プロローグ
埼玉県西部。ほぼ東京都と言ってもあながち間違いでもないそのエリアにある、やや立派な一軒家。ある冬の一日、1人の男がその家を訪ねてきていた。
客間に座った男はスーツ・ネクタイ姿。さながらこれから就職試験にでも挑もうかと言うような恰好であった。しかし遅れて彼の真正面に腰かけたのは、面接官でもなければ、社長さんでもない。一見するとどこにでもいるような1人の男子中学生であった。その中学生の横には父親もいるが、あくまで男の目的は中学生である。
2人が軽く自己紹介を済ませると、彼はいきなり本題を切りだした。
「早速だが、君はより高いレベルで野球をしたくないか?」
彼はそう問う。
渡していた名刺に書かれている所属団体名は、東京都にある有名私立高校。役職は野球部のスカウト。つまり彼は自分の学校にその中学生を推薦入試させたいと思っていたのだ。なにせその見た目平凡な中学生は、これでも埼玉中央エリア最強と名高い名捕手。ぜひとも欲しいところだ。
「お断りします」
ところがその思いもむなしく、彼は軽々と首を横に振った。
「もしかして、既に他の学校に決まっているとか?」
「いいえ。他の学校のスカウトもすべてお断りしました」
その男子中学生は、後ろの戸棚を開けると、5枚ほど名刺を机の上に置いた。いずれも高校野球界では名の知れた学校のものである。
「ど、どうして。ウチはここ数年毎年甲子園に出場している強豪。だが、君ほどの実力があれば2年生までには、いや、1年生の秋にはレギュラーを取れる。学費や一人暮らしの費用なんかも、特待生として学校側が保証する。どうか来てくれないだろうか」
たかだか14、5の中学生に深々と頭を下げる30過ぎの男。しかし彼は首を縦には振らなかった。
「それでもお断りします。僕には目指すべき舞台が、夢の舞台がありますから」
「ゆ、夢の舞台? 甲子園なら、うちだったら楽に……」
「甲子園? そんなたかだか部活の全国大会みたいな、レベルの低い舞台じゃありません」
その彼の言葉に男は絶句した。
甲子園は4000校前後の学校の内、夏は49校。春に至っては32校しか出場できない。倍率にして約100倍前後ともなる存在を、『レベルの低い舞台』と一蹴したのだ。
だが、彼の直後の言葉に男はその発言に納得する。たしかに比較すれば甲子園はレベルが低いと思われても仕方のないほど偉大なその存在。
「僕が目指す夢の舞台は……」
高校生であれば15万を超える人間がいながら、その舞台に上がれるのは例年50人にも満たない。倍率にして3000倍以上。それは……
「日本最高峰の野球リーグ、プロ野球です」
日下田弘谷です
『蛍が丘高校野球部の再挑戦』によりGAさんからもらった評価シートをもとに作った結果、D判定からC判定に上がった野球小説です
(と、いかにも評価アップな言い方ですが、1次D判定から1次C判定です)
とりあえず、前作『蛍が丘高校野球部の再挑戦』をメインに、
こちらは暇があった時、もしくは上記作が行き詰った時の息抜きとして、
書いていこうと思います