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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第11章 夢と希望と現実と
119/150

第4話 希望の投手戦

『これより、土佐野球専門学校学内2年生リーグ。先攻・1組対、後攻4組の試合を開始いたします』

「さぁ、みなさん。行きましょう」

 初のナイター試合。

 夕焼けに染まった空の下、そして最弱クラス1年4組の視線の先で、ナインがグラウンドへと散っていく。

 慣れない環境ではある。しかし野球(プレイ)を始めてしまえばほぼ気にならない。

 既定の投球数を終えた宮島はマウンドへ。

「本崎。今日、なかなかいい球が来てるぞ」

「もちろんだとも。後輩たちが見ている。ならば自分にできるのは、リリーバーの神部嬢たちや、クローザーのマスターに繋ぐのみ」

「いつも通りで安心した。で、配球はどうする?」

 マウンドに来た目的は、配球をどうするか。といういつもの問いかけである。

「総大将殿。ブルペンで見た感じ、変化球のキレはいかがであった?」

「そうだなぁ。カーブとスライダーはいつも通り。けど、フォークはバリバリにキレていた気がするけど?」

「おぉ。同意見であったな。ならば勝負所は低めに落としていこう。総大将殿。思い切っていくゆえ、しっかり止めてくれぬか?」

「悪いな。止めはしない。捕ってやる」

 笑みを浮かべながら宮島の胸あたりを拳で軽く小突く本崎。宮島は同じように笑いながら小突き返す。

「で、基本はいつも通りで?」

「うむ」

「よし。じゃ、しっかり抑えようか。それが本崎の仕事な」

「任せよ」

 プロを目指す後輩たちへ、元最弱クラスの先輩として夢や希望を与えるため、この試合は勝ちにいく。

『1番、ライト、斎藤』

 先頭は1組の切り込み隊長・斎藤。神城や三村と言った規格外がいるせいで首位打者にはなれないが、打率は申し分ないほどに高いバッターである。

『(高川のデータによると、今年の斎藤は割と最初から打ちにくるらしいからな。ストライクはもらえなさそうだし、奪わないとな)』

 狙い球の分からない初球。ボール球から入って相手の狙いを読みたいところであるが、ピッチャーの気持ちを盛り上げるには、プレイボール直後のストライクが欲しい。

「プレイ」

 サイン交換をしていると、宮島の背後で球審がプレイをかける。

『(で、これでどうかな?)』

『(好判断であります)』

 右足を引いてノーワインドアップモーション。オーバーハンドから放たれる初球。

「ストライーク」

『(っし)』

『(ナイス、本崎。てか、ここを取ったか。ボールくさかったけどな)』

 狙いよりボール寄りにずれたアウトコース低め。

「球審。今のっていっぱい?」

「ギリギリいっぱいだよ」

『(ふ~ん。今のがギリギリってことは、ボール半個~1個分くらい外に広いな)』

 結果として厳しいコースを突いた初球でワンストライク。

『(できれば内の広さも探りたいけど、そんな繊細なコントロール、鶴見や新本でもキツイからなぁ)』

 ストライクゾーンの広さを探るには、今のように結果的に際どいコースにいった時くらいしか機会はないだろう。

『(けど、初球、ストライクは大きい。さっさと追い込んで、そっから余裕あるボールを有効に使わせてもらおう。いけるか?)』

『(やってみよう)』

 2球目。本崎の投球はバッターの足元を襲うワンバウンドのストレート。それを宮島は、身体を回り込ませながら捕球。ランナーがいない以上、無理して捕る必要はない。が、こうした『こんな球も捕球できる』というアピールがピッチャーに信頼感を与えるのだ。

「ボール交換。いきなりすまんな」

「はいはい」

 2球目にしてボールを交換して本崎へと返球。

『(ま、今みたいに捕ってやるからしっかり腕振れや。次はこれかな?)』

『(う~む。なんか違うなぁ)』

『(じゃあ、こっち?)』

『(Year!!)』

 サインと首振りでしっかり意思疎通をして配球決定。

「ストライーク」

 3球目は低めへのカーブ。斎藤のバットの出方がぎごこちなかったことからして、狙い球はストレートと言ったところか。

『(振らせずに追い込んだか。1球くらい振らせて、狙いを探りたかったけど。で、どうする? まずは1球置く?)』

『(いやいや総大将)』

『(こっちな。分かってる)』

 最初のサインに拒否をすると言う事は、彼の要望はさしずめこちらか。低めへのフォークボールを要求した宮島は、本崎がモーションに入るなりストライクゾーン下限いっぱいにミットを移動。

