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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第8章 凱旋登板 天才投手・鶴見誠一郎
85/150

第6話 投げて打って

「ボール、フォアボール」

『(くそぉ。スリーボールにした時点でアウトだったなぁ)』

 4番・佐々木の内野ゴロで連続三振を断ち切った4組であったが、鶴見の前にそれ以上の攻略はできず。5、6番と連続三振に切って取られ、結局、2回の表の攻撃は無得点。

 続く2回の裏の守備。先頭の坂谷相手にカウント3―1と大きくボールカウントが先行。ストライクが欲しい所である一方、バッティングカウントである以上、あまり甘い球は投げられない。そうして放った球はアウトコースに外れてボール。先頭をフォアボールで出塁させてしまう。

『(ノーアウト1塁で左の板島か)』

 油断すれば外野に運ばれかねない左の中距離バッター。

『(これで、どうかな?)』

 宮島はまず友田にカーブを要求。首を振られてしまったが、次の要求であるシュートは通った。いずれにせよ変化球である。先頭バッターをフォアボールで出塁させてもらった教訓から、初球は少し甘めでもストライクを狙う。その算段は上手くいき、逆球にこそなったもののストライクを得る。

『(カウント0―1か。ボール球を有効的に使っておきたいけど)』

 低めに沈むストレート。

 できればこれでツーストライク。無理なら無理でボールでも可。いずれにせよ無意味な1球にはさせたくない。その一心で投じさせた球は、

『(打ち取った。サードだっ)』

 サード真正面のゴロ。サードの鳥居が捕球後に2塁へと送球。原井が2塁を踏みながら受け、1塁へとジャンピングスロー。ゲッツー成立かと思われたが、ゲッツー崩し対策のジャンピングスローで制球が乱れた。ファースト・大川のミットに届く前にバウンド。難しいハーフバウンドとなり、大川が捕り損ねてしまう。

「させっか」

 1塁ランナーは2塁封殺で殺したが、バッターランナーは生きている。悪送球なら2塁まで行かれかねないが、宮島がそうはさせない。ファーストのカバーに入っていた宮島が送球を止め、1塁ランナーに警告する様にいかにもな送球姿勢へ入る。

「球審。ボールチェンジ」

「タイム」

 ボール交代要求を名目に審判へタイムを掛けさせた宮島。まずはプレーに一区切りをつける。

『(今のハーフバウンドも神城なら捕れてた。ってのは言っても仕方ないか)』

 大川も守備が下手ではないが、神城と比べると見劣りしてしまう。そうなると投げる側も送球に神経を使う以上、やはり神城(ファースト)の守備は内野全体の守備力底上げに影響していたのだと実感させられる。

『(次は竹中。守備型捕手とのことだけど、あれでもバッティングはまぁまぁ上手いからな。西園寺や柴田みたいに上位を打たすレベルじゃないけど)』

 警戒すべきは単打で繋がれること。外野手もそれを分かっているため、定位置より前に守備を移す。だが宮島の思考も、外野守備陣のシフトも打ち破られる。

 カウント1―1からの友田の3球目。アウトローの伸びるストレートを教科書通りの流し打ち。一二塁間を割ってライト前ヒット。ライト・小崎の強肩が抑止力となって無駄な塁は渡さずに済むも、スコアリングポジションにランナーを進めることに。

『(小松、鶴見か。ようやく一息、か?)』

 しかし不幸中の幸いか。小松も鶴見も野手基準ならバッティングはいい方ではない。そもそも投手である鶴見の打撃が『野手基準』で評価される時点でおかしな話だが。

 ただ、野手基準でいい方でないなら安全とも言える。

 宮島は友田の沈むストレートでしっかり目を慣らさせてやり、カウント2―2から高めの伸びるストレートを打たせてやる。

 高々と舞い上がった打球はセカンドフライ。状況が状況であったため、すぐさまインフィールドフライが宣告される。ツーアウトが十中八九確定した中、原井がボールを掴んでツーアウト。

