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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第8章 凱旋登板 天才投手・鶴見誠一郎
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プロローグ

 1月下旬。東京国際空港こと成田空港。

 アメリカフロリダ州発の便が帰ってくるなり、ターミナルが騒々しくなる。スキャンダルまっただ中の芸能人が旅行から帰ってきたわけでもなく、アメリカの有名歌手や政治家が来日したわけでもない。

 多く集まった報道陣や、プロ野球スカウト。彼らが注目するのはただ1人。

 土佐野球専門学校2年1組、鶴見誠一郎。

 渡米前のデータでは、MAX141キロのストレートに、即プロで通用する制球力。スライダー・フォーク・カーブなどを主要な武器にしつつ、大きくタイミングを外す術としてチェンジアップやスローカーブを持った、本格派左腕。

 中学卒業時点では、確かに強豪校からスカウトも来ていたが、飛び抜けた実力と言うわけでもなかった。しかし土佐野専に入学して、わずか数か月で1組のエースに君臨。そこからさらに大幅な成長を遂げ、メジャーからも注目されるまでになった選手だ。

 ちょうど去年後期は夏の甲子園やドラフトで忙しかったため、マスコミは気にも掛けなかったが、メジャーの自主トレに招待され、そこでさらにメジャーのスカウトから猛烈ラブコールを受けた。なんて話を聞いては取材に行かないわけにはいかない。

 その結果、この空港では彼が姿を現すのをいまかいまかと待ちわびていたのである。

 入国手続きで時間がかかっているのか、しばらく経った後に鶴見が姿を現す。

 フラッシュがたかれ、マイクを向けられ、さらにはミーハーなファンが歓声を送る。彼に向かっていきそうな集団を抑える空港警察と警備員は一苦労だ。


 と、そんな映像を平和な布団の上で寝転んで眺めるのは、2年4組・宮島健一。

「すげぇな。鶴見。たかだか16歳のクセに、こんなに有名になっちゃって」

「日米での有望株の取り合いじゃけぇのぉ。今までにも無かったわけではないけど、土佐野専のシステムのせいで過激になったのぉ」

 神城の言う土佐野専のシステムとは。土佐野専はプロ野球選手養成学校。そのためスカウトとの接触、入団・金銭交渉などのスカウト活動は、裏金などプロ野球側の規定に反しない限りオールOKとされている。

 その中でメジャー挑戦を表明している鶴見。日本球団は彼ほどの逸材を海外流出させないために。メジャー球団は日本球団に使い潰されたり、『野球』に適応しすぎ『ベースボール』に適応できなくなったり。そうした事を避けるために。お互いに熱い交渉合戦が繰り広げられているのである。

「どうなるんでしょうか……」

 日本球団に入ることができるかも怪しい自分に対し、日本とメジャーを天秤にかける事をしている鶴見を、うらやましくも今後の展開を興味深そうに見つめるのは神部。

「えっと、ネット情報によると、鶴見くんが日本球団側に残留の最低条件として提示しているのは、『選手側による自由契約選択のオプション』を付ける事。対してメジャー数球団が現在提示している条件は、いずれも大金の契約金。1年か2年はマイナーでメジャーに慣れさせるらしいからマイナー契約だけど」

 秋原がネットで検索しながら答える。

 鶴見が日本球界側に提示している自由契約選択のオプション。これはつまり、『海外FA権』を最短1年間で取得できる権利に等しい。

 対してメジャー球団が鶴見に提示している条件は、マイナー調整や経験期間を挟み、1、2年後を目途にしたメジャー昇格確約。実質的なメジャー契約である。

 メジャーがこれだけ思い切った契約を提示しているのに対し、日本球団は『前例を作りたくない』『他の選手からの不満が出る可能性』などの理由から、条件承諾にはかなり慎重な構えを見せている。

「おみやげ~、おみやげ~」

 そんなことよりアメリカ土産が待ち遠し新本。彼女の目の前で、鶴見が画面の外へと消えて行った。


次回予告

ついに始まった2年目の学内リーグ戦

アメリカから帰ってきたアマチュア最強左腕・鶴見誠一郎と、

移籍の長曽我部に代わってエースとなった友田の投げ合い

「僕らは1年の時とは違う」

進化した1年4組もとい2年4組は、昨シーズン覇者の1組相手に、

開幕戦を勝利で飾れるのか?

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