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プロ野球への天道  作者: 日下田 弘谷
第1章 逆境からのスタートダッシュ
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第9話 新本、マウンドへ

6回の表の攻撃は長宗我部の代打・三満(みつま)が凡退し、幸先不良。

 先頭に戻って神城がヒットで空気を変える出塁。さらに、

「「「ランナー走ったぁぁぁ」」」

『(何っ?)』

 キャッチャーはアウトコースに外したストレートを捕球し、2塁へとただちに送球。ベストの送球がセカンドのグローブに入り、滑り込んできたランナー神城にタッチ。アウトのタイミングであったが、

「セーフ、セーフ」

 わずかに足が速かった。審判の腕が横に開いて盗塁成功。

『(マジかよ。あれで盗塁決められんのかよ。なんだ、あいつ)』

 ピッチャーのモーションがわずかに盗まれたとはいえ、少なくとも簡単に盗塁を決められるようなバッテリーではない。キャッチャーはベンチからの歓声に答える2塁ランナー神城を横目に見ながらマスクを被ってしゃがんだ。

 1アウトながらランナーは2塁の大チャンス。しかし打線がかみ合わない。2番、3番が連続凡退で無得点のままスリーアウト。あっさりとチャンスが潰れる。そして次の回は長曽我部に代打を出したのでピッチャー交代。続くピッチャーがブルペンから呼び出される。

『6回の裏。1年4組、選手の交代です。代打の三満がサード。サードの鳥居に代わりまして、ピッチャーは新本。3番、ピッチャー新本。背番号28』

 アナウンスの通りに守備位置交代である。サードに代打の三満。そして次の4組の攻撃は4番からと言う事で、リリーフピッチャーの新本は最も打順の遠い3番に入る。

 ベンチからゆっくり肩回しをしながら歩いてマウンドに上がる新本。マウンドで待つはキャッチャーの宮島。彼女はマウンドにつくなりプレートを撫でて砂を払い、ロジンに手を軽く触れた後に無駄な粉を吹いて飛ばし、宮島からボールを受け取った。

 その様子はさながら、プロ野球チームのベテランリリーバー。

「この回のバッターは4番から。なんとか無失点に抑えていこう」

「うん」

 メンタルの弱い彼女であるが、とりあえず今は大丈夫そうである。手短にサイン確認を済ませたのちに、彼はホームベース後方へと戻っていく。そして座り込むなりミットを叩いて音をさせ、しっかりと彼女に向けて構えた。

 投球練習は7球。キャッチボール程度のストレートを何度か繰り返し、最後は宮島の2塁送球で終える。内容はと言うと、果てしなくいつも通りである。

「プレイ」

 右打席に4番が入り、審判がプレー再開を宣告すると6回の表が始まった。

『(さて、初球は……こいつでいこうか)』

 新本は頷きセットポジション。

『(てかあいつ首振らねぇよな。ほんと)』

 ほとんどのピッチャーは少なくとも1度は首を振るものの、新本は今まで何回かの登板で首を振ったことがまったく無い。それも、

「ストライーク」

 初球、ど真ん中チェンジアップと言う激甘なサインであってもだ。

 球速82キロ。あまりの遅さにバッターは空振りしたが、球種を読まれていればヒットコースだ。

『(むしろ首振ってほしいんだよな。僕の言いなりって言うのはむしろ怖い。奴隷じゃねぇんだから少しくらい横に振れよ。ほとんど振られたらそれはそれで困るけど。もしかして考えるのが嫌いなタイプか?)』

 宮島の理想は基本的にサイン通り。しかし何か違和感があった時や、どうしても投げたいボールがある時などは振ってほしい。自分だけで物を考えると死角もできるもので、2人であればそれもほとんど消せる。とにかくキャッチャーに丸投げで、ピッチャーは思考停止なんてことはやってほしくない。