『(よし。なんとか抑えた)』

 ランナー1・2塁とはいえこれでツーアウト。そしてバッターは、

『9番、ピッチャー、鶴見。背番号14』

 ピッチャーの鶴見。

『(甘い球はまずいけど、逆に言えば、甘いコースさえ投げなければ大丈夫)』

 この打線の中では一番の骨休めと言っていいポイント。それでも油断して繋がれれば、ピンチでトップに回る危険があるため、完全に気を抜くことはできない。

「ストライーク」

 初球。アウトコース低めに沈むストレート。左バッターボックスに入った鶴見は、初球から果敢に振ってくるが、ここは当たらず空振りワンストライク。

『(タイミング的には少し振り遅れかな。だったら伸びる方のストレートで押す?)』

 提案をしてみると、友田もここは了承。セットポジションから2塁ランナーのリードの大きさを少しだけ警戒しつつ、盗塁の心配はないと判断。足をしっかり上げて鶴見へと投球。

「ファール」

 やや真ん中に入ったストレートは、鶴見がバックネット方向へとファール。

『(やっぱり振り遅れてるな。初球に対して伸びるから仕方ないけど)』

 後ろに飛ぶファールはタイミングが合っている。とは言うが、今のはファールと言うより、ボールに掠ったチップと言った感じ。それとはまた別の話である。

『(だけど、初球と2球目で伸びが違うのに、タイミングのずれ自体に大差はない。さすがにストレートに適応してきたか?)』

 打撃練習はあまりしていないピッチャーだが、やはりピッチャーと言う奴は才能のある人間らしい。才能だけでボールについてきている。

『(そろそろ変化球を使いたいところだけど、友田はどうかなぁ?)』

 ピッチャー相手に変化球を使うのは納得してもらえるかどうか怪しいところ。一応、探りを入れるようにカーブのサインを出してみると、友田も完全一致と言うほどでもないが頷き。鶴見のタイミングが合いつつあるのを、ピッチャーの勘で悟ったのだろう。

 あわよくばタイミングを外して空振り三振。それを狙って、コースは膝元へのボール球。友田がボールを抜きながら回転をかけてリリース。カーブ回転の緩い球は、要求よりやや低めもナイスコース。

『(よし。鶴見の体勢が崩れた。打ち取れる)』

 ストレートに張っていた鶴見が前に突っ込みながらスイング始動。ここからバットを止められなくもないが、至難の業ではある。さらに待ちきれなくなり、完全に体勢が崩れる。重心が前足に乗っかった状態で、バットを振り切った。

「ファール」

 なんとか掠らせてファールボール。打球は宮島のミット手前でワンバウンドし、さらにバックネット前まで転々としていく。

『(今のを当てるか。さすが天才は違うな。ピッチングも天才なら、バッティングも天才ってことか。けど――)』

 打ち取れる。

『(才能だけじゃできることには限界がある。友田。ストレートだ。緩いカーブが意識にある今ならば、問題なく三振にとれる)』

 ピッチャーがいくら野手以上の運動神経抜群集団だろうと、野手以上に打撃練習をしているわけではない。それどころか同等ですらなく、さらに言えば半分以下であろう。

『(押し切るぜっ)』

 高めの伸びるストレート。友田がクイックモーションを始動すると、宮島は中腰で高めややボール気味にミットを構える。彼はしっかり人差し指と中指の2本を縫い目に掛け、意識して回転をかけてリリース。

