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2-4(49)天さん

東場は終わり、南入しています。

あ、葵です。

賭けについてはあくまで天さんと爺様の間だけでやるとのことで、ちょっと安心しています。でも、勝負は勝負なので、易々と負けようとも思いません。少年Aに聞き聞き、捨て牌を選んでいます。はい、完全に傀儡かいらいですね。でもいいんです。負けるよりはよっぽどマシです。ま、そのおかげでドベ街道をひた走っているのですが、一度上がれたので焼き鳥はありません。ええ、これもすべて少年Aのおかげです。本当にありがとうございます。



というのは置いといて。

天さん、麻雀の進行も落ち着いてきたというのに、まだ本題を切り出さない。

おそらく、この半荘に勝って隠し事の多い爺様に正直さを備えさせておいてから、本題に切り込むのだろう。いまのところ、爺様の方が勝ち点が多い。このまま逃げ切ってくれればいいのだけれど。



さて、南四局。

爺様がまだ一万点以上の差をつけて天さんを引き離している。

私は南場になって振込みこそしていないものの、上がれてもいないので、もう半ば勝負から降りた格好。ま、勝負しているのは爺様と天さんなのだからなんら問題ない。あとは心の端っこで爺様を応援するだけだ。

牌をツモり、理牌する。

「ふおッ?」

対面の天さんが変な声を漏らす。

「おほ、ツモってらぁ。」

え?

パタッと倒された天さんの牌。

え~、あらッ。平和、タンヤオ……。

「役満きちゃったわ~。一〇〇年振りの再会だわ~。はい、一万六千点出して。」

一万六千ッ?

「なに? これ?」

驚いて少年Aに尋ねる。

「ああ、これはイカサマといいます。」

「イカ様?」

「はい、要は小細工して不当に役を作ったということですね。」

はあ? そんなのってアリなの?

「おいおい、人聞きの悪いこと言ってんじゃねえよ。」

悪びれた様子のない天さん。

少年Aが慌てて役満について解説してくれる。

ちなみにいまのは親の配牌の時点で役ができているという奇跡の役で、天和テンホーというらしい。奇跡的な役なのに、天さんはよくこの手を上がるので、もう奇跡でもなんでもないんだ、と少年Aは嘆いた。

「サマもばれなきゃ、サマじゃない。」

爺様が噛み締めるように、ゆっくりと呟く。

「お、いいこと言うじゃないか。」

「昔、いつだったか、偉い奴が言ってた台詞せりふさ。」

自嘲気味に笑う爺様。

「そいつは確かに偉いに違いない。」

「いや、お前なんだが。」

「おお、覚えてないが、そうなのか。へえ、昔のオレもいいこと言ってるじゃないか。」

どうやら、爺様もこの上がりに反論するつもりはないみたい。

ああ、南四局までの攻防はなんだったんだろう?



二回戦の準備をしながら、天さん、本題を切り出してきた。

もちろん、正直に答えなければならない旨、爺様に念押しするのも忘れない。

本題というのは、やはり発見された銃のことだった。

どうやら、それについての爺様の見解を聞きたいらしい。

爺様の方でも隠すつもりはないから、自身の見解についてはあっさりと述べる。

異世界の物である可能性がある、と。

天さんも半ばそれを疑っていたようで、特に驚いた様子もない。

昔から十二仙をまとめる立場だったことから察するに、ほかの若い衆よりは異世界への造詣が深いのかもしれない。問題は、天さんがどこまで知っていて爺様をよびつけたのか、というところだろう。


「もう、相楽さがらはじめが亡くなって三〇〇年くらい経つか。」

「ん、二九五年だな。」

「そうか。」

「毎年、墓参りに行ってくだすって、感謝してます。兄貴も蒼月さんの心配りに、草葉の陰で感謝してることと思う。」

「ふん、恨まれこそすれ、感謝されることはないな。」

「もう、二九五年だ。とっくに恨みなんて忘れてるさ。」

「お前も、オレもだが、欠かさず墓参りに行ってるじゃないか。」

「忘れてないってことかい?」

「そういうことよ。」

「せっかくオレが兄貴に代わって許したって言ったのに。」

「許されなくても、いいんだ。あいつはあいつの意志を貫き、処刑されたが、その意志は年月に風化することなく、いまも受け継がれているんだ。オレへの恨みもそれと同じように、そうそう変わるもんじゃなかろう?」

