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2-22(67)怪しい一団

「たぶん、師匠は形だけとはいえ、議会が組織した異世界事件捜査チームに所属しているはずだ。」

てんさんの屋敷への道すがら、さんがみんなに注意を促す。

蒼月そうげつさんの屋敷では異世界の話は禁止ね。あと、失礼のないよう。んで、葵ちゃんもオレらが異世界に行ってる連中ですとか、絶対に、世界がひっくり返っても言わないように。お互いのためだからね。」

「言いませんよ。私はみなさんを応援してるんですからッ。」

「お? なんか気合い入ってんじゃん。無駄に。」

「葵ちゃんもチームやすしに馴染んできたってことじゃない?」

「無駄にってことはないでしょぉ? こう見えてちょっとずつ、ちょっとずつって、こっちも努力してるんですからッ。」

ここしばらくさんたちと過ごしてみて、やっぱり思ったんだ。玲衣亜さんたちは悪い人じゃないって。それにチーム靖の人たちは面白いし、とても素敵な人たちばかりだった。

「ふふん、ええこっちゃ。」

鼻で笑う伊左美さん。

「おおお、刺さるッ。刺さるわぁ。なにッ? この感じッ。なんか私が失ったいろんなモノが、そこにあるッ。」

おお、玲衣亜さんがなんか悶えてるけど、怖いから知らんぷりしておこう。

「ふ、さも自分にもそんな時期があったみたいに言うなよ。ええ? 何歳いくつのときに失ったって? 一〇歳のとき? 三歳のときか?」

「あ、判ったッ。異世界に行くってんで伊左美と会ったときだわッ。」

「なんだよ、そりゃ?」

「なんか伊左美といると調子狂うんだよね。伊左美がいないときは、私も可愛い女の子で通ってるんだから。」

「どこで通ってるんだよ? んな話聞いたことないし。」

二人のいつ終わるとも知れない言い合いが始まった。

これが靖さんがアドバイスしてくれた玲衣亜さんと伊左美さん名物『痴話喧嘩』ね。確か対処法は無視だったか。

うん、この会話には首突っ込めない。



息を切らしながら階段を上がり、天さんの屋敷の前に辿り着く。

「敵の本陣だ。油断せずにいこう。」

門へ向かいながら、伊左美さんが言う。

そうだ、ここは議会の中枢だから、私たちにとって完全に敵地ってわけだ。ほんの

二、三ヶ月くらい前まではただの爺様の古い友人のお家ってだけだったのに。



私の麻雀の先生でもある少年Aに来意を告げると、あいにくとらさんはいま会議中だが、一応、来客がある旨伝えてくるとのこと。

ま、最初は会議が終わるまで待っててと言われたのだけど、玲衣亜さんと伊左美さんに苛められた挙句に渋々伝えに行ってくれた感じ。

少年Aもこの二人には苦労してるのね。

少年Aに案内されて屋敷内の一室に通される。

まもなく虎さんが顔を見せる。意外にも早い師弟のご対面。会議はもう終わったのかと思ってみれば、なんのことはない、ただお手洗いに行くと言って席を外しただけらしい。

ただ、会議はまだ終わりそうにないけど、どうせ退屈な内容だからすぐに抜けてくるってさ。

退屈って……、議会はいまどこまで捜査を進めているのだろう?



早々に会議を抜けてきた虎さんとともに虎さんの屋敷へゆく。

私と玲衣亜さんがある一室に案内され、伊左美さんと虎さんは別の部屋へ入ってゆく。

私の不安そうな表情に気づいたのか、玲衣亜さんが「ちょっと異世界の話をするだけだから」と言うが、それに関連して私が転移の術が使えることを話されてしまうと少々マズイ。あれでも虎さんは議会の人間だ。転移の術の話が虎さんにどのように作用するかが読めない。

