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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第7章 分かつ絆 つながる絆
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第6話 秋季キャンプの成果……の、ようなもの

 秋季キャンプは10月中旬あたりから行われるのだが、下旬ともなると土佐野専にとっては一大イベントが行われる。プロを目指す者にとって、避けては通ることができないイベントである、新人選手選択会議。通称――ドラフト会議。

 土佐野専が世間からどの程度の評価を得ているのか。それが問われる第1期生対象のドラフト会議である。

 練習に身の入らない1年生達も、練習を早めに切り上げてテレビやPC、もしくは学校がいくつかの教室に設置したスクリーンの前に集まっている。

 新・ユニオンフォースも宮島宅に集まってテレビ前に集合。机の上にはピーナッツやチーズ、ビーフジャーキーなど酒のつまみのようなものが散乱しているが、飲んでいるのはオレンジジュースやリンゴジュース、もしくはウーロン茶。とりあえず未成年集団である。

『第1巡指名終了です』

 衛星放送でのドラフト会議完全中継。司会者の一声でドラフトの目玉が集まる第1巡指名が終了した。

 ここで指名された選手は、甲子園優勝投手や、大学や社会人で活躍した即戦力級と呼ばれる人たち。土佐野専、独立リーグからの指名はまだない。

「ほとんどが事前に騒がれとった選手じゃのぉ」

「だな。僕でも知ってるし」

 土佐野専の学生の多くに共通する事だが、あまり野球を見ないと言う特徴がある。もちろんまったく見ないわけではないのだが、ファンのおじさんや、ミーハーなファンたちの方がよく見ているくらい。見るよりもやる方であると言うことなのだが、言い換えれば彼だが知る選手はそれだけ騒がれた選手ということである。

「ドラフト1位は仕方ないんじゃない? だって上位指名ってほとんど即戦力でしょ? 土佐野専の2年って高校生2年相応の年齢だし、そこには入りきれないよ。若い時の1年の差は大きいし」

「あきにゃんはわかってな~い」

「秋原さん。高校2年生相応でも、私たちは高校3年生たちと対等に戦えないといけないんです」

 気休めの言葉をかける秋原に対し、新本と神部が猛反論。

「明菜。この学校は、元プロの指導者、プロ以上の環境。さらにプロマネージャーや経営管理班のバックアップを得て、プロを目指している場所なんだ」

「あくまでも『学問教育機関』の域を脱せない高校には、いくら1年の差があろうとも『野球教育機関』である土佐野専は負けられんってこと。そりゃあ、強豪校は勉強時間を極限まで削ってまで練習しとるんじゃろうけど、こっちは勉強時間を完全に捨てて練習しとるんじゃけぇ。この1年は埋めんといけんもんなんよ」

 土佐野専が2年制である理由はそこである。優秀な選手に優れたな環境、プロフェッショナルなバックアップ体制があれば、1年の差は埋められるとの算段の元なのだ。もしこれで土佐野専2年生よりも高校野球3年生が上ならば、これだけの莫大な資源投入の意味を無くしてしまう。そして何より、大学進学にも必要な『高校卒業資格』を捨てた人生の大勝負に大敗北を喫してしまうのである。

 第2巡指名。1巡目は競合があったが、2巡目以降は競合無し。先に他球団に指名された場合、重複指名は不可能である。

 そして――

『北海道日本ハム、鈴木秋也。16歳、投手。土佐野球専門学校』

「「「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」

 宮島の部屋で5人が声を合わせて拳を突き上げる。さらに外からも、いろんな方向から歓声が聞こえてくる。

 土佐野専指名一番乗りは、近年、多くの有力選手を上位指名で獲得することに成功している、ドラフト巧者の北海道日本ハムファイターズ。指名したのは2年1組が誇るエースで、今季2年生リーグ最優秀防御率を獲得した本格派右腕。

『広島東洋、春山達也。17歳、内野手。土佐野球専門学校』

「おぉ、広島も来たのぉ」

 そこへ1年1組担任・大森の古巣、広島東洋が続く。指名した選手は、2年1組のサードで巧打と長打を併せ持つ3番タイプのバッター。彼の持つ勝負強さも考えると、得点力向上を狙った補強と見ていいだろう。

