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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
最終章 プロへの登竜門
140/150

第2話 趣味が欲しいなぁ・・・いや、ゲームは遠慮しとく

 学内リーグ戦最終カード第1試合。

 3組を相手取ったこの試合。


1番 ショート 前園

2番 センター 小崎

3番 ファースト 大川

4番 レフト 佐々木

5番 ライト 大野

6番 キャッチャー 小村

7番 サード 三満

8番 セカンド 富山

9番 ピッチャー 友田


ここ10試合に限れば打率3割台、ホームランも2本放っている前園が1番。外野の要・センターを守るのは小崎で、4番がいつものように佐々木。そして先発投手は友田。

純粋に主力級とは言い難いものの、対して控え級とも言えないオーダーではある。

「これは最終カードだからって、特別なことはしないってことかな?」

「じゃろぉ。特別なことをするにしても中途半端じゃけぇのぉ」

 本日は控えスタートとなった宮島・神城の両名もそのオーダーを目にしつつ感想を漏らす。

 有終の美を飾る目的なら、前園らは最終戦での先発となるだろう。だが、そうしないということは、あまり最終戦にはこだわらないということか。

「高川くん? どうしたの?」

 試合開始前の準備を整えていたマネージメント科。そこでバックスクリーンの先発オーダーをみつめる高川に、秋原はスポーツドリンクを手に首をかしげる。

「なぁ、秋原。今、過去の試合データって持ってる?」

「いつの?」

「去シーズン」

「あると思うけど?」

 制服の内ポケットに手を入れ、分厚い手帳を開く。するとそこにはUSBメモリが1つ。それを高川に向けて放り投げると、彼はそれをキャッチして自分のタブレットに突き刺す。

「えっと確か……あれは4月だったか」

 4組のものだけでも100試合を超えるデータの中から、特定の1試合のデータを見つけ出す。

 そして見つけたある試合のオーダー。それを見た途端、高川は気づく。

「ふっ。さすが先生。粋なことするじゃないの」

「どういう意味?」

「昨シーズン4月。第7試合」

 高川は回答と同時にUSBメモリを返した。

「明日は面白い試合になりそうだぜ、秋原」



 本日は1回から試合が動き始める。

 友田が初回を三者凡退に抑えての続く1回裏。先頭の前園がレフトポールに当てる先頭打者本塁打で先制点をたたき出す。これで優位に立った4組は以降も優勢な試合運びを見せる。

 ただそれだけいい試合展開を見せていた4組が唯一起こした困難は9回の表。

 友田の好投もあって5―2と4組3点のリードで既にワンアウト。しかもマウンドには立川の上に打順は下位打線。もう負ける理由がないくらいである。

 なお、7番に向けて1―1からの3球目。

 ど真ん中に入った甘い変化球をきれいに弾き返される。そのよりによって真芯に当たったボールは思いのほか上がらず、ゴロにもならず。痛烈なライナーとなってピッチャー返し。

「ぐはっ」

 それを見事に腹で止めた立川。打球をマウンドに落としながらその場に倒れこむ。

「た、立川っ」

 笑いごとじゃないプレーに宮島はボールも気にせずマウンドに駆け寄りそうになる。ところが、

「くっ」

 左手のグローブで腹を押さえながら、右手で近くに落ちていたボールをわしづかみ。無造作に放り投げるようにして1塁へと送球。大きく逸れてしまうも、守備固めで途中出場の神城が塁を離れて捕球。踏みに戻ってアウト成立である。

「タイム。立川くん、大丈夫ですか?」

 しかしそのようなことどうでもいいのである。広川はそんな判定などより先に、タイムをかけてベンチから飛び出す。

「立川っ」

 そして宮島、さらに内野陣もマウンドへ。

 するとマウンドにしゃがみ込んでいた立川は、足を震わせながら立ち上がると、右手で口元を拭う。

「くっ、肋骨が2、3本もってかれたか……」

「「「あっ、大丈夫だ。これ」」」

 肋骨2、3本もってかれたと聞いて、内野陣は一安心である。というのも折れていてこんな冗談が言えるとは思えないわけで、そもそもそんなアニメのよくあるセリフを吐けるということはいつも通りであることの何よりの証拠だ。

