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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第6章 最下位争い
59/150

第6話 守備戦

 代打・鳥居はカウント3―1からの5球目をファースト真正面に飛ばして凡退。1アウト3塁の大チャンスを潰す形となり、流れが傾きかける。

『(流れをやる気はありません)』

「ピッチャー、新本」

 監督のコール直後、鋭い目つきで右肩をゆっくり回しながらベンチから歩き出てくる新本。ランナーとしてチェンジになったため、準備の遅れた宮島も彼女に合わせてグラウンドに姿を現す。

 昨日の試合は調子不十分で登板回避した彼女に不安があったが、投球練習はかなり調子が言い様子。絶対に点をやらないと、闘争心にあふれている。

「新本。今日の気分は?」

「お任せ」

 今まで投手主導リードをしていたはず。ところがここ最近では、任せてくれる投手が多くなってきた。これも宮島への信頼ゆえなのだが、宮島としてはむしろ投げたい球を投げさせてのらせたいところ。

「OK。けど、なんか投げたい球があったら好きに首を振ってな」

「うん」

 とりあえずそう言って首を振りやすくし、ホームまで駆けて戻る。

『6回の表、1年3組の攻撃は、9番、ライト、村井』

 左バッターボックスには、5回裏途中から守備で出場の村井。あまり宮島としては好ましくない打順である。

『(新本は特に先発との球速差で抑えるリリーバーだからなぁ)』

 言い換えれば、先発の球速に慣れたスタメンには相性がいいが、代打を含めた途中出場には相性が悪いのである。それでも一般的なスピードレンジから外れる球のため、そこそこは通用するのだが。

『(村井はどんなタイプだったかなぁ? リーディングヒッター、神城や小崎みたいなタイプだった気がするけど)』

 立ち位置はボックス外・ピッチャー寄り。1塁に近いポジション取りだ。

『(インに張ってるにしては露骨なんだよなぁ。あまり好かない配球だけど)』

 宮島の初球のサインに頷いた新本。セットポジションに入ると、スリークォーター気味のフォームで初球。

「ボール」

 アウトコースに外れるボール球。打てない球ではないが、わざわざ打つ必要もないコース。

『(おや? 宮島くんにしては珍しい初球ボールですか。配球に困りましたか?)』

 いくら制球のいい新本と言えど、コントロールミスくらいはある。確信を持てない広川は、興味深そうに身を乗り出して試合を見守る。

『(踏み込むわけでもなく、そのまま見送ったか。外は捨てるのか?)』

 立ち位置は変わらない。ならばと宮島の次なる配球。

 新本の投球はさきほどよりもストライク寄り。それでもボールのコースのたまに、村井は少しバットを動かして止めるが、

「ストライーク」

 アウトコースから飛び込むバックドアスライダー。それが新本らしい絶妙なコースに決まってストライク。

『(なんとか平行カウント。次で追い込みたい)』

 ボール先行にしたくはない宮島。先の球で外に意識が向いていると見て、インコースにストレートを要求。新本がモーションに入ると同時にインコースに寄って、低めへとミットを構える。

『(こい、新本。1―2にしてしまえば、かなり優位に戦える)』

 大きく開いて的を作る。そこへ向けて新本は全力投球。やや真ん中に入るもこの程度は誤差の範囲内。ナイスボールと捕りにいく宮島だった――が、これを村井はベストタイミングでジャストーミート。打球はピッチャーの頭を抜くような角度でセンター方面へ。

「せいやぁぁ」

 それを新本がジャンプしながらグローブを出す。身長の低い彼女にしては頑張ったが、打球は彼女のグローブに当たるも捕球はできず。ショート方面へと転々。たちの悪いことに前園は二遊間へとスタートを切っており、さらにはぬかるんだグラウンドで打球の勢いが死んでしまう。

「くそっ。新本、間に合うっ」

 宮島は新本に打球を処理するよう指示。彼女はマウンドに飛び降りるなり、すぐさま打球を追ってショートへ。ところが、

「どけっ、新本っ」

 前園の判断が早かった。一度は二遊間へスタートを切ったものの、打球方向が変わったと見るやいなや、そちらにスタートを切りなおしたのだ。前園は避けられないと判断するなり、体勢を低くして打球を素手で処理。新本もそれを見て高く足を上げて飛び越える。

