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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第3章 超女子プロ級投手
26/150

第2話 投手戦?

 2回の表、1年4組の攻撃。

 本職はリリーバーのため、久しぶりにイニングを跨いだ神部。ツーアウトこそ取ったものの、彼女の調子はいまひとつだった。

 4番の佐々木はセンターフライだが、これは高めに浮いたストレートに、力んだ佐々木が打ち損じてしまったため。続く5番の小崎は、会心の一打も運悪くセカンド真正面に飛んだだけ。

 初回はリーディングヒッター・神城、元4番・三国をまともに抑えたナイスピッチングを見せていたが、この回はむしろ結果オーライ。敵に助けられたような感覚が強い。

「この様子だと、神部がつかまるのも近いな。どこかで一気に切り崩して、マウンドから引きずり降ろしたいところだな。ここは本気で、泣かす気で滅多打ちにしたいな」

「かんちゃんって、女の子をいじめて楽しい派?」

「まっとうな選手としての気持ち」

 秋原に素直な返事をして、自らのバットを手にする。

 彼女の泣き顔を見てみたいと言うSっ気のある気持ちが15の男子としてまったくもって無いわけではないが、15の野球少年としての勝ちたいという思いよりは大きくない。そもそも泣き顔に関しては、泣き虫リリーバーの相手を普段からしているだけに、散々見ていて飽きている気持ちもあるわけで。

「おぉぉぉぉ、ヒットぉぉぉぉぉ」

 その女子リリーバーは、6番・原井のヒットを見て、ベンチ内で一番の大騒ぎ。つくづく喜怒哀楽の激しい子である。

 7番の前園が次のバッターボックスへ。ここから下位打線である一方で、神部はつかまりかけている。さしずめ、既に彼女の尻尾を掴んだ状況。あとはこちらのペースに引きずり込んで崩すのみ。

 するとここで前園が、スプリットを拾い上げるように打ってレフト前へ。

『8番、キャッチャー、宮島。背番号27』

 2アウトながらランナー1、2塁。

『(今日の神部はかなり不調。と言うよりは、イニング跨ぐと弱い性質か?)』

 宮島はバッターボックスに右足を踏み入れ、ゆっくりと構えに入りながら相手の分析。

 普段は3組勝利の方程式として仕事をしている事、そして今日の1回はそこそこいい内容であった事を考えるに、もちろんそれだけとは言えないだろうが、イニング跨ぎに理由があると判断するのは不思議な判断ではない。

『(ま、とにかく、今はこのチャンスを生かす事を考えようか)』

 彼女は接戦時にしか登板しないセットアッパーと言う事もあり、宮島との対戦成績はわずか1打席のみ。その唯一の打席も、彼はわざわざ覚えてなどいない。また、この時期は環境への慣れやプレースタイルの変化、成長が一気にくるため、実力が大きく変わりやすい。実質的な初対戦だ。

『(さぁて、どんな球を投げるかな)』

 じっくりボールを見ようと、キャッチャー側に立って構えた宮島。

 マウンド上の神部は、2塁ランナーに目をやった後、バッターボックスの宮島を確認。目を軽く閉じて深呼吸し、ロージンバックに手をやる。

『(これは緊張してるのかな? ピンチだし)』

 初先発で招いた最初のピンチ。投げにくくなるのも当然だ。

 ようやく心が落ち着いたのであろう神部は、今度は目を開けたままで深呼吸して、プレートに足を掛ける。素早いサイン交換が終わると、すぐにセットポジションへ。

『(ようやくか)』

 マウンド上の神部。2塁ランナー・原井に目をやりつつも、それほどリードが大きくないため牽制の素振りは見せない。彼女の左足が小さく上がり、クイックモーションからの初球。

「ボール」

 顔の高さを通過する、はっきりと外れたボール球。肩を軽く回す神部の様子からして、狙ったコースではなくすっぽ抜けだ。

 2球目。

「ボール」

 次はアウトコースに大きく外れるボール球。

『(正直、先発の神部はそれほどレベルが高くない。だとしたら、この試合で勝てないと、勝つべき試合なんてないぞ)』

 このボールからして見ていくよりは、甘い球を逃さない様、積極的に打っていく方がいいであろう。立ち位置をボックスの中央あたりに変えて構えなおし。

 そろそろ勝負しようと思い直した宮島へ、神部の第3球目。

『(アウトコース、やや真ん中寄り。いいコース)』

 2―0とバッティングカウントから放られた絶好球。あきらかに置きに行った球を、逃すまいとスイング。

「ファール」

 打球はバックネットに叩きつけられるファールボール。かなり甘い球だっただけに、打ち損じたのはもったいない。それでもカウントは2―1とボール先行。まだ余裕のあるバッティングカウント。