「どうしましょうか? 立川くんは大丈夫でしょうが……」

「いえ、ボス。肋骨が2、3本――」

「シャラップ」

「黙ってろ」

「本当に折っちゃろうか?」

 監督、キャプテン、野手キャプテンからの同時牽制に黙り込む投手キャプテン。

「無理せず検査に回した方がいいでしょう」

「でも、次のピッチャーは用意しているんで?」

「あいにく……」

 宮島の鋭い指摘にあまりよくない返事の広川。緊急事態とあれば投球練習ももらえるだろうし、今からリリーフを準備するのも一手ではある。だが、たかだか1アウトのためにわざわざピッチャーを準備するべきか。

「あとアウト1つなら、野手を上げますか?」

「誰を上げるつもりですか?」

前園(これ)新本(あれ)ですかね?」

 目の前にいるショートと、遠くにいるライトを指さす宮島。野手のほとんどが中学時代に投手経験はあるわけだが、中でも緊急用投手として使えるのは最近まで投手だった新本。もしくは投手でも一流になれるといわれた前園くらい。

「じゃあ、俺がやる。たまにはピッチャーやりたい」

「だ、そうですよ。監督」

 前園の立候補&宮島の後押しに広川もため息交じり。

「わかりました。野手をマウンドなんて前代未聞ですが、まぁいいでしょう。審判。選手交代」

 広川が審判に選手交代を宣告。

 ショート・前園がピッチャー、セカンド・原井がショート、セカンドに横川。野手の登板というなかなかに珍しい光景に、3組のメンバーも苦笑いである。

「で、前園。サインは?」

「久しぶりだし任せる。球種は覚えてっか?」

「ストレート、カーブ、フォーク」

「と、スライダーな」

「了解。ただ、あまり慣れない球を投げて壊れても困るし、ストレートと変化球1つくらいにしようぜ」

「ならストレートとスライダーで」

「じゃあ、サインはグーがストレート。パーはスライダーくらいでいいな」

「ヘイ」

 ひとまずサインの打ち合わせも終了である。

 それからストレート・スライダーの質を確認する目的の軽い投球練習を済ませて、さっさと本番へ向かう。ストレートの球速は130中盤。スライダーもそこそこは曲がる。この時期の投手としては心もとないが、急造投手としては十分すぎる。

『(さ~て、前園。久しぶりのマウンドだけど、気分はどうかな?)』

 前園が最後に登板したのは去年の梅雨頃、野手転向するわずかに前である。1年半のブランクはどのようなものか。

最初はストレートでどうかと探りを入れてみると、すんなりと首を縦に振る。

『(それじゃ、まずはアウトコースに入れようか)』

 プレートに両足をかけて立った前園。左足を引いてワインドアップをすると、久しいとは思えないきれないモーションを見せる。そして高く上げた足を前に踏み込む。

「んっ」

 歯を食いしばりながら右腕を振り下ろした。

久しぶりのマウンドからの一投は、

『(⁉)』

 やや高めに浮いたストレート。それでもストライクゾーンを通っており、捕球の上手い宮島ならば間違いなく捕れる球だったはずだった。しかし、

「み、宮島くんが?」

 バックネット前で転々としたボールに驚く広川。

「なんなん。今の球」

「ちょっと待て。すげぇ速ぇぇぞ。なんだ、あれ」

 ファースト・神城は振り返り、キャッチャー・宮島はそのまま顔を上げてバックスクリーンに目をやる。

『149㎞/h』

「長曽我部級ってなんなん」「輝義級だと?」

 土佐野専で一番の速球派と言えば、MAX155キロの長曽我部輝義(3組)。そんな彼に迫るストレートを、1年半ぶりのマウンドで記録したのである。

「悪ぃな、久しぶりでコントロールが……」

 野手とは思えない投球に、球審から新しいボールをもらいながらも動揺する宮島。一方の神城だが驚きはしたものの、納得はできる感じである。

『(ファーストで送球受けとったけぇわかるけど、前園のボールはほかのヤツと違うけぇのぉ。野手であの球投げられるんじゃけぇ、投手じゃったら同然かもしれんのぉ)』

 なにせ前園は膝を突いた状況や、打球を捕った直後など、不安定な体勢から上体や腕だけで矢のような送球を放る内野手である。それが何者にも邪魔されず、常にベストなフォームで投球できるマウンドから投じればどうなるか。そんなもの論ずるまでもない。

