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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
最終章 プロへの登竜門
144/150

第6話 繋がる打線よ、希望へ続け

『9回の裏。2年3組、選手の交代です』

 3組リードで迎えた最終回。代打の柴田がそのままキャッチャー。代走の上島に代わり5番に入ったのはクローザーの三崎。

「2点差で三崎。しかも打順は下位か」

 ベンチに戻った宮島はプロテクターやレガースを外して攻撃の準備。

「明菜。これ、頼んだ」

「は~い。ところでかんちゃん?」

「ん?」

 ひとまず防具を秋原に任せ、エルボーガードや打撃用レガースを付けようとしていたところで呼び止められる。

「まだ、勝負は分からないよ」

 先ほどのやや弱気そうな発言を聞かれていたか。秋原から強く鼓舞されるが、しばらく無言のままで準備。そしてヘルメットを深くかぶりながら口を開く。

「きっと追いついてくる」

 その一言だけで彼の意気込みは十分だった。彼はまだ試合をあきらめていない。

 4組は弱小チームである。だからこそ劣勢の試合は数多くあった。そしてそこからひっくり返した試合も数多くあった。2組や3組はおろか、最強クラスの1組から。それどころか、アマチュア最強左腕・鶴見を打ち砕いたこともある。

 ならば2点差ごとき、そして三崎程度に勝負を投げることはない。

『(ただ問題は広川さんか)』

 2点を追う展開。前園・小崎・佐々木と言った打撃力の高い選手もまだ数多くベンチに控えている。打率1割台で長打力も決して優れているとは言えない宮島は、代打が送られてしまう可能性も非常に高い。

『(代打陣(あいつら)はいないか)』

 そしてベンチを見回してみるが、その代打候補たちは不在。今頃ベンチ裏で素振りなどをして代打に出る準備を整えているところだろう。

『9回の裏。2年4組の攻撃は、6番、セカンド、横川』

 ただ先頭の横川はそのまま打席に送られる。そして7番の寺本もそのままネクストバッターサークルへ。彼らも宮島ほどではないが打撃の得意な選手ではない。それでもそのまま打席に送ったということは、宮島にも希望はあるのかもしれない。

「……」

 それとなく広川の横に陣取る。もしも代打ならばその場で「宮島くん。お疲れ様でした。代打を送ります」とでも言ってくれるであろう。が、

「横川くん。余計なことを考えず、思うとおりのバッティングをしてきなさい」

 彼に気付いないのか、それとも気付いていながら無視しているのか。打席の横川へと大きな声援を送る。

『(広川さん、マジでノーチェンジですか?)』

 目線を送ってみるが反応はなし。

「ボール、ツー」

「その調子です。楽にいきましょう」

 初球の変化球こそ力んで空振りした横川も、2球目と3球目はともにきわどいコースを見切ってツーボール。さらに4球目。ストライクを欲して甘く入ったコースを、横川は華麗に流し打ち。打球は一二塁間を割ってノーアウトランナー1塁。

「よぉぉぉし。ナイスバッティングですよ」

 右手を軽く上げてガッツポーズの横川に、広川も右手を軽く上げて応える。ただそれもほどほどに声援の向かう先は次打者の寺本へ。

「さぁ、寺本くん。2点差ですし、ランナーを進めようなんて小さいことを考えてはいけません。細かいことなんて気にせず打ってきなさい」

 帽子のつばに手をやって了解を示した彼は、ゆっくりと左バッターボックスへ。

『(広川さん。いいんですか? ネクスト、入っちゃいますよ?)』

 それに代わってネクストに入る宮島は、相変わらず広川の様子を伺う。そもそもネクストにまで入れるということは打席に立たせる意思があるということ。場合によっては代打を偽装させるために小細工することもあるが、そのことを前もって伝えるくらいするだろう。

『(ということは……いいんですね。広川さん)』

 宮島はサークル内においてあったスプレーをバットのグリップに吹き付け、感触を確かめるように素振りを数回。慣れてきてはいるが、百数十キロにもなるスピードボールを続けて受けていたは、9回ともなると握力がなくなってくるものである。

『(つくづくあの西園寺(ゴリラ)はすげぇよな。試合後でも握力あるもんな)』

 そう考えると2組が誇る。いや、土佐野専が誇る打撃型捕手・西園寺の凄さが分かる。宮島も試合後に西園寺と本気で手を握ってもらったことがあるのだが、自分の手が潰されるかというような握力をしていたとか。

