第2話 夏の終わりは兵庫県
夏の甲子園大会は大阪府の私立高校・関西聖王館学園が制した。そしてその直後に日本代表選抜メンバー並びに、壮行試合『対土佐野球専門学校』に関する詳細が発表された。
時期は今から約1週間後。場所は土佐野球専門学校の指定した阪神甲子園球場。死のロード直後で貸してくれるかどうかは怪しかったが、予定日が一、二軍共にビジターゲームであったこと。そして広川・小牧両教員のコネで借りる算段がたったのである。
この大イベントに各マスコミはこぞって報道。土佐野専も条件を対等にすべく、選抜チームをホームページで公開し、その大試合に向けて構えを取る。
こうして高校野球日本代表、土佐野球専門学校選抜チーム、双方が手の内をさらすことになったのだが、これによって1年4組野球科に驚きが走ることに。
新聞のスポーツ欄にて掲載された日本代表の中の1人。
『内野手 秋原明伸 関西聖王館学園3年』
「秋原、ねぇ」
宮島も広げた新聞を読んで事情を察しながら、隣に座った同姓の女子に目を向ける。
そもそも『秋原』なんて苗字はそう珍しいものではない。そのため親族ではないただの同姓である可能性も否定はできないのだが、以前から彼女は兄の存在を口にしている。また同時にその兄が野球をしているとも話をしていた。
そして何より、
「へぇ。お兄ちゃん、日本代表に選ばれちゃったんだ」
彼女が兄と言った以上は間違いなく兄である。
「明菜の兄貴ってなかなか凄かったんだな」
「う~ん。この前、お父さんはプロのスカウトから名刺をもらったって言ってたかなぁ」
「プロ注目かよ。すげぇじゃん。なんでそんなになんでもない顔してられるかな?」
「そりゃあ、この学校にいたら……ねぇ?」
「「「確かに」」」
宮島に加え、近くにいた神城、新本、神部らも同様の反応。
メジャーから内定を受けている鶴見を含め、今遠征メンバーのほとんどがドラフト指名確実と言われているほどの学校である。そのせいで感覚がマヒしているものの、プロから注目されているのはかなり凄いことである。
「秋原さんのお兄さんってどんな選手なんですか?」
「ポジションはサードで、聖王館学園の4番を打ってるって言ってたかな?」
「みたいですね。宮島さんの新聞にも書いてあります」
神部は宮島の広げた新聞を覗き込んで記事をチェック。
「あとは、ウチで言えば佐々木くん、鳥居くんとか、もしくは友田くんみたいなタイプかな? 神城くんみたいなタイプじゃなかったと思うよ? あくまでも私がここに来る2年前の話だけど」
「ホームランバッターか。でも、4番バッターってことはその情報にも真実味はあるな」
プロアマ探せば『繋ぎの4番』を置くチームもないわけではないが、全体的にはホームランバッターを置くのが一般的である。とすれば、宮島の考察も至極当然であり、あながち的外れなものでもないと言えるだろう。
「そんなことより、みんなは遠征の準備は終わったの? 明日には出発だよ?」
「私は終わりました。後は出発前にちょっと足すくらいです」
「僕は今から出発でもええで? 準備万端じぇけぇのぉ」
神部・神城両名、そして秋原も準備済み。あとは出発を待つのみ。しかし、
「僕は今夜する予定」
「かんちゃん、さては夏休みの宿題は最終日にやるタイプだね?」
「いいや。面倒だからやらないタイプだぞ」
予想以上であった。
「なんだか、今夜になってあれがない、これがないって騒ぐ予感しかしないんだけど」
「むしろそこまでが予定調和じゃろぉなぁ」
「私も手伝いますよ?」
「私は邪魔する」
最後まで辛辣な秋原&神城。
そしてこちらも最後まで宮島の背中を押していく神部。
さらにこちらも最後まで宮島の足を引っていく新本。
なおその日の夜
「いぃぃぃ、やっほぉぉぉぉぉぉ」
「あっ、新本、てめっ」
新本ひかり、宮島の部屋にて勝手に食料棚を漁り始める。本気で宮島の遠征行きを妨害する目的のようである。
「宮島さ~ん。あとは着替えくらいだと思いますけどどうしますか?」
対して神部は宮島以上に右往左往しながら準備。秋原もなんだかんだいいながらも手伝っているところ。
そして、
「お~い、宮島ぁ。助けにきたけぇ安心せぇよ」
私用で遅れていた神城も援軍として参戦。新本以外は結局のところ手伝ってくれるいい子なのである。