「ストライーク」

 ところが次はインコース高めのツーシーム。急に放られたそのコースに体勢を崩してしまった宮島は、手を出すことができず、追い込まれてしまう。

『(うっわ。やっば。追い込まれちまった)』

 明らかに彼女はコントロールを乱していた。だが、コントロールを乱しているがゆえに、的を絞ることができない。ほどよく散ってしまっているのだ。

『(こ、この次でっ)』

 フルカウントにすることで、ランエンドヒットがかかるのは避けたいはず。なれば次は勝負をかけてきても不思議ではない。

 次が勝負球だ。意識して気合いを入れる宮島に対して第5球。

「ストライクバッターアウト、チェンジ」

『(ボ、ボール球……)』

 低めに落ちるスプリットで空振り三振。ランナーを返すことはできず、この回は2者残塁で幕を閉じた。

「くっそぉ」

「ドンマイ、ドンマイ。まだ2回」

 ネクストに入っていた友田に励まされつつ、ベンチに戻った宮島。秋原に手を借りて防具を付けつつ、先にマウンドに上がろうとしていた友田を呼び止める。

「友田」

「え?」

「ちょっといいか?」



『2回の裏、3組の攻撃は、4番、レフト、バーナード。背番号16』

 この回の先頭バッターは4番のバーナード。

 ここまで打率はそこまで高くはないが、友田が1年初アーチを記録した翌週に、野手第1号、全選手含めて2号を放つ。さらにその後もホームラン量産体制に入った。

 その結果、打率2割1分ながらホームラン5本という成績。続くホームラン数2位が、2本で1年1組主砲の三村(みむら)東輝(とうき)。以下3位で1本の1組の竹中(たけなか)小松(こまつ)伊与田(いよだ)、2組の村上・大谷、3組の笠原、磯田、4組の友田・佐々木、そしてランニングホームランを記録した神城と並ぶ。こうしてみれば、圧倒的なのがよく分かる。

『(友田。話した通り。こいつはここで打ち取れる。変化球はいらない)』

 左バッターに入ったバーナードに対し、宮島は中腰でミットを構える。

 初球。友田がモーションに入ると、バーナードは担いでいたバットを腰のあたりまで一気に降ろす。そして投げ出されたボールに合わせ、バットを下から振り上げるようにスイング。

「ストライーク」

 ダウンスイング信仰が強い日本野球、革新的意見を持つ土佐野専でもレベルスイングが一般的。しかし彼のスイングはそのどちらでもない、重度のアッパースイング。

『(正直、アッパーなら高めで抑えられる)』

 宮島のリード通り、アッパースイングの致命的な弱点として、高めに弱い事が挙げられる。ところが、ピッチャーにとって高めに投げるのは簡単ではない。なにせ今まで散々「低めに集めろ」「高め厳禁」と言われて育ってきた。「高めは長打がある」と言った野球の常識だって存在する中、ただでさえスラッガーのバッターに、自ら高めを狙って投げるなど勇気がいることこの上ないのだ。

『(間違っても低めはNOだ。昨日もコントロールミスで、長曽我部の146キロがスタンドに叩き込まれたからな)』

 抑えた実績があるとは言っても、サインを出す宮島にも高めの要求は怖い。何よりも『低めに投げてはいけない』と言う、普段とは違う意識が恐怖を際立たせる。

 ロージンに手をやってからの2球目。

『(バ、バカっ)』

 恐怖に負けたコントロールミス。低めいっぱいのストレート。これをバーナードはすくい上げるように引っ叩く。

 ファースト・神城、セカンド・原井は飛び跳ねるように振り返るも、ライトの三国は腕組みしたまま微動だにせず。

「ファール、ファール」

 ライトポールをかすめるようにスタンドへ飛び込む大ファール。

『(っぶねぇ。せっかく相手の神部は調子を崩してる。その状況で、向こうに1点をやって主導権をやるのはおいしくない。そりゃあ、奪われた主導権は奪い返せばいいだけかもしれないけど)』

