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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第12章 全員野球で突破せよ
135/150

第10話 元親&神主

 8回の裏の攻撃は、7番・坂谷の一発で大和打線らしい大艦巨砲主義的な方法で追加点。13対1と12点差に開き、前園の空振り三振を挟んで次は宮島。第一打席となった6回の裏は一度も振ることなく見逃し三振となっているが果たして。

「ストライーク」

 初球はアウトコースのボール球。もちろん見逃しワンボールから、2球目はインコースの甘いコースにストレート。これも見逃しストライク。ここまでまったく打ち気らしい打ち気を見せてはいない。

 その消極的さたるや、中継放送中のテレビやネットで総叩きされそうなほどである。もっともそれでも土佐野専は宮島を交代させることはできない。西園寺は負傷退場。竹中も途中交代であり、残るはいつのまにやら臨時捕手として練習だけはしていた神城のみである。

『(くそっ。もう勝利を確信したってことかよ)』

 いくら木製バットへの慣れ・連携不足と言う点でアドバンテージを許しているとはいえ、13対1と散々たる途中経過をみせてしまっている高校野球日本代表。チームを率いるキャッチャー・天神はその打ち気の無い宮島に苛立ちを隠せない。この点差でも必死に食らいつこうとしている自分たちに対して、彼らは適当にこなしているようにも見えるからだ。

 それでもこの状況。もらえるアウトはもらいたい。天神は次なるサインを送ってミットを構える。

 マウンド上の左腕はワインドアップモーションから3球目。

『(高めに浮いた。けど、こいつの打ち気は――)』

 アウトコース高めの抜け球。しかし宮島に打ち気はない。安心する天神。だがしかし、

『(ついに来たぜ、読み球っ)』

 宮島の今日初めてのスイングは、アウトコース高めの抜け球を一閃。真芯で捉えられ、そしてジャストタイミングで弾き返したそのボールは、定位置を守っていたライトの頭を悠々と越えていく。そして――

「あいよ。読み打ち成功、毎度ありぃ」

 右手を突き上げる。甲子園球場の逆風を切り裂くライトスタンドへのホームラン。本日チーム7本目のホームランでさらなる追加点を得る。日本代表のナインも愕然。上位打線やレギュラーにホームランを打たれるならまだしも、守備固めのキャッチャーに逆風の中、流し打ちでライトスタンドに叩き込まれたのである。

「やった、やった。そうだ、あれやるよ。せぇ~の」

 そして新本を筆頭に湧き上がる1塁側スタンドは、

「「「宮島さんの神主が~おみくじ引いて申すには~」」」

「甲子園でもそのネタ引っ張るのかよ」

 毎度の応援歌に、宮島は2塁を回りながら吐き捨てた。

 その後の8回の裏の土佐野専の攻撃は、宮島の一発に沈んだピッチャー・浜雪(はまゆき)が後続の勢いを抑えきれず。先頭へと戻って大谷にはレフトオーバーのツーベースを、続く神城に本日4安打目となるタイムリーヒットを許してさらに1失点。

 点差を大きく開いて最終回へ。

『9回の表。土佐野球専門学校、選手の交代です。ピッチャー、鹿島に代わりまして長曽我部輝義。背番号22』

 クローザーの予定だった鶴見が前倒し登板となったため、至急の起用法変更。他のピッチャーは予定通りの登板を行ったため、予備(ワンポイント)として控えていた長曽我部が最終回のマウンドへと上がる。そして彼を出迎えるのは、約1年ぶりのバッテリーとなる宮島。

「輝義。クローザーの予定はなかったけどいけるか?」

「余裕。甲子園のクローザーなんてテンション上がるぜ」

 中継ぎ・抑えも学内リーグ戦で経験させられてはいるが、先発メインの長曽我部。非常に不安の残るところであったが、曰く尊敬する人物は火の玉ストレートを投じる虎の守護神。メンタル的な面では余裕がありそうだ。