「3組に移籍した長曽我部くんも含め、ウチはなぜか肩だけは強い選手が多かったんですよね……肩だけは」


 長曽我部 ← ノーコン&ストレート一本槍の速球馬鹿

 前園 ← ノーコン

 小崎 ← ノーコン

 天川 ← ノーコン(肩が強すぎて暴投多数)


「本当に……どうしてウチのメンバーは……」

 それを指導する広川や、現場で悩まされ続けた宮島(キャッチャー)神城(ファースト)は大変であった。

『(た、頼むぞ、前園。速いボールや、多少の暴投は捕ってやる。けど、大暴投はどうにもなんねぇぞ)』

 いくら宮島でも頭上1メートルといった暴投は捕球できないのである。

「ス、ストライーク」

『148㎞/h』

 次の球は逆球も、ひとまずストライクゾーンに入ってくれた。

『(こ、この、ノーコン野郎。なんでマウンドに立つとこんなノーコンになるんだよ)』

 投手投げ、野手投げの違いはあるが、割と野手時もノーコンである。それでエラーが少ないのは、ファースト・神城やセカンド・原井のおかげでもある。

 つまるところがこの前園、ノーコンは昔から変わってないのである。

『(ひぃぃぃぃぃ)』

『(ちょっ、あぶなっ)』

「ボ、ボール」

 ノーコン速球王とは長曽我部よりたちが悪い。ストレートですらあんな感じなのに、変化球はもっとコントロールできるわけがない。バッターの足元を狙う暴投に、宮島もバッターも振り回されっぱなしである。

それでもなんやかんや言ってカウントは1―2.

あと1球まですんなりと追い込んでいるのである。

『(こいつ、割と投手としていけそうな気がするけどなぁ。コントロールを良くすればなっ)』

 投手をやめたのは1年以上前である。それだけのブランクがあってこれだけ投げられるということは、彼の持ちうるポテンシャルはかなりのものである。

『(最後はストレートで決めるか?)』

『(はいよ)』

 宮島のサインに首を振ることはなく、もちろん一発了承で投球。アウトコース低めに構えられたミットにめがけて投球。逆球とはいわずとも甘く入ったストレートにバッターはきれいにピッチャー返し。なかなかに痛烈なものであったが、

「ヘイ!!」


 前園が元気よくキャッチした――素手で


「……ピッチャーにむかねぇな。こいつ」

 ピッチャーにとっては生命線でもある利き手ベアハンドで痛烈なピッチャーライナーを捕ってしまうのである。それも彼の能力を考えるに、別にグローブで捕れない打球ではない。わざわざ素手で捕るあたり、並外れた守備力を持ちながら、守備が原因でピッチャーができないのも納得である。

