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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第5章 よみがえれ!!プロのタマゴたち
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第4話 不死鳥のごとく

 月曜日。目の下に濃いめのクマを作った高川に資料を渡された宮島は、マネージメント科のクラス別研究室を借りて読んでいた。

『(やっぱりな)』

 友田の打たれている球の分析。見てみると変化球は以前と比べて被打率は変化が無いが、ストレートはかなり打たれやすくなっている。さらに彼がついでで調べてきたのは長曽我部。彼もストレートの被打率が上がっている。

 他のチームはと言うと、3組はやはり神部。さらに安藤、三崎。2組は古蔵、三原、加賀。既に復帰しているが、ここ2か月以内にスランプの時期があった選手として、1組・鶴見と大原、3組・河嶋らの名前も挙げられている。

 こうしたメンバーに共通するのは広川の言う通り、早期に先発ローテ、勝利の方程式に抜擢された、言わばいちはやく成功を重ねていたメンバーである。

「高川、は寝てたか」

 ソファに寝転がり、秋原の持ちこんだブランケットを掛けて爆睡中。授業をサボっているのだが、曰くこの資料のコピーをマネージメント科の単位認定協議会に提出したとのこと。それで単位上は問題ないとか。

 宮島は高川に話を聞くのをやめて、自ら資料と対峙する。

 サッと読んでの彼の考えはこうである。

 友田は純粋にクセ球ストレートに対応され始めたと言う事。おそらくバレたと言うよりは、その試合における初見~対応への時間が短くなったとするのが妥当であろう。

 そして長曽我部。ストレートを打たれていると言うのは、割と想像が簡単である。彼の変化球は宮島直伝のスライダーだが、彼のスライダーは球速が速く、その性質から言えばスプリットや高速スライダーが近い。つまり彼の持ち球には、タイミングを外す遅い球が無い。

 4組においてスランプ中の選手は以上。意外にも1組並に少ないのだ。1組は元々才能のある人が多く、スランプの気配を察し、早期に手を打つことができたと考えられる。対する4組はチーム全体が失敗続きであったため、それらから復活のヒントを次々と拾い上げられ、そもそもスランプの気配すらも回避したものと想像できる。

 失敗は成功の母。4組はまさしくそれを体現した集団であろう。

「と、するとやるべきことは単純か」



 リーグ戦を明日に控えた金曜日。ここ最近は宮島がこつ然と部屋から消えているため、以前のように部屋に集まることは珍しくなった。が、今日は練習後~7時くらいまで消えていた程度で、部屋へと戻ってきて秋原にマッサージをしてもらってきている。

「かんぬ~も大変だねぇ。きっと、他のクラスの人に『ボール受けて』って言われてるんだよぉ~」

 と言うのは、他のクラスの投手陣を宮島に引き付けてしまった原因。新本の推測である。

 実際、連続していなくなるのは珍しいが、ちょくちょくいなくなることは前々からあったことである。その時の理由は「鶴見と練習」とか「神部からストーカーを受けた」とかその手の内容であり、特に神部系統はモテる男の自慢話にも聞こえるため、わざわざ聞かないのがユニオンフォース(宮島は除く)における暗黙の了解となっている。

「う~ん、やっぱり久しぶりだからねぇ。疲れたまってるねぇ」

「そう?」

「うん」

 秋原もそこまで聞くくらいで、何をやっていたのか。などと聞くことはない。むしろこの手の話は特に神城・長曽我部の非モテ系男子勢が嫌うため、むしろ話を変えていく方向。

 なお神城について「新本と仲良いし、本当に非モテなのって俺だけだよなぁ」は長曽我部談。

 対して「そんなことないで? 新本はモテるモテんじゃのぉて、ゲーム友達じゃけぇ」と言うのは神城談。

「あ、そう言えば、明日ってオープンスクールって知ってる?」

「へぇ。ここってオープンスクールやってるのか。知らなかったな」

 毎度のごとく心地よさを感じながら、背後から聞こえた彼女の声に返す宮島。

「今年からみたいだけどね。えっとたしか~」

 宮島の背中に乗ったまま、自分のビジネスバッグを引き寄せると、その中からやや厚めの紙を取り出す。

「これがパンフレットだって。マッサージの間、どうせ暇だろうし読んでみたら?」

「どうも~」

 秋原からそれを受け取った宮島は、まずは表紙と裏表紙をチェック。

 表紙には学校を正門から撮ったものや、2年生の試合中の写真が掲載。裏表紙と後から数ページには、いろんな会社の宣伝広告。名の知れ渡っている一部上場企業や、無名な優良企業、地元企業等々幅広い。

