プロローグ
女子だって野球がしたい
そんな思いから、女人禁制の日本野球に革命の風が吹き荒れる。
1年前。
大阪北部エリア中学野球大会決勝。
「ストライクバッターアウト。チェンジ」
6回の表。打席に入った、4番でエースの三国が空振り三振。ツーアウト1・2塁のチャンスが潰える
全国を賭けたこの試合は、負ければ引退試合。絶対にここで負けられない。
両校野球部の最高学年の意地がぶつかり合うこの場面。
こっちも負けられないそう思いを込めた三国はマウンドへ。
そして次のイニングの先頭バッター、自分を三振に切って取った相手チームのエースを睨む。
『1番、ピッチャー、新本さん』
広島県中学野球大会3回戦。
崩れたエースに代わり、4回戦進出を掛けてマウンドに上がった神城淳一。
本当なら延長8回なんて来ることはなかった。だが、1人の女子にしてやられた。前進守備の外野の間を抜かれ、走者一掃のランニングホームラン。
『(絶対に、今度は打たれんけぇのぉ)』
『3番、ショート、白鳥さん』
神城のヒットを度々防いでいる名ショート。しかも打っては彼からホームラン。因縁の勝負が始まる。
福岡県中学野球大会2回戦。
「ファール」
両チームの女子選手が激突。
エースの小浜と、女子らしからぬ巨漢を有する榛原。ここまで5球連続ファール。女子レベルとはいえ、力と力のぶつかり合い。しかしそれはレベルの低いものではない。周りが雰囲気にのみ込まれてしまうほどの真剣勝負だ。
埼玉県南部エリア中学野球大会1回戦
エリア最強捕手・宮島健一有する打線相手にここまで0を並べてきた女子エース・山県。しかし、本気を出した彼の相手ではなかった。
痛烈な打球はレフトポール直撃。金属バットに軟式であるとはいえ、中学生離れした飛距離。
宮島の一撃で沈む。
「でも……危なかった。もし一歩間違えれば僕らが負けてたな」
女子を禁ずる甲子園。だからこそ彼女らは甲子園を捨てた。
そして新たに目指した甲子園。プロ野球選手としてあの舞台を目指したのだ。
この5人はその翌年、設立されたばかりの土佐野球専門学校に女子枠として入学する。
そしてもう1人。結局、登板は練習試合のみ、公式戦での登板は一度もなかった女子投手。彼女は土佐野球専門学校に、女子枠で入学することはなかった。
そう、一般枠での入学であった。




