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2-11(56)居眠り

虎さんが会議場に戻り、二人っきりになると爺様は会議欠席の件で私を問い詰めた。

爺様に言いたいことがあるのは判るけど、だからって、二度とするなと約束していた召喚を用いられたことについては、私にとっても心外なんだ。

私は体調不良で寝込んでいたと嘘を吐いて、爺様を責めた。

だって、本当にそうだったとしたらさ、大変なことじゃない? で、そう言い訳しておいて、爺様が約束をたがえてまで召喚の術を使った理由を尋ねてみる。爺様、困り顔。判るよ? だって、私がサボったと思ってたんでしょう? そして、その理由に固執した挙句に、ほかの可能性を捨てたからこそ、いとも簡単に約束を破ってみせたんでしょ? そう言ってみなよ。なに黙り込んで言葉を探してんの? え? すまん、ですって? 帰っていいって? 身体の具合はって? やめてッ。そんなふうに応じられるのが、一番堪えるわッ。

「ううん、会議には出るよ。」

なんだかこのまま意地を張ってはいられない気がした。

「ん、無理はしなくていいんだぜ?」

爺様はふだん見せないような弱り切った様子。

「嘘よッ、嘘。体調不良なんてでっち上げ。おじいちゃんのお察しのとおり、面倒くてサボっただけだから。だから、そんなふうにしていないで、もっと元気出してよ。」

「本当に、具合は悪くないんだな?」

「ええ、至って健康そのものよ。」

「ふう、ホントに、なにがホントなのやら。」

「大丈夫、こういうことについてはホントのことしか言わないよ。」

「そうか。」

「あのね、ちょっとこれだけは言っておくけどね。私は、おじいちゃんのこと、嫌いじゃないよ?」

「判ってるさ。」

爺様、そう言って私の肩を叩くけど、やっぱりまだ弱々しい感じ。

「おじいちゃんって、最初からおじいちゃんだったけど、やっぱり、年々歳を取ってるんだね。」

「はあ? なに言ってんだ?」

「ああ、ごめん。なんかね。」



なんだかおじいちゃんとの仲に亀裂が生じたみたいで変な気分。

なんにしても、もう会議を面倒臭がったりなんかしないよ。

だって、おじいちゃんは私のためになると思って出席を促したんでしょ?

だったら、出席しておく方がいいはずだもん。

黄さんにしたって、私が欠席すると逆に変に勘ぐるかもしれないし、そういう意味でも出席するに如くはない。

マイナス要素前向き変換システムを作動させて、心のケアもバッチリッ。

会議だろうが怪異だろうがどんと来いッ。

寝惚けたこと話してたら野次飛ばしてやるんだからッ。



会議場内の中央に細長いテーブルがあり、テーブルの横手に天さん、黄さんが並び、長手に各六名の仙道が向かい合って座っている。

そこには先程居合わせた虎さんもいた。

黙って会議の開始を待つ人、隣の人と談笑している人、ヒソヒソ話し合っている人って感じで、雰囲気は三者三様だ。

一体、誰がどれだけ偉い人なのか判らないけれど、まあ、見た目は一様に若ぶりだし、年齢での判断はできない。ただ、みんな偉いんだろうなぁとは思う。そんな中にウチの爺様がッ? いまだに信じられないけど、爺様、部屋の隅に私の椅子を用意すると、スタスタと天さんの隣に座る。んんん、どうなってんだろ?



爺様が着席したのを潮に、天さんが「それじゃあ、面子が揃ったところでそろそろ始めようか」と気安くみんなに声をかける。

みんなの注意が天さんに向いたところで、黄さんが咳払いを一つ挟み、「本日、進行を務めさせていただきます、黄蓮です。よろしくお願いします」と挨拶。「本日はお忙しいところを集まっていただき、誠にありがとうございます。お集まりいただいたのは、みなさんもすでにご存知かと思いますが、先日発見された新兵器について、ざっくり申しますと、どうするかを話し合うため、なんですね」と黄さんが会議の要旨を説明する。

「これがその新兵器なんですが。」

テーブルの上に銃が載せられる。

「発見からの概要を説明しますと、発見されたのは二ヶ月前の二月二〇日。場所はコマツナ連邦との国境と接する霞ヶ原で、発見者はその近隣の村に住む弥平やへいという猟師。彼が新兵器を自宅に持ち帰ったところ、新兵器が火を噴き彼の妻であるタエを傷つけることになりました。幸い、頬を掠めただけなので大事には至りませんでしたが、彼の話によれば、凄まじい音がしたかと思ったと同時に一、二メートル離れたところにいた妻にダメージを与え、さらにその先にある雨戸を破壊した、というんですね。彼の自宅からはこの新兵器の一部と思われる部材が見つけられています。おそらく、その部材がこの新兵器から発射され、奥様を傷つけたものと考えられます。」