「えらく企業広告が多いな」

「土佐野専は一般企業からの援助が多いみたいだからねぇ。詳しくは経営科の人に聞いて」

 マネージメント科所属でお金には詳しくない秋原は、聞かれる前に説明放棄。

 多くの土地・建物・設備や、優れたバックアップ体制を有し、野球をするには十分すぎる環境の整った土佐野専。生徒は非常に高額な入学料・授業料を払っているのだが、それだけでは当然維持しきれない。

 そこで一般企業から『宣伝広告費』としてお金を集めているのだ。さらに特定チームとの関係強化を防ぐため、あくまでも『無償寄付』と言う形で、一部のプロ野球球団、その親会社や関係企業、現役・OB問わずプロの選手などからの資金提供も受けている。それに加えて、夢破れた元球児、教員やプロ野球自体のファンなどの一般の人からも寄付をもらい、さらにさらに、土佐野専情報誌や道具などのネット販売を行って、ようやく維持できている状況なのである。

 そのためパンフレットには企業の広告が載っているし、土佐野専情報誌には、寄付をしてくれた一般の人達の名前や企業も記載。それが宮島の疑問に対する答えである。

「もうそんな新入生とかの時期なんだなぁ」

「まだ入学して4ヶ月半だけどね。それでも6分の1以上は過ぎてるんだけど」

「そうだな。あと2ヶ月もすれば先輩たちのドラフト会議だし」

 一応1年生もドラフト対象であり、指名は禁止されていない。が、1年生は本人が希望し、本人・学校から事前了承を得た上で指名するのが規則となっている。そうした規則はあるものの、ほぼそれはないとみていいだろう。

 宮島はパンフレットの紙をめくって予定表を確認。

「へぇ、試合の一般解放か」

「うん。試合を入学希望者たちに見せるみたいだよ? あまり1年生のところには人が入らないかもしれないけどね」

「そりゃそうか」

 宮島が先に行ったように、2ヶ月後にはドラフトであるこの時期。ネットやテレビではドラフト候補の話もちらほらと出始めるが、それは土佐野専であれば2年生ばかり。鶴見と言う例外もいるが、これは例外中の例外である。そうなるとドラフト候補生である2年生の球場に、入学希望者は殺到することだとう。

「ここぞとばかりに経営科は金儲けしようとしてるみたいだね。4組の経営科は屋台を出すとか言ってたし、となりの3組経営科はそれぞれの球場で売り子をするとか」

「金に目が無い連中だな。あいつら」

 もっとも金に目が無い連中がいてくれるからこそ、プロ野球と言う興業が成立し、何億と言う給料をもらうこともできるわけだが。

「それより、神部さんはどうなったの?」

「知らね」

「知らね。って……あれ以降は放置なの?」

「そりゃあ僕は4組。助けを頼まれれば行くけど、そうでもなければわざわざ飛び込む必要性もないし」

「それはそうだけど……」

 秋原もあまり深くは言う気にはなれない。宮島もこの1週間、不調の長曽我部・友田両先発投手を復活させるため、高川の力も得ながら四苦八苦。それに加えて自分自身の練習もこなさなければならない。そもそも自分の事だけでも誰も文句は言わないのに、投手陣の事も考えて動いている。そこへ他クラスの人も心配しろというのは、どだい無茶な話である。

「ただ」

 宮島はパンフレットを閉じると、机の上に放り出す。

「あいつはあれでも野球に関しては真面目な性格。真面目すぎるのが玉にきずだけど。だから、なんとかなっているんだろうとは思う」

「そっか。かんちゃんがそう言うなら大丈夫なのかな? 後はかんちゃんの問題だけかな?」

「僕? 僕は何も問題はないけど?」

 驚いたように首をひねって彼女の顔を見た彼は、すぐに目線を元に戻して体の力を抜く。

「ふ~ん」

 そう言われては追究もせず。しかし彼女は小さな声で「嘘つき」とつぶやきマッサージに戻る。と、

「何が?」

「独り言」

 宮島はかなり耳がいいのである。



 1年リーグ。2組対3組の試合。

 5―3と2点リードで迎えた8回表。林泯台からマウンドを引き受けた築田は、ヒット、フィルダースチョイス、フォアボールと出塁を許す。ツーアウトながら満塁のピンチである。