「おそらく、1位でドラフトの目玉を捨ててまで指名するにはリスクがあるけど、2位以下となるとそこのリスクは割り切れる。と言ったところでしょうか?」

「土佐野専の選手は何より木製バットに慣れとるし、リーグ戦もやっとるし、監督からいろんな話も聞いとるけぇのぉ。プロへの適応能力って点では高校生の比じゃないじゃろぉ。ただ問題点を挙げると、歓声の前で試合をしたことがないってくらいじゃのぉ」

「どうだろ? 先生が言ってたけど、2年生になったら時々、プロの2軍や社会人と練習試合を組むんだって。今季頭の春季キャンプでも、高知でキャンプを張ってたプロの2軍と10試合以上は練習試合を組んだって」

 首をかしげながら記憶を思い起こす秋原だったが、しっかり神城が揚げ足を取る。

「2軍の試合ってあまり人が入らんじゃろぉ」

「それはその……そうなんだけどね?」

 結局土佐野専のネックは、大歓声の前でいつも通りのプレーできるか否か。その点では歓声の前でプレーした経験のある高校球児の方にアドバンテージがあろう。

「でも安心しましたぁ。プロに行けるんですね。それも2位と上位指名で」

「それは心配ないじゃろぉ。馬鹿みたいに才能ある人が、超スペックの学校で努力しとんじゃけぇ。これで誰1人としてプロに行けんかったら、日本中の誰もプロに行けんじゃろぉ」

 現1年生に関しては、鶴見誠一郎なんて15、6にしてメジャーから声がかかるとんでもないピッチャーがいるくらい。1組主砲の三村や、2組正捕手の西園寺、3組速球王の長曽我部に、スラッガーのバーナード。4組には恐怖のリーディングヒッター・神城。かなりのレベルを誇る選手が多く、少なくとも「誰1人としてプロ入りできない」なんてことはないだろう。

 さらにその後、下位指名も含めて10人の選手が土佐野専より指名。さらに育成選手として5人が指名を受ける。同一学校から15人の指名など過去にない大事件である。

「えっと、みんなから見てどうなの? これ」

「凄かった~」

「凄かった」

「凄かったのぉ」

「凄かったです」

「なんか、みんな新本さん並に薄っぺらい感想だね」

 実際に凄かったのだから仕方ない。



 ドラフト会議を見てプロがより身近に感じた生徒たち。練習へとさらに熱が入る。

 その中で先発ローテを目指す神部。彼女は3組で勝利の方程式に入っていただけに、1人のバッターを抑える能力は十分すぎる。しかし中継ぎでは問題とならなかった課題は大きく2つ。

 1つ目は、先発投手は打席に入ることになること。これに関しては怪我で投球制限を受けていた時からじっくり練習をし始めている。

 2つ目は持久力の問題。4組が初勝利を収めた試合における初先発時は、5回に宮島のタイムリーを受けてKOとなっているが、実際のところはスタミナ切れによるところが大きい。また最終戦においては、負担のかかるフォームで長いイニングを跨いだことで、軽傷とはいえ怪我を招いている。これも秋原およびマネージメント科教員監修下で運動処方を受けたり、投球フォームの改善を行ったりで、理屈の上では問題解決に向かっているはずである。

 そして今日は、まだ投球に関しては調整段階とのことで、投げ込みも球速100キロ前後と、フォーム確認程度の軽めの20~30球を放って終了。あとは野手陣に混じって、打撃練習や守備練習などの野手としての練習に力を注ぐようである。

 現在行っているのは、守備に付いてのシートバッティング。

「セカンドっ」

 打撃投手・本崎の球を打ち返した宮島。セカンドやや2塁ベース寄りに飛んだ打球に、キャッチャーの小村はすかさず指示を飛ばす。と、セカンドを守っていた神部。ピッチャーであるためジャンピングスローなどの無理な動きはしないが、軽く回り込んで捕球後、流麗な動きで1塁へと送球。