『(それはまた今度言うとして、とりあえず次はこれかな?)』

 次のサインにもまたしても首を縦に振る。

 続く2球目。新本のモーション始動と同時に宮島は外角へ移動。一方で彼女の投球はインコースへの緩い球。コントロールミスの逆球かと思われたが、

「ストライーク、ツー」

 球速表示されないほど遅いた球。インコースからアウトコースへと急激に変化するスローカーブでツーナッシング。

「くそっ。おっせぇなぁ。遅すぎて打てねぇ」

 バッターは愚痴を漏らしながらピッチャー寄りに立ち位置を変える。

『(ラストはこいつで決めようか。しっかり頼むぜ)』

 遊び球なしの3球勝負。新本はセットポジションから第3球。

「なっ」

「ストライクバッターアウト」

 インコース低め。ジャスト100キロのストレート。遅い変化球に意識を移し過ぎたバッターは、たかだか中学生レベルのストレートに振り遅れての空振り三振。フォーム修正で球速が上がったことで、変化球との球速差が上がったのが大きい。

 三振した彼はバットで地面を叩いてネクストバッターサークルへ。次のバッターと何やら話し始める。

『(まぁ、そうだよなぁ。さしずめすげぇ遅いって言うのと、長曽我部との球速の差を話しているってとこかな)』

 新本が抑え込めた理由は彼女自身の投球が遅い事も挙げられるのだが、前に投げていた長曽我部が1年生屈指の速球派であることもまた挙げられる。長曽我部の球速が軒並み140台中盤、新本のスローカーブは推定70強。2人の速度差は最大で60~70にもなる。あれほどの速球に目を慣らされた1組打線にとって新本のボールは待ちきれないはずである。

 とはいえ、中には適応力の高い天才バッターもいるものである。

「うわっ。マジかよ」

 マスクを外して打球の飛んだ方をみつめる宮島。2球目を捉えた5番の一打は右翼線を破る長打コース。バッターは1塁を蹴って2塁へ。さらにライトの天川が中継の横川に暴投。中継のミスにより無駄に塁を与えてしまい三塁打。

「まさか、あれほど簡単に新本のスローカーブに適応するとはなぁ」

 適応と言っても待ち過ぎて振り遅れ、さらには外に逃げる球に泳いでいた。しかしどんな三塁打であっても三塁打は三塁打である。汚い3塁打は2塁打にするというルールも無ければ、きれいな3塁打は本塁打にするなんてルールもない。

『(1アウト3塁。新本の遅い球に適応できる奴がそんなにいるとは思えないし、かんがえられる作戦はスクイズ……いや、この得点差でそれはないか?)』

 かれこれ思案する宮島。だがその宮島の思案も悪い意味で無用のものとなる。

「ボールフォアボール」

 新本が突如崩れ始め二者連続のフォアボールで1アウト満塁となってしまったのだ。

 宮島としては今と近い状況に覚えがあった。

 入学試験。投球練習と先頭打者ではなかなかのコントロールをしていたものの、その先頭打者に三塁打を許した直後、急激に崩れてノーアウト満塁を招いた。

『(なんだ、新本。何かがおかしいぞ?)』

 ただピンチに弱いわけじゃない。新本は今までのリーグ戦、ピンチを自ら招いた状況であっても、ピンチでリリーフした場合でも、崩れる時と崩れない時に差があったのだ。

 いったい何か。バッターの右左ではない。ランナーの足の速さでもない。

『(……3塁ランナー、か?)』

 人並み以上には自信のある記憶力を元に思い出してみると、新本は3塁ランナーの有る無しによって投球が大きく変わる気がする。が、確証はない。よくよく考えてみると、3塁にランナーがいながら好投した記憶もあるような無いような。逆に3塁にランナーがいないにも関わらず、崩れた状況があるような無いような。