『(それに松島も。女子でこんなのをやってるとか普通じゃない……まぁ、他にも普通じゃないやつもいるけど)』

 そして可愛いお弟子さんキャッチャーと、『打てば豪打、投げれば快投。静かにしていりゃ百合の花』な某K氏を思い浮かべる。ついでに『投げればこだま、走ればのぞみ。しかし名前は新本ひかり』な彼女も普通ではないだろう。

『(でも、あいつらも頑張ってんだ。僕もなんとかしないと)』

 打撃の得意ではない横川も、甘い球を逃さずにヒットを放った。そして次打者も打撃の苦手な寺本だが、彼は彼なりにきわどいコースを神城ばりの連続カット。外れるボール球はしっかり見逃して3―2(フルカウント)に。

『(……)』

 そのバッティングを見ていた広川は迷わずサインを送った。

『(了解)』

『(や、やることはやってみます)』

 横川・寺本も了承。

『(きっと今日の寺本くんなら大丈夫……信じています)』

 マウンドの三崎は1球だけ1塁に牽制を入れると、次はクイックモーションで投球開始。と、ランナーは2塁へとスタートを切る。

「ファール」

 インコース高めへのストレート。これを詰まりながらもファールで逃げる。もちろん横川は1塁へと戻る。

『(お疲れかと思いますが横川くん。分かっていますね?)』

 その横川に再度サインを出すと、彼は寺本を一瞥。

『(はい。寺本、頼むな)』

『(期待が重い……)』

 ストライクになる球は寺本が必ず打つ。そう信じて出した指示はランエンドヒット。バッテリーもそれは分かっているが、外せばフォアボールのためピッチドアウトはできない。

 追い込まれながらもファールで粘ってきたため、かれこれもう9球目。

 今度も三崎の投球開始と同時に横川は2塁へとスタート。そんなランナーに目もくれず、三崎の投じた投球はアウトコース低め。

『(低いっ)』

 寺本は自信を持って見逃し。柴田は見逃し三振の可能性を考慮し、迷わず2塁に送球するが、送球到達よりも先に球審がコール。

「ボールフォアボール」

 下位打線の6番から始まった9回裏。相手は3組の守護神。

 しかし……しかし……

「繋がった」

 希望は繋がった。3組の希望はまだ叶わない。そして4組の希望はまだ終わらない。

「広川さん……」

「ノーアウト1・2塁。確実に同点ならばバントですが……そんな野球、楽しくないでしょう」

 微笑む広川は分かりやすく『ヒッティング』のサイン。が、宮島は浮かない表情で問いかける。

「このまま行ってもいいんですか? 僕が監督なら間違いなく代打ですよ?」

 2点差でノーアウト1・2塁。千載一遇の大チャンス。控えに宮島以上の選手がいることからしても、ここは代打を出してもいいところであろうが。

「あなたが監督ならそうでしょうが、私が監督ならばこうなんです。さっさと勝負を決めてきなさい。一発が出ればサヨナラです」

「はい」

 現・4組の歴史は敗北に次ぐ敗北から始まった。2桁失点&無得点なんてザラ。後半戦どころか中盤戦、時には序盤で勝負が決まることがあったくらいだ。

 しかしあれから約1年半……

『(ホームランでサヨナラ――)』

 宮島の立つ舞台は勝負をひっくり返せる大チャンス。まだ他クラスよりも弱く、安定して勝つことはできない。だが連戦連敗ではない。少なくとも好き勝手されることはなく、同じ舞台で戦えている。

