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一章 第30話 ええッ? 居座るのッ?

日曜日のお昼前。

アパート三階の一室に僕たちとさん含め四人が顔を突き合せている。



「なるほどね。要するにあんたらはルーシーの野郎に嵌められそうになっていたわけか。」

昨日の状況説明ののち、小夜さんが僕たちに同情を示した。

「そうみたいね。で、小夜が転移してきたもんだから、ルーシーの魔女犯人説が説得力を帯びて、私たちが連行されるにことになったわけよ。」

が小夜さんにも責任の一端があるとばかりに言う。

「といっても、私はそっちの騒動に巻き込まれただけだからな。」

小夜さんは責任をこっちに押し付けようとする。

「でも、警官の目の前に現われる小夜もどうかと思うよ?」

あくまで責任を小夜さんと小分けにしようとする玲衣亜。

「ま、ここまではお互い運が悪かったってことで済まそうか。それよりこれからどうするか、だけど、玲衣亜は自分たちが警官にマークされているのは判ってんのかい?」

小夜さんが話を進める。

「ええ、この前まで何度も聴取されたりしてたよ。でも、事件の犯人が捕まったからもう大丈夫だと思うけど。」

そう言って玲衣亜はコーヒーを啜る。

暢気のんきでいいねぇ。昨日、あんたらを尾行したんだけど、ほかにも何人かあんたらを尾行してた奴らがいたよ。ありゃ偶然行き先が同じだったとかってわけじゃない。完全にあんたらをマークしてた。」

小夜さんは玲衣亜だけでなく、と僕の表情も窺っているみたい。

「あら、この期におよんで私たちに何の用があるっていうんだろう?」

玲衣亜はやや憤慨気味だ。

「おいおい玲衣亜、あんた、転移してきたところをルーシーちゃんに目撃されてんだろ? 理由はそれしかないだろ。」

玲衣亜の発言に呆れる小夜さん。

うん、それしかないよね。小夜さんのぶんも警官が見てるし、まあ、ルーシーさんがどんなに否定してみたところで、僕たちへの疑いは残るか。

「面倒臭いなぁ。」

玲衣亜から溜め息が漏れる。伊左美も気が重そうだ。

「警官としては転移の術は警戒せざるを得ないだろうからね。実際に事件を起こしていないにしても、転移の術があるとなれば、いつだって事件を起こせるんだから。」

と僕。

外から街の喧噪が微かに聞こえてくる。

小夜さんはなんとなく窓の方へと身体を捻り、昼前の陽差しに目を細めた。



「思ったんだけど、こっちの世界の人たちって仙八宝せんのはっぽうとか術とかって使えそうにないよね?」

玲衣亜がみんなに確認する。

「そんな気もするけど、まだ私には断言はできないね。」

窓の外を見ながら、素っ気なく答える小夜さん。

「伊左美はどう思う?」

「まぁ、これまでの話からは、使えないって結論でいいと思う。連中の言葉はどれもこれも、術がある前提の言葉ではないんだよなぁ。」

二日酔いの頭痛にやられながら、伊左美が苦しそうに答える。

「じゃあ、この世界の人間はすべてやすしだと思って差し支えないわけね?」

と小夜さん。

あ、名前覚えてくれてたんですねッ。

「大雑把に分類すればね。」

と玲衣亜。

「つまり、私たちが穏やかに暮らすためには、術を使えることを隠す必要があるわけだ?」

「そうね。でないと、すぐにあいつらは魔女だなんだと因縁つけてきて、私たちなんてあっという間に処刑されちゃうよ。」

「なんか昨日も言われたけど、魔女ってなんなの?」

玲衣亜が小夜さんに魔女について説明する。小夜さんはその話を聞いて、「馬鹿ばかり揃うと凄まじいなッ」と笑った。

「笑いごとじゃないよッ。なにしろルーシーが否定したってのに警官はまだ私たちの尻尾を掴もうと機を窺っているわけでしょ?」

「ふん。」

小夜さんが新しい煙草を吹かす。

玲衣亜が手を差し出すと、小夜さんがその煙草を玲衣亜に渡す。

「とはいえ、警官としては転移の術なんてのが本当に存在するのかどうか、いまだに不確かだから、強硬手段に出られないってところか。」

伊左美が重々しく口を開く。

玲衣亜は二回ほど煙を吐くと、煙草を小夜さんに渡した。

「だろうね。実際、一度目にしたからって、俄かには信じられないんでしょう。でも、それも明日にはどうなっているか判らない。あいつら、またお菓子屋から連行したときのように、唐突に捕まえに来るかもしれないし。」

「連中はこっちが尻尾を出すのを待っているんだろうが、そうは問屋が卸すもんかッ。なにしろ、こっちは本当に術なんて使えやしないんだから。」

喋って正気を取り戻しつつあるのか、伊左美が水を汲みに席を立った。

「術は使えないけど、カードがあるじゃん?」

玲衣亜がかめの前にいる伊左美に話しかける。

「そうそう、カードもいままでのように引き出しに仕舞っていたんじゃ不用心だから、今度から各自で身に着けるようにしようか? その方が安心でしょ?」

そうだね。その方が安心だね。

僕は頷いておく。

「だな。家探しされて盗られたら仕舞いだし。」

コップをテーブルに置きながら、伊左美も同意する。

「いざというときは使っても差し支えないよね?」

一応、確認しておく。

「そうね。明らかにヤバかったら使うしかないよね。ただ、人の前ではあんまり使ってほしくないかな。せめて、他人の目の届かないところまで移動してから使いたいところだね。でないと、残った人に迷惑がかかっちゃうから。」