黄さんが淡々と話す。

「さて、この新兵器については、世間では他国が開発したものじゃないかなどと憶測が飛び交っていますが、私たちはそうは考えていません。そこで、ではこの新兵器が何なのかを、爺さんにご説明いただきたく思います。爺さん、お願いします。」

「ふん、公の場で爺さんよばわりする奴があるかッ。」

「ふふ、ですが、爺さんのほうが通りがいいものですから。」

黄さんの言葉に頷く一同。

「じーじ、がんばってッ」と黄色い声援も飛ぶ。

なんだか知らないけど、爺様、思いのほか人気あるじゃない。

当の爺様は面白くなさそうに表情を歪めてみせている。

「え~、この新兵器ですが、これは銃という名前の武器です。他国の新兵器でもなんでもありません。なにしろ、この世のものではないのです。」

その言葉に、眉をひそめる者や「どういうこと?」と隣の人に尋ねる者もあり、やや会議場がざわつく。

「異世界、というのを、みなさんはご存知でしょうか? ま、知ってるのもちらほらいるのは知ってるが。」

また場内がざわつく。

「異世界というのは…………。」

爺様が異世界について語り始める。



異世界については、おそらく私の方が事情通だ。

だけど、爺様が知っている異世界を私は知らない。

この数十年での街の激変。

昔ながらの街並みが失われることを嘆く詩もあるほど。

そんな詩に描かれる情景が当たり前だった時期を、爺様は見てきたんだ。

きっと、野山や草花、青空、海なんかは、いまも昔も同じだよね?

服装はどんな感じだったのかな?

ちょっと想像してみる。

よく判んないけどね。

あら? 爺様、どうしたの? そんな格好して。

目の前になぜか妙ちくりんな格好をした爺様が立っている。

「大体いつもこんな感じの格好だが。それよりさあ、行くぞ。今日は祭りだから、早く帰ろう。」

祭りッ?

「今日は収穫祭じゃないか。」

気がつけば爺様、籠一杯の苺を背負っている。

あ、れ? 爺様って、苺畑やってるのかな?

夕焼け小焼けの帰り道。

遠くで二人の少女が道に長い影を伸ばして遊んでいた。

私たちに気づいた二人が声を上げた。

「マーガレットッ。」

「七時に広場ねーッ。」

手を振りながら、そう叫んだ少女たちに一応、手を振り返しておく。

ただ、マーガレットというのが誰のことなのか判らない。

私、マーガレットだったかしら?

丘の稜線を夕日が真っ赤に染めるころ、祭りが始まった。

燃え盛る炎の薄明かりを頼りに、出会う子、出会う子ととにかくはしゃいだ。

暗がりに遊ぶというのが新鮮で、なにをしても喋っても面白いし、無暗に気分が高揚する。

なんだか一〇代前半の少女に戻っている気がした。

私はいま、どんな姿をしているんだろう?

どんなふうに笑っているんだろう?

そう思うと、不思議と自分の姿を見てとれるようだった。

一瞬、闇が濃くなる。

森の悪魔が手を伸ばして、炎の光を覆い隠したんだわ。

森が不気味に笑っている。

助けて、爺様ッ。

その声は、ヘレンにプル?

どこにいるの?

視界の端にやや光が宿る。

あ、お皿の上に最後の苺が載ってる。

手を伸ばそうとするが、身体が眠っているみたいに言うことを聞かない。

力を籠めようと試みるが、頭と身体がまったく別物になってしまった感じ。

すべてがふわふわとして、曖昧で、とりとめがない。

ふんッ、ふんッ。

ダメだ、目の前にあるのに、苺が遠い。

う~ん、取れないなぁ……。



はッ。

あ、寝てたわ。

テーブルの奥に座っている虎さんと目が合う。

ああ、あれは私が寝てたことを知ってる顔だわ。

途端に気不味くなって、確認がてら面白い表情を拵えて、虎さんのことをじっと見てると、また目が合ったときに虎さん、ちょっぴりニヤリとしたから、間違いない。

それからテーブルを見渡すが、虎さん以外はこちらを見ていない。

ね、それが本当でしょ?

会議中に余所見だなんて、褒められたことじゃないわッ。

ちょっとぉ、こんなことしてたら、なんのために会議に出席してるのか判んなくなるじゃない?

集中ッ、集中だッ、私ッ。

まったく、誰なのよ? マーガレットだのヘレンだのプルだのって。


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