「それに14点差もあるし、バックも堅牢だしな」

「まぁな。下手したら野手がマウンドに上がってもリードは守れるな」

 その上、15―1と14点差にもなるこの大きなリード。

 さらには神城・前園・大谷・坂谷の内野陣。バーナード・斎藤・村上の外野陣。マスクを被るはずば抜けたキャッチングセンスを誇る宮島。

 相手が木製バットに不慣れであることも考慮すると……

 負ける気がしない。

 勝てる気しかしない。

 と、言ったところか。

 かなりの余裕を見せる長曽我部は軽い気持ちで投球練習。球速は130後半~140前半と長曽我部的にはキャッチボール感覚で宮島のミットへと投げ込んでいく。

『(調子は悪くない、くらいかな?)』

 今日、長曽我部の投球を受けたのはこれが初めて。ただその緩い球からも分かるのは、決して調子は悪くないと言ったことである。かと言って、とりたてて調子がいいというわけではないが。

『(ただ、このチーム、この点差なら抑え込めるぞ)』

 既定の投球数が終わると、先頭バッターが打席へ。

『9回の表。高校野球日本代表の攻撃は、4番、サード、秋原』

 日本代表、最後の抵抗に先陣を切るのは秋原兄。

『(さぁ。見せてもらおうか。長曽我部輝義の成長した姿を)』

 まずは長曽我部の武器を相手に知らしめるためにも、ストレートのサインを出してミットをしっかり開いて構える。そのミットを凝視しながら振りかぶった長曽我部。大きなワインドアップから放たれた初球。

「ス、ストライーク」

『155㎞/h』

 インコース低めの要求に対してコースは逆球のアウトコース高め。しかしながらギリギリ入ってストライク。

『(コントロール無視の全力投球。甘い所に入ったら叩き込まれるだけにあまり使いたくない手ではあるけども……)』

 宮島はピッチャー主導リード。あまり打者の裏をかくような配球には執着しないが、甘い所に投じることによる怖さは分かっている。

『(相手にこのストレートを意識させるだけでも効果はある)』

 現在の長曽我部の主な持ち球は、150キロを超えるストレートに、宮島直伝の縦スライダー、新本直伝のスローカーブの3つ。

『(この4番に手の内を隠す必要はない。土佐野専は露出が少ないことはもとより、先の投球練習でも手の内は見せていない……3球で決める)』

 次なるサインはスローカーブ。強打者へはボール球から入って安全にいくのがセオリーだが、相手がこちらに対してノーデータであるならば、ボール球から入るのは相手にデータを与えるような愚行である。むしろデータと引き換えにストライクをもらうべし。

