最終話 伝統は受け継がれる
2年1組VS2年4組の試合から1週間後。
1年4組の対2組戦。
4組が先制すれば2組が逆転。そうすれば4組が追いつき追い越し、その直後に2組が再逆転をしたかと思えば、さらにその直後に4組がまたもひっくり返す。そんな絵に描いたようなシーソーゲームを演じていたが9回の裏。
『(このバッターの苦手コースはアウトコース低め。球種で言えば変化球らしいけど)』
高川データベースに基づく情報。1年生のものも収集・分析していたのは意外だったが、その情報を高川妹から独占的に仕入れることができたのは大きかった。わずか1点。なんとかリードしている。ただ逆に言えばそれだけの情報を得ても1点リードしているのみ。それには理由があった。
ここまで4組正捕手・松島はその情報を十分に生かせているとは言えなかったのだ。
と、言うのも……
『(川原さん。カウント1―2。きっと高めのストレートで三振欲しいですよね)』
宮島を師匠と仰ぐ理由。
そしてチームの投手陣が、女子である自分を捕手として信頼してくれている理由。
投手主導リード
長曽我部クラスと呼ばれる、1年生が誇る速球王・川原は2塁にランナーを背負いながら頷きセットポジションへ。高く足を上げ、前に踏み出し、後ろに引いた腕を思いっきり前へと引っ張る。
『(本家のお師匠様には敵いませんけど、きっとこのリードで勝ってみせる)』
高川データベースに反する高め。中腰の松島が構えたミットへボールが放たれる。
『(お師匠様、力を貸して――)』
直後、9イニング硬式球を受け続け握力の落ちた左手へ、追い打ちをかける重く強い、しかしながらどこか気持ちいい激痛が走る。
『147㎞/h』
バッターのバットは……空を切っていた。
「ス、ストライクスリー、バッターアウト、ゲームセットぉぉぉ」
「やったぁぁぁぁぁぁぁ」
球審によるゲームセットのコールと同時に、松島は痛みを忘れて飛び跳ねるようにマウンドへ。
第3期生・1年4組。27試合目にして7―6で初勝利。
ベンチでは監督・小牧長久が軽く拍手し、ベンチ入り選手は狂喜乱舞。そしてマウンド上では第2期生・1年4組のように胴上げが開始。
その光景を眺める2人の影。
「どうよ。お師匠様?」
「そういうお前こそどうだよ。高川データベース管理者さんよ」
宮島・高川。2年4組が誇る戦場の頭脳と、机上のハイパーコンピュータ。
「データベースによると、最後のバッターは低めへの変化球。しかし実際に投げたのは……」
「ふん。お師匠様の投手主導リードを最後まで貫いたか」
「嬉しそうだな、高川」
自分のデータとは違う結果だったにも関わらず、笑みを浮かべる高川に宮島は違和感を覚える。
「所詮、データはデータに過ぎない。仮に打率1割の苦手コースだって逆に言えば1割打たれるし、4割の得意コースだって6割は抑えられる。その1割を避け6割を引き寄せる『データの応用力』が現場には重要なんだ。データに振り回されているようじゃまだまだ未熟さ」
「なんか賢そうなこと言いやがって」
「それに、こういうデータに反する結果は大切。きっとその反した結果の裏に何かしらのデータが存在する。それこそ、『多少コントロールが悪くとも、質のいい球なら相手を打ち取れる』とかな」
「ま、お前が僕のリードを解明できる日を楽しみにしてるよ」
「ふん。宮島が野球界から去るその日までにはなんとかしてやる」
宮島はカバンを肩から掛けてその場を後にする。
「さぁ、行こうか。1年生は初勝利を見せてくれた。なら次は僕ら、2年生の番だ。な、兄上様」
「おうよ。今日も高川データベース、全力支援しますぜ。お師匠様」
同日 2年生リーグ
4組 7 ― 4 2組
勝利投手 本崎 セーブ投手 立川 敗戦投手 三原
ひとまずこれにて新章は終了です
短編および蛍が丘高校野球部の再挑戦の投稿予定は未定
(予約投稿設定日 12/8時点)
ついでにプロ野球への天道次回予告……ではなく、前振りを
今回、死亡フラグ並みに高川くんが出てきました
また、あからさまな前振りも本文にはあったわけで
分かっても言ったり、日下田にメッセージ送ったりしたらあかんよ?