「ア、アウト、ゲームセット」

 しかしながらこのピッチャーライナーでスリーアウトチェンジ。

勝利投手:友田 セーブ投手:前園

 この試合は非常に面白い結末に終わる。何より4組初勝利の前に野手転向を果たした前園にしてみれば、初となる勝ち試合での登板でありまた初セーブでもある。

「こ、怖い終わり方でしたね。怪我が怖くないんでしょうか。それとも野球人としての条件反射でしょうか……」

 宮島だけではなく、広川も前園のベアハンドキャッチにあきれ顔。しかしその一方で満足気な表情も垣間見える。

『(ですが、最終戦に向けていいアプローチです。それではみなさん、明日は有終の美を飾りましょう)』

 彼は視線を落として左手にある紙を見つめる。

『(君たちだって成長しています。その成果、見せてください)』

 本日の試合のメンバー表。そこでも注視しているのはスタメンではなく控えメンバーであった。



 学内リーグ最終戦を明日に備えた夜。

 最終学年の最終戦であるため、これは本当の意味で最終戦である。

 しかし宮島の部屋において。

「10時の方向。目標、連合軍空母機動部隊。距離730(ナナサンマル)発射()ぇぇぇ」

「連合艦隊・新本五十六、了解。射撃管制システム作動。距離730(ナナサンマル)。大和、陸奥、撃ち~方~始めぇっ」

 こちらはもっと熱い戦いを繰り広げていた。

 神城と新本はわざわざ宮島の部屋に自慢のハイスペックノートPCを持ちこみ、マルチプレーでミッドウェー海戦中である。さらに2人の頭にはヘッドセットが付けられており、それでやりとりする徹底っぷり。実際、2人だけでやるならばわざわざそんなものを付ける必要がないのだが……

「立川司令。3時の方向に連合軍空母エンタープライズ以下数隻を視認。対応を頼む」

『立川了解。敵艦隊見ゆ。戦艦・霧島、攻撃開始。続いて赤城・加賀より艦載機発艦っ』

「ミッドウェー諸島より航空機多数離陸確認。南雲司令、空母急襲に注意されたし」

『了解。蒼龍・飛龍より零式戦闘機発艦。榛名、対空戦用意』

 立川が自室からインターネット回線を用いて参戦ということで、室内に設置したスピーカーから彼の声が漏れる。さらに、

「三国司令。立川司令の援護および、可能ならばミッドウェー諸島への艦砲射撃を狙え。新本連合艦隊は、神城第二艦隊が支援する」

『了解した。健闘を祈る』

「五十六司令。援護する。愛宕、鳥海は右舷より回り込み攻撃。金剛、比叡はその場より攻撃開始。距離810(ハチヒトマル)発射()ぇぇぇ」

 三国まで参戦。先日はあまりに神城・新本の声がうるさく、怒り心頭で宮島の部屋に乗り込んできたわけだが、その際にしれっとゲームを布教され、気付いた時には仲間入りである。

「はへぇ。みんな、凄いですね。私もあんなドハマりできる趣味が欲しいです」

「そうだなぁ……これでどうだろ?」

「じゃあ、銀成りで」

 趣味が欲しいと言っている神部の横で、宮島は秋原と将棋で一勝負。もっともこの2人では実力に差がありすぎるため、秋原側は『飛車角桂香6枚落ち』のハンデを背負って対局。しかし彼女の手駒の薄さから油断し守りを怠った宮島。彼の甘い守りを突いて左翼を崩され、なかなか厳しい盤面となっている。

「じゃったら、神部も宮島と一緒に将棋やったらどうなん?」

「暇つぶしにはいいですけど、あまりガッツリやりこむ趣味ではないですね」

「僕もそうだな。暇つぶしにはちょうどいいけど、はまるような趣味では、王手」

「はい、同金」

 やはり劣性である。

「そうなんか。まぁ合わんのは仕方ないのぉ。一緒にゲームでもする? パソコンあれば最大8人までできるで?」

「やめとく。ついでに趣味は否定しないが、家に帰ってやれって言いたいな。僕の部屋はいつから海軍の司令本部になった?」

「大淀だね」

 皮肉を言ったつもりが新本にとっては皮肉ではなかったようで。

「宮島も海軍司令長官になったんじゃなぁ。今度、一緒に海軍の聖地、呉に帰るかのぉ?」

「大淀……呉……ふっ、やっぱり沈んでるし」

 軍艦の沈んだ場所が簡単に思い出せる女子がいるらしい。

「たまには神城の故郷に行ってみるのも面白そうだが、そっちの世界に立ち入るのはやめておこう。自分は自分の趣味を適当に見つける」

「頑張りぃや。そういやぁ宮島って以前、家庭菜園しとったじゃろぉ。きゅうり、どこいったん?」

 いつぞや趣味がてらベランダでやっていたきゅうり栽培。神城は振り返って窓からベランダを見てみるが、プランターにはもう何もない。

「1週間くらい前に30センチくらいのきゅうりができたから、もう取っちまったぞ。王手」

「今は私の部屋できゅうりのお漬物にしてるんだよね。はい、同玉」

 次々と繰り出す王手をあっさり弾かれる。王のはや逃げ八手の得というが、とにかく秋原は逃げの判断が早いのである。そのため攻め時を逃がすこともあるが、一方で彼女の王将はなかなか捕まらないのである。

