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一章 第45話 魔女騒動に終止符

文中に出てくるクーとクランはお金の単位です。

銭と円みたいな感じです。

これで1章終わり予定。

張り手の連発で警部を無理矢理起こし、さんが施術を開始する。

それぞれの警官、一人ひとりの前を移動していく小夜さん。

「ジャンだな。」

若い警官の前で小夜さんが確認する。

若い警官はハッとした感じで、恐るおそる頷く。

「すまない、悪かったな。」

「え?」

「さっきので判ったと思うけど、私らは魔女とかじゃないけど、警部が疑ってるような術を使うんだよ。」

若い警官は口を固く結んだまま、なにも言えないでいる。

「それと、ジャンの手紙を利用した形になってしまったのも、悪かったと思ってる。」

「ああ、あの手紙……。」

「あと、ありがとう。」

「い、いや。」

「ジャンは、警部に拳銃を向け、発砲したことによる懲罰を恐れているかもしれないけど、なにも心配することはない。これからリリスに帰れば、みんな、すべて忘れるんだ。」

「忘れる?」

「というか、なかったことになる、といった方が正確かもしれない。」

若い警官は小夜さんの話の意味をあまり理解できてないようだった。

「じゃあな。」

そう言い置いて小夜さんは次の警官の施術に取りかかる。



他方で、は小夜さんの追っかけをするように、小夜さんが施術した警官一人ひとりから財布を取り上げ、その中身を抜いていた。おい、てめえらドサクサに紛れてなにやってんだよ。

「おおッ、ピエールッ。ブラボーッ。」

警官の誰かが財布に一〇クラン紙幣を入れていたようね。

ご愁傷様。

小夜さんが最後の一人の施術を終えると、待ってましたとばかりに伊左美と玲衣亜が警官の傍に来て財布を取り上げる。

「な、ない?」

玲衣亜が財布の中身を確認して悲痛な声を上げる。

「ん、ないって?」

「うん。三クーしか入ってないの。」

「黒すぐり酒の一杯も飲めないじゃんッ。一日分のパン買ったら仕舞いじゃんッ。」

伊左美もその言葉に驚嘆する。

「こんな財布事情のクセに、よく警察でございってな面で往来を歩けたものね。」

「オレは宵越しの銭は持たない主義だから。」

警官が虚ろな目を玲衣亜に向ける。

「月給のクセに、よくそんなこと言えるな。」

警官は自嘲気味に乾いた笑いを漏らすと、もう二人に興味がないというように俯いた。

「お前らこんなときになにやってんだ?」

伊左美と玲衣亜の行為を咎める小夜さん。

うん、それは僕も聞きたかった。

「だってせっかくの日曜なのに朝っぱらから働かされたんだよ? だから、労働への対価を頂いたわけなんだけど。」

玲衣亜が事もなげに言う。

「働いた、てッ。」

「いいんだよ。オレらは被害者で、加害者から慰謝料を貰う。当然のことじゃん。」

この件に関しては、伊左美も玲衣亜と同意見っていうか、理由は異なれどお金を頂くこと自体は問題ないと考えてるわけね。ってか、頂くっていうより強奪してるんですが。



そんなこんなで、僕たちは警官たちと共にまたあっちの世界に戻ったんだ。



森の中。

といっても、木々の隙間から明るい方を見れば、轍の跡がついた道が見える。

ここはどこだ?

あっちの世界へ行くつもりが、元の世界のどこかに間違えて転移しちゃったんだろうか。

「ここどこなん?」

「オーナーの家に行く途中の道だよ。」

僕の問いに伊左美が答える。

なるほどね。確かにあの道の近くには森があったし、人目につかないといった意味で、転移するにはもってこいの場所かもしれない。

僕たちの周りには気を失った警官たちが横たわっている。

「目が覚めたら、私らのことはきれいさっぱり忘れてるよ。」

小夜さんが転移直後に最後の仕上げを施したみたい。

僕たちは警官たちを放っておいて、そのままアパートまで街道を歩いていった。

もう一切関わり合いになりたくないし。



よく考えたら、まだ朝も早い時間なんだよね。

晴れて僕たちはこの世界の一員になり、ようやくみんなで大手を振って歩けるようになったんだ。

街に戻ったら小夜さんも連れ立って、昼飯がてらお祝いしたいところだねッ。

ほら、太陽も燦々(さんさん)と輝いて、僕たちの帰還をお祝いしてくれてるよッ。

じゃねーしッ。

寒いしッ。

部屋着のままだしッ。

春はまだまだ遠い。

左手に広がる果樹園の木々も裸のまんま。

ときどき吹く風に枯れ葉が引き摺られてますわ。

根性なしの太陽めッ。もっと気合いを入れて大地を温めてみろってんだッ。

こんなんだと、風邪引いちまわぁッ。

みんなを見れば、一様に寒そうに身を縮込ませている。

お前ら揃って間抜けかッ。

ま、その中には僕も含まれるわけだけど。

そういえばストーブに火を入れっ放しで来たけど、火事になっていやしないかな。

警部の件を片づけた途端にこれだからね。

生きてるかぎり悩みは尽きそうにないね。



「ちょっと走ってみる?」

おいおい、伊左美、なに言ってんの?

「ええ~、疲れるじゃん。」

玲衣亜がさも大儀そうに言う。

「でも、寒いときは身体を動かすのが一番なんだぜ?」

「そりゃ、そうだけど。」

「じゃあ、あそこの木のとこまででいいから。」

見れば、一〇〇メートルほど前方の街道沿いに、一際大きな木が立っていた。

「じゃ、あの木のとこまでね。」

「おっしゃ、競争だッ。」

言うが早いか駆け始める伊左美。

「ちょ、誰も競争するとは言ってないからねッ。」

そう言って伊左美のあとに続く玲衣亜。

元気だなぁと思いながら、僕は長距離走のように、といっても無理しない程度に走る。

だって、すぐに息が上がるし、足は重くなるし。

走るって大変なんだよ。

二〇歳を過ぎれば、なおさらだ。

小夜さんもやれやれってな感じで僕と並走する。

まるで無邪気に走り出した子供を追う夫婦みたい。

いや、母親なら即座に雷の一発、二発は落としてるか。



厭々走ってたけど、気がつけば寒さなんて気にならなくなっていた。

身体が温まっている。

息が弾む。



先に木の下に到着した伊左美と玲衣亜が僕らが追いつくのを待っている。

伊左美にはあとで一つくらい文句を言ってやらなきゃね。

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