『(これで三振狙おうぜ)』

 本崎の右手からボールがリリース。ところがそのコースは、

『(ちょっと浮いた。高いか?)』

 低めに沈めるつもりがちょっと高い。ボールゾーンへは逃げ切らない。

 アウトコース低めいっぱいのフォークボールを、斎藤は流し打ちのタイミングで引っ叩く。

 打球は三遊間への速いゴロ。飛びつくサード・鳥居の横を抜ける会心打。レフト前へ抜けていく。と思われたが、そこへ現れるは前園。スライディングしながらの逆シングルから、右膝は立てるも左は地面に突いたままで1塁送球。俊足・斎藤と強肩・前園の勝負は、

「アウトっ」

 同時にも見えるプレーのジャッジはアウト。

 いきなりの好守で4組が魅せる。

「やはり前園くんの守備は規格外ですね。本来ならば投手をやっているほどの身体能力(フィジカル)ですから」

 普通の野手とはスナップの利きや地肩が違う。天川や小崎と言った強肩もいるが彼らは外野手。とにかく不安定な姿勢での送球が多い内野手というポジションにおいて、こうしたプレーができるのは非常に大きい。

「前園氏。どうもサンキューです」

「ナイピッチ。ワンアウト、ワンアウト」

 そして自分の好守によるアウトだとしても、ピッチャーを盛り上げていく声掛け。エースや扇の要(キャッチャー)、主砲や切り込み隊長(リーディングヒッター)と比べると地味だが大きな存在だ。

 それで調子(リズム)の波に乗り始めた本崎は、2番の大津をセンターフライ。3番の伊与田を空振り三振に切ってとり初回無失点。かなり順調なスタートだ。

『(さぁ、久し振りの先発だね)』

 その本崎のリズムをチームのリズムとしたい2年4組。しかし本日の1組・先発投手は約1ヶ月ぶりの先発登板となる鶴見誠一郎。日米間で奪い合いとなるだけの逸材を相手にするのは簡単ではないだろう。

『1番、ファースト、神城。背番号6』

 4組の先頭打者は、1番もしくは2番バッターの固定化に悩む数球団がドラ1指名候補としている神城。日本アマチュア野球界のリーディングヒッターと言っても過言ではないのだが、それほどの選手でも難しい勝負である。

「ストライーク」

 初球はアウトコース低めへのストレート。神城は果敢に初球攻撃を仕掛けるが結果はファールチップ。それをキャッチャーが捕球してワンストライク。

『(打ちにくいのぉ。左サイドの大森に打撃練習付き合ってもらったけぇ、だいぶ見やすぅなったけど、そう簡単じゃねぇのぉ)』

 続いて2球目の外へ逃げるスライダーを見逃しワンボール。そして3球目、

「ファール」

「おや?」

 神城はインコースへのカットボールを、1塁側ネクストバッターサークル付近に転がるファールボールに。鶴見は意外そうな表情で新球を受け取る。

『(前に対戦した時は割とさっぱりだった様な気がするけど、今日のタイミングはかなり合ってるみたいだね)』

 よく『後ろにファールが飛べばタイミングが合っている』と言われるが、これはあくまでもすべての球をセンター返しすると考えた上での話。しかし左の神城の場合実際は、インコースは引っ張ってライトへ、真ん中はセンターへ、アウトコースは流してレフトに打つのが常套手段。つまるところが必ずしも『真後ろに飛ばない=タイミングが合っていない』とは言えないのである。もちろんバットのヘッドの傾きなどでファールの飛ぶ方向は異なるが、少なくとも今の打球はタイミングが合っていた。

