序-4 (4) 初異世界
バッサリいったのに伴い、話の順番を前後させている箇所があります
※内容に関わる変更点はありません
茜色だった空は青く澄み渡り、平原が街になった。遠くに見えていた山も消え、僕たちの周囲は建物だらけで、人の往来も聖・ラルリーグとは比べものにならないほど多い。建物の造りも街の人たちの服装も聖・ラルリーグとは異なる趣だから、これは異世界に来たのだと結論付けて差し支えなさそうだ。
どうやらカードは本物だったらしい。
まさか夢ではあるまい。
僕が驚いてる傍らで虎さんも呆気に取られてたんで、虎さんの頬を軽くつねってみる。「痛いッ」と驚く虎さん。あ、やっぱ夢じゃないんだッ。いささか興奮しちゃって虎さんに抱きつくと、虎さん、激怒した。僕たちが抱き合ってる様子を見て周りの人たちが笑ってるのが気になったみたいね。あと、そっちの趣味はないってさ。安心しなよ。僕にもそんな趣味はないんだから。って言って、安心させようとしたそばから、虎さんったら「行くよッ」と乱暴に吐き捨てて一人歩き始めるんだから。
「虎さん、ごめん。置いてかないでッ。」
街中を散策しながら、僕たちは今回の出来事について総括してみた。
転移の術のカードは本物で、実際に異世界を訪れることができた。
で、次に仙道の武器である仙八宝が使えるかどうか試してみたんだ。説明書によれば異世界では仙八宝は無力化されるとのことだったが、試験結果も同じだった。ちなみに仙八宝ってのはふだんは鶏卵大の卵のような形をしてるんだが、本来ならその卵が剣、弓、鞭、槍などの武器の形に変化するらしい。そんな形をしていても物によっては火を吹いたり風を巻き起こしたりと、とんでもない超常現象を発動させることができるんだってさ。
そして、術について。これは虎さんが術を使えないというので、実験は先送り。今度、術を使える人を連れてこようという話に落ち着いた。仙道なのに術が使えないとか、なんかイメージと違うんですが……。
でも、仙八宝に加えてもし術も使えないとなると、異世界と交流するにしても聖・ラルリーグ側の分が少々悪いようにも思われた。といっても、術のカードは使えるようだから、術も使えるのかな? 虎さんによれば、術をカード化するなんて考えたこともなかったようだけど。そんな話を受けて、「ふつうは思い付かなくて当然ですよ。転移の人も、転移の術をほかの人に使わせようという必要に迫られたのがきっかけになったんでしょうし」と返した。それに対し、虎さんは「異世界で術は使えないが、カードならば使えるという可能性もある」という考えを示した。確かにそれも一つの可能性だね。でも待てよ。じゃあ、転移の人はあらかじめカードを作っておいてから異世界に来たってこと? でないと、聖・ラルリーグに戻れなくなっちゃうもんね。虎さんも僕の言葉にむむ、と唸り、そのへんは術師を連れてきてから考えようってさ。そうだね、可能性の話ばかりしてても始まらないし。
ほか、歩き回って貨幣制度の存在を確認。建造物や街並み、往来を闊歩する馬車の様子から見ても技術力という点では異世界の方が秀でている。
一方で狭い路地に迷い込めば、聖・ラルリーグを偲ばせるような高さも凸凹な石畳が敷かれ、石畳の目地に不気味な色合いを反射させる汚水が溜まり、辺りに腐臭を放っている。左右には漆喰の剥がれた部分も散見される白壁。このジメジメ感といい仄暗い感じといい、ちょっと目抜き通りを外れてみれば、意外にも聖・ラルリーグよりも鬱々とした光景が広がってたりとか。
日が傾いてくると、すみれ色の夕闇、霞がかった対岸、橋を渡る人々や馬車の影を背景に、幾本も規則正しく並んだ各柱の一点が煌々と光り始める。これは異世界の術かなにかかと訝しんでいみるが、これも判らない。
で、今日はもう遅いから帰ろうということになった。
「え? まだ夕方じゃない?」
そう言った僕を見て虎さん笑みを浮かべて言うんだ。
「聖・ラルリーグ側だともう夜更けなんだよね。」
そういえば向こうを発ったのが夕方だったからね。こりゃやられたよ。
人目のないところでカードを使う。ちなみに帰りに使用したのは『転移』の判の下が無印のノーマルタイプで、任意の場所に転移できるというカード。判の下に丸印の方は異世界へ転移するように予め仕組んであるカードらしい。
異世界ツアー初日を終えて聖・ラルリーグに戻る。
虎さんは僕にお礼を言うと、虎に跨って空へ飛んでった。
帰宅して時計を確認してみるともう午後一〇時過ぎ。
大変、早く寝ないと明日起きれなくなるッ。