『(今とやかく考えていても仕方ない。今度、明菜にでもデータ集計してもらおう)』

 こんな時こそスポーツマネージメント学科生を使う時である。3日もあれば過去のリーグ戦のデータを探って、状況別の被打率や四死球などをきれいにまとめてくれるだろう。

『(とにかく今はあいつを落ち着けないと)』

 落ち着きなくあたりを見回している新本にタイムを掛けて駆け寄る。マウンドとホームの中間まで来て彼は気付いたが、彼女はもう既に泣き出す寸前である。

「こらこら、泣くなよ」

 怒るとそれに怯えて本当に泣いてしまうかもしれないので、あくまで優しい声で慰める。まずは帽子を上から頭に手を乗せ、撫でるように細かく手を動かす。

「気楽に気楽に。考えても見ろよ。向こうの4番バッター、つまりは一番すげぇバッターを抑えたんだぞ。4番って言ったら……どこファン?」

「阪神」

 因みに先発の筋肉野郎(ちょうそかべ)も好きなチームが阪神である。

「だってお前、つまりだぞ、鉄人金本とか、ミスタータイガース掛布とか。あと、全日本の4番新井も。そんな凄いバッターを抑えたようなものだって」

 プロはそこまで詳しくないが、なんとか記憶を必死に引っ張り出す宮島。

 プロ野球とアマチュア野球をごちゃまぜにした無茶苦茶な理論である。しかしそんな無茶苦茶理論であっても彼女は、ほんのり涙をこぼしながらも嬉しそうに微笑む。

「分かった?」

 頷く新本。

「とにかく新本はそんな凄いピッチャーなんだから、僕のリードを信じてしっかりと投げてこい」

 また頷く新本。流し始めていた涙をユニフォームの袖で拭い、宮島の目をしっかりと見据える。その目には魂が宿り、消える事のない炎が……と言う事は無いが、少なくとも今までのような泣きそうな目ではない。

「さぁ、ここはしっかり抑えて、試合後は夕飯をみんなで一緒に食おうぜ」

「うん。いっぱい食べる」

「何食べる? 僕はそうだなぁ……唐揚げ定食くらいにしとくかな?」

「私は牛丼大盛り」

 大盛りと言ってもただの大盛りではなく、世間的なレベルで言えば特盛3杯分のほぼチャレンジメニュー状態。宮島の唐揚げ定食も成人が2日かけて摂取するカロリーをそれ1食で得られるようなレベル。当然、値段は少々で済むが高めである。

 危機的な状態を意識させないように興味を逸らす宮島のトークに、新本は話題に乗っかり始める。よってタイムの時間は若干長め。高校野球ではないので急かされることもないが、かといって時間を使いすぎるのも疲れを増させるばかり。

「それじゃ、夕食のために頑張りますか」

 2度3度と小刻みに頭を動かして頷く新本。彼女に手でボールを渡してマウンドを去る。

『(バッターは8番。これさえ打ち取れば次は9番のピッチャーだし、この点差で無理に打たせることは無い。このバッターを抑えれば事実上のチェンジだ)』

 ネクストバッターボックスにいるのは先発のピッチャー。ここまで好投しており、点差も大きいところを見るに代打が出されることは8割方ないと思って間違いない。もしも残り2割に懸念材料があるとすれば、大きく点差が開いているゆえに控えのテストの場にされ、代打が出されること。

『(とにかく、ここはしっかり抑えていこう)』

 ホーム後方にしゃがみこんで手早くサインを出す。今はせっかく正気を取り戻した新本に、ランナーを意識する時間を与えたくなかった。

 頷いた新本。セットポジションに入るも宮島のミットから目を離さず。ランナー無警戒で投球モーション始動。彼女の投球はアウトコース低め。

『(まずっ)』

 宮島は反射的に飛びつくように体を回り込ませる。ボールはホーム手前で沈んでワンバウンド。体で弾くも前に落としてランナーの進塁は阻止する。

「楽に楽に」

 気持ちを落ち着かる声掛けをしながら投げ返す。

『(アニメや漫画じゃないんだ。ボール1個の出し入れなんかできるか。多少のコントロールミスや暴投はしっかり止めてやるから、とにかく捕れないほどの大暴投や、甘いコースへの失投だけはやめてくれ)』

 次のサインをすぐさま出す。スローカーブに続いて今度はストレート。一寸の迷いなどなく了承した新本の足が動く。1アウト満塁と言う絶体絶命の大ピンチをしのぐべく、全力で放った2球目。

『(バカっ。よりによってど真ん中っ)』

 威嚇球インコース高めの要求も、失投はど真ん中ストレート。

 やられる。そう思った宮島は、見逃してくれと祈りつつミットを開く。

 そんな祈りも届くわけもない。

 絶好球。待ってましたとばかりにバッターはジャストタイミングで弾き返す。

『(まずっ。抜ける)』

 打球はピッチャーの左足すぐ横を襲う痛烈な打球。十中八九センター前。

 それを新本が捕りに行くも捕球できない。グローブに当てて止める事こそできたが、新本の弾いた打球は1塁線へ。距離からして新本は間に合わない。仮に宮島が捕りに行ってもホームが空いてしまい、結局はランナーが殺せない。そんな時、