『(この打席が、僕の集大成)』

 右打席の宮島。彼を迎え撃つは3組クローザー・三崎。

『(いざ勝負)』

 サイン交換後にセットポジションに入った三崎。2塁ランナー・横川を確認してすぐに投球。

「ストライーク」

 インコースへのストレート。

『(いきなり甘いコースに入れてきた。インに張ってりゃ同点。ホームランでサヨナラだったな)』

 ホームランコースへの甘い投球であった。果たしてコントロールミスか。それとも宮島の読み打ち相手だけに開き直ったか。

『(ホームランでサヨナラ……か)』

 心中で発した一言を繰り返す。

『(そりゃあ、それができればいいけど――)』

 2球目はアウトコースへの変化球。それを宮島は、

『(そんなん柄じゃねぇんだわ。僕のな)』

 鶴見からサヨナラツーランを打ったやつが何を言って――もとい思っているのか。

 流し打ち。打球は右翼線を割るファールボール。

『(インコースのストレート。それで一発サヨナラに欲を出させる気か知らんが、そんなんで沸騰するほどヤワな頭してねぇ)』

 曰く冷静な宮島。一旦打席を外して守備体系を確認。

『(外野は前進。二遊間はゲッツーシフトだけど、ファースト・サードはやや前進気味か)』

 宮島の得意とする奇襲(バント)を警戒する形。そうなるとここは力でこの守備体系を破るしかない。

『(適当に投球を張って――)』

 一切相手の配球を読まない適当な張り打ちで待ち構える。だからこそリード巧者たる1組・竹中ですらも宮島相手は苦心するのだが、それゆえに完全なギャンブルでもある。もっともこうした読み合いのある混合戦略型ゲームにおいて、最善手は『完全ランダム』であるとゲーム理論において証明されている。そうした背景を考えるに、ある意味では宮島の策は的を射ていると言えるだろう。彼がそこまで知っているかどうかは定かではないが。

 3球目。

『(――来た。アウトコース低め)』

 待っていた投球に宮島はバットを出す。しかしここで守り手にしても宮島にしても予想外の事態が起きる。

「まずっ」

 投球がわずかにシュート回転。手元で変化する球に宮島は打ち損じてしまう。打球は高々と舞い上がりピッチャー上空。

 マスクを取って空を見上げた球審は両手を上げる。

「インフィールドフライ」

 際どい打球でもないためイフフェアのコールもない。風もないため打球が流されるとは考えがたい。つまり実質的なアウトコール。

「マジかよ」

 宮島はその打球から目を切り、走るのもやめてベンチへと帰る。

 その間にピッチャーはマウンドから回避し、ファーストに打球処理を任せる。フライはファーストがしっかりマウンド上で捕球し、インフィールドフライ成立。

『(ポイントゲッターの宮島くんなら何かやってくれると思いましたが……そう簡単ではないですね)』

 打率3割のバッターでも裏を返せば7割はヒットを打てないのである。それに相手は3組のクローザー。得点圏打率の高い宮島であっても難しいところであった。

「タイム。代打、大川」

 そこで広川は期待を込めて一発のある大川を代打に送る。

「大川。繋ぎぃよぉ。繋げばなんとかしちゃるけぇ」

「ただで倒れるもんか」

 ネクスト・神城からの声援に応えて左打席に踏み込んだ代打・大川。

 今季4本の本塁打を記録しているバッターだけに、ホームランの期待も十分にできる。

「くそっ。打てず、かよ」

 宮島はややイラつきつつバットをケースに戻す。その彼に励ましの声を掛けようとした秋原だが、すぐに思いとどまる。彼はベンチに戻ってくるなり捕手用レガースを足につけ始めたのである。

『(まだ、かんちゃんは諦めてない。10回表を見据えてる)』

 その行動は『逆転(サヨナラ)できない』可能性を示唆しているとも言えるが、少なくとも『同点にはできる』と見ているとも考えられる。しかし、

『(頼む。大川、神城。ここで試合を決めてくれ)』

 彼は同点も、その先の逆転(サヨナラ)も信じている。あくまでも準備をしているのは準備でしかないのである。

「ストライク、ツー」

 初球、レフトへのファール。2球目がインハイに外れ、3球目はアウトコースの変化球を空振り。大川が追い込まれた。

 あと1球。

 三崎のセットポジションからの4球目。

「うぐっ」

 インコースへ飛び込むストレート。逆のコースに張っていたのであろう大川は詰まらされてしまったようで、バットが根元から真っ二つ。さらにはあろうことか打球はピッチャー正面へと飛んでしまう。

 しかしバットが砕けたゆえの不規則な回転がイレギュラーバウンドを生み、ピッチャー・三崎のグローブを弾く。

「セカン、ボール2つ」

 ただそれで今度は打球がセカンド正面へ。捕球したセカンドは2塁へとグラブトス。

 足の速い寺本ですら2塁到達は間に合わない。2塁で1塁ランナーは封殺。受けたショートは1塁へと転送。

「おぉぉぉぉ、間に合えぇぇぇぇぇ」

 ここでアウトになれば試合は終わってしまう。だがアウトにならなければ神城に打席が回る。彼にさえ打席が回れば。

 大川は鈍足なりの全力疾走で1塁へ駆ける。

 コンマ数秒を争うワンプレーの結果は――

「セ、セーフ」

 間一髪、なんとかセーフ。

 しかし広川は渋い顔。

『(ツーアウト1・3塁ですか……)』

 大川の激走でダブルプレーのゲームセットは防いだが、追い込まれた形にはなった。

「ではここで切り札を。タイム、1塁ランナー、代走に新本」

 大川に代えて新本が1塁ランナー。神城・寺本らとトップを争う快足娘に同点を託す。

『1番、ファースト、神城』

 そしてここでバッターは、2年連続の首位打者は手堅い神城。あまり長打力のあるバッターではないが、その優れたバットコントロールで外野の間を抜かれればどうなるか分からない。