『(さすが神城くんだ。けど、これで追い込んだには追い込んだ。これは――)』

 背筋を伸ばすワインドアップモーションから第4球目。

『(――どうかな?)』

 投じられた球はアウトコース。なのだが、とにかく遅い。

『(スローカーブっ)』

 この程度タイミングを外されたくらいなら神城ならば待てる。だが満足なバッティングができないのは確か。流し打ちのタイミングでしっかりと真芯で捉え弾き返すも、打球はサード真正面のライナー。神城は走り出すまでもなくアウトとなった。

『(ったく。新本は余計なもんを教えてくれたもんじゃのぉ。まぁ、あってもなくても脅威なんじゃけど)』

 スローカーブが無ければ打てていたか。と言われると、別の球で打ち取られていた可能性もある。さらに言えば新本以外に宮島も縦スライダーを伝授している。なにも彼女だけが悪いわけではなく、彼女も鶴見からスライダーを伝授してもらっているわけでありまっとうな等価交換である。

 その鶴見相手に4組打線も苦戦。前園、小崎と連続凡退。こちらも三者凡退に倒れる。

 両投手立ち上がり良好。

『(そりゃそうか)』

 得点への期待はしながらも、出塁すらないことの割り切りもできていた宮島。既に準備万端とフル装備でベンチを出て行く。

「本崎、この回は大変だぞ」

「お任せあれ」

「リードは今まで通りで?」

「お願いいたす」

 投球練習をしながら全員が守備位置に着くのを待っていると、練習半ばで準備完了。2球放ってから2回の守備へ。

『4番、ファースト、三村』

 2年生最強打者の呼び声高い三村が右バッターボックス。ゆったりとした動きからバットの握る手をインコース高め、ストライクゾーンにややかかる位置へ。伝説級の某プロ野球選手を彷彿とさせる神主打法。

『(初球はどうしようか。カーブでストライクもらう?)』

 と、本崎は首振り。

『(じゃあ、まっすぐ?)』

 今度は頷き。宮島はミットを叩く動きを入れてからアウトコースへと構える。三村は特にインコースの流し打ちが上手い特異なバッターである。かといってアウトコースも安全なわけではなく、結局はストライクゾーンすべてにリスクがあるのだ。

 その打たれるか抑えるかの緊張感の中での初球。

「ボール」

 アウトコースに外れてワンボール。

『(バットの動きから言って、狙いは変化球かな?)』

 ストレートを投じたが、わずかに動いたバットのタイミングは遅め。カーブかスライダーかフォークか、何かは分からないが変化球狙いである可能性は濃厚である。

『(う~ん、これは真っ先にまっすぐのサインを出すべきなんだろうけど、どう?)』

 ストレートのサインを出してみるが、三村に対して2球連続で同じ球を放るのは怖いようでまたも首振り。やむを得ずスライダーのサインを出してみると、次は頷いた。

『(危ない気がするけど、なぁ)』

 ただ、それでも投手が主導権を持つのが彼のリードである。仮に待ち球だったとしても、もし気持ちよくいい球を投げてくれれば打ち取れるかもしれない。そう信じてミットをアウトコースに固定。

 1―0とボール先行カウントからの2球目。

「ファール」

 三村の一振りはボールの頭を擦り、宮島のミットに当たってその場に落ちるファール。

『(キレの良さに救われたか。ちょっと曲がりが甘けりゃ、右中間を抜けてたな)』

 落ちたボールに変えて新しいボールを受け取り本崎へ返球。

『(ラストは落とすとして、投げさす球がないな。インにツーシームあたりか? っと、ようやく一発OKか)』

 本崎も同じく迷っていたようだ。宮島のサインに一発で頷いて3球目。外、外、と来てついにインコースへと構えられたミットにめがけて投球。するとその球を三村はきれいにセンターへと弾き返す。

「やばっ。真芯で打ち返されたっ」

 マスクを外して打球を見送る宮島。かなり大きな打球にスタンドまで届くかと思われたが、打球は思いのほか伸びずにスタンドまでは届かず。さらには後退シフトを敷いていた小崎が楽々追いつきセンターフライに。

