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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第10章 信頼と依存
111/150

第7話 眠れる獅子の目覚め

 先ほどの宮島の拳は割と本気の一発。次第に彼女の右頬は赤くなっていき、ついでに腫れてふっくらしてきたのだが、気持ちが高揚しつつある彼女には関係ない。

 宮島に喝を入れられた神部

 その神部から信頼を得た小村

 新・バッテリーがこのピンチで2組打線に立ち向かう。

「審判、ええで?」

「えっと……プレイ」

 このままプレイを掛けていいのかどうか悩んでいたが、小村にも催促されてプレイ再開宣告。

『(バッターは村上さん……)』

 同じ長野県、それも同じ上田市出身の縁。それだけじゃない。

 去年。彼女がスランプから立ち直った試合。

 あの時も自分の前に立ちはだかったのは彼である。

『(バットコントロールと長打力を併せ持つ怖いバッターですけど)』

 小村の出したサインに頷く。宮島とは違う傾向のものではあるが、もう迷うことはない。

『(私のために私を殴ってくれた宮島さん。この頬の痛みを力に変えて――)』

 左足が地面を擦るかのような低空飛行で引かれ、勢いよく前へと踏み出される。クイックモーションからの初球。

『(――このピンチを抑えるっ)』

 まずは腰の回転。そこから右肘を突き出す投球モーション。

『(これはっ)』

 打席に立っていた村上はボールを捉えられない。

 タイミングが計れず、コースもまだ分からない。

 遅れて出てきた右手がボールをリリース。

 弾きだされたボールは、

「ストライーク」

『123㎞/h』

 インコースギリギリいっぱいに決まるストレート。

「タイム」

 と、その初球を見て村上は一旦、打席を外す。

『(み、見えなかった)』

 この感覚はかなり久しい。まるであの時の様な。

『(ど、どうして、どうしてこんなに打ちにくいんだ。彼女の球は)』

 とにかくボールの出所が見えにくい。その一点に尽きる。

「村上、かなり打ちにくそうだな」

「そうなの? でも~、右ピッチャーには左バッターが有利って言うよ~」

 新本の言うように、一般的に右バッターは左ピッチャーに、左バッターは右ピッチャーに有利である。これは右バッターなら左に、左バッターなら右に首をひねることが根本的な原因となる。スタンスの取り方や可動域の個人差もあるが、基本的に首の回転には限界がある。そのため右対左、左対右では視野の中央付近にピッチャーのリリースポイントが来るのに対し、右対右、左対左では視野の端寄りに来てしまうのである。

 しかし対神部の場合は話が別であると、数多くの球を受けている宮島は考える。

「左バッターは神部の後頭部が見えにくいんだよ」

「うにゃ? 後頭部?」

「神部は頭や体でボールを隠して、球の出所を見えにくくする投球フォームをしている。で、右バッターと左バッター。どっちが早く球の出所が見えるかと言ったら、右バッターになる。だから左が打ちにくいって理屈なんだけど、分かる?」

「分かんな~い」

「高川」

「しゃあねぇな。新本ぉ。鼻の少し前に手をかざしてみろ」

「にゃっ」

 高川の言うように鼻の10~20センチ前に右手をかざす新本。

「右目だけと左目だけ。どっちで見た時に、手の左側から(・・・・・・)奥が見える範囲が広い?」

「左目~」

「そういうこと」

 仮に手をピッチャーとすると、左目は右打席の視点、右目は左打席の視点となる。そこから右手の左側(ピッチャーの左側=右投手のリリースポイント)を見る時、どちらの目で見る方が見やすいかと言えば左目である。

「つまり神部が左にとって打ちにくいって言うのは、視野中央からボールが来るメリットに対し、ボールが見えにくいというデメリットの方が大きいから。ってことになる。で、宮島、どうよ? キラン」

