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一章 第31話 覚醒しました

忙しくなるとすぐ滞りますわ。


第一回布団争奪戦。

じゃんけんの結果、さんが一番手になった。

そして、小夜さんが紙に手を伸ばそうとしたところへから待ったの声がかかる。

「紙をめくる前に、ちゃんと四人の名前が一〇枚ずつあるかどうか調べさせてもらってもいい?」

が伊左美を見やる。

「もうゲームは始まってるんだけど。なんでそんなことする必要があるの? 私のこと信用してないわけ?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど、こういうゲームだと、当然の行為だろう?」

「ふん、ご自由に。」

伊左美が紙に手を伸ばす。

「ただしッ。」

言うと同時に玲衣亜が伊左美の腕を掴む。

「もし不正がなかった場合、伊左美に布団を諦めてもらうから。いいね?」

一瞬、紙をめくるのを躊躇ためらった伊左美だったが、まもなく「いいよ」と答えて紙をめくり始める。

いや、まったく信用してないんじゃんッ? なにが「そういうわけじゃないんだけど」だよッ。

で、めくった結果、不正はなかった。あらあら、これで終わり?

「これで伊左美が布団なしねッ。」

「マジか?」

あっけなさ過ぎたけど、マジですよ。

「布団を守れて嬉しい反面、ちょっと悲しいよ。私って信用ないんだね。」

「ごめん。」

「なんてねー。伊左美か靖が私のことを疑うのは目に見えてたから、あえて小細工はしなかったのよ。残念でしたなぁ、伊左美くん。」

「ふふ、玲衣亜は自分のことをよく理解しているね。素晴らしいよ。」

小夜さんも愉快気だ。

「うるさいし。」

そんな小夜さんの一言に喰ってかかる玲衣亜。

「クソむかつくわぁ。」

伊左美は一人で煩悶している。

「掌の上で踊らされた気分はどうかね、伊左美くん。」

玲衣亜は伊左美をやっつけることができて、相当嬉しいみたいだね。

「あ~、でも一週間って言っててよかったあぁ。」

伊左美が小憎たらしい口調で言う。

「ちょっと、その言い方腹立つわぁ。」

言いながら、玲衣亜が伊左美の頬をつねる。

「ホレはその五倍ふらいはりゃはってるへろなッ。」

と言いながら伊左美も玲衣亜の頬をつねる。

だから、お前ら子供かッ。



屋外から正午を告げる教会の鐘の音が聞こえてくる。

鐘の音とともに、下階からは子供のわんぱくな叫び合う声も響いてくる。

これって一応、平穏な日常なのかな?

いや、断じて平穏じゃないッ。

疲れるッ、溜め息が出るッ。

助けてッ、小夜さんッ。

アテにしたい小夜さんはといえば、やれやれといったふうにコーヒーを啜り、二人に干渉する気が微塵もない様子。

ま、干渉できないよね。

伊左美と玲衣亜らしいっちゃらしいんだから。

ああ、でも小夜さんが二人のやりとりをどんなふうに見ているかは、判らないけどね。



その晩、伊左美は買ってきた布団をリビングルームに敷くと、横になってみて不平不満を漏らしていた。

僕はそんな伊左美をからかってから、自室のベッドに飛び込む。

今日から一週間は、伊左美の分まで気持ちよく寝てあげなきゃねッ。

でなけりゃ、伊左美が浮かばれないよねッ。

布団を肩までかけて、その温かさに感謝する。

いまごろ伊左美は固く冷たい板の間で身を強張らせて寒さに耐えてるんだと思うと、布団の温かみが増すようだった。

ゴメンよッ、伊左美ッ。

不意にドアが開く。ランプの明かりが視界の端で揺れた。

そうかッ。今夜から小夜さんがこの部屋で寝るんだったッ。

ふおおおおお。

世界一と言っても過言じゃない絶世の美女とッ。

同じ部屋でッ。

夜を明かすッ。

やっべ、緊張が顔に出るわぁッ。

寝たフリ、寝たフリッ。

ああ、でも、なんか間違いでも起きないかなぁ。

起こるわけないか、そうだよッ、間違いは自分で起こさなければッ。

いや、起こさないけどね。

とはいえ、僕の息子が起きそうなもんだからが悪い。

鎮まれ、僕の息子よッ。

とりあえず、寝返りを打って見た目に判らないようにしとこ。

ま、そもそもこんなもの、小夜さんの眼中にはないのだろうけど、当人としては気になるわけですよ。



ギギッとベッドが軋む音。

小夜さん、腰を下ろしたみたいね。

そして、しばらくの間、横にもならずにガサゴソとなにかしているよう。

気になって薄目を開けてみるも、そこまで明るくないし、顔をはっきりと小夜さんの方を向いていないので、様子がいまいち判然としない。

そのうち、「ちくしょう」だの「どうしようか」という独り言と共に、溜息が洩れる。

なんか小夜さん、イライラしてるみたい。

同時に、ちょっと困ってもいる感じ。

ルームメイトだし、異世界での暮らしは僕の方が長いわけだから、ここは放っとけないでしょ?

「なにしてんの?」

「おおッ?」

小夜さん驚いたみたい。

「悪い、起こしちゃった?」

ちゃった? だって。顔に似合わず可愛らしい言葉を使うじゃない。

「いや、まだ完全には寝つけてなかったから。」

「そう。」

「でも、寝入りッぱただったから変な夢見たよ。見ず知らずの女が、ちくしょう、ちくしょう、って言いながら追い回してくるんだ。全力で逃げたいのに、上手く体が動いてくれなくて、んで、殺されるぅッてとこで目が覚めたんだけど。起きてみて、その夢は小夜さんが原因だったんだって判ったわ。」

なんとはなしに適当な話をでっちあげる。

「は? なんで私のせいになってんだよ。」

「そうそう、で、なにがちくしょうなん? やっぱり警察絡み?」

「ふん、自分にゃ関係ないね。」

「ん、ああ、まあ、そうね。」

そうだった。

一緒の部屋にはなったけど、僕と小夜さんってこれまで碌に話たことさえないもんね。

「おやすみ。」

僕はそう言って寝返りを打って、小夜さんに背を向ける。

まもなく、ランプの灯が消えた。

ああ、なんか面倒臭いかも。



翌朝、リビングルームでは伊左美が死んだように眠っていた。

うう、寒い寒い。

ストーブに火を入れる。

「朝だよ~。伊左美~。寝たら死ぬぜ~。」

玲衣亜も起きてきた。

「おはよう~。あ、伊左美、生きてる?」

「残念ですが。」

僕は首を振ってみせる。

「あらまッ。惜しい人を失くしたわ。」

僕たちがふざけてみても、伊左美は目を覚まさない。

よく眠っていらっしゃる。

きっと、布団が変わって寝つけなかったんだろうね。

今日はギリギリまで寝かせといてあげよう。

温かいスープも拵えておこうね。

まもなく、ストーブの上の薬缶が沸騰して、蓋をカタカタと鳴らした。

白い湯気が立ち、窓ガラスが白く曇る。

外はまだ真っ暗だ。

とりあえず、コーヒーを淹れて、小夜さんも起こす。

リビングに三人揃うと騒々しくなってきたから、どうせ寝てはいられまいと伊左美もついでに起こした。

起こしたけど、愚図るばかりでなかなか起きない。

ま、そのうち起きるだろと、二度は起こさない。

コーヒーを啜る。

胃が熱くなる。

ふう、目が覚めるわぁ。

さあ、今日も一日がんばるぞーッ、エイエイオーッ。


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