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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第11章 夢と希望と現実と
118/150

第3話 夢を背負いし2年4組

 金曜日夜。

 言わずもがな宮島の部屋に集まった一同。

 神城と新本が何をしているかは言うまでもない。

「明日、1組戦ですね。なんでも先発は鶴見さんとか」

 そして寝間着姿の神部はベッドにうつ伏せになり、秋原のタブレットを借りて明日の予告先発を確認中。その彼女の横に腰かけた宮島は、彼女の背後からタブレットを覗き見る。

「たしか1ヶ月ぶりの先発だってな」

「今季の鶴見さんは基本的にリリーバーですからね」

 鶴見はこれまで月1ペースでの先発登板は行うも、それ以外ではセットアッパー・クローザーでの登板が主となっている。そのリズムの狂いに賭けたいところであるが、その程度でリズムが狂う相手ではないであろう。

 宮島と神部が明日の試合について話していると、机の上に置いてあった携帯電話が鳴り出す。

「かんちゃん、電話だよ」

 鳴っているのは宮島の携帯電話。宮島はベッドから立ち上がって携帯電話を拾う。

「はいはい」

『お師匠様。こんばんは』

「……お前か。まぁ、携帯電話の着信だから分かってたけど」

 固定電話や昔の携帯電話ならまだしも、宮島の携帯電話は相手方の名前が表示されるタイプ。相手が宮島のお弟子さんこと松島だということは既に分かっていた。

「で、なんか用?」

『明日、試合見に行きます』

「明日?」

『はい。お師匠様、明日の試合はナイトゲームですよね』

「そうだな」

『1年生はお昼までに試合が終わるので見に行きます』

 プロ野球ではナイトゲームも多々ある。と言うわけで土佐野専では2年生途中からナイトゲームが行われることになる。1年生時は原則全試合デーゲームのため、観戦しようと思えば可能ではある。

「そっか。まぁ、気にしないから勝手にこいや」

『はい。みんなと行くので頑張っていいところ見せてくださいね』

『(みんな? 友人でも連れてくるのかな?)』

 彼女の「みんな」に疑問を覚えながらも、面倒な宮島はあまり深く突っ込まない。

「言われずともいつも通りやるさ。で、用件はもう終わりか?」

『お師匠様、冷たいです。中学校の時はもっと優しかったのに』

「いったい何年前の話してんだよ。もう面倒だから切るぞ」

『えっ、待って。もう少しおしゃべり――』

「あとはメールでもしてこい」

 何か言いたそうな彼女を封殺して電話を切ると、ついでに彼女からの着信を拒否設定。そのうえでサイレントモードに設定するが、武士の情けとして電源だけは切らないでおく。その様子を新本と海戦を繰り広げながら見ていた神城。

「どうしたん? 大方、お弟子さんからでも電話来たん?」

「な、なんで分かるんだよ」

「そりゃあ、『何年前』とか言うたら昔からの知り合いじゃろぉし、話し方からして親っぽくなかったじゃろぉ」

「すげぇ推理だな」

「名探偵神城と呼んでくれてもええで?」

 1年前、ちょうど神部と出会ったころの懐かしいネタをいまさらになって引っ張り出す。もちろん誰1人として神城本人ですら覚えていないため、本人としては『引っ張り出した』というより『新鮮なネタ』のつもりだが。