「光るメガネのセルフ効果音が無ければ最高」

 最後の最後で大減点である。

 ただ説明自体はほぼ完璧。

 その利点は間違いなく左バッターの村上を苦しめる。

 第2球。背負った刀を抜くような腕の使い方から右手を飛び出させ、さらにかなりキャッチャー寄りでリリース。地面へと叩きつける意識で投じた2球目は、

「くっ」

『(これは――捕れん)』

 ホームベースの真横にバウンドしたスプリット。小村が身体を張って止めにいくも、彼の右肩の上をかすりすらせず通り過ぎていく。

「GO、GO」

 ワイルドピッチ。村上は3塁ランナー・大谷へとホーム突入指示。ややオーバーリード気味だった1塁ランナー・竹田も2塁へとスタートを切る。

 小村は振り返ってボールを拾いに、神部は投げ終わってからホームへカバーに向かう。しかし間に合うはずもなく、ボールを拾い上げた小村が神部に送球するもその前に大谷がホームベースへと滑り込む。同点のホームインだ。

「ワイルドピッチか」

「宮島くんなら止めてますね。いえ、それどころか……」

「あれくらいなら捕って、オーバーリードの1塁ランナーを殺せると思います」

 キャッチャー・小村なら1点を奪われノーアウト・ランナー2塁。

 宮島なら無失点で、1塁ランナーを殺して1アウト3塁。

 打撃や肩はともかくキャッチングは標準以下とも言われる小村。対して、1組・大森、2組・高村、3組・田端、4組・広川の元プロ2年生監督陣に「プロでも上位」と言わせるキャッチングセンスを誇る宮島。なにせ宮島は一般のキャッチャーが「止めにいく」ものを「捕りにいく」ことができるほど。

 盗塁阻止に比べるとインパクトは薄いが、ピッチャーに思い切って投げさせること、後逸が怖い場面でも選択肢を減らさないこと、バッテリーエラーによる失点を防ぐこと。『捕る人』(キャッチャー)という名前の通り、キャッチングはキャッチャーにとって重要であり基礎的な能力である。

「キャッチングの上手さってあまり評価されないんですよね……なんでなんですか? 広川さん」

「プロは普通の送球なら捕っちゃいますから、捕れて当たり前みたいなところがあるのでは? +αが評価されないのは、それゆえにキャッチングが注目されないからではないかと」

 宮島が広川に向けて質問すると、それっぽい答えを返してくる。

 キャッチャーやファーストはプレーに関わる機会が多いだけに、特にキャッチングの良さが問われる。宮島と小村では暴投+捕逸の数が明らかに違うし、神城が外野をするようになってから4組の内野手失策数(暴投)が爆発的に増えている。

 しっかり捕ってくれる選手がいるからこそ、投球・送球する側も他のプレーに集中できるのである。

「しかし神部さんはここが試練ですね」

「ノーアウト2塁。クリーンアップ」

『(抑えられますか?)』

『(抑えられるかな?)』

 カウント1―1の平行カウント。

『(暴投直後。今までのように腕を振れるかな?)』

 いくら委縮した彼女は怖くないとしても、多彩な変化球は追い込まれてからでは厄介である。ならば暴投直後の次が勝負球。低め暴投を意識して高く浮く球を打つ。

 勝負の3球目。

 神部の腕は――

『(見えないっ)』

 暴投を恐れてはいない。遅れて飛び出すその右手がボールを弾く。

『(けど、打てない球では――)』

 完全に振り遅れた。しかし振り遅れ上等。このタイミングなら、

『(――ない)』

 レフト前へと運べる。

 村上の振り抜いた打球は三遊間への痛烈なゴロ。いち早く反応した鳥居(サード)が飛びつくが、グローブは打球を弾く。ただそれで勢いを無くした打球。弱い勢いとなってレフト方向へ転がるボールにショート前園が追いつき逆シングルキャッチ。右手にボールを握り替えながらジャンプし、空中で体勢を整えつつ1塁へと大遠投。

 体勢も悪く余裕のないワンプレーに送球はハーフバウンドになるも、

「よっしゃ。ナイスプレーで、前園」

 1塁を守るは名手・神城。難なく捕球し村上を1塁で殺す。

「さすが前園くんです。やりますね」

「ただこのプレーでランナーが進んだ。1アウト3塁でバッターは……」

『4番、キャッチャー、西園寺』

 主砲である。

『(小村くん。ここはお任せします……意味、分かりますね)』

 1塁は空いている。ならば無理に4番で勝負する必要もないし、1塁を埋めてゲッツーが選択肢として現れれば、内野の守備シフトも前進にこだわることはない。果たして小村の選択は。

