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2-2(47) 銃はどこから来たのか?

なにも考えずに書き始めたら、次の話をなにも考えられなくなりました。

ストーリーを組み立てるのって難しいっすね。

銃が発見されたのは一ヶ月前の二月二〇日。

発見場所はあの野次馬と憲兵がいた森付近。

発見者は近隣に住む弥平やへいという男だったそうだが、銃を家に持ち帰り、それが何なのか調べようと試していたところ、銃が暴発して嫁のタエの頬を掠めたらしい。

その一件は村人の知るところになり、警察が介入する。

だが、警察といえども銃を見るのは初めての者ばかり。

これは異国の武器ではないかとの結論になり、憲兵が出張ってくるに至る。

現場検証が行なわれ、戦闘の痕跡が認められる。

焼け切れた銃身の一部も発見される。

だが、その戦闘を目撃した者はいない。

一つひとつ可能性を検証するべく、都では聖ラル・リーグと交流のある異国への使節団を派遣する準備を開始したとのこと。

まあ、なんにせよよかった。

私のヘマじゃないわッ。



爺様はその話を聴き、さらに実際に銃を見せてもらったことで、この事件には異世界が絡んでいると察したらしいのだけど、ほかの人たちにそんな様子は一切ないようで。

爺様が以前から話してくれていたように、この世界で異世界のことを知っている者というのはほとんどいないようだ。



こんな情報、おそらく国家機密だろうに、なぜウチの爺様が知っているんだろうと思ったけど、爺様は昔の知り合いに偉いのがいるんだと言うばかり。

実際、私は爺様の古い付き合いというのを知らない。

齢五〇〇を越すと本人は言うが、どこまで本当なのか。

二代遡れば五〇〇年前まで辿れるという事実も凄いように思われるし。

身内のほかは身近に術師や仙道なんていないから、感覚がほかの術師や仙道と比べてちょっとずれてるのかもしれない。

かく言う私はまだ二〇歳で、見た目と年齢も一般人相応だし。

といっても、術が使えるから一般人ってわけではないのだろう。

おそらく父方の血が濃いんだ。

母は一般人だったから昨年、五十四歳で亡くなった。

術師だった父がなぜ母と結婚したのかも謎だ。

二人の馴れ初めの話なんて、聴いたことがないし、聴けないし。

きっとタイミングが良くって、素敵な恋をしたんでしょう?

あいにく私には恋をするような乙女心はないけれど。

病床で母は幸せだったとよく話していたが、実際、自分の死後もほかの家族はずっと元気で団欒を続けていけるのだという事実に対して、どういう気持ちでいたんだろう。

母にはいろいろと聴いておきたいことがあった気がする。

ふと質問が湧いても、すぐ忘れてしまうし、いざ母を前にすると尋ねるのがためらわれた。きっと、いま母が目の前にいたとしても、聴けやしないだろう。もし母の内心が私の想像どおりだった場合、質問することで母を傷つけてしまうかもしれないから。



爺様はいま、地下室にて異世界の新聞紙に目を通している。

ふだんは異世界への関与に消極的な爺様だけど、自分の預かり知らぬところで異世界がこちらの世界に干渉してきていると知るや否やこの調子。

そのせいで、私も地下室に籠って爺様の動きを一々警戒してなきゃならない。

なにしろ、本当に秘密のアイテムがいろいろあるんだから。

勝手にあちこち物色されたら堪ったもんじゃないッ。



新聞紙もそうだけど、すでに異世界は爺様が知っていたかつての異世界とは様変わりしているのだろう。無暗に驚いたり感心して唸っている。

古い街並みが破壊され、新たな景観が生み出される様子を目の当りにした私でさえ、その急激な変化に驚かされたのだから。久しく異世界に触れていない爺様にしてみれば、それこそもう一つの異世界を見ている気分に違いない。



