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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第10章 信頼と依存
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第2話 新本 VS 神城 & 秋原 VS 宮島

 女子とは勘が鋭いものである。

 そして秋原明菜は女子である。

 つまり秋原明菜は勘が鋭い。


 三段論法的に言えば正しい内容である。もしこの件を否定するならば「女子である新本は言うほど勘が鋭いか?」と、前提条件に疑問を投げかけるのがベストである。いかなる論述であっても前提条件が崩れてしまえば、あっさりと崩壊してしまうからである。

 しかしそのような議論の必要性はなく「秋原明菜は勘が鋭い」という話は正しいのである。

 その彼女はある疑問を抱えていた。

『(なんでかなぁ?)』

 今までは非常に強く見えていた絆が、最近ではかなり希薄なものに感じられてきたのだ。

 食堂にて夕食中である現在。椅子の6つある机の一角に座った彼女が正面を向く。その先にいたのは鍋の乗っかったすき焼き定食なるものを食べている宮島。彼自体の態度と言ったものは前々とそれほど大きく変わるものではなく、秋原をもってしても最近ようやくその違和感に気付いたくらいである。

 それよりもはっきりとしたのがもう1人。

 彼の横に座っているのは神城。彼が問題なのではない。普通ならそこにいるはずの人がそこにはいないのである。

 それとなく横を向いてみる。彼女の真横、神城の正面の位置に座り、カロリーが凄まじそうな山盛りから揚げをためらいなく食べている新本。その彼女ではなく、彼女を挟んで秋原の反対側、つまりは宮島と最も遠い場所に座っている神部が問題なのである。

『(ケンカでもしたのかな?)』

 宮島と神部。

 以前までは周りに煽られての紅潮をよく見せながらも、常に彼と一緒にいた神部。そして彼女に付きまとわれるのは「疲れる」とか「面倒」とか言いながらも、満更でもなさそうだった宮島。そこまで仲が悪い様に思えず、むしろ昔の宮島・長曽我部コンビ以上の愛称を見せていた2人だが、それも今となってはこの様子である。

『(でも、神部さんもかんちゃんの部屋に来てはいるし、決別した感じじゃないんだよね。今だってまぁまぁ会話はできてるし)』

 今も秋原の除く4人は、今季プロ野球における順位予想やタイトル争いについて議論を交わしている所。秋原の主観で言えば、宮島は彼女から軽く距離を取っている程度。神部は宮島に近づきがたくしている程度で、お互いに縁を断った様子ではない。

『(……まさか、一線を越えちゃってかえって意識する様になっちゃったとか? ないないない。色欲全開の健全な男子のかんちゃんはともかく、野球バカの神部さんに限ってそれはないないない)』

 いったい宮島をなんだと思っているのか。非常に失礼な奴である。

 ただ今までは証拠無き『勘』であったものは、今となっては証拠のある『確信』へと変わる。

『(ちょっと、揺さぶりかけてみようかな?)』

「そういえばかんちゃん」

「ん?」

 だいたい話がひと段落した隙を突いて秋原が宮島に問いかける。

「最近の友人関係ってどう?」

「な、なんだよ、唐突に」

 動揺したようにもとれる反応だが、本当に唐突な質問に驚いたようにもとれる。実際に秋原の質問が話の流れに関して不思議しかないのだか、むしろ妥当な反応である。

「え、去年の今ごろって4組が凄かったなぁ。って思い出して、あれからどうなったかなって」

「凄い? あぁ、抑えない投手と打てない野手でケンカしてたもんなぁ」

 それで野手でありながら投手を統べる立場たる宮島が、その間で板挟みにあっていたのも懐かしい話である。

「あの時と比べると、本当に4組は落ち着いたよな。今年ドラフトとあって騒がしくなってるけど、それも『いい意味で』だし」

「そっかぁ。かんちゃん自身はどう?」

「僕? 別に、なぁ?」

『(う~ん。全然表情に出さないなぁ。目も泳いでないし)』

 超能力者や霊媒師と言った非科学の権化のようなものでもなければ、心理学者や精神科医のようなものでもない秋原。ただ自分の経験則と女子の勘を基に宮島を探ってみたが、まったくと言っていいほど態度に表さない。

『(何かあったには違いないと思うんだけど。後でもう一回探ってみようかな?)』

 食事中と言う気が緩む空間でこれだけ表情を読ませることをしないとなると、それ以上に気の緩む瞬間を狙う。これ以上となると風呂も候補だが、異性でさすがにそれは無理な話。可能であっても練習後に入浴済みである。

『(だったら)』

 秋原はもう一つの宮島が気を緩む瞬間を狙う事に。

『(う~ん。じゃあ、どうやって話をするかだね~)』



 夕食後と言えばいつものように宮島の部屋へと入りびたり。

 神城と頬にガーゼを貼った新本がわざわざ自室からゲーム機を持ちこみだしたり、神部が食堂に行くために外へ出たことで湯冷めした体を温めるために、もう一度風呂に入ったり。ただそれは大した問題ではないのである。