「ファ、ファール」

 低めに沈めるジャスト100キロのスローカーブ。緩急差55キロにもなるこの変化球に、打者・秋原はバットの先で捉えてファールにしてしまう。

『(今のタイミングのスローカーブをカットするか。神城みたいな奴だな)』

 それでいて高校通算60本塁打を誇るスラッガー。

「秋原兄さん。ウチの秋原……明菜にはお世話になってます。宮島健一です」

 長曽我部への返球のために一歩前に出た宮島は、秋原兄と並んだ瞬間に唐突な自己紹介。

「あいつ、本当にマッサージ上手いですよね。ウチの学校で勉強してさらに上手くなってますし」

 もっともあまり長々と話していると球審にも咎められるため、ほどほどにしておく。

『(さてと。明菜の話で集中力を切ってくれたらいいけど、さすがにそんなことはないか?)』

 ある種のつぶやき戦術。むしろ語りかけ戦術ではあるが目的は同じである。

 ただ、秋原兄にあまり通用はしなかった様子。

『(カウント0―2。素直に考えれば、相手方にとっては未知の縦スラで決めるべきだと思うけど、輝義の希望は?)』

『(あまりそれで仕留めるのは……なぁ?)』

 首を振る長曽我部に宮島は次なるサインをすぐに送る。

『(マジか。じゃあ、高めのストレートで釣るか?)』

『(それでいこう)』

『(お前の思考回路は単純で助かる。1年ぶりのバッテリーでもそのままだな)』

 スピードを意識させる全力は十分。初球に比べて球速はわずかに下げることになるだろうが、長曽我部のストレートならば釣り球としては十分すぎる威力である。

 長曽我部の投球モーションと共に宮島は中腰に。それでほぼすべての人間に高め釣り球の配球がばれるわけだが、秋原の視線はピッチャー。彼にばれなければいいのである。

『(遊び球なし。3球勝負でいくぜ、輝義)』

『(これが9回表、甲子園のマウンドを授かった守護神の力。打てるものなら打ってみろ。日本代表ぉぉぉぉぉ)』

 長曽我部の右腕から弾かれたストレートは高めに構えられた宮島のミット一直線。球速にして150を越えるその球を――真芯で弾き返した。

 痛烈な打球はピッチャー返し。反射的に打球を捕りに行った長曽我部だが、そのグローブは打球を弾いてしまう。それにより打球方向を変えて外野に抜けることは防いだが、今度の打球はファースト・セカンド・ピッチャーによる三角地帯へ。さらにセカンドの前園もピッチャー返しの時点で二遊間にスタートを切っており、いつも以上にその地帯は広い。

「神城っ。ピッチャーは1塁カバー」

 その状況に素早い処理。すぐさま指示を飛ばす宮島だったが、

「動くな、神城。任せろっ」

 それ以上に反応が早かったのは前園。打球方向が変わったと見るやいなや、すぐに方向転換。打球に向けて一直線。言われた神城は1塁にて前園に処理を託す。

『(このタイミング。素手でも刺すのは難しい?)』

 ただ前園も任せろとは言ってみたものの、秋原の足と打球を考えるに刺せるかどうかは際どいと判断。それは自らの得意なベアハンドを用いてもである。何より角度的に送球が難しいのである。

『(なら――)』

 前園は打球到達寸前。グローブを右肩付近まで持ち上げると、身体の前で円を描くように払いながら打球を拾い上げる、もといグローブの先に引っ掛ける。そして、

「捕れっ、神城」

 その勢いのままバックハンドグラブトス。

「ファーストは誰じゃと思っとるんな」

 やや雑な送球も神城は難なくキャッチ。

「僕にキャッチングで勝てるのは宮島くらいのもんじゃろぉ」

 そう言いつつ、振り返って1塁審判に捕球をアピール。

「アウトっ」

「「「っしゃああぁぁぁ」」」

 強打者・秋原を抑えて1アウト。残りアウト2つと迫った土佐野専の勝利にスタンドが湧き上がる。

「輝義。打球は大丈夫か」

「いける、いける。当たったのはグローブだ」

 それでも宮島は長曽我部に声を掛けておく。長曽我部本人の言うように打球を弾いたのがグローブであったからよかったが、身体で弾いていたならば降板も視野に入れる必要があるからだ。

『(宮島くん。彼は?)』

『(いけるそうです)』

 指さし・手振りによって確認する広川に、宮島は大丈夫そうだとフラッシュサインで返事。

『5番、指名打者、湯川』

 データ的には長打のある指名打者。しかし本日の土佐野専にしてみればまったく敵じゃない。

「ストライーク」

『148㎞/h』

 コーナーを突いた140キロ後半のストレート。際どいコースの球だったが、ストライクを取ってもらえてワンストライク。

『(いいぞ。今日の輝義。調子は抜群だぞ)』

 よほど甲子園のマウンドが彼に合っているのか。

 とにかくこの遠征中で最高の球を投じてきている。

『(お前の気分なら……ここはまっすぐか?)』

『(いやいや。神主。俺は冷静だぜ?)』

『(おや? 意外だね。じゃあ、タイミングを外しますかな?)』

『(OK)』

 ストレートのサインを拒否してスローカーブを肯定。長曽我部の投じた2球目、スローカーブはバッターの待ち球だったか。しっかりためて弾き返される。

「ファール」

 サード・大谷の横を抜ける会心打にヒヤリとしたが、わずかに3塁線を割ってファールボール。

『(あのタイミングから言って、スローカーブ自体よりは『変化球』に張っていたかな?)』

 ただ順調に追い込んだ。

『(僕がストライクをポンポン取るタイプだからもあるけど、あっさり1アウト2ストライク。僕も竹中や西園寺みたいに遊ぼうかなぁ――と、思ったけどや~めた。変調するとピッチャーが乱れかねないしな)』