あちらの富裕層のお屋敷では、蛇口を捻るだけで専用の管を伝って水が出てくるというのだから、聖ラル・リーグとの技術力の差、人々の運動の差は歴然だ。

この云十年であちらが変貌していくなかで、こちらのなんと暢気なことか。



ま、差し迫った外敵の脅威、というものがないのだから、変わらないのも頷ける。

大きな戦があったのはもう三〇〇年も前の話。

獣人の国同士で作られたコマツナ連邦。

当時はまだ連邦制にはなっておらず、大小の獣人の王制国家が存在していて、それらのうちコマツナ王国が聖ラル・リーグの海洋利権を狙い侵攻してきたのに端を発した戦だったけど、ほかの獣人国家がコマツナ王国の利権の独占を嫌って続々と参戦して戦の規模は途端に大きなものになった。

東西南北あらゆる方面から侵攻してくる獣人たちを前に、聖ラル・リーグは為す術もなく蹂躙されるかと思われたが、度重なる天候不順により各地の戦線で両陣営共に総崩れとなり、戦は長引くことなく終結した。

その天候不順が各地の戦線ばかりを狙い澄ましたかのように襲ったものだから、終戦以来、異種族間の戦は神の怒りに触れると迷信され、今日まで聖ラル・リーグと獣人国家は戦をしていない。

戦はしていないが、両国の関係といえば、互いに必要な資源を輸出入するに留まっており、この流通ラインを止めることは宣戦布告に相当するのだといわれている。

一体どこまでが事実で、どこからが作り話なのか判らないけれど、こうして殺し合うことなく三〇〇年が経っているのだから、まあ、よくできた物語なのでしょうね。



私も聖ラル・リーグとコマツナ連邦との流通の末席を汚して口に糊する身だから、安定して仕事を請け負えるこの流通ラインについて、アレコレ言うつもりはない。

蓬莱山ほうらいざんの麓にある仙人の里でなら仕事をする必要もないと爺様は言うのだけど、私は蓬莱山との縁も薄いし、母も一般人だったし、生まれも育ちもここだし、いまのところ引っ越すつもりはない。



「新聞ってのも大したもんだが、これには今回の一件の手掛かりになりそうなことはなんも書かれてないな。」

爺様がバサバサッと新聞紙を折り畳みながら言った。

あら、そんな記事を探してたんだ?

だったら、向こうに転移して探せばいいのに。

「その前の日の新聞には載ってるかもしれないし、その翌日の新聞に載ったのかもしれない。新聞ってそんなもんだから、目当ての記事があるなら毎日読まないと。」

「そりゃ無理な話だな。オレは葵のように向こうに行けないんだから。」

「え? 行けないの?」

「ああ。」

あれ? 確か、最初に私を異世界へ連れて行ってくれたのは爺様だったはずなんだけど?

「ああ、あっちに行くと術が使えなくなるから、ふつうだと帰れなくなっちゃうもんね。」

「いや、そうじゃない。単純に、あっちへ行く術を使えないんだ。」

「でも、最初に私を向こうに連れてってくれたのはおじいちゃんじゃない。」

「あれはちょっとズルしたからな。」

「ズルって?」

「今回の件にも関わってくることだから話してしまうが、異世界へは術が使えなくても転移できるんだよ。」

「そうなんだ?」

「ま、その方法も実のところ、最近までオレだけしか知らないと思ってたんだがな。どうやら、ほかにも知ってる奴がいるらしい。」

「その方法っていうのは?」

「転移の術と同じように作用するカードがあるのさ。」

「カード?」

「かつての転移の術師が作ったんだ。」

「なんでそんなのをおじいちゃんが持ってるの?」

「信用されてるからさ。」

「言えないってことね?」

爺様が冗談で答えるときは、大体、正直に言いたくないときなんだ。

「ま、いつか機会があれば、話してやるさ。」

「気が向いたら、の間違いでしょ?」

「馬鹿言え。」

ふん、馬鹿はどっちよ?

そんな大事なことをいままで黙っていたなんて。

私の世界にこっちの世界の誰かがいるかもしれないってことでしょ?

信じられないッ。

ひょっとすると、もう向こうで擦れ違ったこととかあるかもしれないじゃないッ。

「おいおい、いつか話してやるから、そうむくれんなよ。」

爺様ッ。

私はそんなことでむくれてるわけじゃないわッ。

正直、どうして爺様がそのカードを持ってるかだなんて、もうどうでもいいんだからッ。

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