「ボール」

 まずはアウトコースに1球外した。

 敬遠とも取れるが、慎重に勝負にいったとも取れる1球。

『(僕の場合あくまで主導権はピッチャーにあるけど、自分ならここは歩かせるつもりで際どいコースを突いていく。小村はどうする?)』

 2球目。

「ボ、ボール」

 低めワンバウンドするストレートを、小村は体を張って前へと落とす。

『(っぐ。やっぱプロテクターしてる言うたかて痛いもんは痛いんよなぁ。けど、み~やんと違って捕れへん奴は、こうでもせんとあかんのや。最低限止めときゃ無駄な進塁はあらへん)』

 小村はボールを交換後、神部に投げ渡してからサインを送る。

『(てか、み~やんはよぉこんなん捕れるなぁ。他にもたつやんのフォークや、てっちゃんの縦スラ捕れたんやからまともやないで?)』

 たつやんこと立川のビクトリアフォールズ(フォーク)や、てっちゃんこと長曽我部(てるよし)の縦スラ。その低めワンバンを止めるのではなく捕っていたのが宮島である。

『(なんつーキャッチングセンスしてんねん。あいつ)』

 カウント2―0と大きくボール先行。ストライクカウントが欲しいところだが、かといって簡単にストライクへ放ればスタンドインである。そもそもこの西園寺は歩かせる前提で、打ち取れば儲けもの程度に勝負中。無理する必要はない。

『(最悪、当てちゃお~)』

 ついに吹っ切れた小村はノリノリでインコースへとミットを構える。

 そのテンションはさしずめ『宝くじ当てちゃお』くらいのノリである。

 フォアボールなら4球必要だが、デッドボールなら1球でOKだ。これほど楽な敬遠はない。既に2球投げているが……

 セットポジションの神部は、その瞳孔が大きく開いた目で3塁ランナーと睨みあい。目で牽制したのちに大きく足を上げて投球開始。

『(よっしゃ、とかやん。ナイスコースや)』

 高さは要求よりも少し甘い気がするが、結構なボール球である。こんな球にわざわざ手を出す奴なんて、

『(うそやんっ)』

 いた。

 西園寺はインコースのボール球をレフトへと打ち上げる。何もボール球を打ってはいけないルールなんてないのである。神城なんかはしばしば低めワンバウンドをヒットにしているし、3組・バーナードに至っては通常のストライクゾーン+ボール2個分くらいはしれっと打ってくることがある。と言うわけでなにも不思議ではない。

 打球はレフトを守る大野が捕球。するとランナーはもちろんのことスタート。

『(どや、間に合うやろか?)』

 大野はそれほど強肩ではない。しかし、

「前園。ボールバックや」

 中継に入った前園は、腕やスナップだけで矢のような送球を見せるメジャーリーガーのような守備巧者である。

「OK、任せっ」

 グローブで捕っていては間に合わないと判断した前園。外野からの送球を素手でキャッチすると言う曲芸から、そのままホームで待ち受ける小村に向けてレーザービーム。しかしランナーの竹田はそこそこの俊足持ち。小村の背後に回り込むスライディングからホームベースをタッチ。逆転のホームインとなる。

「3失点目。まったくあいつは……」

「しかし宮島くん。君が喝を入れてからは2者凡退ですよ?」

「ランナーがいなけりゃ無失点でしょうけど、それ言い始めたらキリがないですよ」

「それを言ったら、1打席目に打ち気を見せずに見逃し三振した、傍からしてはやる気の見えないバッターはどうしましょうか?」

 痛い所を突かれて黙り込む宮島。

「宮島くんの言わんとしていることは分かります。しかし土佐野専のリーグ戦とは勝ち負けや成績はそれほど気にするものではありません。一応、今の実力を計る指標にはなりますがね。ですがむしろリーグ戦の位置づけはあくまでも定期的な実戦練習です。プロではないのですから、結果よりも過程や考え方が大事なこともあります」

 広川は宮島に視線を向けて確認をとる。

「宮島くんの見逃し三振だって結果を見ればやる気なしです。しかしそれは『山を張った』という積極性のある見逃し三振です。少なくともそれ自体は否定するべきものではありません」