「宮島さん……楽しそうでしたね」

「どうしたん? 妬いとん?」

「妬いてないです」

 口ではそうは言っているもののどう見ても妬いている神部。

「神部さん、かんちゃんが大好きだもんね~」

「じゃのぉ」

「赤飯炊く~」

「うぅぅぅ」

 ここぞとばかりに煽っていく一同に対して相変わらず耐性の無い神部。なお宮島は以前のことがあるので割と笑えない。

「明日、あのバカがウチの試合を観に来ると」

「お弟子さんが?」

「うん」

 秋原からお茶を受け取りながら頷く。

「それならいいとこ見せないけんのぉ」

「私も頑張る」

「新本は特に頑張らないけんのぉ。最近、神部に立場を食われかけとるけぇ」

「にゃあぁぁ。言ってはいけないことをぉぉぉ」

 言ってはいけなかったらしい。

 どうもここ最近、野球に関しては影の薄い新本。神部の移籍で4組の女子選手と言う独占特許を分割することになった挙句、実力差からリリーバーの立ち位置を強奪された。一応は神部の超絶不調期と言う新本的好機もあったのだが、ここのところ新本も不振が続いている。厳密にはドラフト年であり急激成長を遂げる男子陣に、女子としての弱点が露骨に表れていると言ったところか。

 他の女子野球科生も一部を除き軒並み成績が急降下しており、その例外とも言える1組・榛原も急降下ではないにせよ降下中。そしてさらに超例外が神部。むしろ男子に食いつき、追い越しそうなまでの成長を見せているとか。

「新本はほかの投手との緩急で抑えてたけど、最近はじっくり待たれてはじき返され続けているからな」

「変化球はすごい」

「それでも神部に及ばないけどな」

 辛辣な意見の宮島。実際問題、新本の持ち球はスローカーブ・チェンジアップと鶴見直伝のスライダー。なかなかに豊富ではあるように見えるのだが質が伴っているとはお世辞にも言えず、さらに3球種くらいならばとりたてて珍しい話ではない。

「新本が第1線で活躍していた頃が懐かしいのぉ」

「でも多くの生徒が投手から野手転向を強いられた中で、入学から今まで投手として立場を貫いている。って点では、評価すべき点はあるかもだけど」

 4組でいえば、小村や小崎が投手から野手へと転向している。前園も転向しているのだが、彼の場合は転向を強いられたというよりは野手に目覚めたためでもあるので、少し性質が異なると言っていいだろう。

「物は言いようじゃのぉ。そう考えたら、新本がすごい投手に見えてきた」

「別にそこまですごくはないだろうけどな」

 新本がすごかったわけではなく、ほかの投手に比べて特異性があった。というだけの話であり、宮島の言うようにその特異性を生かしたのは評価すべきである。しかしその特異性以外に際立った武器を持たず、その特異性にも対応されるようになりつつある今となっては、それほどすごいとは言えないのが実情なのだ。

「ま、とにもかくにも、明日は後輩が見に来るんだから頑張らないとね」

「僕はいつも通りやるつもり。あいつが見ようが見まいが、気にすることはない」

 秋原の激励にも宮島は冷たい対応。プロスカウトから目を向けられている今までの試合ですらいつも通りなのだから、後輩に見られる程度でとやかく言わないのは当然である。



 土曜日。今日は初のナイターゲームと言う事でいつもとは違うタイムスケジュール。朝方に軽めのトレーニングをした以外は特に体を動かしはせず、試合に備えて体をゆっくり休めることに。

 そして試合の1時間くらい前から練習開始予定ということで、宮島は夕方になってようやく球場へと向かう。そこに神部がついてくのはもちろんのこと……と、思いきや不在である。神部は先乗りで小村とピッチング練習。神城・新本は少しゲーム展開が長引いているため、時間いっぱいまで部屋に。秋原はマネージメント科業務で先乗りである。

 よって珍しく1人での球場入りである。

「な~んか、いつもと違うなぁ」

 宮島はその道中でいつもとの違いに違和感を覚えずにはいられない。夕食後に自主トレを行ったり、自主トレでなくとも外出したりするのは珍しいことじゃない。しかし試合ともなると気の持ちようがまったく違う。特に小村のようなキャッチャーの場合は神経をよりすり減らすもの。良く言えばピッチャー主導リード、悪く言えばピッチャーに負担を押し付けている宮島はキャッチャーの中でもまだ楽な方である。