「ひとつ、まだいけるっ」

 宮島の指示に、前園は低い体勢のまま、地を這うようなアンダースローで1塁へと送球。不慣れな送球体勢にハーフバウンド送球になるも、一塁を守るは名手・神城。

「よっと。審判、捕っとるよ?」

「アウトっ」

 間一髪で間に合ったファインプレー。

 超不安定体勢で送球したため、体勢を崩した前園。前転したことで泥まみれになったが、気にせず右腕を突き上げガッツポーズ。そして彼を華麗に避けた新本が、手を貸して起こしてあげる。

 ピッチャー強襲ヒットとなっても仕方のない当たり。それをアウトに取れたのは幸運。

「ナイショー、ナイショー」

『(ここから2巡目の磯田・上島。仮に出塁を許しても笠原、バーナード。この上位に代打はないだろうし、落ち着いて行けば抑え込める)』

 宮島の読みは的中。5回裏の無失点で一度は渡しかけた流れを、前園の好プレーで奪還。

 先頭に戻って磯田。彼のヒット性を再び前園がもぎ取る。そこで送球エラーをして出塁を許してしまうが、

「セカン、ボール2つ」

 続く上島の打球は二遊間ややセカンド寄りの打球。逆シングルで捕球したセカンド・横川は2塁ベースに向けてグラブトス。2塁ベース上に来ていた前園は送球を素手キャッチ。左足を後ろに引いてゲッツー崩しをかわし、そのうえで1塁へと送球。

「アウト、チェンジ」

 なんだかんだでショート・前園がすべてのプレーに関わって6回の表を終了。この回も無失点に抑えこむ。流れを断ちきる新本の好リリーフである。



『6回の裏、1年4組の攻撃は、1番、ファースト、神城』

 先頭の神城が左バッターボックスへ。

 この0―0と未だに試合が動いていない。このようなケースでは、ミスひとつで流れが行ったり来たりする。そしてそのミスとは、『好打順の攻撃で1点も取れない』なんてことも含まれる。

『(なんとか1点取らんといけんのぉ)』

 6回の表の攻撃は、9番・村井からの打順を好守で抑え込んだ。流れは間違いなく4組の手の中にある。ここで1点を取らねば、3番から始まる7回の表、3組に飲みこまれる。

 ゆったりとした構えの神城は初球。

「ボール」

 アウトコース低めのボール球を見切る。

『(築田はやっぱり勝利の方程式に比べると格落ちするけぇのぉ。なんとしてでもここで出にゃあいけんじゃろぉ)』

「ボール」

 2球目はインコースに外れるボール球。

 雨で制球が定まらず、ボールを大きく先行させてしまう。積極に打ってくる相手ならあり得ない配球ではないが、神城相手にやるのは自分の首を絞めるだけの行為だ。

「ボールスリー」

 すっぽ抜けはバックネットに叩きつける大暴投。もちろんコースはストライクゾーンから大きく外れてボール。3―0と圧倒的打者有利カウント。

 神城は打席を一旦外してバットを握りなおす。

『(崩れとるし、無理して打つ必要もないじゃろうけど、あまり崩れすぎるとリリーバー出されるけぇのぉ)』

 3組の中継ぎはかなり優秀。もしそれらをリリーフに送られれば、仮に自分が出たところで後続が切られる可能性だってある。

 ボールの可能性が浮かんできた神城に対し、築田はノーワインドアップから第4球。

『(絶好球っ)』

 インコース真ん中への置きに行った投球。気持ち程度にシュートをかけているようだが、このコースではただど真ん中に入るだけの球。神城は迷いなくバットを振り切った。

「ストライーク」

 肩に力が入りすぎた。ボールの頭をこするチップでワンストライク。

『(惜しいのぉ。今の打てとったらホームラン入ったかもしれんかったけどなぁ)』

 カウント3―0だったからこそ置きに来たが、この強気の姿勢を見せれば、そう簡単に甘いコースは放ってこないだろう。

「ボール、フォア」

 5球目は低めを狙ったダメもとフォークが高めに浮いてフォアボール。神城は1塁に歩きながら右足のプロテクターやレガースを取ると、バットと共にそれらを受け取りに来たマネージメント科・津雲に手渡す。