 あまりよろしくない経緯ではあったが、追い込んだバッテリー。俄然優位に立ったこの状況で、高めの釣り球で空振り三振を狙いたかったが、

「ボール」

 よほどさきほどの一発に委縮したか、友田の3球目は中腰の宮島の遥か上。高く伸ばしたミットにかすりさえせずバックネットに叩きつけられる。

「楽に、楽に」

 新たなボールを投げ渡しつつ顔を歪める。

『(つくづくこいつ、嫌なバッターだよな。ただでさえウチの学校は高め厳禁なハイレベル打線なのに、その中で逆に低め厳禁なんだから。ピッチャーが慣れないって)』

 弱点がハッキリしているからこそ、それだけ抑えられる時は抑えられる。一方で投手は機械ではない。その弱点を恐怖に負けずに突けるかは別の話だ。

『(もう一丁。高め)』

 サインを送った宮島は、再び中腰で高めにミットを構える。

 第4球。

 狙ったコースに放った友田。ところが彼のストレートはバッター手元でお辞儀した。

「うわっ。やべっ。センターぁぁぁぁ」

 高めが弱点のバッターに対し、沈むストレートを操る友田は相性が悪い。弱点のコースを狙ったはずが、もちろん4球連続で山を張られていたのもあるが、真芯で捉えられてセンターへの痛烈な打球。あわやセンターオーバーかと思われたが、元々後退シフトを敷いて守っていた外野陣。少し後ろに下がっただけで、すぐに捕球体勢へ。少し待つ余裕のあるほどで、難なく打球を処理。

「あぁ、こえぇぇぇぇ」

 センターフライに一安心。

『(だけど、怖いのはここまでだ。1~4番はいつもの上位打線だけど、5番以降は普段の控えメンバー。大した敵じゃない)』

 宮島は確信をもってネクストバッターサークルへ目をやる。

 続く5番はセカンドの仁科(にしな)。いつもは代打の切り札として起用されている、クリーンアップを打てる打撃力を有する攻撃型セカンドだ。問題はセカンドとしては守備力に難があることだろうか。だがその仁科も外のカーブを泳がせてセカンド真正面のゴロ。

 危なさも垣間見せつつ、しかし一見すれば危なげはなく、ツーアウトを取ったところで、バッターはキャッチャーの和田部(わたべ)。リード力などを含め、キャッチャーとしての能力に疑問符は付くが、攻撃力に優れるバッターだ。

『(……あれ? たしかに守備力は劣化してるけど、この打線、強くね?)』

 今更だが宮島は気付き、先ほどの確信は崩れる。レギュラーだから怖くないと思っていたが、今日の5・6番は、守備に難があるだけの選手。打撃力はレギュラー以上である。

 カウント3―1からの5球目。ストライクを欲して甘く入ったシュート。これをセンター・小崎の後方に運ばれる。ボールはフェンスにワンバウンドで直撃。このクッションボールを処理した小崎が、1、2歩程度の助走で3塁までワンバウンドの低球道送球。元投手らしい強肩を見せつけ、バッターの進塁を2塁までで食い止める。

『(スタンディングダブル。やられたか)』

 3―1と言うカウント。宮島は潔く歩かせても仕方ないと、コーナーを突くサインを出した。が、それに友田が負けた。フォアボールを恐れた結果、甘く入って痛打だ。

『(しゃあない。次を切ろう)』

 しかしそこも含めてリードできないのは自分の責任だ。

『7番、レフト、山県。背番号6』

 幸いにも次の7番は女子選手。一発は無いと見ていいだろう。

 外野手は前進守備。ポテンヒット阻止および1点を防ぐ構えだ。

『(このシフトならまず1点はないはず。どうしようか……)』

 初球はまずカーブを要求。友田は了承してからの初球。

「ボール」

 アウトコースに外れるボール球。

『(う~ん。今のとってほしかったなぁ。ってのは無理かな?)』

 際どいコースではなかったが、もしかしたらとってくれるか? と言う心もあった投球。ストライクを取ってくれなかったのは、特に誤算ではない。

『(次あたり、ストライク取ろうか)』

 低めにストレート。

 淡々と出すサインに、友田は軽い気持ちで頷く。

『(これで、ワンストライ――おっと?)』

 ストライクを狙った2球目。ファーストストライクを、バッターの山県は引っ叩く。打球はハーフライナーでファースト・神城の横を抜ける。さらにセカンド・原井が回り込んで捕球するも、1塁には投げられない。神城は打球処理のために1塁を離れてしまい、さらに友田のカバーリングが遅れたことで、1塁がらあき。そこそこ足の速い山県は1塁を駆け抜けた。

