プロローグ
高校野球日本代表に勝利した土佐野球専門学校はさらなる注目を集めることに。プロスカウトもさらに増え始め、それにつれて生徒たちのモチベーションも上がり始める。
『9番、キャッチャー、宮島』
学内リーグ戦 1組 VS 4組
1点を追う9回の裏。内野安打で出塁した8番・新本を1塁に置いて、バッターは守備から途中出場中の宮島。
もちろんのこと1組のマウンドにはクローザー・鶴見。
受けるキャッチャーは竹中であり、相手も万全の構えであるが……
「どうよ、竹中。最後の最後でピンチって言うのは」
「まったくだ。あの俊足娘を1塁に出すなんてついてねぇ」
マスクの下で苦言を呈しながら1塁へ目をやる竹中。
新本ひかりはチーム内で神城に次ぐ俊足である。そして以外に盗塁がうまい。
そんな彼女は本日、この強肩・竹中相手に盗塁を決めているのである。
「打者が僕な件は?」
「打率1割台相手で助かった」
「新本が2塁に行けば得点圏。その得点圏での打率は3割」
「この前の試合で3割を切ったろ?」
宮島と違い膨大なデータを頭に叩き込み、それを生かして投手を引っ張っていく捕手主導リード・竹中。さすが、相手のデータは事細かに把握しているようである。
煽り合いもほどほどに宮島は右バッターボックスへ。
「ストライーク」
初球。高めに甘く浮いた抜け球は見逃しストライク。
『(まったく、今の球に手を出さないなんてかえって怖いよ)』
普通のバッターなら待ってましたとばかりに強打する球である。その球に手を出してこなかったのは鶴見としては助かった気分だが、一方でそれだけ自分の待ち球に忠実ということ。万が一にその待ち球を放ってしまってはどうなるか怖い限りである。
『(次は……うん。分かった。その球なら――)』
大きなリードを取る新本を目で牽制。クイックモーションから第2球。
右バッターの宮島にとって、インコースへのボール球。左腕から放たれるその投球は、角度のあるクロスファイア。ここから鋭くストライクゾーンに食い込んでくる投球は、三村・大谷ら土佐野専トップクラスの打者でも対応の難しいレベルのフロントドア。
ところが、
『(鶴見ならいつかここを放ってくると思った。どんなに厳しいコースでも――)』
『(しまったっ)』
宮島のバットが始動した瞬間、鶴見は走馬灯のように時間が止まった気がした。
彼のスイングしたバットは、鋭く食い込むリカットボールを真芯で捉える。それも体の正面で捌くベストタイミング。
『(――ストライクゾーンを通過するなら打てない球じゃないっ)』
鶴見は振り返らず、マウンド上で大きくため息。
『(今年初敗北。まさか健一君にやられちゃうとは)』
『(うわぁ。打率1割に読まれた)』
宮島に投球を読まれて逆転サヨナラツーランホームラン。今年初めてのセーブ失敗である。
「それにしても、あのフロントドアを簡単にスタンドまで運ぶとは。あの読み打ちは本当に怖いよ。例え打率1割台だとしても……いや、1割台だからこそ打たれた時のショックが大きいな」
1組 1 ― 2× 4組
勝利投手:藤山 敗戦投手:鶴見
各々の思惑は違えど、それぞれの目指すべき舞台に向けて激戦は続く。
大多数の生徒にとっての運命の日・ドラフト会議はもうすぐである。
最終章:プロローグ 先行投稿です
先行投稿の経緯は活動報告にてお知らせしたとおり、
日下田の脳内にあったプロットデータを消失したため、
事実上のプロットの練り直しとなったためです
もうしばらくお待ちくだされ