『(なんとかして、かんちゃんから聞きださないと)』

 妙に意気込む秋原。

 それは秋原が宮島に気があって神部との関係に嫉妬や興味を持っている……というわけでもなく、素直に宮島の事が心配である……というわけでもない。

『(もう。なんでかんちゃんはあんなに表情が読めないかな?)』

 もはやただの意地である。

 宮島と神部の関係を探りたい秋原の一方。

「おぅ、新本。調子に乗っちゃあいけんで。僕の海戦技術に勝てると思っとるん?」

「シロロンこそ調子に乗ってる~。私が得意なのは陸戦だけじゃないもん」

 ちょくちょく協力プレイで背中を預けて戦っている陸軍・新本将軍と海軍・神城提督。しかし今日は何かしらの理由で意見の不一致があったらしく、対戦プレイとなっている。戦闘は神城提督の得意な海戦となっているが、本人曰く新本将軍は海もOKとのこと。

『(かんちゃんも、あの2人ほど関係が読みやすかったらいいのになぁ)』

 逆に冷静であることがキャッチャーらしいとも言えるが。

「行くよ。シロロン。大和、大鳳、朝霧、響。最強大日本帝国海軍の力を見せてあげる。別にチハやティガーやKV‐2だけが私の得意兵器じゃないんだよ」

「じゃけぇどうしたん? こっちなんかのぉ、オリバーハザードペリー、シャルルドゴール、キーロフぞ? 第二次世界大戦連合国軍の力を見せちゃるけぇのぉ」

「えぇぇぇ、第二次世界大戦っていうか、ほとんど大戦後の軍艦――」

「砲雷撃戦用意。目標、大日本帝国海軍。()ぇぇぇぇ」

「にゃあぁぁぁぁぁぁ」

 今は刃を交えている2人だが、仲の良さはいつも通りのようである。

「まぁいっか。かんちゃん、耳掃除する?」

「うん」

 秋原がベッドの上に腰かけると、宮島は自然な流れで彼女の太ももに頭を乗せる。

 ここまでは彼女の計画通り。

「じゃあ、始めるね~」

「へ~い」

 もちろんすぐには仕掛けない。もう少しして宮島の気が完全に緩むのを待つ。こうしてみれば、まるで完全犯罪を仕掛けるかのような気の持ちようである。

 大日本帝国新本艦隊が明らかに時代の違う神城連合艦隊にタコ殴りにされていることや、宮島の持っている野球の本を勝手に読んでいる神部を横目に彼の耳掃除を始める。

「そういえば、かんちゃん」

「ん~」

 最初の問いかけに対する返事は同じように思えるが声はかなり緩んでいる。やはりこの時こそが、彼が最も気を緩める瞬間のようである。

「ドラフトの年でみんなの気が張ってるみたいだけど、投手陣の調子ってどう?」

「べ~つに~。立川が闇の魔術師から大日本帝国防衛軍大佐になりはしたけど、特におかしいことはないかなぁ。」

「へぇ。私、野球科に立ち入りはするけど、練習には関わらないからそういうところ、あまり分からないんだよね」

「僕も他科に立ち入りはするけど、授業には関わらないしな」

 マネージメント科は病院や食堂が附属という形であるため、経営科には購買部や、野球道具の販売や注文で立ち入ることはある。唯一あまり立ち入る用件が無いのが審判養成科くらいだが、試合や練習で特に関わっているのはそこだろう。

「そうだなぁ。でもまぁ、割といい調子、としか言えないかなぁ」

「そっかぁ」

『(むむむ。かんちゃん、しぶとい)』

 秋原が勝手に宮島と敵対している一方、

「あま~い。海軍式釣り野伏せ発動。左翼・冬月、右翼・金剛。攻撃開始っ」

「『釣り』ってか、中央が勝手に瓦解しただけじゃろぉ。それに、あいにくそっちにはエイラート、レシェフのイスラエル軍がおるけぇ意味ないで」

「にゃ、にゃっ?」

「ついでにセルドア=ルーズベルトと、トルーマンのニミッツ級もおるけぇ」

「にゃあぁぁぁぁ」

 数メートル離れた別の場所でも神城・新本が交戦中。

 と、その様子を見た秋原はふと閃く。

「そういえば、新本さんって最近、超スローボール使わないよね」

 最初は宮島の交友関係で攻め、次は投手陣に限定。となると後はどんどん幅を狭めて神部方面へと誘導していくのみ。ならばターゲットは新本。

「あぁ、あれはなぁ――」

「むきぃぃぃ、後詰出陣。赤城、雷、GO」

「はい、ハーキュリーズ、ハーミーズのイギリス艦隊出撃。おらぁ、さっさと沈めっ」

「ぎにゃあぁぁぁぁ」

「おい、お前らうるさいぞ」

 さすがに騒がしくなってきた2人に釘を刺した宮島。

「まったく。この中で明菜のひざまくらは唯一の救いだなぁ」

「どうも~」

「で、何の話だっけ?」

「新本さんの超スローボールの話。たしか、去年の夏合宿と、リーグ戦でなんどか見てから見てないなぁって」

「いや、新本って元が遅いだろ? 最初はぼちぼち成功したけど、以降はあまり効果がなくてなぁ。ストライク取りづらいし、ランナーがいたら使えないのもあって。しかもそれを投げる時は投げ方が特徴的になるし」