 会話をする相手もおらず。かと言って独り言を発するようなこともなく。ただただ無言で何かしらに意識することなく目的地へ。と、そんな彼に声が掛けられる。

「お師匠様~」

「……」

 明確に聞こえたわけだが、聞こえなかったフリでその声を無視。しかし向こうは彼の姿を確認しており、人違いと言う線を消しているわけでもう一度声を掛けてくる。

「お師匠様~」

「よし、何も聞こえない」

「お師匠様~」

「あぁぁ、もぅ」

 後ろや横から声を掛けられた分に関してはまだしも、前に回り込まれて手を振りアピールされたら無視するわけにはいかない。宮島はやや怒り口調で彼女の頭へと拳骨を落とす。

「った。殴るなんてひどいですよ。お師匠様ぁ」

 頭を押さえて半分涙目の松島だが、宮島はまったく悪びれる様子もない。

「うるせぇ。無視し続けてるのにしつこく呼びかけるんじゃねぇよ。しばくぞ」

「可愛いお弟子さんですよ~」

「生意気な後輩の間違いだろうよ」

 相変わらず冷たい態度で接する宮島の一方で、松島はまるで神部のような懐きようを見せる。と言っても神部とは違って当然の事であり、2年間一緒に野球をしており何より宮島はあまり認めてはいないが師弟関係にあるのだ。

「あ、あの、宮島先輩ですよね。初めまして」

 と、その『可愛いお弟子さん』であり『生意気な後輩』である松島の隣。制服姿の別の女子学生がいた。

「あ、初めまして」

『(あれ? この子、見た事あるな)』

 丁寧な礼に始まる彼女は宮島にとって面識のある人間。というのも、

「もしかして君、入学初日に遅刻した?」

「え? し、しましたけど……」

「あの入学初日に遅刻した肝っ玉のめちゃくちゃデカいヤツか」

 ぶつかりそうになったものの、お互いにフィジカルエリートらしい飛び抜けた反射神経で回避した。あの彼女である。

「高川さんが遅刻したのを知っているってことはお師匠様も遅刻を?」

「遅刻と言っても、先生に許可はもらってるけどな……高川?」

「はい。高川双華(たかがわそうか)です。いつも兄上様がお世話になっています」

「さては兄ってあの――」

 土佐野球専門学校が誇る野球データベース分析機関。自分の名を取った『高川データベース』の管理官を思い浮かべる。と、

「おっ。双華」

「兄上様」

「やっぱりてめぇの妹かよっ」

 丁度その兄上様こと高川データベース管理官・高川秀仁が姿を現す。

「なんだ。4組野球科のキャプテン様もいたのか」

「それはこっちのセリフだ。何しに来た」

「ちょっとマネージメント科棟まで不足物資の申請に」

 と、主張。

「てか、こんな妹いたのかよ。お前」

「いたぞ」

「似合わねぇな。こんな可愛げのある妹に対して、このマンガに描いたようなオタク感満載の兄って」

「この隠された仮面の下を見せる時がきたかな?」

「タチカワーズの一員ってことか?」

 この言い様からして明らかにタチカワーズの一員と見ていいだろう。しかし、彼は彼のトレードマークでもあるメガネを外す。

「なに、その無駄なイケメン」

 少女マンガにおいて人気投票2位くらいにきそうなイケメンフェイスであった。メガネのあるなしでキャラが変わりすぎである。昨夏、海に落ちた際にメガネを外している、もとい外れているのだが、そこまで至近距離でなかったため宮島も実質初見である。