「よう止めたぁぁ。任しんさい」

 ファースト神城。猛ダッシュしながら素手でボールを拾い上げ、ランニングスローでバックホーム。

「アウトぉぉ」

 宮島はホームを踏みながら捕球。あわよくば1塁もアウトにしてダブルプレーを狙ったが、神城が1塁ベースを空けた事、そしてセカンドが反射的にピッチャー返しのカバーに動いたことで1塁は無人。結果的に投げられない。

「ナイスプレー、神城。助かった」

「守備型一塁手って頼りになるじゃろ?」

「なる。すげぇ頼りになる」

 守備力が軽視されがちな一塁手。しかしバッテリーを除けばボールに触れる回数がトップクラスに多いのは一塁手。そのポジションが守備の名手であれば内野もかなり堅牢となる。

「ツーアウト、ツーアウト。新本、しっかりいこうぜ」

 神城のファインプレーで続くは9番。これで事実上のスリーアウトかと思いきや、

『1年1組。選手の交代をお知らせいたします』

「ありゃ、代打かぁ。これで切れたかと思ったけど」

「ものは考え物じゃろ。次のピッチャーは2打席目にツーベ打ってたんじゃし」

「よく覚えてんな。僕も覚えてるけど」

 ネクストバッターサークルに入っていたピッチャーがベンチに下がり、代打の選手がバットを持って現れる。その選手は1年1組唯一の女子枠選手であった……

「なんか……凄いの出てきた」

「オリンピックのソフトボールであんな選手見たことある気がせん?」

「する。アメリカだっけ?」

 ファーストの守備位置に戻る神城と感想をかわしつつ宮島はその場にしゃがみこむ。

 それから遅れて入ってきた一応は女子の代打。身長は170超と男子の平均並み、見た目からの推定体重は3桁。さらに腕は太ももかと思うほどに太い。

『(目の前で見たらもっとやべぇって。こいつ女子? ってかマジで10代後半か? どう考えても10代女子の体格じゃないって)』

 開幕カードにおける1組戦での出場は無かったためノーデータ。しかし体格を見ればどんなバッティングをするかはなんとなく想像ができる。

『(この体格。どれくらいかは分からないけどホームランバッターだよな。間違っても高めは厳禁。低め主体でピッチングを組み立てよう)』

 初球は速いストレートをアウトコース低めへ。それを目に焼き付けさせれば、続く遅い変化球にタイミングは合わない。

 新本は巨体の女子選手に動揺する目をしながらも第1球。彼女の右手から離れた投球はアウトコースいっぱい。

『(ちょっと高めに浮いた。でも問題ないコース)』

 浮いたには浮いたが、高めと言うほどでもない。

『(って、オイ、ここでシュート回転かよ)』

 わずかに投球がバッターのインコース、つまりはど真ん中に切れ込む。

 その甘く入ったボールをバッターが捉えた。

 ナチュラルシュートで芯を外したためだろう。バットが根元から真っ二つに折れる。破片はファールグラウンドに飛んでいき、以前のイニングのように守備を妨害するようなことは十中八九無い。

「やった、バットが折れた。これなら……あっ」

 緩いライナー性の打球はセカンドフライ――かと思わせ、伸びに伸びて内野を越えて右中間に落ちる。

「うそっ。力で持っていかれた。なんだ、あの化け物」

 バットを折りながら右中間への長打コース。3塁ランナーは余裕でホームイン。2塁ランナーも悠々と3塁を回ってホームへ。さらに1塁ランナーもホームを突こうかと言うほどの全力疾走で2塁を蹴った。

「1塁ランナー帰ってくるぞ。ボールバック」

 バックホーム指示を出すが外野がボールに追いついたのはフェンス手前。既に1塁ランナーは3塁を回ろうとしている所。

「くそっ。ボールサード。バッターランナーに無駄な塁をやるなぁぁぁ」

 宮島の背後を2塁ランナーが通過しホームイン。さらに目と鼻の先に1塁ランナーも来ている。ボールを捕ったライト―セカンド―ショートとボールが渡り内野に返ってくるも、1塁ランナーも生還。打ったバッターも2塁へ到達。