「やっちまったぁ」

 彼女は早打ちタイプだったようだ。もう少し慎重に攻めた方がよかったかと思いながらも、宮島は心の中ではかなりの安堵。

『8番、サード、大関(おおぜき)。背番号3』

 次の大関は宮島データベースによると、内外野すべてをこなすオールラウンダー。守備に定評がある選手。その一方で、打撃力には難があるとのこと。要するに後半の守備固めの選手である。

『(バッティング能力なら7番の山県の方が上だろうな。だったらここは、積極的に攻めていていいだろう。危なければ歩かせればいい。どうせ次はピッチャーだ)』

 油断はしない。あくまでも厳しいコースを突いていく方針だ。

 初球のサインはアウトコース低めへのストレート。ランナーが3塁にいる状況で低めは通常、怖いことこの上ないが、受ける宮島には捕れると言う自信が、投げる友田には捕ってくれると言う信頼がある。このバッテリーに怖さなどなかった。

「ストライーク」

 アウトコース低めいっぱいにストライク。大関はバントの構えを一瞬見せてから引く。

『(揺さぶりかな? でも、セーフティもないではないか。このバッターなら)』

 ただ、セーフティしたところで成功率はたかがしれているし、3塁ランナーのスタートは、どうせバントしてから。それならホームで殺せる。仮に突っ込んでこなくても、そこは満塁策と割り切ればいい。

『(勝負、しようか。ボール球で)』

 無理はしない。先ほどと同じコース。球種はカーブを要求。

 セットポジションに入った友田。彼の2球目――

『(ランナー、動いた)』

 宮島は視界の右端で、スタートを切った1塁ランナーを確認。友田の投球はアウトコース低めいっぱいのカーブ。それを受けた宮島は、送球動作に入りながら3塁ランナーを確認。

『(ノースタート。2塁で殺す)』

 ボールをリリースする。その直前。

『(走ったっ)』

 今度は視界の左端で確認。だが送球は高い。マウンド上の友田はカットできないだろう。

「原井っ」

「あいよっ」

 ダブルスチールを想定していた原井。2塁ベースカバーに入った前園の前に割り込み、宮島からの2塁送球をカット。しゃがんだ友田の上を通すようにバックホーム。

『(1点、やらせっかよ)』

 送球を受けながら、滑り込んでくるランナーを左足でブロック。その上でランナーをタッチする。

「アウトっ。チェンジ」

 3塁ランナーの足は、宮島のブロックに阻まれてホームに届かず。ダブルスチール失敗。

『(おぉぉ、ドキッとした。内心、ブロック早かったかって、思ったけど)』

 走塁妨害を取られるかも。と思っていた宮島だったが、球審の判定はアウト。走塁妨害は取られず。

「怖かったぁ。ついに1点取られるかと思ったなぁ」

「そうじゃなぁ。まさかあそこでホームスチールとは、いや、打順を考えれば不可思議な判断でもないじゃろうけど」

「ふふふ。俺を呼んだかな?」

 宮島と神城が話していると、なぜか話に介入してくる三国。

「「なんだ貴様」」

「あれは暑い夏の出来事だった。大阪北部エリア中学野球大会。両投手好投し、0対0のまま迎えた9回の裏だった」

「何の話なん? どうせ、どうでいい話じゃろぉ」

「え? 俺が新本からサヨナラのホームスチールを決めたって言う武勇伝」

 言ってしまえば三国は、サヨナラホームスチールの武勇伝を、ここぞとばかりに語りたかったようである。もちろん、そんな話にまったく興味のない宮島と神城は、無理やりにその流れを断ちきってやる。

「さぁ、神城。追加点挙げようぜ」

「先頭は友田じゃけぇ、どうじゃろ? ピッチャーに出塁を期待してもなんじゃし、僕がなんとかして出にゃいけんなぁ」

「お、おれの武勇伝……」

「「黙ってろ」」



 先頭の友田はホームランを狙って全球フルスイングも空振り三振。1番に戻って神城がライト前ヒットを放ち、三国はサードゴロも、これがゲッツーを狙ったサードによりフィダースチョイス。先制点の機運が高まるも、その空気を読まない鳥居がセカンドゲッツー。

 2イニング連続のチャンスも無得点に終わる。

 逆に3回の裏、1年3組の攻撃。先ほど盗塁失敗でイニング終了だったため、この回の先頭は8番の大関から。フィルダースチョイスの失敗を償いたい彼であっただろうが、友田―宮島バッテリーの前に空振り三振。