「へぇ。そうだったんだ」

 と、あまり興味のない話もしておいた秋原。

『(よ~し、そろそろ本題に)』

 一気に勝負をかけよう。とした時だった。

「時に明菜。ちょっとキャッチャーのリードの話をしようか」

「う、うん。あまりそっちには詳しくないけど……」

「な~に。日常生活でも使える話だからさ」

 宮島は少し顔を上げ彼女へ、緩くない鋭い目を向ける。

「下手な伏線(ボール)決め球(ウイニングショット)を読まれるぞ。やるならもっと考えて配球を組み立てた方がいい」

『(わっ、よ、読まれたっ?)』

 背筋が凍りつく。

 彼女は言わば彼との心理戦に勝とうと、本題を読まれないようにあちらこちらへと無駄話を振っていた。しかしそれはあまりにも下手な配球だった。結果として彼に本題を悟られる結果となってしまったのである。

「わ、私にそんなこと言われてもなぁ」

 少し声を震わせながらごまかすように答えると、彼女にっこりと笑って彼女の太ももに体重を預ける。

「ただの野球バカの独り言だ。気にすんな」

「そ、そっかぁ。あはは……」

『(こ、怖ぁぁぁ)』

 宮島と神部の関係変化に気付いた彼女の勘だからこそ分かる。宮島は自身の考えている事、聞きたいことが分かっていると。

『(け、けど逆に言えば、それだけかんちゃんと神部さんの間に何かがあったということ)』

 もしも本当に何もなければ、決め球の前にわざわざ釘を刺しはしないはずである。

 本題に切り込む機会を失うと同時に、暗に本人から『何かがあった』というかすかな証拠を得ることには成功した。

『(今度はしっかり組み立てて――)』

 今回の事を彼が忘れた頃に、今度は配球を組み立ててから聞こうと考える秋原。ひとまず今日はこれで打ち切り。ささっと宮島の右耳の掃除を終わらせる。

「じゃあ、今度は左ね」

「へ~い」

 秋原の右側に足を伸ばすようにしていた宮島。今度は左耳とのことで、左側へと足を伸ばすために一度起き上がる。そしてふと宮島の顔と秋原の耳元が近づいた瞬間――

「心配してくれてありがとな。けど、大丈夫。今回は広川さんもいる」

「え?」

 そう、自分以外の誰にも聞こえない声でつぶやいた。その話に油断していた秋原が驚き素っ頓狂な声を上げると、神城・神部がこちらに視線を向ける。

「どうしたん? 宮島に胸でも触られたん?」

「えっと、その……誰も視線を向けてないとはいえ、こんな他の人がいる場所で」

 ボケる神城と、それをやや本気にして顔を赤らめる神部。新本がその隙を突いてなけなしの大日本帝国艦隊で奇襲を画策するも、そこは神城がしっかりポーズで停止を掛けており無意味に終わる。

「あのなぁ。んなわけないだろ」

「う、うん。ちょっと、ちょっとね」

「どうしたん? 調子でも悪いとかなん? それじゃったらはよ休んだ方がええよ?」

「ありがと。けど、そういうわけじゃないから。大丈夫」

 いい感じの言い訳を思い浮かばなかった秋原はそう言ってごまかす。すると神城は「じゃったらええけど、無理しなさんなよ」と言って新本退治へ。そして神部もなぜか宮島の部屋にあった『チンパンジーでも分かる物理の本』という不思議なタイトルの本を読み始める。

「えっと、かんちゃん?」

 ひとまず全員の注目が逸れたのを確認して宮島に顔を向ける。と、

「次は左耳だったな」

「え、う、うん」

 右手人差し指を口元に当てて「秘密」のポーズ。そしてバッティング以上に下手なウインクを1回。その上で秋原の足の上に、自らの足を左に向けて寝転がる。

『(でも、かんちゃんがそう言うなら仕方ないよね。私はかんちゃんを信じるよ。頑張ってね)』

個人的には大和にお世話になっています

460mm砲による地上攻撃はかなり強いです

あと大鳳の射程も大したもので、対艦戦闘では主力です

ただ、それを守る巡洋艦も欠かせないですけどね

潜水艦は地味に攻撃力が高いんで


……え? 何の話って?

某戦略シミュレーションの話です

イギリス人Eが大和を、

日本人の男の娘Tが大鳳を乗り回してます


なお次回投稿予定日

9/29 20:00(午後8:00)

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