 バッターには神城。1塁には俊足の新本。

 いくらあとアウト1つで試合終了とは言え、このメンバーならば盗塁もありうる。それを刺そうと2塁に放れば、横川がホームに突っ込んでくるし、小回りの利く新本にはランダウンプレーで逃げ切られる可能性もある。かといって刺さなければ、リーディングヒッター神城相手に一打同点の機会をみすみす作ることに。

 3組守備陣としては守りにくいことこの上ない。

『(新本走るんじゃろぉか?)』

 既にツーアウトであることからして、ここで盗塁を仕掛けてくるかどうかは怪しいところである。しかしながら2・3塁にするメリットは神城の打者としてのタイプからして大きく、彼女の足の速さ自体は彼も知るところ。

『(ま、走ろうと、走らなかろうと関係ないじゃろぉのぉ)』

 走っていても打てる球は打ちにいく。打てなければ単独スチールだし、打てばランエンドヒット。別に困ることは何もない。

『(ただ……新本。外野抜いたら一気に帰ってけぇよ。餓島輸送作戦並みの機動作戦、成功させてみせぇや)』

 3塁にランナーを置いた三崎は、視界にランナーが入っただけによりピンチを意識する。しかしこれで彼が動揺するわけもない。

「ストライーク」

 むしろピンチを意識したことで、絶対に打たせないと気合いが入る。

『(おぅおぅ、気合い入っとるのぉ)』

 神城は一旦打席を外してマウンドへと目をやる。

『(けど、こっちは9回ツーアウト。背水の陣引いての大勝負じゃ。呉市街地を背にして奮闘した軍艦の如し。金剛は1回に沈んだけど、榛名はまだ生きとるで)』

 こちらも気合いを入れつつ打席に入りなおす。

「ストライク、ツー」

 インハイへのストレート。神城のバットが空を切る。

「神城のタイミングが合わない、か」

 宮島は無駄に相手に献上した自分のワンアウトを思い出し悔やむ。

 やはりピンチにおける三崎は普段の彼とは何段階もレベルが違うようだ。1組の三村、2組の大谷・村上、4組の神城はそれぞれ2年生屈指の打撃センスを持つ。彼らをもって攻略できない投手はよほどのものである。

 本当に追い込まれてしまった。

『(まだ、まだあとストライク1つ。この1つをやるほど僕は甘くないで?)』

 その神城の心中の一言は何も苦し紛れの一言ではない。

「ファール」

 ボール球を1球挟み、4球目の低めに沈める変化球。それを紙一重でバットに当ててファールで逃げる。明らかにストレートに張っていたタイミングにも関わらず、急に投じられた変化球へ対応してバットに当てる。さすがのバットコントロールである。

「時に広川さん。こんなタイミングで聞くのもなんですけど」

「はい、こんなタイミングで聞かれるのもどうかと思いましたけどなんですか?」

「なんでこんな化け物が4組に?」

 宮島も1年以上持ち続けた疑問である。神城ならばもっと上位クラスで大成しそうなものであるが……

「守備型のファーストは上位クラスだと使い道が……」

「なるほど。超納得」

 1組・三村、2組・石山、3組・笠原、各クラスのファーストはいずれも打撃型である。さらに4組・大川も含めて控えもまたしかりであり、神城のタイプは珍しく、使い方に困って他ポジションにコンバートするつもりで『成長株』として4組に送られたようである。