 ただ3球目の勝負球は高めのボール球ストレート。気持ちやや外すくらいの釣り球で三振を狙う算段である。

 三振狙いの長曽我部が投球モーション。宮島も前打者と同じように中腰でミットを構える。

「ファール」

 そのややボール球をバックネットへのファールボール。

「打てる、打てる」

「タイミング合ってるぞ」

「落ち着いていけぇぇ」

 圧倒的不利な状況にありながら、まだ勝てると信じているかのような歓声。しかしその本心は負けを認めたくない悪あがき。さながら空元気のようなものか。

『(どうする? もう1回、高めに放る?)』

『(2球連続は怖いな)』

『(じゃあ、沈めるか)』

『(そうしようか)』

 低めへ沈める縦スライダー。またも三振狙いの投球である。

『(神主。分かってるよな。ツーストライクだぞ)』

『(思いっきり来い。1年前、どこぞのノーコン剛速球野郎に鍛えられた技、久し振りにてめぇにも見せてやる)』

 左膝を地面に着け、ミットをストライクゾーン下限よりも下に構える宮島。そのクソ度胸に、グローブで口元を隠して微笑んだ長曽我部。

『(やってやろうじゃん。後逸しても知らねぇぜっ)』

 左足を勢いよく踏み込み、全身の力を指先に伝えながら投じた4球目。

 低めの速い球に、バッターは追い込まれていることもあって手を出す。しかしながらその球はバッター手前で沈み込んでいく。

「ストライク、スリー」

 空振りし球審のスリーストライクコール。しかしバッターアウトコールはない。低めに沈みこんだその球は、ワンバウンドしており正規捕球とならない。それどころかあれほどの球ならば、並みのキャッチャーでは止めることも難しいだろう。

 振り逃げの可能性を思い出し、振り返りながらスタートを切ろうとした。

 だが、ここでキャッチャーをしていたのは並のキャッチャーではなかった。

『(ったく。見ねぇ間にエグイ縦スラを投げるようになったな。この筋肉野郎)』

『(ふん。久しぶりに組んでみりゃ、ほんとにパスボールしねぇのな。この鉄壁は)』

 低めワンバウンドを逆シングルで捕球した宮島。走り出そうとしたバッターの背中にタッチして球審へボール交換を要請。

「ば、バッターアウト」

 バックスクリーンの赤いランプが1つ追加。先ほどのものと合わせて2つ点灯。

「「「あ~と1人、あ~と1人」」」

 1塁側から巻き起こるあと1人コール。

『6番、キャッチャー、天神』

「打ってくれぇぇぇぇ」

「天神。頼む。繋いでくれ」

「諦めるなぁ。まだあるぞ」

 対して3塁側からは悲壮感の混じる声援。

「タイム」

 二方向から敵味方による歓声。耐え切れなくなった天神はタイムをかけて呼吸を整える。

「輝義。気楽にいこうぜ」

 その間に長曽我部へと声を掛ける宮島だったが、ふと彼と視線があった。

「なぁ、あんた。俺を覚えてるか?」

「さぁ? どっかで会ったか?」

 球審の目を盗んで軽い会話をかわす2人。

「気付いてなかったのか……って、待てよ? お前、1年前に女投手と組んで高校野球の部員を打ち取らなかったか? 別人じゃねぇよな」

 天神は前打席の初球。キャッチャーのサインでビーンボールを投じたと思っていた。ゆえに彼があの時のキャッチャーだと判断したのだが、もしそうではないのなら、まったく関係のない人に復讐心を抱いていたことになる。