「確かにそうですね。でも、それでもあいつをまだ褒める気にはならないですね」

「それで結構です。その事の本質さえ分かってもらえれば、あとは褒めて伸ばすも、崖から突き落として這い上がらせるも自由です……って、あれ?」

「どうしました?」

「君、一応生徒ですよ? なんで指導者的立ち位置なんですか?」

「なぜでしょう?」

 宮島もそこのところは不明である。ただ事をさかのぼれば、1年前に長曽我部へ変化球を教えたあたりからだろうか。その頃からただの生徒だったものが、指導者的な視点も持ち始めてきている。ただ野手と言う扇の要であり、投手陣を支える女房役であること。それからチームの前に貢献したいと言う思いがこのような立ち位置に繋がってしまったのだろう。

「まぁいいでしょう。ではその指導者兼任生徒さん。教え子さんをしっかり見守ってあげましょう」

「なんですか。その不思議なプレイングマネージャーは」

 宮島と広川は揃って視線をグラウンドに戻す。

 見るとバックスクリーンにはストライクを意味する黄色いランプ、ボールを意味する緑のランプが1つずつ点灯。

『(平行カウント。小村、これからボール先行にするか、ストライク先行にするかが大きく勝負のしやすさを分けるぞ)』

 ここまで3打数2安打と調子のいい5番・石山に対して第3球。

「ファール」

 ツーシームで芯を外してファールボール。結果としてはストライク先行カウントと変わる。

『(よし、追い込めた)』

 球審から新たなボールを受け取った神部。セットポジションに入る前に、足元のロージンバックに手先を付ける。

『(あと1球。あとたった1球です)』

 右足をプレートに掛けて小村のサインを覗き込む。

『(どうせボールカウントには余裕があるんや。やったら、せめて次くらいはボール球覚悟で勝負しようや)』

『(低めスプリット……)』

 偶然にも自分の投げたい球ではあるが、悩ましい配球である。もし受けるのが宮島ならここは迷いなく首を縦に振っていた。しかし小村であれば首を横に振りたい。何よりも同点のホームインを許したあの暴投が頭をよぎるのだ。あれは暴投であり小村のミスではない。しかし宮島なら捕っており、責任のありか以前にバッテリーミスなど発生しなかった。

 もしここで空振り&暴投ならば、振り逃げでこの回は続く。

 その不安が渦巻く中で神部は、

『(分かりました。低めに沈めます)』

 首を縦に振った。

 ボールを握る右手をグローブの中に入れてセットポジション。

『(今、私に必要なもの。それは、宮島さんの存在じゃない)』

 左足を上げた彼女は腰を時計回りに軽くひねる。ランナーが不在でクイックモーションの必要がないからこそできる、全力のリトルトルネード投法。ひねって蓄えた力を開放しながら上げた左足を踏み込ませる。

『(私に必要なのは、思い切って低めに投げる勇気。小村さんでは捕れないかもしれないけど――)』

 彼女の頭の中にもう1つの光景が浮かぶ。

『(捕れないかもしれないけど、止めてくれるっ)』

 宮島とのバッテリー時に見せる腕の振り。リリースがとにかく遅く、よりバッター寄りでボールが右手から離れる。

 低めへのスプリット。これをバッター・石山は、

「ストライクスリー」

 空を切った。が、球審からバッターアウトのコールはない。ワンバウンドである振り逃げが成立するうえ、小村がボールを体に当てて止めるも弾いている。

「しめたっ」

 石山はバットを投げ捨て1塁にスタート。まだこの回の攻撃は終わっていない。

 しかし小村もそうはさせない。なぜなら今の低めスプリットは、神部が自身を信用したからこそ放ってくれた一球。彼女の信用を裏切るわけにはいかない。

「振り逃げなんてさせへん。絶対殺したるで」

 近くに転がっていたボールを拾った小村はランナーと交錯しないような位置取りから、ファーストに向けて送球。その送球は少し危なっかしいものになるも、

「残念じゃのぉ。今日のファーストは名手・神城じゃけぇのぉ」

 自画自賛する神城が危なげなく捕球。

「アウトっ、チェンジ」

 1塁審判の腕が上がった。

「おっしゃ」

「よしっ」

 小村がマウンドに向けて右拳を突きつけるガッツポーズ。と、神部はそのお返しにマウンドを降りながらガッツポーズ。さすがにノーアウト1・3塁で無失点とはいかず1回3失点。友田の勝ち星を消した挙句、防御率に直せば27.0と散々たる成績ではあった。だが復活までの一筋の光を見出すことができた。彼女には大きな収穫のある試合となった。

