プロローグ
6月の3組戦における初勝利から、引き分けをはさみ7連勝を重ねた1年4組。ついに32試合目。連勝を1組によって止められるが、翌週の対2組戦は1勝1敗でイーブン。
迎えた8月の第1週。そろそろ高校生たちの暑く熱い夏も始まる頃、4組は尻尾を掴みかけた3組と衝突。土曜日の試合は先発投手・河嶋を打ち崩し大勝。
そして日曜日。
「あ、広川さん。お疲れ様です」
試合も終わって職員室に帰ってきた広川へ、先に試合を終えた小牧が気付いた。
「お、長久。2の1はどうだった?」
「おかげさまで、2組相手にサヨナラ勝ちを決めました。1の4はどうですか?」
問いかける小牧だが、彼の目の前のPCには土佐野専のホームページ。他クラスの速報を見ていたようで、楽しそうな笑みからも1年4組の結果は知っていそうである。しかしそこはあえて先輩の威厳とやらで、気付いていないフリをして自らの口から伝える。
「大勝。とは言っても、中盤までは双方譲らない乱打戦。お互いに中継ぎを投入した5回あたりだったかな? 4組の打線が爆発して、一挙6得点。それで突き放して終了」
「最終スコアは?」
知ってるくせに。と言う言葉を飲み込み、続ける。
「12対5」
「はぁ、また豪快に打ち合いましたね」
「本当、また豪快に打ち合ったよ」
広川は言葉を交わすのはその程度にして、自分の席に戻ろうした。
「そうだ、長久」
「はい。 なんですか?」
何やら調べものをしようとしていた小牧だが、ふいに広川に呼ばれて振り向いた。が、広川もその先が詰まってしまう。
「あぁ……その……」
「何かありました?」
「い、いや。今晩、暇なら飲みにでもいかないかって」
「広川さんって飲めましたっけ?」
「……ソフトドリンクで」
「分かりました。いいですよ」
適当にごまかした広川は、今度こそ席に戻ると、自分の教員日誌に今日の試合結果を記録する。そしてここ最近の試合のスコアを眺めながら考える。
『(これは……長久に聞いた方がよかったかな? 一応、ここの教員としては長久の方が先輩ですし……)』
7月第3週
1組 5―6× 4組
1組 8―1 4組
7月第4週
4組 6―9 2組
4組 8―7 2組
8月第1週
3組 7―10 4組
3組 5―12 4組
『(いえ、考えすぎ……でしょうか)』
そして広川は静かに日誌を閉じて元の位置に戻すと、職員室を後にした。