その神城へ、宮島に羽交い絞めにされている新本が注目する。
「ワァオ。シロロンのTシャツ、地元愛凄い」
「じゃろぉ? 地元からTシャツのセットをわざわざネットで取り寄せたんよ」
彼のシャツは正面に大きく『呉』と書かれたもの。
「ついでに背中には~」
「背中には?」
「じゃ~ん」
『榛名』
「ふっ、沈んでるし」
鼻で笑う新本に、神城は目が笑ってない笑顔を向ける。
「戦争しようか」
「上等。ついでに伊勢、日向、天城と一緒に沈めてあげる」
「現代版榛名の底力見せちゃるけぇのぉ」
「呉空襲、シースパローで対抗しそう」
宣戦布告。この瞬間、宮島宅にて戦端が開かれた。
「これじゃあ助けられなさそうじゃのぉ。宮島、すまん」
「いや、この馬鹿をゲームに縛り付けておけるだけでもいい。妨害しかしてこないし」
「通商破壊じゃなぁ。と、なると僕は護送船団ってとこじゃろぉか」
主力・宮島、援軍・神部&秋原、護衛艦・神城 VS 通商破壊用巡洋艦・新本
総力戦となったこの戦いは、神城が新本に陸戦で大敗しながらも、海戦で大勝を収める。とかいうゲームでの陽動の間に、宮島・神部・秋原が明日の準備を完了。
作戦コード:遠征準備 成功に終わる
壮行試合が行われる球場はまさかの阪神甲子園球場。甲子園大会が終了したことで、この球場を本拠地とする阪神タイガースが死のロードから帰還となったわけだが、ちょうど壮行試合予定日は東京遠征中とのこと。二軍も広島遠征中となっているため、土佐野専のコネで決定となったのである。
対日本代表壮行試合の1週間ほど前。土佐野球専門学校選抜チームは合宿のため早めに遠征へと出発。リーグ戦は多くの主力を欠くことになるが「あくまでも勝利は度外視」との考えで実行されるとのことである。
そして学校のバスに揺られて明石海峡を渡り、合宿予定地である兵庫県日本海側にまでやってきた一同。キャッチャーとして代表に選ばれた宮島に続き、2年マネージメント科次席として帯同することになった秋原も兵庫の地に降りたつ。
「久しいな。1年ぶりの兵庫県か」
「兵庫県って言っても、去年は日本海側で今年は瀬戸内海側だけどね?」
さらに言えば去年は海岸線であるが、今回はやや山寄りである。
数台のバスから降りてきた20人の選手たち。そんな彼ら(女子1名含む)に向けて、この壮行試合にて監督を務めることとなった広川が告げる。
「では野球科生のみなさんは、ひとまず自分の荷物だけ持って自室に上がってください。鍵は高川くんが渡します。道具の運び込みのため、ドアは開けたままにしておいてください」
その指示に野球道具などの大物はマネージメント科生に任せて自室へと向かうことに。全員分の鍵を持ってきた高川により、それぞれへと鍵が渡されて建物内に入ってみたのだが。
「うわぁ。かなりいいホテルだな」
広いエントランスに4つほど窓口のあるフロント。エレベーターが複数機あるのはもとより、食堂もしっかりと完備。地下階には温泉、併設される形でコンビニもあり、1週間滞在するには十分すぎるほどである。
「じゃなぁ。入り口からしてそうじゃったけど、かなり豪華そうじゃけぇのぉ」
「それに1人1部屋ですよ」
宮島の感嘆に神城・神部も同意。
いくら高校野球日本代表に挑むエリートだとしても、たかだか16、7歳程度の若造が1人1部屋単位で、それも夏休みの時期に1週間も泊まっていいレベルのホテルではないだろう。
10人以上が乗れそうな広いエレベーターで、神城・神部及び、三村、西園寺、バーナードと共に目的の9階へ。
「えっと、902って言うと……」
野球科生はだいたい同じフロアに集めたようである。エレベーターに乗っていた全員が降りて自分の部屋へ。宮島は自ら受け取った鍵のキーホルダーを見ながら部屋を探し、見つかるなりさっそく中へと入ってみる。木目の浮き出た和風感がにじみ出るドアを開けると、
「お、広いじゃん」
なかなかに大きい部屋が目の前に広がっていた。入ってすぐ目に入ったのは、9階だけあるいい景色。入り口付近にあったドアを開ければ、一般的な和式トイレ。さらにとなりのドアを開ければなかなか広いお風呂。そしてもちろんエアコン完備。液晶テレビや小型の冷蔵庫など設備もバッチリ。
「これ、使っても金取られないよな?」
あまりにいい設備に心配になった宮島。壁に付けられる形の机にカバンを置き、マネージメント科生&経営科生が作った合宿の手引きを読んでみる。