「大丈夫、伊左美は師匠に転移の術の話はしないよ。たぶん。」

よほど顔に出ていたのだろう。玲衣亜さんも私の不安の核心を突いてきた。

「いや、それは無理じゃないですかねぇ。」

私は玲衣亜さんの気休めの言葉をやんわりと否定する。

だって、私がチーム靖に所属していることを話すなら、私が議会に通じていないことを説明する必要がある。じゃないと、虎さんも心配になるでしょ? そのためには、議会がいまだに異世界へ行く手段さえ見つけていない現状では、私が異世界にいた人物であることを話すのが手っ取り早い。彼女は一人で異世界をプラプラしているくらいだから、議会との繋がりはなかろう、と。術師であることを話さないにせよ、カードを持っていることは伝わるか。いずれにせよ、あまり好ましくない状況になる。

こうした推測をわざわざ玲衣亜さんに話したりはしないのだけど。



そうそう、それに、わざわざ伊左美さんと虎さんの二人きりで話し合っていること自体が、私に聞かれてはマズイ内容が話されていることの証拠じゃない? 私の隣で寝転がっている玲衣亜さんは、大方私のお目付け役といったところだろう。


話を終えて姿を現わした虎さんは、真っ先に私に対して自分の異世界に対する立場を表明した。

「僕は議会のように“異世界=触れてはならないもの”というふうには考えていません。かつて異世界とこちらの世界の間で悲劇が起こったというけど、付き合い方次第では良い関係を築けるかもしれないと思っています。もちろん、そのための調査は慎重に行なわれるべきだと思うけど、なにもしないうちからダメだと結論づけるつもりはないんだ。」

どうやら虎さんは異世界に対して寛容な考え方の持ち主らしい。

ならば、なんで議会の捜査チームに参加しているのか聞けば、不幸にして十二仙の末席をけがしているからだとおっしゃる。

そして、虎さんは爺様がカードを所持していることを知っていた。

爺様が虎さんに暴露したとは考えられないので、おそらくこれは伊左美さんから得た情報だと思われる。虎さん、爺様の動きが気になっているみたい。私からなにか聞けると思っていたのだろうけれど、あいにく私と爺様は別々の道を歩き始めたところだから、いまの爺様の動向は私にも判らない。たぶん、異世界の件についてはなにもしないだろうとだけ答えておく。

私からも、議会にカードを提示するつもりはないのかと虎さんに尋ねてみたが、どうやら虎さんは議会がカードを探し当ててくれるのを待っているのだそうだ。この世界のありったけのカードで以って、みんなが異世界に触れて、交流を図る有効性に気づいてくれれば、というのが虎さんの目論みらしい。

逆に虎さんになぜ爺様がカードを議会に提出しないのかと問われたときは少々焦った。

さあ、知らない、で通したけれど。



四人で話していると、夜も更けてきたのでその日は虎さんのお家に泊まった。

翌日も爺様の姿は見つからず。

異世界に戻る前にナナさんを捕まえて、再び虎さんのお家へ。

そこで外套と帽子と布切れを渡される。

なにこれ? 異世界へ転移したときのための変装?

ま、そこはあまり追求せず、ほかの三人に倣って私も外套と帽子、布切れを装着する。目以外が隠れている格好。

四人並ぶと、怪しさ満点だわ。

しかも帽子も外套もお揃いだしッ。



すぐには転移をせず、伊左美さんの先導でしばらく歩くと、私たちと同じような格好で正体を隠した五人の一団がいた。

なに? この人たち? チーム靖の人たち?

伊左美さんは事情を理解しているのだろう。彼らとなにやら言葉を交わしたあと、私に転移のカードを使うように促してきた。実際にはカードは使わないけどね。

「転移解除。」

これは私が転移の術師であることを隠すためのフェイクだ。

異世界に戻ると、早々に謎の一団と別れた。

別れたあとで伊左美さんに聞いたんだけど、彼らは伊左美さんたちと同じように異世界に興味を持った仙道たちで、虎さんの口利きで今回の異世界行きが実現したのだとか。とはいえ、向こうの世界の情勢がアレだから、お互いに顔を知らない方がいいという理由でこんな変装をしたんだって。

今回、向こうに戻ったのは私がきっかけのイレギュラーだったけど、二年後にはまた向こうに戻るから、彼らとはまたそのときここで落ち合うことになる。



うう、他人のことを言えた義理じゃないけど、不穏分子の活動が活発になってきたわ。

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