 そこで3組の田端監督はマウンドに上がり、築田と一言二言を交わしたのち、背中を叩いてマウンドを降ろさせる。そして球審に選手の交代を告げる。

『1年3組、選手の交代です。ピッチャー、築田に代わりまして神部』

 ツーアウト満塁でバッターは3番の村上。危機的状況での登板と言えば聞こえはいいが、今まで勝利の方程式として投げてきた彼女にとって、ビハインドでの登板は勝利の方程式解任を意味していると言っていいことだろう。

 対する2組。ここ最近、絶不調が続いている神部がマウンドへ。そして迎え撃つのは絶好調の村上。まったく抑え込まれる気などせず、むしろ追加点への確信からベンチのムードも上がってくる。

 彼女が投球練習を開始。球速はいままで通り。何も変わらない。

 2組勢が追加点への確信を強くしていく中で、規定の投球数が終わる。

『3番、ライト、村上』

 巨体と言うよりは恵まれた体型の村上が左バッターボックス。

 どこへ投げても打たれる気しかしない。抑えられる気がしない。

 以前の彼女ならそうした思いしかなかっただろう。だが今の彼女には――

『(まずは、低めに落とすカーブ)』

『(ううん。ごめん。私が投げたいのはそれじゃない)』

『(え?)』

 今まで自己主張のなかった彼女が初めて首を振った。

 そう、今の彼女は負ける気がしなかった。自信があった。

 例え相手が学内トップクラスのバッターであっても。

 続くサインに頷いた神部。セットポジションに入ると足を上げる。

 何の変哲もないフォーム。

 大きなテイクバックから、足を降ろすと同時に腕を振りあげる。

 初球からでも打っていく。そう決めていた村上だが、その彼の目に驚愕の光景が飛び込んできた。

『(なっ。ボールがっ)』

 普通のピッチャーならば、手に握られたボールが見えるはず。

 しかし今の目の前に神部。彼女に握られたボールが見えない。

 完全にタイミングがずらされた。

 そう思った拍子に、彼女の頭の後ろから右手が飛び出す。

「ス、ストライーク」

『119㎞/h』

『(な、なんだよ、今の)』

 村上は一旦打席を外し、つばを飲み込みながらマウンド上の神部に目をやる。

『(気のせいだ、気のせい。もう一度)』

 打席に入り直し2球目。

 彼女の放った投球は、

「ファール、ファール」

『(ま、またっ)』

 急にボールが見えるフォーム。完全に差し込まれ、捉えたのはバットの根元。いくら女子の球とはいえ、耐え切れずにバットが砕け散る。

「村上。珍しいな、お前のタイミングが合わないなんて」

「……あいつの球、消えますよ」

「は? 何言ってるんだ?」

 監督に笑って言われた村上は、真剣な顔で返す。その表情を読みとりながら、なお意味が分からない監督は、真面目な様子で返すが彼はそさくさと打席に戻る。

『(分かっている。分かっているんだ。俺がおかしなことを言っているって。けど――)』

 彼女の頭の後ろにボールが隠れる。そこから、ボールが――

『(見えねぇぇぇぇぇぇぇ)』

「ストライクバッターアウト、チェンジ」

「っしゃああぁぁぁぁぁぁ」

 神部友美完全復活。雄叫びを挙げながら右拳を天に突き上げる。

「ふん、やるじゃねぇの」

 その結果を見て、かなり上から目線で言葉を吐く者が3塁側スタンドにいた。

 2年1組担任・小牧長久

『(リリース寸前までボールの出所が見えない投球フォーム。男子ならばどう考えても負担のかかりそうな投球だが、女子ゆえの柔軟性を生かして強引にクリアしたか。いや、それだけじゃないか)』

 元プロにプロ最有力候補と言われたことから生まれた自信

 それが投球に思い切りを出させた。

『(確かに多くの投手は入学してから浅い間に、教員の指導でフォーム修正はしている。けど、あくまで指導者は男性。女性ゆえの柔軟性を理解した投球フォームに修正したわけじゃない。そこを自分で考えて導き出すとはね)』

 球速こそ130も出ていないが、ボールの出所が見えない投球フォーム。思い切って腕を振ることによる、かなりバッター寄りのリリースポイントに、回転のかかったノビのあるストレート。それらは球速以上の体感速度を与える事だろう。