『(これはどうやって動くかのぉ?)』

 ノーアウトで1塁に神城。バッターは三国。この場面と同じ展開が1回にあり、その時はセカンドへの併殺打。強行策が裏目に出た展開であるが、ここでの広川の作戦は、

『(お任せします。神城くんもグリーンライトです)』

 バントでもエンドランでもなくお任せ。

 神城はピッチャーの築田を正面に見ながら1塁からリード。

『(制球乱しとるけど、代えんかったのぉ。まぁ、1、2、3と左が続くけぇじゃろぉけど)』

 体勢を低くしたまま大きなリード。気にならないはずがない築田は、上げた足を直接前に踏み出して牽制。

「セーフ」

 足からの帰塁はセーフ。

『(行けそうじゃけど、三国、小崎、佐々木じゃったら無理する必要もないかのぉ)』

 何よりも地面がぬかるんでおり、いつものペースで走ることができるかが怪しい。築田がセットポジションに入るなり、再び大きなリードを取る。それでも今度は諦めた築田は三国に向けて投球。

「ボール」

 アウトコース高めへの変化球。大きく外れてワンボール。なかなか制球が定まらない。さらにこの後も高めにストレートが浮いてツーボール。

 築田は地面を蹴ってストライクが入らない不満をぶつける。よほど頭に来ているのだろう。

 3球目。

 ついにストライクを取りたい。そんな気持ちが彼を急かせた。

 インコース高めのストレート。甘く入ったその球を、三国のスイングが一閃。

 ファースト・笠原、セカンド・仁科共に、ぬかるんだ一二塁間に飛び込む。自ら泥に飛び込む気迫のプレーも、真芯で捉えた打球は一二塁間を破ってライト前ヒット。

『(いけるっ)』

 バウンドした瞬間に打球の勢いが衰えた。ライトの処理が遅れると見て、神城はノンストップで2塁を蹴る。

「ボール、サードっ」

 起き上がった仁科がサードをグローブで指し示すと、村井は打球をすくいあげ、間髪入れずにサードへと送球。

「滑れ、滑れっ」

 サードランナーコーチ・桜田の指示に、神城は3塁へとスライディング。サードの股間を破って3塁ベースへと足を伸ばす。一方で、サード・酒々井が送球を受けてタッチ。

「セーフ、セーフ」

 神城の俊足が送球に勝った。

「っしゃあ。あとは任せたけぇのぉぉぉぉ」

「お任せを。にいもっちゃん、勝利投手の権利を取ってくるよ」

「にゃっ」

 出て行く際、新本と片拳でハイタッチ。

『3番、センター、小崎』

 ノーアウト1・3塁のチャンス。小崎を迎えるタイミングで、田端がベンチからタイムを掛けて出てくる。

「桜田さん。ピッチャー、交代するんかなぁ?」

「どうかな? 左対左って言えばこのままにしたいけど、それで打たれ続けているからねぇ」

 どうせタイムがかかっているため、神城は3塁を離れてランナーコーチ・桜田と相手の取ってくるであろう策を議論。

「あ、代えるみたい」

 田端は球審に向けて言葉を発する。交代しないなら言う必要がないだけに、これは交代と見てもいいだろう。

「3組の左って言うたら、安藤と築田だけじゃろぉ。じゃったらもう右しかおらんけぇなぁ」

「う~ん、誰だろ?」

 神城、桜田、2人揃って腕組みしながら3塁側ベンチへと目を向ける。

『ピッチャー、築田に代わりまして、林。背番号12』

 速球派サイド右腕・林泯台を投入。

 林はまずマウンドに上がるなり、球審を呼び足場を指さす。すると球審はバックネット裏に向けてジャスチャーを送った。

「グラウンド整備みたいだね」

「5回終わりにやらんかったっけ?」

「この雨だしそりゃあねぇ……」

 ついでに6回の表に投げた新本。彼女が元気を持て余してブルペンで躍動していた結果、整備したばかりの足場が荒れてしまったのも理由にある。さすがの桜田もそこまで発想力が回らなかったようだ。

