表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第9章 勝負師たちの恩返し
101/150

最終話 信頼の強さに裏あり

 『恋人でもない男子クラスメイトに抱きついて泣き続けたところ、彼にずっと背中を叩いて落ち着かせてもらい、挙句の果てに泣き疲れて寝てしまった』


 ……異常である。日本中を探せば何人かはいるかもしれないが、少数派であることには違いなく、そういった点ではイレギュラーであると言えるだろう。

 そうした経験をした神部はイレギュラーであると自覚があるようで、表ではそうした話はしないと決め込む。しかしバッティングと同じで心とは、以下に頭で決断していても対立する思いが生まれて行動に影響を与えてしまう。

 ちょうど夜にあれこれ考えて寝られず、「何も考えないようにしよう」と考えることで、かえって何かを考えてしまって眠れない。それと同じことである。

「およ~っす。神部、おはよう」

 火曜日の早朝。傍からは何も特別なことはなかったかのような、いつものように見える宮島。

「お、おは・・・・・・・」

 対して神部は頭こそまぁまぁな声で言ったのだが、後半はほとんど聞こえず。ほんのり頬を赤らめてうつむく。試合中は闘志むき出しでそれ以外の感情を受け取らせない。ある意味で感情の変化を読ませないが、こうしてしまえばただの女子である。

「おっはよぉぉぉぉぉぉぉ」

 宮島に対して12秒延着の新本(おっさん)は、逆に感情を読めない方がおかしいTHE・喜怒哀楽。教室につくなり、机を飛び越えて神部に背中から抱きつく。

「やっぱりたまには人肌が恋しくなるぅ~」

 彼女のいらぬ言葉で2日前の夜を思い出した神部はまた顔を赤らめる。

「あれ~かんべぇ。顔が赤いよぉ? 一昨日の夜の事?」

 いろんな意味で空気に無頓着な新本は、神部が忘れようとすることを堂々と聞く。

「写真あるよぉ。見る~?」

「さぁ、新本。おとなしくその携帯電話を渡すんだ」

「やだ~」

「突貫」

「にゃあぁぁぁぁ」

 二度あることは三度ある。

 男子が逃げようとする女子を押し倒し、馬乗りになって床に押さえつける。

 ……普通の事である(宮島&新本限定)。

「ほんと朝から元気じゃのぉ。宮島。右腕には気ぃつけぇよ~」

「パパラッチの新本さん。また、何か撮ったの?」

 携帯電話を内ポケットに入れ、しっかりブレザーの前を掴んで防御の構えを見せる。だが宮島は強引に彼女のブレザーの下に手を突っ込み、まさぐり始める。

 押さえつけた女子のブレザー下に手を入れ、内ポケットまさぐる男子(not恋人)。

 ……こちらも普通の事である(宮島&新本限定)。

「わ~。かんべぇだったり、あきにゃんだったり、私だったり。やっぱりかんぬ~は胸フェチだったんだぁぁぁ」

「それはないじゃろぉ」

「私や神部さんと比べてもコールドゲーム」

「自分の貧乳(バックスクリーン)を見て言え」

 神城・秋原・宮島によるバックスクリーン3連発。ついでに携帯電話も奪われて新本ひかり、撃沈。宮島はしっかり電話本体、および忘れずにSDカードから写真データを消去して返還する。因みに彼女は定期的にパソコンへバックアップをとっている。その作業を行うのは月曜日の夜と決めている。……そういうことである。