「この調子なら、向こうも上手くやってるかな? 広川さんが言っちゃったみたいだし」

 試合は完全にノリに乗った3組が逆襲開始。続くイニングに大逆転に成功した。


 2組 5 ― 6 3組

 勝利投手:神部  敗戦投手:深川  セーブ投手:備中



 1組・鶴見と、4組・長曽我部のエース対決。

 事前では絶不調長曽我部に対し、かなり好調の鶴見に分があるかと思われたが、試合はそのように進まなかった。

 150キロ近いストレート。ストレートに近い速度で落ちる縦スラ。

 それだけではない。

 バッターは1組の主砲三村。ホームラン数は3組のバーナードに圧倒的な差を付けられているが、打率は神城に次ぐ2位。そしてリーグ暫定トップの打点王。投の鶴見、打の三村と言うべき非常に優秀なバッターであり、速いだけの長曽我部は敵にならない。はずだった。

 縦スラで初球のストライクを奪われ、2球目は高めの釣り球ストレートを振らされてツーストライク。

 追い込まれた。追い込まれたが、焦ることはない。

 三村は2つに絞る。150弱のストレートか、140弱の縦スラか。いずれにしても速いタイミングで――長曽我部はいつも通りの投球モーションから腕を振り降ろす。

 アウトコースへの投球。ストライクと見た三村は迷わずスイング始動する。が、

『(こ、来ないっ)』

 明らかにタイミングが早すぎた。バットを止めることもできず、振り切った後に宮島のミットへとボールが飛び込んだ。

「ストライクバッターアウトっ」

『122㎞/h』

 新本直伝・スローカーブ。スピードバカの長曽我部がいままで投げようとは思わなかった遅い球に、1組打線は沈黙。これが先週までクオリティスタートを達成できなかった投手とは思えない好投。

 もちろん鶴見も4組打線を零封。なかなか試合が動かない。

 しかし6回の裏。ついに均衡が破れた。

 2アウトランナー無しでバッターは2番の三国。カウント3―1からのストライクを狙った5球目だった。インコースに入ったストレートを、思いっきり引っ張ってライトスタンドへと叩き込む。三国の5号先制ソロホームラン。

 4組がエース・鶴見から先制点。主導権は得た。

 その後は鶴見が後を断ち切るも、こうもなれば後は、4組は継投策に持ち込むのみ。

 7回は新本が4・5・6の強力打線を三者凡退に抑えこむ。普段ならここで宮島も交代だが、小村は体調がすぐれないとの事。よって継続出場。

 8回は塩原が7・8・代打の9番と2イニング連続三者凡退。

 そして1―0で迎えた9回の表。

「隊長。久しぶりの共同戦線だぜ」

「はいはい。任せたぞ。副隊長」

「ふっ、誰に物を言ってんだ。こちとら副隊長だぞ。舐めんなよ?」

「お前こそ誰に生意気な口を叩いているんだ? こっちは隊長だぞ」

「すんませんでしたぁぁぁぁ」

 最近、宮島も扱い方を覚えてきた立川が勝利へのマウンドへ。 

 得意のフォークを武器に1・2を連続凡退。3番に手元が来るってデッドボールを与えてしまうも、続く4番・三村の打席は既にツーストライク。

『(決めるぜ、隊長)』

『(思いっきりやれ、副隊長)』

 大きく足を上げての投球モーション。彼の腕から放たれた投球はど真ん中。

 1年生最強バッターと呼ばれる三村は、ラストはウイニングショットたるフォークであると読んで、さらに低めを打ちに行く。が、

「ストライクバッターアウトっ、ゲームセット」

『136㎞/h』

「ス、ストレート……」

「悪いな。何も武器は使うだけのものじゃない。な、副隊長」

「もちろん。あると警戒させることも立派な武器だぜっ」


 長曽我部輝義 6回3安打無失点

 1組 0 ― 1 4組

 勝利投手:長曽我部  敗戦投手:鶴見  セーブ投手:立川



 さらに翌日。

「ツーアウト2・3塁。そろそろ厳しいでしょうか……」

 ここまで毎回ランナーを許し、苦心しながらも無失点に抑えてきた先発の友田だったが、4回に最大のピンチを招いてしまった。0―0の同点ながらツーアウト2・3塁でバッターは1番の斎藤龍太。昨日こそ長曽我部の前に封じ込まれたが、猛打・1組打線の核弾頭。単純に考えれば無理に勝負すべきでない。