「じゃあ、これで終わりね。はい、打ち歩で王手」

「打ち歩詰めは反則。な、神城」

「それは宮島の言うとおりじゃなぁ。でも――」

「打ち歩で詰ませちゃだめだけど、打ち歩で王手はOKなんだよね」

「くっ、じゃあ、こっちに逃がして……」

「はい、飛車成りで王手」

「負けました」

 中盤にて飛車を取られたのが痛かった。その奪われた飛車を上手く使われて投了である。

「時に神城くん。立川くんの怪我はどうだったの?」

 秋原から質問を受けた神城は、艦の操舵をしながらマイクを押さえる。

「大淀司令部より立川へ。司令部参謀より質問。本日の怪我はどうだったか」

「誰が司令部参謀?」

「宇垣明菜かな?」

 秋原の痛烈なツッコみに、新本はやはりマニアックな返し。

『立川より司令部。肋骨が2、3本折れていたであります』

「立川より入電。異常なし」

「「「なるほど」」」

 怪我はなかったらしく幸いである。

「それにしても、みんな、最後の試合前なのに落ち着いてるよね」

「まぁ、焦っても仕方ないしな」

「そうですね」

 勝とうが負けようが最後の試合ではあるが、彼ら彼女らにしてみれば数多くあるリーグ戦の試合のたった1つである。記念すべきものや、順位がかかったものはともかく、そうでなければ1つ1つに特別な思い入れがあるわけでもない。

「なんだか、私もみんなみたいなドッシリしてる感じが欲しいなぁ」

「あきにゃんもドッシリしてきたと思うよ~」

「神城くん、これ、絞めていい?」

「できればゲームの後にしてぇや。今やっとるの、めっちゃレベル高い――」

『やばっ。米艦載機により、赤城、榛名、利根、長良が被弾。内、赤城、榛名が大破沈没』

「何しょぉんなっ」「タッツ~の下手くそぉ」『突出するからだぞっ』

「う、うん。分かった。絞めるのは後にするね」

 今すぐ絞めてもいいのだが、あとで神城・新本・立川・三国の連合軍から総叩きにされる可能性があるためそこは回避。もっとも彼女であれば4人同時に相手しながらも、しれっとねじ伏せてしまいそうだが。

