2-20(65)チーム靖入り
「へえ~、転移の術が使えるんだぁ。って、ええッ?」
転移の術が使えるという告白に、靖さんがやや遅れて驚いている。
っていうか、靖さんのノリが最前から軽いんだけど、気のせいかしら?
「ほう、ほう、ほう」と玲衣亜さんは私の言葉を吟味するように唸っている。
「そんなん言っちゃってよかったの?」と意外にも伊左美さんが心配してくれているみたい。
とりあえず、質問を返してきた伊左美さんに応じる。
「いいんです。これを告白しておかないと、私の言葉の信用がありませんから。」
「まあ、確かに転移の術が使えるって前提で考えると、いままでの話も納得できるっちゃできるかな。ただ、葵ちゃんのスタンスに変わりがないなら、いまの告白に意味はないけどね。」
それは判る。
確かに、いまのままでは玲衣亜さんたちにとって私は邪魔な存在でしかない。
私が転移の術師だという秘密を握ったからといって、私が玲衣亜さんたちの邪魔をしないという保証もないのであれば、殺すよりほかない。
私としては、まだ玲衣亜さんたちの邪魔をしようと決めたわけじゃなかったのになぁ。
「とまあ、今日はここまでですかね? ボス。」
伊左美さんが私がなにも答えないうちから聴取を幕引きしようとしている。靖さんもそれに同意して聴取はお仕舞い。私は玲衣亜さんに促されて玲衣亜さんの部屋へ。
玲衣亜さんは桶とタオル、石鹸を用意してくれて、身体を洗うように言ってからまた部屋を出ていった。なんでも、これから秘密の会議をするらしい。
憂鬱な気分にしばらく床にしゃがみ込んでいたけど、せっかく玲衣亜さんが用意してくれたんだからと、上を脱いで身体を洗う。
タオルでゴシゴシ洗っていると、まもなく玲衣亜さんが戻ってきた。
会議にしては早すぎじゃない?
「もう終わったんですか?」
勢い胸を隠しながら尋ねる。
「ええ、もとからみんなの意見が大体一致してたからね。改めて話し合うようなことはなかったし。」
あっけらかんと答える玲衣亜さんに、もしかしたらという思いもあって、会議の内容について尋ねてみる。その内容はやはり私の処遇についてだった。「葵ちゃんはなにも気にせず、明日も正直に話してくれるだけでいい」と玲衣亜さんは言うけれど、回答次第では殺される可能性もあると考えると、とても気にせずにはいられない。
身体なんか洗ってる場合なのかな? と悲観にくれていると、玲衣亜さんの手が頭に置かれた。
「そんな怯えないで。大丈夫、取って喰おうってわけじゃないから。」
「玲衣亜さん。」
「たとえ葵ちゃんがどう答えたとしたって、私たちは葵ちゃんを絶対に傷つけない。嘘じゃないよ?」
玲衣亜さんが困ったような笑顔で頭を撫でる。
撫でるっていうか、やけに力が入っていて頭を掴んで揺らされてるって感じだけど。
痛い、痛い。
なんか私が厭がってるのを見て、途中からわざとぐいぐいしてるよね?
「あ~あ、私も軽く身体洗おうかしら。」
そう独りで言って、玲衣亜さん、また部屋を出て行ったかと思ったら、今度はナナさんも一緒に来て二人で一緒に服を脱ぎ始める。身体を洗いながら、そしてナナさんが部屋を出て行ってからも、こちらの世界や爺様のこととかいろいろなことを玲衣亜さんと話した。玲衣亜さんと話していると、なんだか緊張感が解れていくよう。
ランプを消して布団に入り、少し気を抜いてしまっている自分を戒める。
決着は明日だ。明日まで気を緩めるな、気を許すな。
翌日、玲衣亜さんたちは仕事だったので、日中はナナさんと二人きり。
ちょっと息苦しい感じ。
夕方、玲衣亜さんたちが帰ってきて揃ったところで夕食を囲み、唐突に尋問が再開された。
「ところで葵ちゃん、あれから考え方は変わった?」
マッシュポテトにパクつきながら、伊左美さんが聞いてきた。
「は、はいッ。」
突然切り出されたので、少々慌てた。
昨日のような重苦しい、刺々しい雰囲気はない。
少なくとも玲衣亜さんたち側には。
「変わりました。今後は伊左美さんたちの邪魔をしないことはもとより、こちらの世界に来た向こうの世界の誰にも干渉しません。私は、私だけでこの世界をウロチョロするようにします。」
「うん、いいんじゃないすか?」
伊左美さんが間髪入れずに軽い口調で承認する。
へ、助かった?
「いいと思う。」
靖さんも同意する。
「これで葵ちゃんも私たちの仲間だねッ。」
え、玲衣亜さん、それは少し違うんじゃ?
でも、とりあえず安全が確保されたッぽいことに興奮気味で、頭が上手く回らない。
「うん、仲間だな。」
ナナさんまでッ?
なんかナナさんが言うと説得力があるな。
「いえ、仲間っていっても、私、なにもできませんよ?」
いまの和気あいあいといった雰囲気を壊したくなかったから、全力で否定できない。
「いや、んなこたぁないよッ。なんかできるよッ。」
無邪気に微笑む玲衣亜さん。
「まあ、なにも気にすることはないよ。僕だってなにもできないんだから。」
靖さんはちゃんとボスしてるじゃないですかぁ。
あれよあれよという間にチーム靖の一員になってしまった。
いいのか? 私ッ。
うん、チーム靖は悪いことはしないッ。
これまで話してきた印象がそう告げている。
私にも酷いことはしないはずだ。
「あ、今度の土曜の晩、あっちの世界に一度戻るから。」
私の加入をお祝いしていたときに、不意に伊左美さんが告げた。
「葵ちゃんがチーム靖に加入した件について、一応、じいちゃんに報告しとかないとだから。」
ま、マジですか。できればそれはやめてほしいんだけど、いまの私は意見できる立場じゃないし。
結局、靖さんにお留守番を頼んで、残りのメンバーで向こうの世界に戻ることになった。ナナさんはこっちの世界の住人だけど、仲間でもあるから一度向こうの世界も見せてあげるんだってさ。
ああ、爺様になんて言われるか、いまから憂鬱だわ。
チーム靖加入までの経緯を話されてしまうと、いまだかつてないほど怒られるに違いない。なにしろ、相手が玲衣亜さんたちでなければ、殺されていてもおかしくない状況だったから。
一方で、爺様がこの窮地から私を救ってくれないかとも期待してしまう。
そんなわけで、複雑な思いで向こうの世界に戻る日を待った。