「受け継がれてる意志ってのは、異世界のことだな。」

「うむ。」

「でも、兄貴はとっくに死んでるんだぜ? まさか、兄貴があの世からこっちに転移してきて、こっちと異世界の行き来を手伝ってるとでも言うのかい?」

「え、転移の術ってあの世でも使えるの?」

「あのよぉ……。」

「いや、ワシもアレだったが、爺さんも大概だな。」

失笑を漏らす二人。

二人はきっと気不味い質疑応答の雰囲気を和らげようとしてるんだ。

うん、そうに違いない。でなきゃ、許さないッ。



「で、その異世界なんだが……」と天さんが切り出せば、爺様も自然と顔を引き締める。

先程、天さんは相楽一の関与について冗談めかして話していたが、あながち冗談ばかりでもないようだ。転移の術は施術者が訪れた場所および視認している場所にしか転移できない、とされている。実際、そうなのだけど。だから、たとえいま転移の術者が誕生していたとしても、異世界へ転移することはできない。ということは、今回の銃が異世界の物だとすれば、誰かが異世界とこちらを行き来しており、そこには相楽一の関与が疑われると、そういうことらしい。

とはいえ、相楽一はすでにこの世にいない。

つまり、相楽一はなにかしら異世界へ行く手段を遺していったのではないかと推測しており、彼と近しい爺様はそれについてなにか知っているのではないかと言うのだ。



爺様は知っているッ。

カードを持っているッ。

私が異世界とこちらを行き来することを可能にした異世界行きのチケットッ。

どうするのッ? 爺様、勝負に負けて正直に話すと宣言させられたじゃないッ?



「奇遇だな。オレも同じように考えていたんだ。兄貴がなにかしら遺したんじゃないかってな。だが、あいにく、オレは知らない。」


えええ? そんなあっさり嘘吐くの? いや、それでいいんだろうけど、なんか、葛藤もなにもないようで、拍子抜けしちゃったわ。

否定の返事を受けても、なおも天さんは爺様をはじめ、私たちの家系を疑っている。なにも生前の相楽一と接点がなかったとはいえ、血縁という意味で、相楽一と近しい人物なのは間違いないのだから、真っ先に疑いを向けられるのはむしろ自然なことかもしれない。あまり気分のいいものではないけれど。図星なだけ余計にね。



このまま問い詰められ続けたら……。

私に話を振られたら……。

この場で、でなくても、もし私が異世界とこっちを行き来していることが明らかになってしまったら……。

爺様はのらりくらりとはぐらかしているけれど、嘘が露見したとなると、今日吐いた嘘のせいで余計な怒りを買うことにならないだろうか?

一方で少年Aの指示を仰ぎつつ牌をツモったり切ったり、一方で爺様と天さんのやりとりに戦々恐々としながら、なにも事情を知らないただの親戚の子ですというふうを装う。触らぬ神に祟りなし、だ。



ああ、いつのまにかあんなにお天気だったのに暗雲が立ち込めてるわッ。

遠くで雷が鳴っている。

爺様の嘘に神様が怒ってるのじゃないかしらん。

部屋内の影が濃くなってきたので、蝋燭に火を灯して明かりを取る。



「オレが指揮したわけじゃないんだが、当時を知る者の中には爺さんが怪しいと睨んでる奴らもいて、そいつらは相楽一の一族や異世界に行ったことがある者を尋問しようと画策しているらしい。」

え、待ってよ、勘弁してよ。

私たちは本当に銃の件とは関係ないのに。

「そんな話、オレに話してもよかったのか?」

「勘違いするなよ? 別に、オレの爺さんに対する疑いが晴れたってわけじゃないんだが、ま、いろいろ答えてもらったお返しさ。」

「ふん、そんなこと恩着せがましく教えられたところで、全然気は晴れないけどな。」

「相変わらず口が悪いな、爺さんは。」

「お互い様だろ?」

爺様と天さんが減らず口を叩いていると、部屋が一瞬明るくなる。直後、耳をつんざく雷鳴が建屋を揺らす。

視線を外に向ければ、部屋の出入り口に人影が一つ。

続け様に人影の背後にもう一発雷が落ちる。

なに? この天変地異?


「ちょっと人が席を外している間に、あんまりじゃないですか。」

廊下に立っていた人物がそう言いながら、悠然と部屋の中へ歩を進める。

「はッ、なに言ってやがる。」

天さんが入ってきた男を睨み、吐き捨てるように言った。

それに対し、「ふん」と不敵な笑みを浮かべる男。

仮にも天さんにそんな不遜な態度を取るなんて、何者なのかしら?


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