 伸びるストレート。普段の沈むストレートを基準にしてしまえば、手元で強烈に浮いてくるように見える球。宮島のミットへと回転を維持して飛び込んでくる。

『(よし、三振を取れる)』

 その左手を強く閉じる。しかしそこに硬いボールの感触は来ない。

『(まずっ)』

 鶴見の振り下ろしたバットの真芯が、ホームベース前のポイントでボールを捉える。そしてそのバットを振り抜くと――

「まずい。抜けたっ」

 打球はファースト・大川の横を抜け、一二塁間をまっぷたつにする会心打。名手・神城ならば捕れていたなど、結果論をとやかく言っている暇はない。

『(3塁コーチは……回してる。突っ込んでくる)』

 2塁の坂谷は決して俊足ではない。しかしスタート良く飛び出していたため、迷いなくノンストップで3塁を蹴っている。

『(ただ、こっちの今日のライトは――)』

 今までの外野守備は、レフトに佐々木、センターに小崎、ライトに三国、よって守っているのはそこまで肩の強いわけではない三国だったが、

小崎(ライト)っ。バックホーム」

 天川とか言うバカみたいな規格外強肩に次ぐ、規格内超強肩外野手・小崎。左投げであることも加え、投手から野手に転向したのが悔やまれるほどだ。

 その小崎。走りながら右手のグローブで転がる打球をすくい上げると、それを左肩上まで持ち上げ、その反動を生かしてバックホーム。

『(よし、ストライク送球)』

 ワンバウンドはするだろうが、コース自体はストライク。絶妙な送球である。

『(間に合えっ)』

 しっかり左脚でホームベース3塁側を封鎖(ブロック)。体重を掛けてランナーが突っ込んでくるのにも備えながら送球を受ける。

『(回り込まれた)』

 ランナー・坂谷は宮島との正面衝突を避け、彼の背後に回り込み。スライディングでブロックかわしながら、隙間から左手でホームをタッチする構え。その坂谷へ、宮島がタッチをしにいく。

「セーフ、ホームイン」

 追いタッチよりもわずかにホームタッチの方が早かった。

「くそっ」

 すぐに立ち上がって3塁。続いて1塁を牽制。

 この送球間に1塁ランナー・竹中は悠々と3塁を陥れており、もちろんヒットの鶴見は1塁に。ピッチャーであることも考慮し、無理に2塁に向かうような無理な走塁はしない。

「審判、ボール」

「タイム」

 一旦、タイムを掛けてボールを交換。一度プレーを止めることで、ピッチャーの友田に気持ちを整理する時間を与える。

「はい、どうぞ」

「どうも。友田。切り替えていこう。ツーアウトだ」

 ボールを投げ渡すが、よほどピッチャーにタイムリーを与えたことで動揺したのか。ボールを捕り損ねて後逸してしまう。タイムを掛けていたためランナーは動かず。後ろに控えていた前園がボールを拾い、手で汚れを取ってからマウンドへ。渡すついでに軽く声をかけておく。

『(おいおい。この程度で動揺するなよ。タイムリーどころか、ホームランを打つピッチャーだっているんだから。誰とはいわないけど)』

 友田(こいつ)だ。それもよりによって、土佐野専元1年生(現・2年生)の第1号アーチを2組戦にて放っているのである。

『(大川、離れろ。牽制は不要だ)』

 大川に1塁を離れろと手で指示。ピッチャーの鶴見を走らせることはしないだろうし、そんなランナーのために一二塁間を空けるは馬鹿馬鹿しい。なれば3塁ランナーはもとより1塁ランナーは無視だ。

『1番、ライト、斎藤』

 何より打順は1組の切り込み隊長。バッター勝負したいのが実情だ。

『(ノーマークだ。走れるもんなら走れや。鶴見。走塁慣れしてない投手(おまえ)らの盗塁ならノーマークでも刺せる。例え新本級の俊足でもな。完全に盗まれたら知らんけど)』

 大川が離れてがら空きの1塁。鶴見はやや大きめのリードを取るが、それでもかなり小さい。ピッチャーからの牽制はないが、投球後にキャッチャーからの牽制はありうる。そこを警戒しているのだが、ピッチングへの影響から度々スライディングをするわけにはいかないピッチャーは、野手以上にリードを狭める必要があるのだ。

『(これなら走れないな。バッター勝負だぞ。友田)』

 友田も状況を読み、セットポジションにこそはいるものの、足を大きく上げての投球。そこにランナー警戒の意思は感じ取れない。

「ストライーク」

 低めに沈むストレート。あっさり見逃してワンストライク。

『(読みが外れたか? いやにさくっと見送ったな?)』

 何も読み打ちするのは宮島だけじゃない。むしろ、カウントが不利になるまでは読み打ちしている人の方が多い。例えば神城は見送りこそしないが、ど真ん中や好きなコース周辺に張り、それ以外はカットして逃げるスタイル。彼すらも読み打ちタイプなのである。それでも宮島が読み打ちと言うのは、カウントが不利になっても、それが仮に追い込まれても読み打ちを続ける、極端なタイプだからだ。