「えっと……マジで。無料かよ」
曰く自由に使ってよく、別に有料ではないとのことである。
それでもちょっと心配そうに冷蔵庫を開け、移動中に買っておいたペットボトルのお茶をいれる。そしてそれ以上に心配そうにテレビを付ける。するとさすが関西圏・兵庫である。バッチリ大阪の電波が入ってきているようで、芸能人による本場の関西弁も聞こえる。
「すげぇな。本当に」
手引きの予定表曰く、到着後はいい時間であり移動による疲れもあるとの予想で、練習はなく、夕食を終えればあとは今後の日程確認や諸説明などのミーティング。そして寝るまで自由時間と、今日は少し出発前に練習したくらいである。
となると、夕食までにやることは荷物整理くらい。ただ宮島は荷物を机の上に放り投げ、ベッドに腰掛けてテレビを見るのみ。しばらく関西のテレビ番組に新鮮さを感じながら見ていたが、そうしているとまた不安な気持ちが湧き上がってくる。
すると、
「まいど。宮島はんおりまっか?」
「いるぞ」
4組スポーツ経営科の江戸っ子・新橋が、エセ関西弁で確認しながらドアをノック。やはり小村や、新本・三国らが見せるたまの関西弁と比べるとやや不自然である。
荷物運び込みに備えてドアを開けていたため、確認だけで入ってきた新橋。肩からはキャッチャーの防具や、ヘルメットなど入ったカバンを持ちこんできた。
「この荷物はどないしまっか? 邪魔やったら別管理するんやけど、自分で管理しまっか?」
「自分で手入れしたいから、そこに置いといてもらえる?」
「了解やで」
ところどころ関西弁になりきらない口調をしながら荷物を置いた新橋。
「てか、何で経営科の新橋が?」
「そら、さすがにマネ科だけやと人手足りへんからなぁ。てなわけで、経営科や審判科も駆り出しや」
「マジか。手伝った方がいい?」
つい宮島も立ち上がってその意思表示をするも、新橋は両手で座れとジェスチャー。
「いやぁ、そんなん手伝う暇あるんやったら、明日からの練習に備えてしっか休まなあきまへん」
「なんか悪いな。こんなにいいホテル確保してもらった挙句」
「気に入ってくれまっか。経営科総動員で探したんや。いかに予算内でいかにいいホテルを確保するかは大変やったで。結局、学校の卒業生のコネ使ったんやけんど」
「卒業生のコネ?」
「せや。ここのホテルの社会人野球部に、1期野球科生がおるんや。学校発行の月刊誌での広告とかを交換条件に、ちょちょいと安ぅしてもろたんや」
「そっか……ほんとに大変だったんだな。ありがとな」
「それならお礼に、1週間後は勝ってくれまっか?」
「もちろん。やってやるよ」
「約束や」
右手拳を突き出す宮島に、新橋も拳を突き出して小突くように合わせる。
「じゃ、夕食は6時からや。場所はバイキング行くから、1階のフロントに一旦集合や」
「あいよ」
夕食は近くのバイキングにて行う事に。なんでも予約段階ではこの大食い集団に店側が難色を示したものの、経営科教員が店の本社と直接交渉を行った結果、割増料金を支払うことで決着が着いたとか。実際には割増料金と同時に月刊広報誌での広告も条件にあるそうだが。
そうした経緯もあり野球科20人によるホテル付近のバイキングにて夕食を済ませ、さらにその後はホテルで借りた会議室にてミーティングも終わった。となると、後は寝るまでの間は自由時間である……わけだが。
「なんでお前らはここにいるかなぁ」
「いつものことじゃろぉ」
ジャージ姿の神城はPC用メガネを掛け、持ち込んだノートパソコンでゲーム中。
「1人でいても暇なんです。邪魔ですか?」
そしてこちらは備え付けの浴衣を着た神部。ベッドに寝転がって大阪のテレビを満喫しているところである。学校でもそうであったが、遠征先に来てまで宮島の部屋に入り浸る気らしい。
「まぁいいけどさぁ」
宮島にしてみれば、浴衣姿の神部は目の保養になるとかならないとか。
「みんなも割と退屈にしとるみたいじゃけぇのぉ。僕みたいにパソコンとか、他にも本とかゲームとか。いろいろ持ちこんどるみたいじゃけど、大きいもんや多い量は持ちこめんけぇのぉ」
