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2-9(54)女の子

「ここにいるのはまずそうですッ。とにかく一度、外へ出ましょうッ。」

トトさんの声に、私と爺様は頷く。

だけど、いち早く窓際に到着したトトさんが窓を開けようとするも、窓はわずかしか開かない。きっと外に障害物を置いているんだわッ。

「ドアの方はッ?」

走ってドアに駆け寄り、ノブを回すもやはり開かない。

「敵もさるものですな。」

トトさんが感心したように笑みを浮かべる。

「もしかして、閉じ込められちゃったんですかッ?」

我ながら間抜けな声が出たものだ。

焦るな、落ち着け。

いざとなれば、転移の術があるのだから。

「まさかね。」

言いながらトトさんはチビが持っていた斧を拾うと、それでドアの丁番を叩き始める。

それからドアを抱えると、ぐいぐい捻り、無理矢理ドアを外してしまった。ああ、ドアの開け方も一通りじゃない、か。

ドアの向こう側には、土嚢が敷き詰められていた。

斧を放り、今度は槍の穂先を拾ってきたトトさんが、土嚢をザクザクと切り裂いていく。

ドアの開け方といい、土嚢の処理の仕方といい、案外、力任せではないのね。

「ほら、袋から土を掻き出していってください。」

土嚢を一つひとつ持ち運べるようになると、そこからはあっという間だった。



窓からの侵入を憂う必要もない。

廊下に出たあと、再び土嚢でドアを塞いだから、これで荷物の安全は保障されたかな。

あとは私たちさえ用心すれば、トトさんも自由に動けるのだけれど。

「荷物を移さないといけないから、脱出するんじゃなく、敵を殲滅する方向で動いてもらえるかい?」

爺様がトトさんに指示する。

「じゃあ、とりあえず敵さんがわんさかいそうな上の方へ行ってみますか。」

現在、階上の方から土木工事のような音が響いてきている。

一体、なにを企んでいるんだろう。

と思った矢先、工事の音がピタリとんだ。

もしかすると、私たちの脱出に気づいたのかもしれない。

トトさんが駆け出す。

私と爺様は離され過ぎないように慌ててあとを追う。



二階。

廊下には見張りとおぼしき数人の山賊がいて、つちを構えている。

トトさん、それを見て足を止めた。

「へえ、やっぱ、案外考えてるんだね。」

なんでもない顔のトトさんに対し、山賊たちは緊張感を漂わせている。

「喰らうつもりはないけど。」

山賊たちが振るう、大人の身長ほどもありそうな長い槌をトトさんは難なくいなし、あっという間に山賊たちをやっつけた。

山賊たちが集まっているであろう部屋へ入ると、中には数名しかおらず、残りは窓から脱出したあとだった。

「そのまま逃げ出すっていうんなら、武器を置け。見逃してやる。死にたい奴は、武器を構えてろ。」

トトさんの言葉に、お互いの顔を見合わせる山賊たち。

「三秒だ。さ~ん、に~い……。」

トトさんがカウントを始めると、山賊たちも慌てて武器を置く。

「これで、ホントに逃がしてくれるのか?」

山賊の一人が半信半疑といった様子で尋ねる。

「ああ、気が変わらないうちにさっさと行けよ。」

すると山賊たちは次々に窓から飛び降りていく。

え、二階とはいえ、結構な高さだったと思うんだけどッ?

「あ。」

爺様の間抜けな声に振り返ると、爺様の脇に小さな女の子が立っていた。

「あら、相楽。久しぶりね。」

「そうだね。じゃあ、帰ります?」

「はいッ?」

爺様の言葉に女の子は唖然としている模様。

「ふふ、まあ冗談だが、あいにくもう片が付いたようだから、特に用はなかったり、なかったり。」

「えええ、なにそれッ? 冗談でしょッ?」

「いや、さっきまでは本当に助けが必要で召喚するのに必死だったんだが、なんか上手く召喚できなくって。」

「ああ、ああ、ああ。そりゃあ、お芝居を観ている最中だったんだもの。おいそれと召喚されてたまるもんですか。」

「え、というと?」

「なんだかよばれている感覚があって、身体が引っ張られる感じだったんだけど、もう必死で抵抗したわ。で、幕が下りたんで素直に呼ばれてきたってのにッ。」

「ちゃんと最後まで観れたんだったらよかったよ。」

「よかぁないわよッ。なんでラストシーンを術に抗いながら馬鹿みたいに力んで観なきゃいけないのよ? おかげでせっかくのお芝居が台無しよ。」

「それは、なんというか、ホントに申し訳ない。」

召喚されてきた女の子と爺様がそんな話をしている間に、山賊たちは一人残らず窓から飛び降りてしまった。私は山賊の動向を確認すべく、窓から顔を覗かせてみる。先頭はすでに山を下り切って街道に出ていて、そのあとを、まるで乱れた蟻の隊列のように逃げ遅れた山賊たちがつづく。はあ、これで一段落ね。

窓から見下ろすと、一階の窓の高さまで数列の土嚢が積まれていた。これを足場代わりにしたから、難なく飛び降りていたわけか。

改めて部屋内を見回してみると、床の中央あたりが破壊されていて、辺りには槌やつるはしが転がっている。ひょっとすると、天井を落として私たちをペチャンコにしようと企んでいたのかしら。

トトさんも窓際にやってきて、外の様子を眺めている。そして、「これでOKかな?」と確認されたので、頷いてお礼を言った。

爺様と女の子はまだ話し合っているみたい。

間の悪さはあったにせよ、あの子にはとんだ災難だったわけだ。爺様の召喚の術も相手の都合を考慮できないようだから、あんまり無暗に使えないようね。今回の件はこの廃屋を隠し場所に選んでしまった私にも責任の一端がある。なんだか気不味いけれど、きちんと謝っておくべきよね?



女の子は特に文句を言うでもなく、私の謝罪を受け入れ、それからまた爺様と話し始めた。その会話にトトさんも交ざる。しばらく爺様たちの会話を立ち聞きしていたのだけど、なんだか召喚されたついでにこの世界を観光するとかなんとかって話になったようなので、転移の術で行きたいところの近くまで送ろうかと提案したけど、爺様により却下された。

用がないならと、私はすごすごと荷物を片しにかかる。

ここは廃屋には違いないけれど、さっきまで居住者がいたなんちゃって廃屋だったからね。さてさて、荷物をどこへ移したものか。

そこへ爺様から声がかかる。

これから三人で出発するが、会議の日程が判り次第、連絡するとのこと。でも、連絡って言ったって、ウチまで来てたら往復している間に会議終わっちゃいそうだけど。

まあ、いいか。

連絡とれなかったらとれなかったで、会議に出なくて済むんだし。

うん、その方が気楽でいいわ。

黄さんにも会わなくていいしね。

ふう、これで肩の荷が一つ下りたわね。

あとはこの廃屋の件と荷物の件と……。

ああ、忙しい忙しい。


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