「ありがと」

 それでラストを打ち終わった宮島は、本崎に軽く一礼してから打席を外す。

「神部、守備ええのぉ」

「男子だろうが女子だろうが、上手い人は何やらしても上手いからなぁ。鶴見みたいに」

 鶴見も投げてはメジャー注目だが、打撃も守備もかなり上手い。さすがにこの学校に来ては投野手分業のためあまり練習はしておらず、ゆえにやや雑なところは見えるが、しっかり練習を積めば野手としても活躍できそうな、才能の片りんを見せているくらいである。

「あと、打ってないのって誰だっけ?」

 宮島の次に打席に入ったのは前園。その次の順番であるため、素振りをして準備中の神城。彼に確認してみると、セカンドを指さす。

「神部ぐらいじゃろぉ」

「だったらセカンドに行ってくる」

 一応、持ってきている内外野手(オールラウンド)用のグローブを手にしてセカンドの守備位置へ。ピッチャーが本崎から立川に変わる合間に、入れ替わってしまう。

「神部、順番(バック)

「はい」

 宮島がセカンドに入り、神部は打席に入る準備を整えるため1塁側ベンチへ。

 守備能力は天性のものがあるが、打撃能力には難がある前園。それもこの秋季キャンプでほんの少しではあるも、成長傾向にある。

 ファースト・寺本、セカンド・宮島、サード・佐々木、ショート・大川

 と、それぞれ本職とは違うポジションに着いていて不慣れなわけだが、それでも野球エリート集団の守備。彼らの守る間を抜くようにヒットを打てているのは、十分な成長であると見ていいだろう。

 もっともそれも、神城が次に打つと霞んでしまう。

 エース&本職守備陣でもなかなかに抑えられないのに、こんなボロボロ守備陣では面白いように打球が抜けて行く。だてに首位打者は獲得していない。さすがの打撃力である。

「ありがとな。ええ球じゃったで」

「これだけ打たれて言われると、どう考えても気休めにしか聞こえない件について」

 いくらかは打ち取っているが、守備の関係でボコボコにされた立川。掲示板のスレタイのような台詞をつぶやきながらロージンバックに手をやる。

「お願いします」

「ラスト?」

「ラストバッターです」

 ここにいる選手は神部以外打ち終わっており、神部が最後のバッター。

 気合いを入れて背筋を伸ばした立川が、神部に向けて投球を始める。

「ふにゅぅ」

「おぉ、新本。きっとったんじゃなぁ」

「今日の練習終わったぁ。みんなは何してるの~」

「打撃練習。とは言っても、神部で終わりじゃけどな」

 3塁側ベンチで休んでいた神城の元へ、自分の練習を終えた新本がやってくる。

 その2人の前で、神部が立川の投げるストレートや変化球をきれいに弾き返す。

「ほんとに投球、守備だけじゃなく打撃も上手いのぉ。女子野球界の天才じゃなぁ」

「ふん。どうせ巨乳(デカパイ)が邪魔になってインローは捌けないよ。打撃練習だから打てるけど、そこを突かれたらイチコロ――」

「なぁぁぁ、インローに放ったフォークボールを、きれいに体を回転させてレフト前に弾き返されただとぉぉぉぉぉ」

「「「なんで説明口調?」」」

 おそらくは何かしらのアニメの影響で露骨な説明的台詞を発した立川に、内野全体から総ツッコミ。

「打ったで。だいたい、神部はさらし巻いとるけぇ、胸の大きさは打撃に関係ないじゃろぉ」

 新本(ひんぬ~)憤死。



 まもなく秋季キャンプも終了。日本国内では南の方にある高知でも、寒さがほんのり増してきたように感じる11月の下旬。打撃向上に努めるべく、いつものように打撃練習をしようとした宮島。打席に入ろうとしたが、唐突に彼へと声が掛けられる。