 ベンチに戻った神部は散々な成績を励まされながらも、どこか満足そうな表情。しかしそれをすぐに引き締めて彼の元へと向かう。

「み、宮島さん……」

「1回3失点。よくまぁ、試合をぶち壊したもんだよなぁ」

 そうツンケンした態度を維持する宮島に、広川はグラウンドに視線を向けながら笑みを浮かべる。

「力……及ばなかったです。ごめんなさい」

 彼女は頭を下げながら、さらに言葉を続ける。

「宮島さん。もし、もしも、私が全力を発揮できようになったそのときは、もう一回、バッテリーを組んでもらえますか?」

「まぁ、その時は考えてやる」

「それともうひとつ……もし、私がまた間違えた事を言った時は、容赦なく殴ってください」

「考えとく」

『(さ、さすがにねぇ……)』

 自分のプロ入りがかかっている状態でそんな橋を渡るのはリスキーである。

「けど宮島。神部はええって言うとったけど、女子をガチで殴るのはほどほどにしときぃよ。僕だって今までで1回しかやったことないけぇのぉ」

「やったことあるのか」

「やったで? ついこのあいだ新本が広島のお好み焼きを『広島焼き』とかぬかしたけぇ、1回だけしばき倒したんよ」

「広島県民怖っ」

「失礼な奴じゃのぉ。それに、結局は平和的解決を迎えたけぇのぉ」

 お好み焼きは関西か広島かを巡って行われたのが、以前の新本日本帝国海軍VS神城世界連合海軍のゲーム対決である。あれは神城が日本帝国海軍を全艦撃沈させて勝利を収めたのだが、最終的には『関西風お好み焼き』『広島風お好み焼き』と区別しお互いを『お好み焼き』として尊重することで和議が結ばれた。

 非常にどうでもいい話である。

「シロロンにお好み焼きのお店教えてもらった~」

 と、後ろでアピールしている新本。一応はベンチ入りしているのだが、なんでも「へそのごまをほじって取ったところ、少しお腹が痛くなった」とのことで無理せず登板予定はなしとなっている。が、割と元気そうである。これなら明日は大丈夫だろう。


 なおこの試合は、9回表を藤山が無失点に切り抜けて1点差で迎えた9回の裏。

 ツーアウト満塁から9番・小村のサヨナラ2点センター前タイムリーで勝利を収めた。



「タイム。ピッチャー、神部」

 翌日、続けて対2組第2カード。

 本日の先発は本崎―小村バッテリーだったわけだが、本崎が2組打線につかまり3回途中ノックアウト。そこで広川は中継ぎとして神部を投入。意図せず神部―小村バッテリーとなるわけで、普段の彼女なら気合いの入りきらない表情をしているところであろう。しかし今日の神部は明らかに違った。

「小村さん。今日もよろしくお願いします」

 宮島と組む時ほど嬉々として出てはいかないが、それでもベンチからマウンドに向かう姿は頼りになるリリーバーであった。

「あれ? 神部さん、何か違う?」

「じゃなぁ。神部の中で何かが変わったんじゃろぉ。と、思うけど宮島はどうなん?」

「んなもん知るか。新本……は休みか。塩原。ブルペンに行くぞ。神部は昨日も投げてるし、先発の本崎がイニング食えなかったとなると5、6回あたりあるぞ」

 それまでベンチで試合を観ていた宮島だったが、神城に神部の話を振られるなり塩原を連れてベンチ裏へと消えて行った。

「新本が牡蠣にあたって休んどるけぇ投手が苦しいのは分かるけど、どうしたんじゃろぉなぁ」

「かんちゃんはかんちゃんで、神部さんに思うところがあるんじゃないの?」

「お、それは面白そうな展開じゃのぉ。ラブコメある?」

「ない……とは言い切れないんじゃない?」

 第2戦結果 2組  9 ― 6 4組

 神部友美 1・1/3イニングを1失点(自責点0)


次回投稿予定

10月4日20:00


以上!!

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