「実はメガネが無いとモテてモテて仕方なくてなぁ。だから仕方なくメガネを掛けているんだよ。まったく、モテるのは辛いぜ」

「因みに裸眼視力は?」

「0.08」

「普通に要・矯正じゃねぇか」

 いかにもな伊達メガネアピールだったが、どう考えても伊達メガネではなかったようである。

「あ、そういえば兄上様」

「ん?」

「なんでも兄上様が作ったデータベースがあるとか。そこへのアクセス権限が欲しいのでもらえますか?」

「へいへい。じゃあ、適当にアカとパス作ってメールしとく」

 高川兄はその伊達ではないメガネを押し上げつつ返事。

「高川。こいつ僕の後輩なんだけど、ついでにこいつにもアクセス権限あげてもらっていいか?」

「なるほど。まぁ、キャプテンの後輩とあらば断わる理由もなかろう。了解だ。メールは宮島の分に送信しておくから、勝手に転送してくれ」

「どうも」

「さて、キャプテン。そろそろ行かないと、練習時間を押してしまうのでは?」

 師妹(してい)・兄妹で試合前の雑談をしていたところだが、高川の時計チェックでひとまず打ち切りとする。自らも野球科であり、試合前の時間の重要性を分かっている2人の妹も無理に話を続けようとはしない。

「それじゃあ、お師匠様。今日は頑張ってください」

「お前に言われずとも、やることはやるさ」

「兄上様も頑張ってくだされ~」

「自分は試合中に関してはほとんど何もしねぇけどな。じゃ、宮島。さっさと行こうぜ」

 女子2人の応援を背に受けて球場入りする両名。

 宮島はその道中で高川をいじってやることに。

「しかし、お前って妹から『兄上様』って呼ばれてるんだな」

「時代劇にはまってた時期だったか。登場人物が口にしていた『兄上』と『兄様』が掛け合わされてしまったとかなんとか」

「だからか。少し古臭い語感だった気が」

 できればもう少しその『兄上様』なる特徴的な呼び方で高川を揺さぶってやりたかったが、特に時代劇方面の知識にも欠け、さらにはもっともな返され方をされてしまっては、納得こそすれいじりはできないのである。