「ただ、並みのファーストより勝利に貢献できているようで」

「守備型って言っても首位打者ですし、ねぇ?」

 強打タイプではない。というくらいである。

 と、その直後。

『(高めの抜け球。絶好球)』

 神城のバットが一閃。

「よっしゃ、主砲直撃ぃぃぃぃ」

 会心の打球はセンターへ高々と舞い上がる。

 センターはバック。

「「「抜けろ、抜けろっ」」」

 同点への希望を乗せた打球は――

「「「抜けたぁぁぁぁ」」」

 センターの頭上を越した。

「1点差ぁぁ」

 ツーアウトとあってスタートを切っていた横川は悠々ホームイン。さらに1塁ランナー・新本も勢いよく2塁を蹴る。

「ボールバック。1塁ランナー突っ込んでくるぞ」

 キャッチャーの柴田はバックホームの指示。彼女の足ならば外野オーバーで十分に1塁からホームを突けようが、思いのほか打球が転がらなかったのもあって微妙なタイミング。

『(3塁ランナーコーチ、桜田くん。あなたは……どうしますか?)』

 新本に突入か停止か指示を出さなければならない。

 3塁コーチ・桜田の判断は、

「Go‼」

 新本にホーム突入指示。彼女もそれを信じて3塁を蹴る。

「馬鹿。暴走だっ」

「戻れ、新本っ」

 しかしベンチから見る限りでは無謀なタイミング。1回に俊足・神城がホーム憤死しているだけに、慎重になっているベンチの選手は声を上げる。だがしかし、

『(いや、これは桜田さんの好判断だ)』

『(新本ならば十分にいけるじゃろぉ。東京急行トウキョウエクスプレス、見せてみぃや)』

『(これはいける。2年間の経験に賭けて、これはいける)』

 宮島・神城・桜田はセーフになると判断した。

「急げ、バックホーム」

 柴田の切羽詰まる声に中継のショートがバックホーム。

 新本はホームへと果敢に突入。柴田の足下にあるホームベースに足から滑り込む。

「させない」

 送球を受けた柴田はしっかり左脚でホームをブロック。新本の突入を阻止してタッチした。その場で新本は自分の足がホームに届いていないこと、タッチされたことからアウトを確信。項垂れるが、対して柴田は自らのプレーにハッとする。

 彼――島田球審は宮島との約束通り、そのルールを適用した。

走塁妨害(オブストラクション)。ホームイン」

 そう。プロ野球における来シーズンからのルール変更に備え、土佐野専で最近導入された新ルール。ブロックの禁止。柴田は経験から反射的にそれを使ってしまったのだ。それはつまり、

「「「同点」」」

 新本による同点のホームインに4組ベンチは湧き上がる。

「ナイバッチ~、シロロ~ン」

「言うたじゃろぉ。巡洋戦艦は伊達じゃないで。平成の金剛型・神城爆誕」

 ホームから声を掛ける新本に、神城は天を突き上げてガッツポーズ。

『(ふぅ。危ない危ない。まったく、桜田くんも大したばくち打ちですね)』

 攻めの走塁を援護した3塁コーチ・桜田の判断に感心しつつも呆れる広川。しかし桜田にしてみれば、

『(今のプレー。ブロックが無ければ生還。あっても走塁妨害。彼女ならどっちにせよ生還できる。読み通りかな?)』

 1回に神城を憤死させたものの、それでも躊躇せず自らの判断を信じた事が実った。

 2点のリードから一転して試合は振り出し。さらにツーアウトながら2塁に俊足の神城を置いてサヨナラのチャンス。

「さて。タイム。代打、小崎」

 しかもここで本日控えスタートの小崎を投入。

「にいもっちゃん、ナイラン」

「いぇ~い」

「あとは任せて」

「あとは任せる~」

 小崎は新本とハイタッチして打席へ。

 そして新本もベンチに入るなり、広川監督を筆頭にチームメイトタッチとハイタッチの嵐。何人かにはハイタッチと称して頭を叩かれているが、

「ふにゃぁ」

「生きてるか? 新本」

「生きてる」

 頭を痛そうにしているが、なんとか生きているようで。

 直後に響く快音。カウント1―0から放った小崎の打球は、一二塁間を破ってライト前へ。新本に行けて神城に行けないわけがないと、桜田はホーム突入指示。神城もいけると判断したようで、ノンストップでサヨナラのホームを狙う。

「そういえばかんぬ~」

 宮島は額を抑えながらため息。

「金剛型って、終戦を寸前にして全部沈没したんだよね」

「大した大艦巨砲主義だこと」

 神城淳一 終戦(サヨナラ)を前に本日二回目の本塁憤死

 試合は延長戦へ


いわゆる『コリジョンルール』の適用が発生しました

※作中では単に走塁妨害オブストラクションと呼んでいます

どうせなのでその件について


自分は前々より明らかなセーフがブロックでアウトになることに

大きな違和感がありました

そのため今年から採用されたこのルールを素晴らしくは思ったわけですが、

……いや、分かるよ? 中途半端に取ったらルールの意味がないもん。

でもさ、ちょっと極端すぎやしませんか?

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