 1アウトランナー無し。先頭バッターが倒れたこのタイミングで、打順はピッチャーへ。

『9番、ピッチャー、神部。背番号48』

 見てからに明らかな不調であったため、交替も考えられたこの場面。だが代打は送られずに神部がそのままバッターボックスへ。

「お願いします」

 彼女はボックスに入る前。球審と宮島の方を向き、わざわざヘルメットを外して一礼。むさ苦しい男集団の中で、オアシスのように思える可愛げのある顔を見せてから、ヘルメットを被りなおして足を踏み入れる。

『(礼儀正しい奴だなぁ)』

 秋原で慣れているとはいえ、近くで見た女の子らしい彼女の顔に、心拍数が上がりそうになった宮島。すぐに別のことを考えて心を落ち着かせた。

『(さて。右投げ左打ち、か。どう攻めようかな。神部はここまで打席は無し、のはず)』

 ピッチャーで右投げ左打ちは、野手に比べれば珍しいタイプだ。と言うのも、左打ちの場合、相手ピッチャーに自身の利き腕である右腕を向ける事になる。つまりデッドボールで利き腕を負傷する可能性が高くなる。そのため右投げ左打ちの投手と言えば、その多くがリリーバーとなるだろう。実際に彼女もここまでリリーバーであり、試合での打席は無い。

『(練習で打ってはいるかもしれないけど、本物にはついてこれないだろうな。デッドボールにだけ気を付けて、真ん中より外側で勝負しよう)』

 アウトコースやや真ん中寄り。かなり甘いコースにストレートを要求する。

 その初球。

「ストライーク」

 アウトコース低めへのストレート。神部の見送り方から言って、ボールの速さについていけている印象はない。

『(ストレート押しで大丈夫だろうけど、ついでにここで変化球の様子を見ておく?)』

 低めに沈めるカーブのサインを出してみる。が、ここは首を振る。あくまでも希望はストレートのようである。

「ストライーク、ツー」

『(球速表示は127キロ。さっきより少しはマシとは言え、今のを振り遅れるなんて、本当に慣れてないのかな?)』

 例えリリーバーでも、普段使わない筋肉のトレーニングや、気分転換を兼ねてバッティング練習をすることは珍しくはない。4組で言えば新本はセーフティバントが上手く、立川は投手にしては柔軟なバットコントロールを見せる。しかし神部はバットに当たらない以前に、タイミングそのものが合っていない。

『(友田に変化球の練習をする気はないみたいだし、だったら遊ぶ必要性なんてないか。無駄球を放らせる必要もない)』

 ストレートのサインを出した後、構えるコースはど真ん中。モーションに入る友田。神部に向けての3球目。

『(くっ)』

 放られた投球はもちろんストレート。しかしコースはかなり低い球。ホームベース奥でショートバウンド。その球を相変わらずの振り遅れの神部。彼女はハッとして振り返ったが、そんな彼女の左腕に宮島がタッチ。

「ストライクスリー――バッターアウト」

 空振りしてスリーストライク。ショートバウンドを受けた宮島が、神部をタッチして振り逃げ不成立。

 彼女は驚いた顔で宮島へと問いかける。

「えっと、今のはストレートですか?」

「今のだけじゃなくて、全部ストレートだけど? 球速もほぼ一緒」

「え? 全部?」

「全部」

 神部は諦めたように首をかしげながらベンチに歩いて引き上げていく。

『(一応、全部ストレート(・・・・・・・)だけど、神部には別に見えたのかな?)』

 友田のストレートはクセ球だ。だからこそ、彼のストレートが別の球に見えるのはありうることだが、特定のストレートだけが別の球に見えることはないはずである。なにより横変化があれば、宮島が最もよく分かるはず。

 ところが宮島は思い違えていた。

『(全部ほぼ一緒の球速(・・・・・・・・・)? そんなことないと思うけど……最後だけ異様に速かったよね?)』

 彼女は全部ほぼ一緒の球速であることに驚いた。1、2球目でタイミングをしっかり計り、3球目はベストタイミングで振ったはず。なのにはっきりと振り遅れた。

『(ううん。気にしちゃダメ。私の仕事はピッチングだから。バッティングなんてあくまでもオマケ。どうせノビとかそんなところ)』


野球漫画と言えばホームランですよね

ですが、個人的にはホームランよりも、

好守備や好走塁の方が見ていて盛り上がります

そこをうまく描写できれば、

ホームラン押しではない、珍しい野球創作(小説・漫画)として面白くできそうなんですけど……難しいですよね

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