「っぶねぇなぁ」

 打率は神城、本塁打はバーナードとそれぞれタイトルは逃しているものの、巧打力・長打力を合わせた打撃力で言えば土佐野専トップクラスの才能を誇るバッター。それを真芯で捉えられながらに外野フライに抑えられたのはラッキーである。

「……小村さん。キャッチボールお願いします」

 その様子を見てベンチにいた神部は立ち上がる。

「お、ええで。けど、まだ2回やで。早ないか?」

「おそらく本崎さんはそう簡単には崩れないと思いますけど……きっと、とんとん拍子に試合が進んで、すぐに中盤戦になるかと思います」

「根拠はなんや?」

「勘です」

「そっか……やったら行こか。女子の勘を信じよ」

 神部の女子の勘が当たるのかどうか。

 ひとまず2回表は5番・坂谷にレフト前ヒットを許しながらも、後続を断ちきって4人でチェンジ。いつも通り、むしろいつも通り過ぎて何も特徴のないイニングにも見えた。



 3回の表。ここまで打者7人を完全に抑え込んでいる鶴見。彼の前に神城曰く航空母艦が立ちふさがる。

『8番、キャッチャー、宮島』

 もちろん立ちふさがっただけで安易に撃沈される可能性も無きにしも非ずだが、正攻法ではない何かに期待もできる。

『(さて、今日の鶴見の調子はどうかな? ここまで完全って時点で、悪くはない。ってことくらいは分かるけど……)』

 少し調子が悪いくらいが敵方としては楽しいものなのだが、普通調子となるとチートすぎて面白みに欠ける。

「ファール」

 インコース低め。膝元へのカーブを真芯で捉えるも、打球はサードのわずか横を破ってファールボール。

『(おや? 当ててきた?)』

『(おっ? 当たった?)』

 難しいコースに対応した宮島に、打たれた鶴見も打った本人も驚きの表情。

『(やっぱり宮島くんの張り打ちは怖いね。その張りも度々的中するものじゃないけど、他の人より狙いが狭い分そこにはまったらやられちゃうみたいだ)』

 それであって一発もないわけではないのが怖いところ。特にこの宮島に一発を浴びた暁には精神的ショックは尋常ではない。

「ストライク、ツー」

 2球目はアウトコースへのストレート。またも読みの当たった宮島がスイングに行くも、バットは投球のわずか下を通過し空振りツーストライク。

『(マズイな。追い込まれたか)』

 0―2とはっきり追い込まれた宮島。ボールカウントの余裕が宮島から余裕を奪うが、対して有利な鶴見は気楽な表情で次なるサインに頷く。

『(次はどこに来る?)』

 インコースへのカーブ

 アウトコースへのストレート

 と、内外に揺さぶってきての3球目。

 三振を狙うか、タイミングを外すか。

仮に次の球の意図が分かったとしても球種が多すぎて絞り切れないが、絞らなければ打てないだろう。

『(だったらここは、あいつの得意球でもあるリカットボールに絞る)』

 三振を狙ってくると読んだ宮島。

 そうなると球種の候補はリカットボール、スライダー、スプリット、縦スラの4つ。しかしスプリット・縦スラに関してはその日の調子によって使い分けるはずなので、特定の試合で投げる球種はそのいずれかにリカットボール・スライダーを含めた3種類のみ。

 その中でも彼は昨シーズンオフにアメリカ自主トレで大きく成長したリカットボールを選んでくると予想。

『(そしてコースはインコースへのフロントドア。あいつがリカットを投げるなら、九分九厘ここだ)』

 インコースへ飛び込んでくるリカットボール。完全に球種・コースを特定した宮島の前で、竹中のサインを受け取った鶴見は背伸びをするかのようなワインドアップモーション。

 しなる彼の左腕から放たれた3球目は、

『(ア、アウトコースっ)』

 アウトコースへの投球。完全に狙いを外された宮島は諦めて見逃すと、その球はアウトコースへと逃げて行った。

「ボール」

『(っと? アウトコースへのリカットかよ。抜け球か?)』

 鶴見のリカットボールはその変化の鋭さから、右バッターに対しては右ピッチャーの『外角(アウトコース)スライダー』のような外に逃げる球として使える。しかし鶴見はこうした使い方をそれほど多くするタイプではないのだが。