『(宮島くん。ここは敬遠も考えてください。判断はあなたに任せます)』

 広川は次の2番・伊与田で勝負しようと敬遠をあくまでも提案(・・)。すると宮島は胸の後に左肩に触れる。これは対監督へのサイン。内容は――

『(拒否。勝負するつもりですか……ですが任せると言った手前、強制はできません。お任せします)』

 右バッターボックスに入った斎藤。彼の立ち位置を確認し、宮島は友田へとサイン。

 まずはインコースいっぱい。反射的に避けた斎藤の内側から、急激に曲がってストライクゾーンに飛び込むカーブ。

「ストライーク」

 見逃しでワンストライク。

『(よし。まずは1つ目)』

 続くサインに頷く友田。2球目、

「あっ」

「くそっ、読まれたかっ」

 インローへのストレート。最初の打席はインシュートでサードゴロに打ち取っただけに、そこは手を出してこないかと思ったが、ここは果敢にもヒッティングに出られた。痛烈な打球は横っ飛びをしたサード・三満の横を抜ける。

「ファール、ファール」

 わずかに3塁線を割ってファールボール。

『(本当に大丈夫でしょうか。今のも一歩間違えれば2点タイムリーでしたが……)』

 驚いた様子だった宮島に心配する広川だったが、改めて彼を見直すとその心配は吹き飛んだ。たしかに打たれた瞬間は驚いていたが、ファールと分かってからは自信のありそうな様子を見せていた。

『(……任せましょう。ここは彼に)』

 3球目。アウトコースいっぱいに外れるボール球。宮島には珍しいツーストライクから1つ外す、今後に繋がりそうにもない遊び球。さらに4球目も同じコースよりやや高めに1球だけ外す。

『(まさかこの状況で歩かせることはないですよね?)』

 ファールで追い込んだ後の、2球連続のボール球。宮島には珍しいその配球。どう考えても意味のなさそうな無駄球。それこそ相手に球筋を見せるだけの、問題こそあれ勝機のない配球。しかしその瞬間、宮島はマスクの下で微笑む。

『(球筋は見せた(・・・・・・)。ここが勝負だ、友田)』

『(配球は?)』

『(ストレート)』

 初球こそカーブだったが、以降は3球連続のストレート。それも2球目にまともに捉えられ、3・4球目に球筋を見せるような真似をしながら、さらにストレートを指示する。

『(これが――)』

 セットポジションからモーション始動。足を踏み出した友田は、

『(マイ・ウイニングショットっ)』

 スナップを利かせてボールを全力で弾きだした。

 宮島の構えたコースはストライクゾーン高めいっぱい。沈む友田のストレートであれば、ど真ん中に入ってしまう危険なコース。間違っても投げてはいけないところだ。

 もちろん、斎藤はそれを見逃さない。全力でバットを振り抜いた。

「なっ――」

「ストライクバッターアウト、チェンジ」

 バットは空を切り、その『上』を通過したストレートは宮島のミットへ。

「う、浮いた?」

「なぁに、ただのストレートだよ。本当に『ただの』な」

 斎藤は目を丸くして宮島を凝視。しかし宮島は下手なウインクをしながらそう答えただけ。

 バッターの斎藤にしてみれば、浮くように見えたストレート。だが宮島の言う通り、今のストレーとは本当にただのストレート。ではなぜ浮いたのか。それは本当に本当の意味でただのストレートだったからである。

『(ふたを開けてしまえば、友田本来のクセ球が沈むから、普通のストレートが浮いて見えるってだけだもんなぁ)』

 ラストボールは球速も回転数も一般的。しかし球速に対して回転数の少ないクセ球に目が慣れてしまい、そのクセ球を『ストレート』と認識した彼にとって、その本当のストレートは浮いて見えたことだろう。

『(友田のストレートも、伸びるストレートも一緒だよな。どっちも浮くように見えるだけで、どっちも浮いてはないんだからな)』


 友田康平 6回2/3 5安打1失点

 1組 3 ― 2 4組

 勝利投手:大原  敗戦投手:本崎  セーブ投手:鹿島


 対1組戦の今カード対戦成績 1勝1敗

 2連勝こそならなかったが、ここまでなかなかクオリティスタートの達成できなかった、長曽我部・友田の両名は、2人揃ってクオリティスタートを達成。先発投手としての復活を果たし、4組の3位浮上へ向けて勢いを得た。


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