例えば鶴見は学校の図書館で借りてきた10冊以上の本を読み続け、長曽我部は買ったばかりのゲームを今遠征中にクリアすると躍起になっている。他のメンバーでは大谷・村上の2組仲良しコンビが将棋を指していたり、大原・バーナードらが審判養成科による臨時野球ルール講座によって知らないルールを知って驚いていたり。いろいろな趣味や暇つぶしに興じているのである。
さて、ユニオンフォースも同様に暇つぶしに興じたいところなのだが、足りないのが2人いる。
新本はと言うと、言うまでもなく選抜漏れで学校に残留。現在はネット回線を通じて神城とマルチプレイ中。神城がマイクを持っていないとかでネット通話はできず、チャットを使って会話をしているようである。
「そういえば、秋原さんはいないんですか?」
今更ながらふと気付いた神部。お風呂は一緒だったようだがこの場にはいない秋原。
「明菜はマネージメント科のミーティングだと。いろいろ仕事があるんだろうし」
「そうですか……」
他にユニオンフォース予備部隊として2人いるわけだが、長曽我部は自室で1人のんびりしており、鶴見は土佐野専附属図書館で借りてきた本を読んでいる。ひとまずこの部屋にいるのは3人だけである。
「あれじゃなぁ。宮島が邪魔じゃって思っとるのは僕だけかもしれんのぉ」
「別に邪魔じゃねぇけど? どうせ1人だと暇だし」
宮島は神部の横に寝転がりつつ、神城に借りたタブレットでネットサーフィンしながら答える。ノートパソコンを持ってくるという発想のなかった彼は、こうするしか暇つぶしの方法がないのである。
「でも、僕がおらんかったら神部と2人きりで?」
「あのなぁ」
「と、新本が言っとるで?」
「分かった。ちょっと貸せ。これって個人名打ち込んでOKなやつ?」
「ええで。どうせ僕と新本の個人チャットじゃけぇ」
立ち上がった宮島は神城のパソコン前へ。
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シロロン提督:おい、新本。潔く殴られろ‼
ヒカリ将軍:さてはかんぬ~
やれるもんならやってみろ~(高知なぅ、Youは兵庫なぅ)
シロロン提督:覚えてろよ。貴様を殺す
ヒカリ将軍:やってみろ~ (笑)
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「煽られとるのぉ」
名前を変えるのが面倒であったため神城の名前を借りたが、一応宮島自身が新本と激戦。ただ兵庫―高知の物理的距離を越えて殴るのは不可能なわけで。
「あいつ、今度会ったら必ず絞める」
「元気じゃのぉ」
もちろん本気で怒っているわけではなくいつものノリなのだが、それでも殴る相手がないことでやや不完全燃焼感の残る宮島。やや強い勢いでベッドへと寝転がる。さっきまでは神部と逆方向に頭を向けていたが、わざわざ枕の位置を変えて同じ方向に頭を向ける。
「まったく。新本も普段の神部くらいおとなしかったら可愛げもあるのにな」
闘志全開。瞳孔ガン開きでパワフルピッチングをしている姿を知っている分、そこは戦闘態勢の神部と区別しておき、隣にある神部の頭を左手で撫でる。
「あうぅ、み、宮島さん……」
それに対して神部は口調では嫌そうにしながらも、態度としては満更でもない様子。
「でものぉ。新本じゃって暇なんで? 僕に宮島、神部、秋原。それに加えて長曽我部、鶴見。み~んな兵庫に来とるけぇのぉ。少しくらい多目にみちゃれぇや」
先から神城と新本のチャットでは、ゲームの戦略的な会話も行われているのだが、一方で今日あったことと言った、まるで恋人同士のような他愛もない会話も行われていた。
「しばく時は本気でしばくのが僕の仲の良さだから。仲悪い奴をしばいたらケンカになるだろ?」
「仲良ぇからこそそういうんを包み隠さんでええってぇのは分からんでもねぇけど、親しき仲にも礼儀ありって言うけぇ、ほどほどにせぇよ?」
「ほどほどにシバくのが僕の礼儀」
「会話が繋がっとるんか、繋がっとらんのか、よぉ分からんのぉ」
うまい具合に説得された感じもするが、根本的な部分で話が繋がっていないような気がする神城である。
「いいんだよ。要は時々シバくのが僕だから」
「そう言えば神部も一回殴られたのぉ。グーで」
「で、でもあの時は私が悪かったんで……」
頭を撫でられながら答える神部は非常に気持ちよさそうな表情。秋原に耳掃除をしてもらっている時の宮島寄りと言えば分かりやすいだろうか。それを宮島は神城側を向いているため気付かず、宮島・神部側を向いていて気付いている神城は微笑ましく思うのみで表情には出さない。
