めに沈むフォークで仕留めに来たが、これを三村が見切ってワンボール。普通のバッターならば手が出ている。神城でも手が出てしまい、ファールできるくらいだろう。

『(ちょっと単調すぎたやろか?)』

 もしそれが見切られていたとするならば、ツーストライクから低めフォーク。そんな小村のリードが読まれていただけか。

『(考えなおさなあかんなぁ)』

 もう少しボール球で伏線を張るべきか。やや迷いもありながら、ひとまずアウトコースに寄ってストレートで1球外す。考えるための時間稼ぎに、苦し紛れの一手を打ってしまう。その上で次なるサインを送ってインコースへミットを構える。

 ツーストライクの圧倒的有利カウントから、平行カウントと変わって5球目。ひざもとに落とすはずだったフォークがやや高めに浮いてストライクゾーン。それを三村はいとも簡単にライトへと弾き返す。

『(うそやん。今のインローをライトに打てるかっ?)』

 ただ少し芯を外していたか。打球はライトを守る三国の定位置。ライトフライに打ち取りツーアウト。

「よ~し。あと1人」

 ついさっきまで怒っていた秋原もこの試合展開に気分を高揚。

 最難関たる三村を抑え、開幕戦初勝利まで残り1アウト。

 ここでバッターは本日2打数ノーヒット1四球の坂谷。

 しかし三村ですら攻略できなかった立川を崩すのは至難の業。初球はコントロールミスで暴投となるが、2球目、3球目と立て続けにストライクを取って1―2。

 あと1球。

 湧き上がる4組のベンチ。対照的に落ち着いた立川は4球目。

「ストライクスリー、バッターアウト、ゲームセット」

 高めの釣り球ストレート。ハーフスイングだったが、球審の判定はスイング。

 マウンド上の立川はカッコつけて右腕を高く上げるガッツポーズ。そのままの格好でマウンドを降りていく。

「ふぅ。勝てた、かぁ。ヒヤヒヤしたなぁ」

 間を置いて心が落ち着いた宮島もようやく試合に感情移入ができたようで。4組の勝利で終わったそのゲームセットの瞬間、肩に入っていた力が一気に抜ける。

「あ、あれ? 宮島さん、思ったよりクールですね? 開幕戦勝利スタートですよ?」

 4組ほどではないが3組も去年は泥沼を経験している。4組メンバーはもとより、元3組の神部にとっても初めての開幕戦勝利スタートである。

「勝った感動よりも、緊張感から解かれたことでの精神的な疲れが、なぁ」

「それは分かります。私も塩原さんや立川さんが抑えてくれるかなぁ。って、ドキドキしながら見てましたし」

「勝利投手の権利が消えるから?」

「えへへ」

 下心を読まれた神部は、普段は見せないごまかしの笑みを浮かべる。

 神部が登板した7回裏時点でビハインド。その回のみで降板するも8回表に逆転を果たしたことで、鶴見の勝ちが消滅。逆に勝利投手の権利が神部に転がり込む。そのままリードを塩原・立川が守り抜いたため、神部の勝利投手が確定したのである。

「意外と欲深い奴だったんだな。お前。それはそうと、中継ぎで勝ち星って喜んでいいのかな?」

「別に泥棒したわけじゃないんでいいと思います」

「それもそうか」



 去年の今ごろには想像がつかない好試合を見せた4組。1組相手に逆転勝利を決め、開幕戦勝利と好スタートを切った。

 一方で逆転負けを喫した1組は4組の実力を改めて認識するのみ。

「まったく。長曽我部くんが抜けてレベルダウンするかと思いきや、なかなかどうして」

 途中降板ながら1組の開幕戦を最後まで見届けた鶴見。まだ皆が帰る準備をする中、既に準備を終えていた彼は荷物を肩から掛けるなり、そさくさとロッカールームを後にする。

「先発の友田くんも1組打線を2失点に抑える好投。新戦力の神部さんはセットアッパーとして力を発揮。早くもチームとしてまとまりつつある。今季は、いや、今季も気を抜けないリーグ戦になりそうだ」

 とはいえ、今度の先発予定は5月の3組戦であり、それまでは抑え起用となる。その4組と次に対戦するのは抑えとしての短いイニング。長いイニングとしては当分先になりそうである。

 起用変更を少し残念に思いつつ、球場を後にしようとした鶴見。しかし、

「鶴見」

 そんな彼を呼びとめる声がする。

 自分を呼びそうな人物。土佐野専の教職員か、もしくはスカウトなどのプロ野球関係者。それ以外ならばマスコミの類か。

「久しぶり」

 そこでベンチに腰かけながら右手を挙げたのは……

「覚えている……よな?」

 鶴見はその人物に目を丸くし、すぐに鋭い敵意を向ける。

 最後に見た時よりもかなり老いているようだが、その雰囲気は今も昔も変わっていない。

「監督……」

「覚えていてなによりだ。大きくなったな」

 見た目の年齢は50~60程度。身長は190の鶴見にとっては見下げるほど。まだ運動は欠かさないのか、年齢の割には肉もついている。少年野球時代の監督である。

「何しに来たんですか」

「そう親の仇みたいにツンケンしなくても……」

「ツンケンもするっ。この左腕、誰のせいで壊したと思っているんだっ」

 急に室内に響いた大きな声。守衛の警備員も何事かと窓からこちらを覗き見る。

「こ、壊したって。大事になる前に病院に行って、治ったんだしそれは言いっこなし――」

「ふざけんな。何が『言いっこなし』だ。一歩間違えれば再起不能だったんだ。もし親父やお袋が病院に行こうと言わなかったら、もし加賀田先生に会わなかったら、もう二度と野球なんてできなかったんだ」