「どういう意味だ? 明菜がドッシリって」

 そしてこちらは気付いていない宮島。

「いや、分からなくていいから。忘れて」

「忘れてって言われると気にな……あぁ。体重」

 分かったもよう。

「ち、違うっ。4キロくらいなら増えた内に入らな、あっ」

「「「あっ」」」

 神城や新本の手も一瞬止まる。


『〈緊急速報〉 秋原明菜 年度初めの身体測定から4キロ太る』


 秋原はその場に手を突いて項垂れる。

「だ、大丈夫ですよ、秋原さん。私もその、8キロくらい増えましたから」

「成長でしょ。神部さんにしてみれば成長なんでしょ、それっ」

「えっと……はい」


『〈追加速報〉神部友美 体重 72.1kg から 80.6kg へ増加(成長)』


 触らぬ神にたたりなしと判断した神部。引き続き落ち込んでいる秋原は放っておき、隣の身宮島に話を振る。

「宮島さんはどうなんですか?」

「1週間前で良ければ、83キロだったかな?」

「あれ? 思いのほか軽いんですね」

「もっと重いと思った?」

「はい。私よりも線が太いので、てっきり90近くはあるかと」

 たしかに胴体は宮島の方が明らかに太い。にも関わらず体重は神部とそれほど差はない。

「そ、そりゃあ、筋肉量の問題だろうな。ハッハッハ」

「なるほど。たしかに男子と女子だと筋肉量は違いますからね」

 さりげなくごまかした宮島だが、宮島が軽いわけではなく神部が普通よりもやや重いというのが正しい。その原因は主に胸部である。

「でも、そろそろ適正体重でしょうか? あまり体重を増やしすぎるのも問題でしょうし……」

「ピッチャーの適正体重は知らないな」

 一応、年頃の男子と女子であるわけだが、自分の体重で盛り上がるとは普通とは違うと思っても仕方がない。

『くっ。このままだと空母艦隊がっ』

『耐えろ、立川。伊勢型、扶桑型を援護に回す』

「魔の7時23分はもう起こさせんけぇのぉ。面舵回頭90度。第一航空艦隊援護に向け、全速前進」

「みんなの背中はこの新本五十六が守るっ。この大和。抜けると思うなぁ、れんご~ぐん」

 そしてPCを前にミリタリー方面で熱く盛り上がっている彼らwith彼女も大概である。

「私にしてみれば本当に不思議だよ。なぜ新本さん達があんなに熱くなれるかもだけど、どうして神部さんは体重に対してそんなポジティブなの?」

「そう言われましても、野球をする上で重いのはメリットですから。実際に打球の飛距離も伸びていますし。それに、秋原さんはそれほど太っているようには見えませんよ?」

「神部さんに聞いたのが間違いだった」

 神部は普通の女子ではないのである。

「けど明菜。分からないぞ。この学校の外の女子と関わらないから分からないだけで、実は女子って神部(こんなの)新本(あんなの)が普通なのかもしれないぞ」

「えぇ~、あっ、でも確かに私、よくよく考えたら他の女子を知らない――」

 と、新本に目を向ける秋原。

「シロローン。こっちきついぃぃぃぃ」

「もうちょい、あと5分粘れば、鈴谷型二隻が援護にいける。新本司令、指示そのまま」

「ヨーソロー。信太郎さん、川内で回り込んで敵艦右舷を攻撃っ」

 ミッドウェー海戦激化。

「……やっぱりない。絶対にない。こんな女子他にいないから、絶対。って、信太郎って誰?」

「2組の竹田か? あいつって、フルネーム、竹田信太郎じゃなかったっけ? あいつも巻き込んだのか?」

 宮島の記憶は惜しいところ。2組の正セカンドは『竹田信次郎』である。

 なお信太郎さんこと橋本信太郎は海軍軍人のこと。その名前がサラッとでてくる高校2年生相当の女子がいるらしい。

「な、なんだか、いろいろ凄いですね。もう、普通の女子じゃないですね、新本さん」

「お前が言うな」「神部さんはそれを言えない」

 130キロ近いストレートを放り、高校野球日本代表打線を無失点に抑える女子がいるらしい。

 と、その時、宮島の部屋のインターホンが鳴る。

「なんか嫌な予感が……」

 宮島は秋原を制して自ら出迎えに。いったい誰かと思いつつ恐る恐るドアを開けてみると、そこにいたのは斜め下の部屋に住んでいる小崎。

「宮島の部屋、うるさい」

「うん。自覚してる。悪かった」

「何をやってるの?」

 宮島と小崎が話す間にも部屋の中から聞こえる複数人の声。小崎は気になるように覗き込むが、

「いや、見ない方がいい。悪いことは言わないから帰った方がいい」

「でも気にな――」

「帰った方がいいって。本当に悪いことは言わないから」

「僕、知的好奇心が強くて……」

「イタリアでは好奇心は猫をも殺すと言うらしくてな」

 イギリスのことわざである。

「人だからOK――」

 と、その小崎の存在に神城と新本が気付いてしまった。その結果、

「「オイデ~、オイデ~」」

「うわっ。怖っ」

「ひえぇっ。なんか変なの出たよ」

 妖怪『神城・新本』(コッチオイデ)出現

 なお、小崎がレイテ沖海戦に参戦したのはまた後の事である。


さて、ひとまずGWでの投稿はこれくらいにする……かも

データ消失(日下田の記憶的な意味で)から

これだけ復旧できただけでも大戦果だと思いますよ(自画自賛)



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