「宮島さん。一回、本気で勝負しましょう」

 1塁側ファールグラウンドで肩入れをし、体を軽くほぐした後、右腕を回しながらアピールする神部。宮島は面白いと微笑み、マウンド上の立川にアイコンタクト。彼は「やれやれ」とまさしくマンガの様なアクションを取ってから、マウンドをグローブで指し示しながらその場を後にする。

 代わりにマウンドに上がった神部。

 キャッチャーの小村に合図を取ってから投球モーションへ。セットポジションから左足を上げ、体を軽く2塁側へとひねる。トルネードと言うには動作の小さい、リトルトルネード投法。小さくひねりためた力をばねのように解放しながら、右腕を頭の後ろから飛び出させる。

 投球はど真ん中へのストレート。それが小村のミットへと飛び込む。

「打席で見ると分かるけど、なかなかいい球じゃん」

「なにせ、宮島さんにしこたま付き合ってもらいましたから」

 自信満々に答える神部は、5球ほど投球練習をしてから宮島に打席へ入るよう促す。キャッチボールをファールグラウンドで神城としていたため、肩の暖まりようは十分である。

「何打席勝負する?」

「3打席勝負。出塁できたら宮島さんの勝ち。抑えたら私の勝ちです」

「打率1割台に酷なルールを……」

「簡単なルールじゃあ、勝負にならないですから」

 そうは言うが宮島の出塁率を仮に2割とすれば、このルールにおける宮島の勝率は5割弱。一見不利なようには見えて、数学的には一概に不利なルールとは言えないのである。

 1打席目の勝負。

 リトルトルネード・神部が宮島に向けて一投。

「ボール」

 小村はアウトコース低めに外れたボール球を受けてワンボールのコール。

「神部。せっかく勝負するなら何かを賭けるか?」

「お任せします」

 言い切る前に手元のボールケースから球を取り、再び投球モーションに入る。

「ストライク、ワン」

 インコース低めへのストレート。ここまでまったく打つ気を見せていない宮島は、彼女の球を見定めているところなのだろう。いくらキャッチャーとして見ている球とは言え、バッターとして見るのは久しぶり。それも神部が投球フォームを変えてからとなると、対戦するのは今日が初めてである。

 ここまで2球連続のストレート。練習であり、また彼女の場合、自分の力を知るためにストレート一本もありうる。しかし一応は真剣勝負であり、リードしているのは小村。変化球の可能性も捨てきれない。

 カウント1―1からの3球目。

 アウトコースのカーブを弾き返す宮島。打球は低いゴロとなり、神部の前に置かれた防球ネットに当たって跳ね返る。

「あっ、宮島さん。これ、どうしましょう?」

「凡打でいいや。あれくらいの打球ならどうせ、原井(セカン)が捕ってるだろうし」

 もっと速い打球でネットに当たったならまだしも、あれはセカンド守備範囲内の打球。守備の上手い投手であれば、投手ゴロになっていたであろう程度だ。あれはよっぽどの変則シフトを敷いていない限り、せいぜい内野ゴロだ。

 1打席目は宮島の自己申告による内野ゴロで神部の勝利。

 2打席目……

「ボール、ワン」

 アウトコースのカーブ。小村のボールコールに神部は首をかしげるが、ボールはボールである。文句も言わず2球目へ。

「ボール、ツー」

「神部。フォアボールならどうなんの?」

「出塁なので、宮島さんの勝ちです」

「じゃあ、神城みたいにファールで粘ろうかな?」

「できるものならどうぞ」

「宮島には無理じゃろぉ」

 神部の強気発言&本家ファール打ち巧者・神城のダブルアタック。

 いかにもな挑発であるが、自分の力量を把握できている宮島は挑発に乗らず。自分のバッティングを見失わない。

「ファール」

 結果的にファール打ちになったものの、しっかり振り切ったいつものスイング。

「今のは?」

「ツーシームです」

 インコースへのツーシーム。詰まらされた打球であり、少しタイミングを間違えば内野ゴロだっただろう。ファールになって救われた形だ。

『(やっぱり投球の質はあまり変わってない。少しコントロールが荒くなったくらいだけど、元々がいいからな。これでも十分合格点だろうよ)』

 リトルトルネード投法となってから、やや制球が荒れ気味なのが目につく。しかしそれでも長曽我部よりは遥かにまともだし、4組投手陣の中ではまだ標準レベル。むしろ肩への負担が減ったのなら、その程度目を瞑れる範囲内。

