二月のコイノボリ
いくら手を伸ばそうと届きはしない。見上げるばかりで、ただ想いを馳せるだけで、どんなに大きなものでも遠すぎれば触れることはできない。僕は悲しい。いっそ水の底に沈んで、魚のように空を星を見ないで生きてゆきたい。そう言うと、隣の彼女は言った、なら星はもっと不幸せね、と。
「だってこちらの存在は小さすぎて区別もつかなくて、こちらからは望む星を見つけられるけど、星はこちらを見つけることすらできないもの」
それから少し眉を下げて言った。
「星みたいに大きくはないけど、私たちは望むものを見つけられないのね」
答え方も分からないまま、ただ定められた道を行く星を仰ぐしかできなかった。
寒空の下、相も変わらず君は隣で星を眺める。
「やっぱり星って不幸せね」
夜闇に紛れそうな、震える声で呟いた。
「望むものを見つけられないから?」
聞くとこくんと頷いた。前の僕は答えられなかった、でも今は。
「魚の中にはさ、滝をのぼるヤツもいるって知ってる?」
「鯉の事ね」
「滝をのぼりきったら竜になって、空にのぼっていくって」
「鯉のぼりの話でしょ。季節はずれね」
ふふ、と笑う君を制して僕は続ける。
「でも空にのぼれるってことは、星にも逢いに行けるってことだろ? だからさ、見つけられないなら、魚から竜になって迎えにいけばいい。どんなに遠くたって、見失いさえしなければいくらでも近づくことはできる。近づけば、多少は区別がつくだろうさ」
すると君は今まで見たこともないほど綺麗に、ふんわりと笑みを浮かべた。
「私にも、竜はのぼってきてくれるかしら」
「もちろん」
静かな星の光の中で、僕たちは少しだけ影を重ねた。
Fin.