『(カーブでどうよ?)』

『(ううん)』

『(シュート?)』

『(OK)』

 アウトコースに外れるシュート。入れば儲け。入らずともバッターの目にそこを意識させれば、インコースが使える。

『(最悪、2塁が空いてる。次に当てる気で勝負すればOK)』

 どうせ1・3塁でも満塁でも、ワンヒット1点には変わらない。鶴見が無理にホームを突くと思えないからだ。

 勝負への布石となる2球目。友田の弾きだしたボールはやや真ん中より。入れば儲けのつもりで投げた一投だが、

『(まずい。入りすぎ。甘い球だっ)』

 ど真ん中へのシュート。そんな好球を1組の切り込み隊長が見逃すはずなんてない。ややシュート変化で真芯こそ外れるものの、パワーで振り抜き弾き返す。

 ピッチャーの右足下を襲う痛烈な打球。友田もグローブを出すが間に合うわけもなく、打球は二遊間一直線。

「やべっ。神城(センター)、ボールサ――」

 センター前ヒットを確信するがまだ早い。

 盛り上がったマウンドで跳ねたことで、わずかに打球の速度が弱まった。そこに前園が追いついた。

「原井っ」

「ほい」

 2塁ベース後方で捕った前園。体をひねりつつ、2塁に駆ける原井にグラブトス。彼の構えていた方とやや逸れてしまうが、なんとそのトスを原井が素手キャッチ。そのまま2塁ベースを踏んで、ついでに正規捕球を2塁審判にアピール。

「アウトっ」

 1塁ランナー・鶴見がフォースアウト。

「よっしゃ。ナイス二遊間っ。例に友田が昼食奢ってくれるってよっ」

「え? そんなこと言ってない……」

 喜びからガッツポーズしかけた友田。宮島の急な振りにやめてしまう。

「さぁて、点を取られたら取り返すだけの話だ。みんな、いくぜ」

「「「おぉぉぉぉ」」」

「お、奢るなんて言ってないよ。ねぇ?」



 土佐野専最強投手に手も足も出ない2年4組打線。ここまで7打者が6三振。唯一正面に飛ばした佐々木もショートゴロと完全ペース。だが、ここで鶴見としては厄介なバッターが打席へと入る。

『8番、キャッチャー、宮島。背番号27』

 渡米前とは言え、幾度となく投球練習に付き合ってもらったキャッチャー。フォームや投球のクセを知られていても不思議ではない。

『(神城が言うには去年と違うみたいだけど、いったい、アメリカで何を学んだかな?)』

 その宮島も今年の鶴見とは初対戦。じっくり見て行きたいところではあるが、相手が相手だけに見て行く余裕なんてない。初球から狙い球を絞って積極的に打っていく。

 ワインドアップモーションに入った鶴見。果敢にも宮島の得意コースであるインコースへ投球。

「ストライーク」

 見逃しワンストライク。アウトコースを張っていた宮島は潔く見逃し。一度打席を外して呼吸と集中力を整え直し、再びバットを構える。

『(球速自体は上がったけど、大きく向上したわけじゃない。神城も言ってたし、問題は変化球か?)』

 大きく背伸びするワインドアップから、鶴見が見せる2球目は、

『(さて、健一くんに見せてあげるよ。これが僕の――)』

 踏み込んだ足に遅れて左肘、それより遅れて左手が出てくる。

『(カッターだっ)』

 インコースを狙ったが、投球は逆球のアウトコースいっぱい。

『(まずい。逆球っ、けど)』

『(よし、アウトコース。狙い球っ)』

 流し打ちのタイミングでアウトコースの投球に手を出す。しかし、

「ストライク、ツー」

 外に逃げた。

『(マ、マジかよっ。なんだ、今の球)』

 カットボール。もしくはリカットボールとも言われる変化球。しかしそれは、むしろ『平成のカミソリシュート』と言う方が適したある種の魔球ではなかろうか。

 シュート変化する球を投げるピッチャーとして、シュート回転の新本、純粋なシュートとして立川・友田、ツーシームとして神部、本崎、そしてカットボールとして渡米前の鶴見と様々なピッチャーの球を受けてきた宮島。だが今ここで見た新・鶴見のカットボールは今までに見た事のない球だ。

『(冗談きついぞ。このほかにスライダーやフォークがあるのかよ)』

 さらに言えば新本が教えてしまったスローカーブや、自らが教えてしまった縦スラも。

『(こいつ、本当に化け物になりやがった。そりゃあ、神城も日本から出て行けって言うわな)』

 追い込まれた宮島に鶴見の3球目。遊び球無し。放った投球は、

『(イ、インコース。これも狙い球っ)』

 待っていたインコースへのストレート。間違いない。確信を持ち、バットを振り切った。

「ストライクスリー、バッターアウト」

 空振り三振。鶴見、今日7つ目の三振で完全継続。

 待っていたインコースのストレート。そして確かにやってきたインコースのストレート。コースどころか、球種すらも読み通りだったのだが、打つ瞬間に他の変化球の可能性が頭をよぎってしまった。確信すら持ったものの遅すぎた。0.5秒にも満たない勝負の瞬間では、そのわずかな判断の遅さが命取りだ。