 その怒りに左手に力が入る。

 彼は心の隅で少しは期待していた。あれから彼の気持ちが変わっていれば。そして自分の後にあの野球部に入った子供たちが報われれば、自分が怪我した意味も少しはあったものだと。だがそんな期待をかけるだけ無駄だった。彼の思いはなにひとつ変わっていない。

「そ、そうか。それは本当にすまなかった」

 と、彼は頭を下げる。その行動にふといい意味で予想を裏切られた鶴見だが、今度はさらにその一瞬の期待を裏切られる。

「だけどこっちだって言わせてほしい。無理もさせた私も確かに非があった。しかし、怪我をした鶴見くん。君にも考えるべきことがあったんじゃないかな?」

「なっ――」

「試合の時。投げるか、降りるかと聞かれた時、投げたいといったのは君だ。そして、練習の指示に従ったのも君だ。命令はしていない。その判断を下したのは君自身だ」

 たしかにその主張には一理ある。

 少年野球時代。試合終盤で疲れていた鶴見に、監督が「続投か、降板か」と問うた時、彼は自ら続投を選んだ。そして練習の指示を受けた時、その指示に「NO」と言わず従ったのも鶴見自身。

 しかし、それで果たして納得できるのか。

「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 できるわけがない。

 言い返すほどの頭もない鶴見は、つい激高し、左拳を後ろに引く。2、3秒あれば、その拳はその監督の顔に突き刺さっていたことだろう。しかしそれを制する者が現れた。

「やめろ、鶴見。そこまでだ」

 左拳が途中で止まる。

「お、大森監督……」

 2年1組監督・大森浩三。長男なのになぜ『三』なのかはさておき、元プロの名キャッチャーである。

「危ないところだった。鶴見。こんなところで暴力事件なんて起こしてみろ。プロ入りが消えるぞ。それと、殴るならせめて右拳でやれ。左利きだろうが」

 後半は果たしてギャグのつもりか。しかし一理ある内容だ。

「さて、怪我云々ってことは、鶴見の少年野球時代の監督、かな?」

「監督。どこから聞いていたんですか?」

「ほぼ最初からだろうか。ちょっと監督室に行こうとした時に、鶴見の大声が聞こえたものでね」

 大森は鶴見を目で制しておき、監督へと目を向ける。

「あんた。さっき、怪我をしたのは鶴見にも問題あるって言ったね。これは土佐野球専門学校の教職員。皆の共通認識なんだが、子供と言うのは放っておいたら、後さき考えることなく無茶をするもの。仮に子供自身が決断を下したとしても、それが間違っていると言うならば、それを止めるのが指導者の責任ではなかろうか」

 一度、言葉を区切る。その後、言い返されることがないことを確認して続ける。

「もし本人がやると言っても、それが危険なら止めるべき。それを止めなかったのなら、それは本人の判断でも、指導者の責任だ」

「お、おっしゃる通りで……しかし、やはり根性を付けるには」

「根性、か……」

「はい。やはり勝負事。最後は根性ですし、付けていて損は――」

「最後は。つまりそこに至るまでは実力」

 これ以上のケンカに発展しない様、鶴見の前に腕を出して間に割って入る。

「もちろん根性がいらない。そう言うつもりはない。しかし勝負に入る前に怪我をし、最高のパフォーマンスを発揮できなければ本末転倒。『最後』に至る前につまずいてはまったく意味がない。付けていて損はないかもしれないが、わざわざそれを目的にした練習をするほどの得はないないのではないか」

「大森選手」

「選手は引退したのですが、何か?」

 少しだけ呼び方に関して指摘しておく。

「失礼ながら今日の試合。僅差で競り負けたのは精神的なものでは?」

「なるほど。一理ある」

「では――」

「が、一理しかない。根性、根性で実力やコンディションをおざなりにしていては、例え相手が昨シーズンの4組相手とはいえ、僅差にすら持ちこめなかっただろう。紛れもなく僅差に持ち込んだのは選手たちの実力でしかない」

「ならばこれからは?」

「いや、根性論にシフトする気はない。何も競り勝つ必要性などまったくない。圧倒的実力を持って圧勝すればいいのだから」

 元プロとしての経験則もあいまって、相手の意見を強引にねじ伏せかけた大森だが、あまりにやりすぎると恨みから悪評を流されかねない。戦は五分の勝ちをもって良しとすべしである。

「しかし、貴重なご意見、ありがとうございます。今後の野球教育に生かさせてもらいます」

 これだけ言い返しておいて貴重も生かすもあったものではないが、これも彼なりの配慮である。


どうも根性論や努力を否定する作風にも見えますが、

別に日下田はそういうつもりはないです

必要だけども最重要ではない。という考えなだけですよ?

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