 マウンドに土を入れ直し、固めてから林の投球練習。しっかり踏み込んだ足は滑らず、力を投球に効率よく伝えて行く。

「へぇ」

「調子はえさそうじゃなぁ」

「この雨だと足場がまた荒れるのも時間の問題だけど、このイニングは大丈夫そうだね」

「暴投で1点もらえたらラッキーじゃったんじゃけど」

 3組もこの試合の結果いかんで3位防衛か、最下位決定か異なる。今日の1勝はいつもの

1勝とは価値が大いに違うのだ。

 既定の投球数が終了し、神城も3塁ベースに戻って試合再開。

 三国、神城双方がリードを取ってピッチャーにプレッシャーをかける、も林は気にせずにクイックモーションで投球開始。三国は広川の出したサイン通り、2塁へとスタートを切る。

「ストライーク」

 アウトコース低めに通したストレート。キャッチャー・柴田は迷わず2塁へと送球。神城はそれを見てホーム突入の構えを見せるが、

「っと」

 その送球をセカンドがカットしようとしたのに気付いて3塁へと戻る。送球は実際にセカンドがカットし、三国は2塁へと滑り込み盗塁成功。

 ノーアウト2・3塁と変わる。

『(ふ~ん。広川さんはゲッツーを恐れた、のかな?)』

 ノーアウト2・3塁なら高確率でゲッツーは防ぐことができる。もしノーアウト1・3塁からゲッツーを食らった挙句、神城も3塁釘づけなら、2アウト3塁と言う美味しくない形になってしまう。

『(ノーアウト2・3塁なら、ゲッツーはほぼありません。であれば、ノーアウト、もしくはワンアウトで3塁にランナーがいる。犠牲フライや内野ゴロ間など、様々な作戦を打てる機会が2者分。これは打順からして大きなチャンスです)』

 仮に小崎が単独アウトだと、佐々木敬遠で満塁策もありうる。だがそれに備えて、ベンチ裏では温存していた代打の切り札・大野が準備中である。

『(お任せします。小崎くん)』

 相手も警戒しているだろうから、広川の中にはここでのスクイズと言う考えは無い。

 カウント0―1の小崎に対しての投球は初球。

「ボール」

 アウトコース高めへのピッチドアウト。よほどスクイズを警戒しているのだろう。

 なにせ小崎は今シーズン、セーフティバントを何度も決めているバント巧者。土佐野専では送りバントの練習はしないが、神城、小崎、寺本などセーフティ狙いの『攻めのバント』のためにバント練習自体はする人もいる。また、宮島、横川、前園等々、練習していないのに才能でバントを決めてしまう人も。つまりいくら攻撃的野球の土佐野専と言えども、バントが無いとは言えないのだ。

「ボール」

 よほどのスクイズ警戒。2球連続で外す。

「まさか敬遠?」

 そのスクイズ警戒を見て秋原はハッと思う。が、考えてみるとネクスト・佐々木は本日2打数1安打。2打席目の凡退も大きなレフトフライ。調子が悪いことはなく、むしろいい部類に入るはずである。

「考えすぎかな? キャッチャー、最初は座ってるし」

 秋原の目線の先。柴田はしゃがんだままでサインを出し、しゃがんだままでミットを構える。もしあれが敬遠なら、初めから立っているだろうし、座ったまま敬遠と言う気なら先ほどのコースはあり得ない。

