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一章 第44話 ようこそッ、いらっしゃいませ~

空の下に山が見える。

山の麓には鬱蒼とした森があり、その森の尽きる開けた草原に僕たちは転移したみたい。ここがどこなのか、僕には判らない。

傍にいる警官たちも一様に混乱している。

ま、急に目の前の景色が変わったのだから、無理もない。

突然、ぐっと腕を掴まれ、後ろに引っ張られる。

見ると、が僕の腕を掴んでいた。

次の瞬間、僕の目の前の警官がなにかに押し出されたかのように後方に吹っ飛んでいく。その現象は次々とほかの警官にも起こり、密集していた僕たちと警官たちとがキレイに別れた格好。警官たちは尻餅をつきながらも状況を把握しようとキョロキョロしている。

そんな警官たちの下へさらに一陣の風が走り抜け、一同、再び地面に転がる。

その群れの下へ歩いてゆく玲衣亜。



半身を起こした警部の前に立つと、玲衣亜は警部を見下ろし、笑みを浮かべた。

「ようこそ、セントラル・リーグへ。」

警部の目は見開き、混乱で声も出ない様子。

そんな警部に対し、玲衣亜が続ける。

「立場が逆転しましたね。」

さらに微笑む玲衣亜。

その眼差しは優しさに満ちているようでいて、却って意地が悪いったらありゃしない。

警部はその一言でなにかを察したのだろう。

口惜しそうに下唇を噛んだ。

「そう、立場が逆転しましたねッて言葉は、こういう場面にこそ相応くありません?」

たぶん、いま最高に気分がいいんだろうね。

三〇一号室での出来事が余程腹に据えかねたんだろうし、しようがないね。

僕もスカッとしたし。

たぶん、警官たちをすっ飛ばしたりしてるのが玲衣亜の仙八宝なんだろう。



「警部さん、なにか言いたいことはあります?」

玲衣亜がさらに警部を苛めにかかる。

「私の推測は正しかった。お前らは魔女だろッ。ええッ?」

「ふ、残念ですが、間違っています。」

なんかまた調子に乗り出したよ、この子は。

「私はお菓子屋の看板娘ですぅ。」

「抜かせッ、餓鬼がッ。」

警部が足を伸ばして玲衣亜の足を絡め取ると、バランスを失った玲衣亜は体勢を崩す。

その隙を見て起き上がろうとする警部。

そこにまた風が吹くと、玲衣亜が風に流されるように警部から離れていく。

警部の方にも突風が吹きつけたようで、警部はまた地面を派手に転がされていた。

「警部さん、風の声が聞こえる?」

ん、玲衣亜、いつのまに詩人になったんだ?

「あいにく耳は悪くないんでね。」

うん、珍しく警部が真っ当なことを言った。

「風が悲しんでるの。」

「なに言ってやがる。」

「風の怒りを、知れッ。」

玲衣亜がそう言うと、警部が真上に吹っ飛んだ。

はあ? そこまでするのッ?



そこへが数人の警官と共に現われた。

アパート下で待機していた奴らを無事、捕獲したようだね。

ブオォン、と変な音と共に伊左美の手から光の線が伸びる。

うお、なにそれ? 眩しいッ。

あたふたしている警官たちに対し、伊左美が光り輝く棒状の物を一振りした。

すると警官の一人が持っていた長尺の銃が火花を散らして真っ二つに。

混乱でよたよたしていた警官たちが今度は固まった。

「ふふ、これは鉄だろうが警官だろうが、なんだって斬れんだッ。」

伊左美が得意気に話す。

なるほど、それって剣みたいな物なのね。

いや、鉄は凄いけど、警官はふつうのナイフとかでも斬れるっちゃ斬れるよね。

っていうか、この場でそういうこと言うと冗談にならないしッ?

「手を挙げろッ。」

伊左美が叫ぶ。

素直に手を挙げる警官たち。

やすしッ。武器を持っていないか調べてみて。」

「お、おう。」

僕は警官たちのボディチェックをする。

どうやら銃火器や刃物のような武器は所持していないみたい。

それを伊左美に報告すると、羊飼いさながら、伊左美は警官たちをほかの警官たちの前まで追いたてて行った。

「案外、早かったじゃない?」

玲衣亜が伊左美に声をかける。

「ま、これくらいどってことないさ。」

「よく言うよ。」

「ほら、靖。」

伊左美から手渡されたのは、若い男からかっぱらったのだろう拳銃だった。

「状況は?」

落下する警部と地面で項垂れている警官を交互に見やりながら、伊左美が尋ねる。

「んん、なんだろ? よく判んないけど、警官らが玲衣亜にやられてる感じ。」

ホント、なにをどうやってんのかよく判らんわ。

「あれって玲衣亜がやったんだよね?」

「ああ、玲衣亜の武器があんな感じなんだ。」

「へえ~。」

「名前、なんだったかなぁ。忘れたけど、風を操れるんだってさ。」

「そりゃ便利そうね。」

特に夏とか。

ってか、そんな暢気に話してる場合じゃないし。

警部、そのまま落ちたら死んじゃうよ?



まるで足場から落ちてゆく工具のように、ごく自然に落下する警部。

僕は思わず後ずさりする。

頭上ヨシッ。

落下地点を見極め、避けないとこっちまで死んじゃうッ。

警部は糸が切れた操り人形のように、ぴくりとも動かない。

間近に迫った死を覚悟する気分って、どんなだろう。

息を飲んで、警部の落下を見守る。

自分の顔が梅干しを食べたように歪むのが判る。

まともに見ちゃいられないんだ。

警部の状況に、同情を禁じ得ない。



落ちるッ。



そう思ったとき、警部の身体がまた宙に浮かび上がった。

玲衣亜に警部を殺すつもりがないのだと判ると、少し涙が出そうになる。

すごく肝を冷やしたし、安心したしで、もう心が大騒ぎになってたんだよ。



草原に横になっている警部は意識を失っていた。

「ふん、死ぬのは怖いんだよ。そんなことも判らない馬鹿には身を以って教えてやるのが一番なんだ。」

吐き捨てるように言う玲衣亜。

「いや、楽しかったけど、気を失ってちゃまずいんだけど。このままじゃ施術ができないよ?」

小夜さんの言葉に、「だって知らなかったんだも~ん」と玲衣亜が泣き顔を作って小夜さんの肩を軽く叩いてみせる。

ま、この件については玲衣亜は悪くないからね。

責めれないよ。

「伊左美はなんもしないの?」

一応、確認してみる。

「ま、玲衣亜がやっつけてくれたから、オレはいいや。それに、気絶してる警部を見たら多少は溜飲も下りたし。」

それは言えてる。

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