 少し彼は心配したが、それはいらぬものとなる。

「1年前……あっ、お前。あの時のか」

 宮島のつい大きくなった声に球審が気付いて咳払い。

「さて、いいかな?」

「ありがとうございます」

「こっちはいつでもOKです」

「では、プレイ」

 14点を追う高校野球日本代表の攻撃は、9回裏ツーアウトランナー無し。

『(なんだ。あの時の調子に乗った天狗野郎だったか)』

 心の内とはいえ酷い言い様の宮島は、すぐに長曽我部へとサインを出す。

「ストライーク」

『153㎞/h』

「あ、あの女も速かったけどこいつも……」

 神部は体感速度的な速さだったが、長曽我部は本物の速さだ。

『(1年前……僕らは土佐野専最弱だったな。輝義)』

 次のサインを出しつつ昔を振り返る。

 開幕以降連戦連敗。2ケタ失点&無得点など日常茶飯事であり、1桁得点差での負けが凄いと感じた時もあった。そんな低レベルの野球をしていたのは、もはや懐かしい思い出だ。

 そして『負け』から学び続けた。

 いったい自分の才能は何なのか。

 どんな努力をすればいいのか。

 そして成長を遂げ、今となっては……

『(高校野球日本代表を相手に15―1の圧倒的試合展開)』

「ストライーク、ツー」

 緩いスローカーブでタイミングを外して空振りツーストライク。

「「「あ~と1球、あ~と1球」」」

 あと1人コールがあと1球コールと変わる。

『(たった1年でこんなに成長なんて、普通ならできなかったぞ。やっぱりあれだよな。そりゃあ、才能も努力もあったけど、一番の成長の原因ってアレだよな)』

 プロの球場・甲子園で野球ができている事によるワクワク感は、今まで味わったことのないほどの感覚である。だが、今まででずっと感じ続けていたものと同じ種類の感覚である。

『(いくぞ、輝義。ラストボール)』

『(おぅ)』

 ストライクゾーンへミットを大きく開いた構える宮島に、長曽我部はワインドアップを始める。

『(軟式から硬式に変わっても、金属バットから木製バットに変わっても。球場が変わっても成長しても――)』

 高く上げた足を思いっきり下ろしていく。それを凝視しながらもミットはまったく動かない。

『(この思いだけは不変だな。やっぱり――)』

 勢いよく放たれた投球はアウトコース高め。150キロを悠に越えるストレートを、天神は真芯で捉えて鋭いセンター返し。

「守備はお前だけのせんぱい特許じゃねぇぜ。神主ぃ」

「せんざい特許だぞ。輝義」

「それを言うなら専売特許じゃろぉ」

 打球は長曽我部の伸ばしたグローブの中。

「アウト、ゲームセットぉぉぉぉ」

 両手を突き上げガッツポーズする長曽我部へ、内野陣、外野陣が、そしてベンチにいた選手たちが駆け寄って大きな塊を作る。その中ではお互いに褒め称えるように頭や背を叩いたり賞賛の声を掛けたりしていたが、途中からやや本気の殴り合いや罵倒にも発展しかける。時折、的を射て反論できない罵倒や鋭い拳にイラッと来るが、それでも宮島の笑顔は崩れない。

『(やっぱり、野球が好きってのは変わらねぇ。じゃねぇとこんなに上手くなれねぇよな)』

 みんなではしゃぐ土佐野専の選手の一方で、最後の会心打を阻まれた天神は天を仰いでからベンチへと引き返す。

「強かった、な」

 そしてつぶやき、マウンドで騒いでいる敵を見ながらつくづく思う。

「あれで自分よりも1つ年下。ただ環境がいいだけならこんなに強くはなれないプロへの思いの差、か……凄い強敵が現れたなぁ。きっとプロでも障害になるだろうな」


次回投稿予定

3月5日(土) 20:00

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