 ツーアウトとなって続くは、ピッチャーながら長打力のあるエース・友田。しかし彼にも突破口は開けず。空振り三振に切って取り、打者9人の内、主砲・佐々木を除く8人を三振に取る快刀乱麻。

「ほんと、きつすぎだろ。これ」

 バックスクリーンに入った2回の裏の『1』と、自チームのヒット数『0』を見て唇を噛む宮島。渋い顔をしながら守備へ。

 前イニングの1失点以降は立ち直りたい友田。しかし、3回裏。4番・三村に甘く入ったカーブをライトスタンドに流し打ちで叩きこまれさらに1失点。続く4回は3者凡退に抑えるが、4回2失点といまいちの内容。

 対する絶好調・鶴見だが、2年4組だってただでは倒れない。

 4回の表、先頭の神城は初球のカットボールを狙い打ちしてライトライナー。5者に及んだ連続三振を切ると共に、この試合初めて打球を外野に飛ばす。続く2番の小崎。巧打・長打共に優れる3番タイプの彼だが、さらに自慢の足を生かしてセーフティバントを敢行。鶴見の華麗なフィールディングの前に失敗に終わるが、初出塁への意地を見せる。勢いを得る4組だったが、やはりここは鶴見。3番の大川を鶴見が変化球3連投でねじ伏せて空振り三振。この回もノーヒット。

 さらに5回。

 唯一1巡目に三振しなかった4番の佐々木。だがここは低めフォークを振らされ空振り三振。続く鳥居もインコースの際どい変化球を見送ったが、これをストライクと取られ見逃し三振。そして6番は打撃の成長著しい前園。

「ストライクバッターアウト、チェンジ」

 4回の粘りはなんだったのか。いや、その粘りのせいで鶴見がギアを上げたと言うべきだろうか。5回は三者三振に切って取られて、5回にして12個目の三振。全イニング及び、先発全員三振である。

 鶴見に完全に抑え込まれた挙句、2点を追う展開の2年4組。悔しそうに5回の守備へと出て行く。その様子を厳しそうながら、時折ポジティブに広川が見つめる。

『(本当に鶴見くんは凄まじい選手に成長しましたね。1年生の入学時最優秀投手は大原くん。鶴見くんはせいぜい中の中~上と言ったところだったんですが……)』

 それがもはや上の上どころか、『特上』あたりである。

『(ですが、みなさんだって負けてはいません。去年の開幕戦のスコアは1組相手に16対0です。それが打線こそ鶴見くん相手に完全に封じられていますが、相手打線を2失点に抑えているんです。君たちの実力、確実に伸びていますよ)』

 と、思いながらも苦笑いを漏らす。

『(しかし鶴見くん、ちょっと凄すぎやしませんかねぇ?)』

 5回の裏の攻撃は9番の鶴見から。完全試合ペースであり、野球の常識ならばこのまま打席に送るところだが、1組・大森監督は迷いなく代打を送る。怪我をしたわけでも、懲罰交代でもなく、この学校の試合はあくまでも『練習』であり、それは1人のものではなく全生徒のものであるためだ。

 鶴見誠一郎。5回を被安打0、与四死球0、無失点で、完全試合のまま降板。打っては先制点を挙げるヒットを見せ、その実力の片鱗を見せつけた。

『(できれば鶴見から1点を取りたかったけど、しゃあないよなぁ。僕も打てる気しなかったし)』

 鶴見の名前が消えたバックスクリーンのメンバー表示を見つつ、こちらもこの回がラストイニング予定の友田にサインを送り、そしてミットを構える。

『(よし、切り替えていこう。こっから巻き返すぜ。今度こそな)』


背筋を伸ばすようなワインドアップからのスリークォーター

背番号14でバッティングが上手い

活動報告かどこかの後書きで言ったかな?

鶴見くんは某球団のエースが元ネタです

名前にもその由来のかけらが……


と、ついでにもう1人

1組主砲の三村ですが、プロボーラーになりたかったけど、

スピード違反の反則金で受験できなくなったあの方が元ネタです


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