 6時開始予定のナイターゲーム。仮に試合時間を3時間として終了予定が9時となるため、早めの夕食をとるメンバーも多い。

「新本、何食ってんの?」

 遅れてやってきた新本だったが、更衣室に来るなりカバンの中からプラスチック容器を取り出して食事中。

「うなじゅ~」

 ビニール袋の中にあったレシートを見てみると『うな重(特上)』の文字。かなりいいものを食べているようで。

「かんぬ~は食べないの?」

「さっき、明菜に作ってもらったおにぎりを食べたところ。あまり直前にがっつり食べすぎると動けないからな。てか、もっと早く食っとけよ」

「リリーバーだから、遅めにしないとお腹すいちゃうもん」

 それを言ってしまうと宮島は試合展開次第で新本よりも早く出場し、新本よりも遅く引くことになるのだが。

「しかし宮島。おにぎりだけってのは腹が減るじゃろぉ」

 そしてこちらは曰くお好み焼きを食べてきた神城。広島風が無く関西風で妥協したとかなんとか。

「試合後には夕食とるしな」

「それもそうじゃのぉ。けど、おにぎりだけってのも味気ないじゃろぉ。自分でおかずでも作ったらどうなん?」

「僕の家庭科のセンスは凄いぜ?」

「塩と石灰を間違える感じかのぉ」

 なぜ台所に石灰があるのか。

「じゃったら冷凍食品買っとってチンするとか、秋原に作ってもらうとかあるじゃろぉ。というか、よぉ考えたら宮島は神部に作ってもらったらえぇじゃろぉ」

「まぁ、神部の手料理は意外に美味かったもんなぁ」

 いつぞや卵焼きを作ってきた神部。宮島の口にあったようであり、あれだけでもあれば試合前の食事も充実するものだが。

 などと聞けば耳聡く反応するヤツ。

「そ、そうですか? 宮島さんが食べたいならまた作っても……」

 彼が大好きな神部は照れながらに提案するが、それを宮島は丁寧に固辞。

「いや、試合前にそういう負担をかけるのはやめとこう」

「そう、ですか……」

 普段の感謝を伝える&アピール機会を逃してほんのり残念。

「休日にでも頼まぁ」

「はい」

 その表情を読んだ宮島の機転により回復。

『(宮島、表情読むの上手いのぉ)』

 その洞察力が相手の裏をかいた奇襲攻撃。そしてピッチャーの気持ちを読み取るピッチャー主導リードや、的確なタイムのタイミングと言ったところに現れるのだろう。

『(ぶっちゃけ、打力に関しては貧弱、守備もキャッチングを除けば土佐野専でも下の方じゃろぉけど、そういう見えないプレーが上手いんよなぁ)』

 彼自身は成績を残せないが、周りの成績を上げるのに貢献するタイプ。

『(さしずめ、空母みたいなヤツじゃのぉ)』

 土佐野球専門学校は高火力の戦艦、高機動力を誇る攻撃機から構成された超攻撃的集団。そうした馬鹿みたいに攻撃を叩き込んでいるメンバーに比べると『自分自身』の能力は高くないが、その存在や仕事が敵味方に与える影響は計り知れない航空母艦が宮島健一である。

 ……と、言うのが神城の意見の内容である。

『(見る限りではいつも通りじゃし、本当に後輩に見られる状況でもいつも通りなんじゃのぉ)』



「ではみなさん。少し集まってください」

 試合前。広川がミーティングルームに全員を集めた。

「では、本日の試合のスターティングオーダーを発表します」

 広川はホワイトボードの盤面をひっくり返し、書かれているオーダーを全員に見せる。


1番 ファースト 神城

2番 ショート 前園

3番 センター 小崎

4番 レフト 佐々木

5番 サード 鳥居

6番 セカンド 原井

7番 ライト 天川

8番 キャッチャー 宮島

9番 ピッチャー 本崎


1組予告先発 鶴見


 ここ最近、センター起用の多かった神城が本職ファーストへ。結果として空いたライトに天川が入り、調子のいい本崎が第1試合の先発。それら普段と違うところはあるが、割と今日の試合はベストオーダーを組んでいるとも言える。

 相手投手が1ヶ月ぶりの先発となる、メジャー内定左腕・鶴見であることも挙げられるが、それでも本気で1組に勝ちにいく布陣である。

「ここに名前のない控えの方も、試合展開によっては出番があるかもしれません。ですので気を抜かないように」

「「「はい」」」

 広川はやや落ち着いた声でいつものセリフを言った後、返事を聞いてから軽く深呼吸。気持ちを整えてから全員の方を向き直る。

「時にみなさん。プロ野球選手にとって必要なことはなんでしょうか?」

 広川の突然の問い。ただ聞かれた以上は考えないわけにもいかず、全員は黙りこくってその答えを考える。

「野球技術~」

「たしかに」

「ファンへの対応ですか?」

「それもあります」

「威厳。そう、自分のように」

「それは知りません」

 広川はひとまず新本、宮島、ついでに立川の答えに対応してから言葉を続ける。

「新本さんの言う野球技術はプロ野球選手である以上は必須です。ファンへの対応もファンあってのプロ野球である以上、必要ないことはありません。ですが、他にもあります。野球のプロとして、野球の楽しさを一般の人に伝える事。夢を与える事。希望を与える事……」

「広川さん?」

 言いにくそうにする広川に、宮島がふと声を掛ける。と、

「本日まで1年生4組は学内リーグ戦で勝ち無し。チームの雰囲気は決していいわけではありません。そのことはみなさんがもっともよく分かっていると思います」

 急に後輩の話をし始める。その真意は、

「1年4組監督・小牧長久より話がありました。本日の試合。昼間に試合を終えた1年4組のみなさんがこの試合を観戦します」

 突然の告白に、全員がより静まり返る。

「今日の試合、アマチュア最強左腕・鶴見誠一郎を打ち崩し、最弱クラス1年4組に、『元最弱クラスでもここまでできるんだ』と、プロを目指す人たちに希望を与えてください。今までプロ野球選手から夢や希望を与えられてきたみなさんは、今日の試合、プロ野球選手の卵として夢や希望を与える側です」

 広川はより強い目で全員を射抜く。

「ここではっきり指示します。2年4組、鶴見誠一郎を打ち砕き、2年1組を完膚なきまでに粉砕せよっ」


<次回投稿予定>

12/8 20:00


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