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2-1(46)爺様と私

2章からは語り手を変えます。そうしないと、物語の全容を伝えるのに難がありそうだったので。

冬至も過ぎて日照時間が伸びてきたことをありがたく思う今日この頃。

仕事帰りの畦道。

遠くで人だかりができているのを見つけて、野次馬根性を奮い立たせて私もその輪の中に飛び込んだ。



田舎に住んでるからって、新着情報に無関心ってわけじゃない。

むしろ、みんなのお茶受け代わりにと、日夜どうでもいい些細なことにまでアンテナを張り巡らせ、小さな出来事をまるで大層な事件であるかのように脚色してはお互いに提供し合っているのだから、おかしな感じ。

知ってる世界が一つだと、そんなもんなんだろう。

暇潰しの話題には年中事欠いてるんだから。



人だかりを縫って輪の内側を見ると、憲兵が辺りを調査しているようだった。

「すいません、ここでなにかあったんですか?」

隣にいる人を捕まえて尋ねてみる。

「さあ、判らないけど、これだけ大人数の憲兵が動員されてるんだから、大事件でも起きたんじゃないかって思ってるんだけど。」

どうやら、憲兵が捜査している事柄がなんなのか知っている野次馬はいないよう。

そうかといって、憲兵が捜査内容を教えてくれるとも思えない。

ま、これだけの規模で憲兵が捜査してるってだけでも、ネタになるかな。



日が落ち切る前に家に帰る。

待つ人のいない、小さな家。

母は他界し、父は隣国であるコマツナ連邦に赴任、兄は都に家族共々引っ越し、そして爺様はやや離れた川の近くに家を構えているが、ふだんは蓬莱山にて旧知の友達と一緒に暮らしているので、あまり家に居る姿を見ない。

一方、私は母の墓の守りもしないといけないし、仕事もあるから、いまのところここを引っ越すつもりはない。



なのに、なんで?

ウチに爺様がいるじゃない?

「あら、いつ来たの?」

「ああ、おかえり。いや、昼過ぎに来たんだが、そういや仕事してたなぁと思って、待ってたんだ。」

「ふうん、ちゃんとお昼は食べたの?」

「おう、徳ちゃんとこで食った。でも、とくちゃんとこの父っつぁんはもう死んだんだってなぁ。倅が一人で店を切り盛りしてたよ。おばんももういいばあさんになってたし、えらい驚いたわ。」

「まったく。いつの話をしてるの? 徳さんが亡くなったのはもう五年も前よ? まあ、亡くなるにはちょっと早かったけど、肺を患ったみたいでね、そのまま回復せずに呆気なく逝っちゃったわ。それからおばさんもあまり元気がなくなったみたいで、ね。」

「なあ、まだ十分働ける年代だったし、孫も生まれたばかりだったっていうじゃないか。口惜しかったろうなあ。」

「でも、孫が無事生まれたから、安心したって考え方もあるんじゃない?」

爺様にとっては私が孫にあたるのだけど、私もすでに適齢期になっている。

なのに結婚しないから、こどもだ孫だといった話題になると爺様に対して少し後ろめたさを感じてしまう。

「そうは言っても、小っちゃい子が成長していくのを見るのも面白いんだぜ。しかも孫となると今度は面倒なことは全部親に押しつけちまって、爺婆はいいとこ取りできんだから。」

爺様には爺様で思うところがあるんだろう。

その言葉には寂しさが滲んでいるようだった。

「ま、せいぜい私も早くひ孫を生んで、おじいさん孝行させてもらうわ。」

「おいおい、そのためにゃ相手がいるんだぜ? ま、アテにせず気長に待つから、がんばりな。」

「がんばれって言われると心外だわ。私ならがんばらなくたって、なんとかなるわよ。」

そうそう、爺様は少々口が悪いんだ。

「地下室を見てきたかぎりじゃ、まだどうにもなりそうにねえ感じだったが。」

そう言って爺様が含みのある笑い方をする。

「ええッ? 勝手に入ったのッ?」

地下室には私の秘密が溢れているのにッ。

「勝手って、ここはオレたちの家じゃねえか。親父だって、兄貴だって、気が向けばふらふらっと帰ってくるんだからな。」

そう言われてしまうと、反論の余地がない。

精々、あんたらは家を空けてふらふらしていい気なものね、と言ってやれれば気も晴れるのかもしれないけど、相手が爺様ではそんな軽口は叩けない。孫だからって、あんまり調子には乗れないんだ。

「わかってるわよ」と返事して、紅茶を淹れる。

「ちょっと待ってて。いまお夕飯の支度するから。」

まったく、それにしても来るなら来るで手紙の一つでも寄越せばいいのに。

爺様が言うようにふらふらっと帰って来られちゃ、なんの準備もできやしないんだから。

あ、ほら、お醤油が切れてるじゃないッ。

ちょっと遅いけど、あやちゃんとこで買ってこなきゃッ。



「葵が最後に異世界に行ったのっていつだったかなぁ?」

出し抜けに爺様が尋ねてきた。

ああ、やっぱり。

だから地下室に入ってほしくなかったのよ。

異世界資料館といっても過言じゃないくらい、地下室には様々な物が置いてあるのだから。

それに、私が異世界へ遊びに行くことを爺様があまり良く思っていないこともなんとなく判っている。はっきりとそう言われたわけじゃないけれど、だって、異世界へ行く予定を話しに行くと、決まって顔に出るんだもの。そんな爺様にだけは絶対に地下室を見られたくなかったのにッ。

「二ヶ月前くらいじゃない? なんで?」

「異世界から持ってきた物を失くしたり、どこかに放ったりしたことは?」

「そんなことしないわ。もったいないじゃない。」

向こうの物はゴミのような物だって持ち帰ってコレクションしてるくらいだもの。放るなんてあり得ないし、もし異世界とこっちを行き来していることが露見すれば一騒動起きるってことは何年も前から耳タコで言われてきたから、絶対にリスクは冒さないようにしているんだ。

「本当か?」

「本当よ。」

本当か? とか、本当に? とかという問い掛けには本当、ウンザリするわ。

一体、なにを目的にそんなこと言うんだろう?

特に身内がそんなことを言うと、悲しくなる。

まあ、爺様も耄碌したのだということにしましょうね。

「母さんに誓えるか?」

ねえ、さっきの問い掛けの有効性を自分で否定してんだから、世話ないわ。

「誓えるわ。なによ、もったいぶって。なにが言いたいの?」

「だったらいいんだが。実は、異世界から持ち込まれた感じの物がこのへんで見つかったんだ。」

あれ?

私、なんかヘマしたかしら?


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