 と、次の球。キャッチャーが腰を浮かせる。

 しかし敬遠ではない。高めの釣り球を要求したのだ。

 犠牲フライを防ぎたいこの場面。低めを突くと見せかけて、高めを突く。三振を狙いに来た。

 横から腕が飛び出るサイドスロー。右腕から放たれた高めのボール球ストレートを、小崎は迷いなく打ち砕く。

「まずっ、センター」

 打球はセンターに舞い上がったフライに、柴田は慌てて立ち上がる。

「タッチアップ」

 桜田もすぐに3塁・神城、2塁・三国にタッチアップの指示。2人ともそれぞれの塁に着いてタッチアップ体勢。

『(打球は前進守備のセンター定位置。厳しいかな?)』

 1年間の事務員兼ランナーコーチの経験から、神城の足をもってしても難しいと判断。

 センターが捕球するなり、

「バック」

 神城を制する。ところが、

『(行ける)』

 神城は桜田の指示を無視してホームへと突っ込む。

『(神城くんは行った。けど2塁は無理だ)』

 直接バックホームではなく、セカンドが中継に入っている。送球間への三進は無理と判断し、三国へは手をかざしてしっかり制止指示。

『(突っ込んできたっ)』

「ボールバックっ」

 間に合うと感じた柴田の指示。磯田は中継の仁科へと送球。仁科は中継することで2塁ランナーの不要な進塁を防ぎ、バックホーム。と、

「あっ」

 踏み込んだ左足が水たまりにはまった。足を滑らせた仁科は、体勢を大きく崩しながらバックホーム。山なり送球となり、アウトのタイミングが微妙になる。

『(正面はブロックしとる。けど、回り込みゃあ行けよう)』

 高めの送球を受けようとやや体を起こす柴田。彼の背後に回り込むように走路を修正した神城は全力疾走。

「回り込めっ」

 ネクストの佐々木が本塁付近で走塁指示。

『(もとよりそのつもりじゃけぇ、気にしなさんなっ)』

 神城が柴田の背後に滑り込みホームをタッチ。が、それより先に、送球を受けた柴田が神城の背中にタッチしたようにも見えた。

 この際どい判定の結果は。

「ノータッチ。セーフ、セーフ」

 追いタッチは空を切ったと言う、球審の1組・但馬(たじま)の判定。

「よぉぉし」

 広川も大きくガッツポーズ。

 6回の裏。小崎のセンター犠牲フライでついに均衡が破られた。

 全員がベンチ前方に寄って手を出し、帰ってきた神城とホーム側から流れのままに次々とハイタッチ。その後には逆方向、1塁側から、犠牲フライを打ち上げた小崎とハイタッチ。

 なおも状況は1アウト2塁。追加点のチャンス。

「うぉぉぉぉぉ、続けぇぇぇぇぇぇ」

「長曽我部くん。肩を冷やさないように気を付けてください」

 スタンドで傘を振り回して応援する長曽我部に広川は注意しておく。ただ彼は自分で注意しているつもりらしく、変わらず傘振り応援。

『4番、レフト、佐々木』

 ここで迎えるは主砲の佐々木。とすれば無理に勝負する必要性などない。

 3組バッテリーは座ったままで佐々木を敬遠。次の三満と勝負する構えだ。

 佐々木が歩いて1アウト1・2塁。バッターは三満。さらにネクストへは切り札・大野が控える。

 追撃をかけたい4組。1点で凌ぎたい3組。

 この雨ではいつコールドとなるか分からないため、この1点が非常に大きい。残る3組の攻撃イニングは、延長を考慮しないと純粋には3イニング。だが天候・グラウンド次第ではもうそれだけのイニングがないかもしれない。次がラストイニングかもしれない。それどころか次の球を放った直後、中断となるかもしれない。

 1―2からファール2球を挟んでの5球目。

 三振を狙った低めフォークボールを、三満が泳ぎながら打ち返す。打球は三遊間へのハーフライナー。抜けるか、それともノーバウンドキャッチか。非常に際どいタイミングであったため、ランナーはノーバウンドキャッチに備えて帰塁。レフトへ抜けた分には楽々進塁できるからだ。

 するとショートの上島。直線距離で行けばショートライナーで処理できたものを、わざわざ回り込んで正面に入って捕球。そのせいでワンバウンド。

「しまった、ゴー、ゴー」

 桜田が相手の真意に気付いて指示を出す。だがもう遅い。

 上島はまず3塁へと送球。もちろん三国は間に合わずに3塁封殺。さらにサード・酒々井は2塁へと転送。こちらもショートライナーに備えて佐々木は帰塁していたため間に合わない。

「アウト、チェンジ」

 6―5―4のダブルプレー。ライナー性であるためインフィールドフライは適用されず、グローブに当てて落としたわけでもないので、故意落球も適用されない。単純な3組のファインプレーだ。

「1点止まり、ですか。ただ、終わったことをとやかく言っても仕方ないですね。球審。ピッチャー、塩原」

 リードした4組。新本は勝利投手の権利を背負ったままで降板。右アンダーの塩原をマウンドへ。3番から始まるラッキーセブンの守備が始まる。


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