「っと、悪いのぉ。止めとって。今始めるけぇ、少し待ちぃや」
こっちの会話でゲームの流れを止めていた神城は、そう口にしながらチャットに返信を打ちこみ始める。と、そうしていた時である。ドアがノックされた。
「は~い。今開けま~す」
自室に来ると言えば、鶴見や長曽我部ら、もしくは監督・コーチ陣などの身内が可能性として浮かぶが、ホテルコンシェルジュである可能性も無きにしも非ず。一応、宮島は気持ち程度の返事をしてドアを開ける。
「お待たせしました。どなたですか?」
「みんないる?」
誰かと思えば秋原。マネージメント科のミーティングが終わったようである。
「僕と神城、神部ならいるけど?」
「そっか。じゃあ、えっと、かんちゃんと、神城くんと、神部さんだね」
と、彼女は手に持っていた青いビニール袋を3枚取り出して宮島に渡す。良く見ると、先ほど宮島が伝えた3人の名前が書かれている。
「これは?」
「洗濯物があったらここの設備を借りて一気に洗うから、このビニール袋に入れて出してってこと。出す先はマネージメント科本部。詳しい場所は手引きに書いてあるとおり、304号室ね。せっかく個別にしてるんだから、他の人のものをまとめていれちゃダメだよ?」
「分かった。で、入る?」
仕事も終わったようならと思って部屋に招き入れようとした宮島だったが、
「ごめんね。私4組担当だからあと前園くんにも渡さないと。それと私、これが終わったら下のコンビニに行くけど、何か買って来てほしいものある? さすがにその代金は個人持ちだけどね」
「買いたいものって言っても、なんだろ?」
「例えば、持ってくるのを忘れちゃったものとか、夜にのどが渇いた時ようの飲み物とか。茶葉とポットはそれぞれの部屋にあるから最悪大丈夫だろうけど、お茶以外ね。あとはお菓子とか小腹がすいた時ようのものとか?」
「そうだなぁ。行ったら思い出すかもしれないし、僕も行くよ」
「そう? じゃあそうだね……」
秋原は時間を見て8時45分であることを確認。
「9時ごろにもう1回この部屋に来るから待ってて」
「あいよ。それじゃ、準備しとく」
「は~い」
手を振り前園の部屋へと向かう秋原の背を見送り、宮島は中へと戻る。
「これ、明菜から。自分の洗濯物を自分の名前が書かれた袋に入れて出せと。出す先はマネージメント科本部」
「OK」
「はい」
今から配る必要もないだろうと、神城がゲームをしている机の上に置いておく。
「で、だ。9時になったら明菜がコンビニ行くらしいけど、みんなどうする?」
「9時って言うたら……あっ、もう9時前なんじゃのぉ」
パソコンの時計を見て時間を確認した神城が体を起こす。
『(秋原、そんな遅くまで仕事しとるなんて大変じゃのぉ)』
自分たちはここ1時間以上ずっと自由時間であった。一方でマネージメント科は今まで仕事をしていたようである。その事に良心の呵責を覚えながらも、どうも口に出すのは恥ずかしく胸の奥に止める神城。
「そうじゃなぁ。飲み物と、ちょっと軽食が欲しいのぉ。お好み焼き置いてないかのぉ。もちろん広島風」
「ここ、関西なんだけど」
何を思って関西圏のコンビニが広島風お好み焼きを売るのか。
「私もついていきます。なんでなのか、無性にから揚げが食べたいです」
「なんでなのか、って理由は明確だろ」
「じゃなぁ」
今、テレビでは芸能人がから揚げを食べているところ。理由はこれ以外にないであろう。
ひとまず次回投稿予定は未定です
決まり次第活動報告にて掲示します
さて今回、人によっては違和感を覚えるシーンがあったかと
神城が『お好み焼き』について『広島風』と言っていたんですね
広島県民の中には『広島風お好み焼き』ではなく『お好み焼き』だ‼
と、主張する人も少なからずいるのでしょうが、
なんだかんだ言って『お好み焼き』とだけ言ってしまうと
『広島風』と『関西風』で区別がややこしいのです。
そこで店で食べる場合などを除き、
どちらとも取れる状況では『広島風お好み焼き』と言うケースもあります。
なので、割と『広島風お好み焼き』と言うワードについて
広島県民は寛容みたいです。
(注)ただし『広島焼き』と言った人については後で職員室に来なさい