「うん、大丈夫。」

できるかぎり、善処します。



「ああ、まだなにもそれらしいことしてないのに、こんなことになるなんてな。厭になるね、ホント。」

伊左美がうなだれる。

「この程度は予期してたし。ま、ちょっと早い気がするのは確かだけど。」

そう言って玲衣亜が小夜さんの方をチラッと見る。

「ちょ、勘違いするなよ。さっきも言ったけど、私は巻き込まれただけの被害者だからな。」

「あれだけ派手に術を使っておいてよく言うよ。」

「あれは玲衣亜たちが疑われていたから、助けようと思って。」

「あら、つまり小夜は私たちのことを愛してくれてるってことね?」

玲衣亜が冗談っぽく言った。

「ああ、愛してますね。」

小夜さんも冗談で返す。

「じゃあ、今回の件を解決するために小夜のカードを使わせてもらってもいいかな?」

「別にそこまでは愛してないですね。」

「ね。」

笑い合う玲衣亜と小夜さん。

「でも、もっと言い方はあったと思うんだよね。あんな、あからさまにルーシーは嘘を吐けなくなりましたッて、ルーシーがそうと判ってないのに小夜が言ったらダメじゃん? 私がなにかしましたッて自供してるのと一緒だよ。」

「ああ、それについては私もまずかったかなって思ったけど、でも、あのときは警官たちの目論みを破綻させたのはこの私だッて、暗にほのめかしたかったんだよ。」

「まあ、相当ムカついたし、その気持ちは判らないでもないけれど。」

「でしょ? だからあれはあれで、一つの正しいやり方だったわけだよ。」

それから小夜さんが真面目な顔で切り出す。

「まあ、それは置いとくとして、カードを使うのはやぶさかじゃない。疑いを晴らしておかないと、私は一生この部屋から出られそうにないし。」

「え?」

「え?」

「小夜さん、いま一生この部屋にいるって言ったんですか?」

「なんで急によそよそしくなるわけ?」

「すいません、最近耳が遠くなったみたいで、よく聞こえなかったの。」

軽く笑い合う玲衣亜と小夜さん。

「いや、外は警官の奴らがうろちょろしていて、私の場合、玲衣亜たちと違って見つかるとすぐお縄になってしまいそうだし。」

「ああ、転移の術への疑いよりも、小夜の術への疑いの方が強いもんね。ま、実際ルーシーに対して小夜がなにかしたのは疑いないわけだし。」

それからしばらく、よく警官があのとき小夜さんを拘束しなかったものだとか、小夜さん自身は警官に行動を補足されていないのかなどという話をした。そして、僕たちが転移の術を使える疑いで逮捕されないのは、僕たちが小夜さんと接触すると踏んで泳がせているだけなのかもしれない、と小夜さんは推測してるみたい。

「だから、私はこの部屋を出られないってわけ。判ったでしょ?」

小夜さんが熱弁を奮う。

「困ったね、靖。」

今度は玲衣亜も小夜さんの居候案を拒絶しなかった。

でも、なんでここで僕に振るの?

まあ、お断りさせてもらいますけどね?

「うん、ちょっと困るね。僕は伊左美や玲衣亜と違って、ただの人間だから、小夜さんにいつ術をかけられないともかぎらないわけだしッ。」

いや、マジでこれですよ。

横目で小夜さんの方を見ると、小夜さん、涼しげな眼をして伊左美と玲衣亜の反応を窺っている。

「ははは、そんなことを言ってるんじゃないんだ。ただ、今日から布団がなくなるねって言ったの。」

「え?」

どういうこと?

「安心しな。靖にカードを使うくらいならそこらへんの乞食にくれてやった方がまだマシだ。」

小夜さんが軽口を叩く。ってか、乞食に負けてんの、僕?

「ならいいんだけどって、今度はそっちじゃなくて、布団の方なんだけどッ。」

「なに?」

「誰の布団を使ってもらうかは、公平にじゃんけんで決めようよ?」

「おお、そうだね。その方が公平ってもんだ。私は誰の布団でも構わないから、気を遣わず決めてちょうだいッ。」

「いや、その中にはもちろん、小夜さんも入るんですが。」

それでこその公平でしょ?

「お客様なのに?」

「お客様じゃないね。私たちは運命を共にする、いわば仲間じゃない?」

おお、ノッてきましたねッ。さすが玲衣亜ッ。

「じゃあ、まずは最初の一週間分を賭けて勝負しようか?」

小夜さんの反論を待たず、伊左美が切り出す。

「そうね、そのくらいがいいかもね。」

「よし、じゃ、いくぞ。最初はグー……。」

「待ってッ」

「なんだよ。」

「もっと面白い決め方思いついたッ。」

ちょっと待っててと言って席を立った玲衣亜は、自室に引っ込み、しばらくして何枚もの紙片を持ってきた。

「この紙にはそれぞれ四人の名前が書いてあって、一人分が一〇枚ずつで計四〇枚。それを裏返して並べて、順番に二枚ずつめくっていくの。一度に二枚、自分の名前をめくられた人が布団を諦めるっていう寸法よ。ちなみに一度めくられた紙はテーブルから除外していく。だから、最初に多くめくられた人は、あとになるほど有利になる感じ。どう? 面白くない?」

「いいじゃん、やろう。」

「じゃあ、順番はじゃんけんで決めようか?」

そうして、布団を賭けたゲームがスタートする。

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