「正義は為された」

 撃沈した新本はそのままに、宮島はその場から立ち上がる。やってた事は大したことではないのだが、都合よく場面を切り貼りすれば、きっといい絵になることであろう。

「時に神部。どうするん? そろそろ宮島に恩返ししきれん恩があるじゃろぉ」

「去年の最終戦。小村くんに打席を譲ってもらった時も『利子』って言ってたし、その利子も元本の2、3倍になってそうじゃない?」

「僕は高利貸しかっ」

 結局その利子は宮島が忘れており、債務不履行ならぬ債権不行使となったわけだが。

「てか、僕、あまり貸し借り気にしないし。小村に『利子』って言ったのは冗談だし、そもそも元本すら返してもらう気もなかったし」

「それにかんぬ~、かんべぇみたいな可愛い女の子に抱きつかれる。って言うハッピーな思いしたもんね。さりげなくかんぬ~もかんべぇを抱いてあげてた――」

「さぁ、新本。おとなしく殴られるんだ」

「やだ~」

「突貫」

「にゃあぁぁぁぁ」

 三度目どころか四度目があったもよう。

「でも、やっぱり私も借りてばかりじゃ気が済まないです」

「いや、去年さ。スランプの時に助けてもらったし」

「明らかに釣り合わないです」

 今回の件があっても宮島と神部の貸し借りは釣り合っているとは言い難い。その上で今回の件があったのだから、神部にとっては借金中の銀行からまた借金をした感覚だろう。曰くその宮島銀行は取り立てをする気はまったくなく、返してくれれば儲けものくらいに感じており、踏み倒されてもOKな方針。ただ、神部は借りっぱなしによって良心の呵責を覚えているようで。

「じゃあ、神部さんさぁ。かんちゃんとデートの1つや2つでもしてあげれば? 女子のお弟子さんはいたみたいだけど、彼女はいなかったみたいだから、デート初経験じゃない?」

「ば~か。さすがの僕にだってデート経験くらい――」

 唯一のデートっぽい経験。神部と出かけて、近所の高校野球部と練習。強豪校の部員に売られたケンカを買って野球の勝負。

「――ないな」

 あれをデートと認めると、自らの恋愛感覚が歪みそうだと思った宮島は、それをデートにいれない方針を固める。

「えっと、デートくらいでいいなら……その、私、宮島さんのこと、き、嫌いじゃないですし……」

 そして満更でもないことを言い出す神部。

「ええんか? 秋原。宮島が神部に取られるで?」

「いいよ。あげる。私の所有物でもないし」

「いや、お前の所有物じゃないなら『あげる』もおかしくないか?」

「仕方ないなぁ。じゃあ、私がかんぬ~をあげる」

「お前の所有物でもない」

 秋原・新本に向けて連続ツッコミ。

 しれっと神部の言った準告白の台詞も流されたが、むしろ弄られなかったのは神部にとって幸運なのか。それとも不運か。

「まぁいいや。それなら、そのうち神部とデートにでも行ってこよ」

「なるほどぉ。それで不器用なかんぬ~はバッティングセンターにでもかんべぇを連れて行って――


「きゃあぁぁ。はや~い」

「おいおい。手が反対だぜ」

 宮島は下手なバッティングを見せる神部の背後に回ると、後ろから彼女を抱きこむようにして両手を掴む。

「さぁ。脇を閉めて。ボールが来たら、こう振るっ」

「わぁ。当たった。当たった」


――みたいなやり取りをするんだね」

「いや。ないじゃろぉ」

「新本はこの前の試合、何を見てたんだ?」

「長曽我部くんの150キロオーバー。あともうちょっとで満塁ホームランだったもんね」

 新本の想像はあり得ないということで全会一致。むしろそれよりは、周りが引くくらいの快音を簡単に鳴らしそうなところである。

「ただまぁ、覚えてたらだけどそのうちな」

「はい。待ってます」

 さりげなくデートの約束をこぎつけた宮島。もちろん彼が覚えていればの話だが。

「おはようございま~す」

 ちょうどその時だ。最近、ですますキャラで固定され始めた広川。朝会にはまだ早いが教室へとやってくる。彼はまだ時間があるため、適当な椅子に腰かけて新聞を読み始めた。のだが……

「本当に神部さん、かんちゃんが大好きなんだね……あ、バッテリー的な意味で」

「はい。大好きです。宮島さん。これからも一緒に組みましょうね」

「お、おぅ」

 ちょっと言いにくそうに答える宮島。

 彼と、それを聞いていた広川は共に心の内でつぶやく。

『(どうするかなぁ?)』

『(どうしましょう?)』


意味ありげなタイトルで最新話は終了です。

さて、どうもここ最近は神部ストーリーが続いていますね。


え? なんで神部押しなのか?

……元々、ラノベの大賞に応募した小説ですぜ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