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3-8(85) 恋愛相談

「チームやすしが終わった」なんてこと、なぜ言ってしまったんだろう?

チーム内で恋愛なんてありえないと思っていた。

はそんな関係になるはずがないと、いつからか思うようになっていた。

伊左美は玲衣亜を恋愛対象としてなんて見てなかったし、玲衣亜は恋愛自体に興味がなさそうだったしね。それに加えて、とらさんの兄弟みたい、という台詞。

そうした事前に得た情報によってバイアスがかかっていた、とは言わない。

今回の伊左美の恋患いは予測できたもんじゃないッ。

恋のキューピーちゃんだって、「あいつにゃあにゃあ言うてたらコロッと落ちますぜ」なんてアドバイス思いつきもしないだろう。

なんでにゃあにゃあで恋に落ちてんだよッ。

いや、にゃあにゃあで落ちようがワンワンで落ちようがいいんだけどね。

たで食う虫も好き好きだからさ。他人がとやかく言う筋合いはないんだ。

だけど、チーム内の規則を作っておけばよかったとは思う。

・チーム内の恋愛はご法度。これを破りし者、即ち斬……みたいな?

こんなん、恋愛が成就しようが破局しようがお仕舞いじゃん。

深い溜め息が漏れる。

葵ちゃんちの屋根の上。

壊れた壁なんかを足場代わりに上って不貞寝してるんだけど、もう日も落ち切って地平の彼方を真っ赤に染めるばかりで、見上げれば空には星がチラチラと瞬いている。



そこへ梯子をかけて、伊左美が上ってきた。

「こんなとこでなにしてんだよ? 落ちたら怪我するぜ?」

「ホントに寝てるわけじゃないから、落ちやしないよ。……っつか、伊左美はもう恋に落ちてんだから、大怪我しないように受け身取る準備しとけよ。ってか、安全帯はぁッ?」

気不味さを隠すように、軽口を叩き合う。

で、伊左美は当然のように酒を持ってきていて、それをグラスに注いで一杯を僕に渡し、一杯を自分で抱える。

「へいッ、さっきの……、チーム靖が終わったって言葉の意味を教えてくれよ。」

ま、言うだけ言って逃げてきたから、説明は求められるか。

「小さなチーム内で恋愛されると、チームが崩れる。これ常識じゃん?」

説明にもなってないけれど、これ以上、細かく話すのは面倒臭い。

「だから、さっきの恋に落ちたってのもそうだけど、オレぁ、まだ恋にもクソにも落ちてねえからな。」

「嘘ばっか。」

「お前が彼女かッ。」

「生憎そっちの趣味はないし。で、じゃあ、伊左美の玲衣亜に対する可愛いって気持ちはなんなん? んで、どうするん?」

「その点はまだはっきりとは判らないけど、機会があれば獣人の女の子とも話してみて、答えを見つけるさ。どうするかってのは、そのあとの話だッ。」

「伊左美はホンットときどき抜けてるなぁッ。」

「え?」

「獣人はにゃあにゃあ言ってなかっただろぉ? むしろ、にゃあにゃあ言う玲衣亜を訝しんでたじゃないか。玲衣亜と獣人の親父との会話聞いてなかったの? あのにゃあにゃあ語は玲衣亜の獣人に対する勝手なイメージだからね。」

「ああ、そういえば、そうか。」

「そうだよッ。だから、獣人相手に判るポイントは伊左美が獣耳の装飾が好きなのか否かってことだけで、世界中探したってにゃあにゃあ語使ってる奴なんていないんだから、にゃあにゃあ語の検証は実質不可能なわけ。」

「……ですね。」

「そうッ。だから、順番を言うと、にゃあにゃあ語は一度置いといて、まず獣人の可愛い子を見てみるッ。好きな人を見つけるッ。告白するッ。恋人になるッ。にゃあにゃあ語を彼女に使ってもらって確認するッ。これだよ。」

「そ、そうだな。はッ、なんか馬鹿々々しいな。」

「馬鹿々々しいってことがあるもんかッ。すごく大切なことだよ。自分の異性の好みを馬鹿にするもんじゃない。僕はチーム内の出来事でなければ、伊左美の恋愛成就を心から応援したい派なんだから。いまも、チーム内であるとはいえ、伊左美が玲衣亜のことを好きだっていうなら、その気持ちを邪魔しようなんて微塵も思っちゃいないんだよ? ただ、そのときはチーム靖をチーム虎にでもチームタイガーにでもお好きに変更してくれってだけさッ。」

「お、おお。靖って、意外と恋愛について色々考えてんだな。」

「アホ、恋愛してないのに考えるかってんだッ。」

「そ、そうすか。」

「そうだよ。僕に恋愛相談したけりゃ、その前に女を紹介しろってんだ。あと、伊左美はこれから玲衣亜のことをただの幼馴染じゃなく、女としても見てみることだね。」

「へえ。そうするわ。」

「スッキリした?」

「なんかよく判らんけど……うん、スッキリした。」

うん、僕もよく判らないけど、伊左美がそれまで抱えていた苦悩を少しでも和らげられたんならよかったよ。ホント、我ながら馬鹿なことばっかり言ってらぁと思う。この適当な感じをなんとかしなけりゃとは常々思ってんだけどね。



屋根から下りると、もう玲衣亜と葵ちゃんが食器を洗っていて、なんとなくお開きムード。虎さんと爺さん、葵ちゃんの父親はなんか地図を広げて難しい話をしてるみたい。ま、さっきまで伊左美と変な話をしてたけど、連邦とはもう開戦に踏み切ってるみたいだし、戦略とか、相手の侵攻に対する予測とか色々考えなけりゃならないことは山積みだろう。明日は会議もあるみたいだし。今回の戦争って仙道たちだけでドンパチするのかな? それとも一般人も含めてドンパチするのかな?

「連邦が求めているのは領土と資源、それに加えてこちら側の人間の滅亡だからね。悪いけど、どちらかといえば仙道よりも人間同士の争いって色合いが強いよ。」

虎さんの無慈悲な一言。

しかも本当にいつ連邦が侵攻してくるか判らないし、葵ちゃんちは国境付近にあるしってんで、この家の修復も戦争が終わるまではお預けになるらしい。葵ちゃんと父親は爺さんの家の近くに間借りすることに決めたのだとか。今朝はこっちで父親と暮らせるって喜んでたのにね、なんか切ないわ。

「ねえ、せっかくこうしてみんなが揃ってるんで、帰る前に温泉に寄って行きません?」

そう提案したのは葵ちゃんだった。



転移の術があれば、どんな遠方の温泉地にでもひとっ飛び。

初めての温泉。束の間の極楽気分。

温泉では爺さんに髪の毛をひったくられた。

なんでも異世界からこっちに召喚するのに必要なのだとか。必要なんだろうけど、なんかこれで爺さんに首根っこを押さえられてしまったようで、いい気持ちはしないけどね。

湯から上がって、みんなが合流したとき、伊左美がぼうっと玲衣亜の方を見てた。

女として見るってのを実践してんだろうけど、見惚れろとは誰も言ってないんですが。

玲衣亜がそんな伊左美に気づき、「にゃ、にゃによッ?」とたどたどしく言えば、「なんでもねえよッ」と少年のように照れ隠しする伊左美さん。



あ、チーム崩壊ちゃんが確実に一歩踏み出し、スタートを切りましたわ、これ。

いや、チーム靖にこだわりはそんなないからいいんだけど。

ってか、大体チーム靖ってなんだよッ? てなもんだしね。

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