 今後は捕手としてリードしていく対象のため、打者としての対戦中でもしっかり分析は欠かさない。ただ、

「はい、ツーアウトっ」

 ファースト真正面のハーフライナーに打ち取り上機嫌の神部に、やや渋い表情を浮かべる。

『(さすがにまずいかな?)』

 これで凡退2つめ。あと1回打ち取られれば負けである。命が取られるわけでも、プロ入りがかかっているわけでもないため、そこまで切羽詰まった状況ではないが。

「あと1つ、ですね」

 神部は右腕を後ろに引いて軽くストレッチ。

 宮島も一度打席を外し、素振りを2回して気持ちを切り替える。

 神部VS宮島 第3打席

 神部の初球。

「ボール」

 膝元に落とすスプリット。インコースに張っていた宮島だったが、ボールを見切ってワンボール。

『(っぶねぇ。振りかけたな)』

 かなり追い込まれた状況。しかしそうは言っても狙い球は広げられない。いずれは克服しなければいけないものかもしれないが、少なくともまだ読み打ち以外では好成績を残せない。

『(狙うは――得意なインコース)』

 ストライクカウントはあと3つ。それだけあればいつかはインコースに放ってくる。絶対にアウトコースに張らない。もしアウトコース3連投なら見逃し三振覚悟。

 セットポジションからリトルトルネード・神部が右腕を振り出す。彼女の放った1球は、

『(インコース。読み通り)』

 決意を固めた直後に読み通りの投球。宮島が勝利を確信した。しかし、

『(甘いです。宮島さんなら、きっとそこを待ってると思いましたっ)』

 ボールが来ない。

『(しまった。チェンジアップ)』

 タイミングを外された。しかしバットはもう止まらない。潔く空振りすればいいものを、つい泳ぎながらバットに合わせてしまう。投球はバットの真芯に当たるも、完全に崩れた体勢ではいい打球は飛ばない。

 三遊間へのハーフライナー。

「勝ったっ」

 右腕でガッツポーズしながら振り返る。と、

「「無理ぃぃぃぃぃ」」

 鳥居・前園の守る三遊間。そのジャストど真ん中を緩い打球が抜けてレフト前へ。

「ヒットかよ」

 打った宮島自身も驚く釈然としないヒット。

「えっと、投了です」

「勝ちでいいの? 勝った気しないんだけど」

「ヒットはヒットですから……はい」

 神部も負けを認めながらもいまいちしっくりこない様子。なにせタイミングを外したボールが偶然に真芯に当たり、偶然に内野手の間に飛んでいき、偶然に外野へと抜けて行ったのだ。言い訳の利かないヒットではあるが、納得のいくヒットではない。

 しかしながらそれを擁護するのは神城。

「でもなかなかえかったで? 体勢を崩されながらあの打球スピードを出せるって事は、スイングスピードがあがっとるってことじゃけぇのぉ。なんぼ内野の間に飛ぼうとも、打球が速くないと外野には抜けんけぇのぉ」

「だ、そうですよ。宮島さん。体勢を崩されながらレフト前に持って行ったしぶとさの勝利。みたいです」

「それは褒めてるのか?」

「褒めとんじゃろぉ」

「褒めてるつもりですけど……」

 ホームランが増えたわけでも、痛烈な打球が増えたわけでもない。体勢を崩されながらもレフト前へと持って行けた。ただそれだけの地味な成果なのだが、宮島も着実に成長をしているのである。

『(それはそうと、賭けの件はどうするんじゃろぉ? 途中からうやむやになっとったよなぁ?)』

 因みにその件についてしっかり覚えていた両名だが、夕食のデザートを奢ることで決着が着いたようである。


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