『(今の健一くんの表情からして、よく見たと言うよりは狙いが外れたかな? それにしても見られたのは厄介かな。できればここで決めたかったところなんだけど)』

 宮島の予想しない奇襲作戦のようなもので三振を狙ったのである。ところが結果的には見逃され、カウント1―2。

『(危なかったけど、ボール球だったのは儲けもの。次はもらう)』

 鶴見の性格からして思い切って三振を取ってくるだろう。しかしながら今、鶴見の舵を取っているのは竹中である。

 内か外か。

 ストライクかボールか。

 ストレートか変化球か。

 三振を狙うか打たせてくるか。

 宮島と竹中の読みあいとなった4球目。

『(インコースストレート、逆球、か)』

 打ち気すら見せずに力を抜く。

「ストライクスリー、バッターアウト」

 これまでの読みあいに対して呆気ない勝負の終わり。裏をかいた点では勝利した感じがあるが、一方でその場の雰囲気では喜びが大きくはない。さながら打撃の下手な投手から三振を奪った感覚だろうか。

『(第一打席、見逃し三振。宮島くんらしいと言えばらしい結果ですね……)』

 4組を率いる広川にしてみれば、何も感じない方が無理な話。やはり彼の見逃し三振の多さは気になってしまうが、無理に来た球を打とうとした結果が去年夏~秋のスランプである。打撃下手が下手なりに結果を出す代償として払っているのがこの三振なら、目をつむらざるを得ないのが難しい点だ。

『(確かに当てて転がせば何かが起こるかもしれない……ですがプロ野球は、そして土佐野専はそんな何かが起こるほど下手な守備じゃない。ならば中途半端な凡退くらいなら、待ち球を放られる可能性に賭ける。悪い方法ではないのかもしれません)』



 本崎が鶴見の球を打てるわけもなく凡退。1、2、3回と続いて3者凡退のイニングが続く。

 4回表。主砲の三村にツーベースを許してしまい、さらに後続の坂谷にフォアボールを許しての1アウト1・2塁。ここまで好投を続けてきた本崎が2巡目につかまり大ピンチを招く。

 ところが6番・小松。

 低めの変化球を弾き返されると、打球は本崎の足元を襲って二遊間へ。かなり強めの打球であったが、ゲッツー体制で二遊間を締めていたのが功を奏した。原井が簡単に追いつくと、走り込んでくる前園に高速グラブトス。素手で受けた前園が1塁を踏み、スライディングしてくる1塁ランナーを避けながらファースト・神城に向けてサイドスロー。

「アウトっ、チェンジ」

 4回の表を零封。

 その一進も一退もしない。お互いに譲らない熱い戦いに、それを見ていた1年4組の野球科生たちはつい試合に食い入ってしまう。

 相手は1年生のメンバーでも知っている日米で争奪戦が繰り広げられている本格派左腕。さすがにまだ打ち崩せる気配すらないが、対する2年4組も先発が4回まで無失点の好投。バックも好守で盛り立て、何かの瞬間に1点が入ってしまえばそのまま勝ちそうな気配すらも感じてしまう。

 自分たちならいったいどうなっていたことか。きっと「1点も与えられない」と言うプレッシャーから守備のミスに繋がり、結果として得点を許していた事だろう。もしくは堅実なプレーをしすぎてアウトが奪えないか。

 先の原井・前園によるゲッツーも、原井が雑でも素早いグラブトス。そして前園がベアハンドからの1塁送球。前のイニングに置いては自分の張ったコースだけを待ち、そこに来たら容赦なく引っ叩く。見逃し三振上等。そんな宮島のようなことも1年生には簡単にできない。

 ミスを恐れて堅実に、悪く言えば保守的なプレーをしてしまうだろう。そして転がせば何かあると思い、待ち球以外にも手を出してしまうだろう。

 そのミスを恐れるプレーが、結果としてランナーの出塁を許したり、意味のない凡退に繋がったりと一番のミスに繋がるとは思わずに。


<次回投稿予定>

12/10 20:00

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