 走者一掃のタイムリーツーベースで8対1と7点差に広がる。

「ちっ。やられた、か」

『(芯を外してバットへし折りながら右中間まで運ぶっておかしいんじゃねぇの? そもそもあの程度のスピードで折れるバットもおかしいけど)』

 タイムを掛けてマウンドへ行って新本を励まさないと。そう思い立ってタイムを掛けようとした宮島だが、ふとマウンドを見ると意外な光景が。

『(あれ? 泣いてる様子もないし……意外と普通?)』

 てっきり打たれて泣き出しているものかと思ったが、残念がってはいるものの、まだ普段通りの表情でロジンを手の上で転がし、グローブを出して内野手からボールを受け取っている。

『(なんだ? そんなに晩飯の話が効いたのか? 今回はそれでいいけど、毎回、毎回、話を逸らすだけじゃ無理だ。そのうち根本的にあの精神面をなんとかしないと)』

 なんにせよ、それほど落ち着いているのなら手間がかからなくていい。この回だけで3失点もしている。なんとしてでも2塁ランナーを返すわけにはいかない。

 バッターボックスには左の1番。

『(代走はでないか。ランナーはあの巨体女子。ワンヒットじゃ帰ってこれない。長打さえ打たれなければOKとしようじゃないか)』

 ストライクからインコースへボールになるスローカーブ。最悪1番は歩かせて2番で勝負する。サインを送って頷きを確認してインコースへと寄る。

 新本の初球。ど真ん中からインローへと沈むスローカーブ。ボール球になるほど外れはしないが、ほぼ狙い通りのいいコース。そのボールをいとも簡単に打ち返される。畳みかけるような初球打ち攻勢だ。

「うそっ。すくいあげられた」

 一塁線を襲う痛烈な打球。

 追加点は免れない一打である。

 ところが、神城が一塁線に頭から飛び込んだ。

 しっかりとボールをノーバウンドでキャッチし、すぐ近くにいた1塁審判に見せる。

「アウト、チェンジ」

 審判の右腕が上がってアウトコール。スリーアウトでチェンジだ。

 1回3失点と散々なピッチングでマウンドを降りる新本。そんな彼女の前を横切り、宮島は土でユニフォームが真っ黒の神城とミットでハイタッチ。

「ナイス、ファースト。それもこのイニング2回も」

「じゃけぇ言うたが。守備型一塁手は頼りになるじゃろ? って」

「いや、あの、ごめん」

「なんで謝るん?」

「その……広島弁ってすげぇ怖い。威圧的って言うか」

「分かるけど、別に怒ってないから。気にせんといていいよ」

「う、うん」

 怖がる宮島に気を使ってわざわざ標準語で言い聞かせる神城。しかしすぐにしゃべりにくさを感じ、いつもの調子に戻る。

「しっかし、1回で3失点。ほんと、ようけ打たれるなぁ」

「ようけ?」

「よく打たれるな」

「あぁ、そう言う事か。そりゃあ、中学時代の4番でエースを集めたのが高校野球の強豪校。強豪校でレギュラー張れるようになるほどの逸材を集めたのがこの学校だからなぁ。さらに1組といえばその中でも上層部だし。ちょっと甘く入れば即スコーンだろ」

「ごもっとも。この学校の野手でおそらくは一番バッティングが下手な宮島でも、中学時代は4番じゃけぇなぁ」

「言ったっけ?」

「言うてた」

 教師陣曰く、もし高校野球選抜と土佐野球専門学校選抜が勝負すれば、仮に金属バットと木製バットのハンデがあってもこちらが圧倒的な点差で勝つと予想されているほど。さらにこの学校で現状最弱の1年4組であっても、甲子園大会では無理だろうが、地区大会でなら上位に食い込めるとまで言われている。それほどこの学校のレベルは異常なのだ。もっともそんな学校も所詮はプロ養成学校なのだから、彼らの目指すプロ野球選手という存在は、たとえ2軍の補欠選手であっても化け物なのだと思い知らされる。

「じゃけぇノーヒットでも自信持ちんさい。昔は4番じゃったんじゃけぇ」

「え? そこで僕のバッティングに話が切り替わるのか」

 まさかの意表を突かれて目を丸くする宮島。間違っては無いけどと、複雑な気持ちになりつつ6回の裏が終了。試合は終盤戦に突入する。

この章でもチラッとプロ野球選手の名前を引用させていただいております


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