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10-33(277) やられ方

 ブロッコ市街から郊外まで霊獣に乗った狐々乃ちゃんに付き添われて散々走らされた。大きな丸太を肩に担いで走らされ、川を泳がされ、足が取られやすい砂漠地帯も……様々なやり方で体力を身に付けるのだと言われて散々に苛められた。僕がどんなに苦しんでいようが、彼女に殺意を抱こうが彼女はお構いなしといった感じ。


 なんでも僕はパクチー市戦において敵陣の間隙を縫って大将の首を取る役目を負わされるのだとか。


「靖さんなら敵の反撃に怯むことなく真っすぐに大将の元へ辿り着けるはずです。万に一つも返り討ちに遭う心配もないでしょう。ただ当の靖さんに体力がなければ敵を目の前にしてもなにもできませんから、こうして体力を付けてもらうわけです。」


 僕が不平を漏らしたとき、彼女がそう教えてくれたから、


「僕にも霊獣をくれれば走らなくっても済むわけだから、こんな基礎体力作りなんかしなくてもいいんじゃない?」


 と反論してみたんだけど、


「靖さんは戦に出て誰かと戦ったことがありますか? 何人も湧いて出る敵を相手に息吐く間もなく戦い続けるのはそれがたとえ短い時間であっても結構消耗するんですよね。体力がないとすぐに手が上がらなくなります。足が動かなくなります。呼吸が乱れます。そうなると本来なら勝てる相手にも遅れを取り、あっという間に死を覚悟しなければならなくなります。」


 って言うのね。いざ戦いの中に身を置くと短時間でもすごく疲れるってのは僕も知ってたから、彼女の言葉に納得はしたんだけどさ。でもここまでやる必要あるのかという疑念は燻り続けた。不服そうな顔を浮かべていたのが不味かったのか、そのとき彼女が模擬戦でもしますか? と提案してきた。僕としては彼女の言葉に納得していたし彼女と戦う理由もなかったから丁重にお断りしたのだが、どうにも彼女の方でやる気になってしまったようで、模擬戦をしてみることになったんだ。


 ブロッコ市の宮廷に戻ると、彼女が二本の棒を持って中庭にやってきた。彼女から棒を受け取り、あることに気が付いた。彼女の持っている棒には長い縄が取り付けられていて、その縄は幾重にも巻かれて彼女の肩に掛けられていた。


「獲物は棒です。ふだん私が槍を使うからっていうのと、靖さんにも槍を使ってもらうからです。あと、この模擬戦に勝敗はありません。特にルールもありません。靖さんが音を上げるか、私が音を上げるかしたら終了です。」


「分かってんの? 僕、無敵だよ?」


「ハンデですよ。では、いきます。」


 ザッと片足を前に出して彼女が構えたから、僕もそれに倣って構えた。見た目だけなら、僕も槍使えるふうに見えるはずだ。とか思ってたら彼女が突いてきた! 避けた! 棒がしなって僕の避けた方に飛んできた! 当った! ぎゃふん!


 模擬戦開始早々、僕は彼女にしこたま殴打されることになった。なにしろ棒がよくしなるからその先端の動きが不規則で軌道が読みづらいうえに彼女の身のこなしも素早いったらなかった。こちらが前に出ようにも横に動こうにも彼女の棒が追い掛けてきて殴ってくるという感じ。これじゃ迂闊に近寄れもしない。いや、僕が持っているのも同じ棒であるなら彼女の棒が僕に届くなら僕の棒も彼女に届いてしかるべきなのに、反撃しようと試みるも結果は変わらず。だって手を出そうにも彼女の方が先に手を出してくるんだもん。


 まもなく僕の持ってる棒が弾かれて無手になる。


 無手になったから僕は彼女の持ってる棒を奪うことに意識を集中した。どんなに攻められようと怯まず、気合いで彼女の棒を掴むことに成功した瞬間、彼女が瞬時に距離を詰めてきて、縄を見事に操って僕の足を、手を、首を縛ってゆく。彼女は清明さんに僕の仙八宝の弱点を聞いていたんだろう。


「参りました! 僕の負けで狐々乃ちゃんの勝ち!」


 拘束されたあとにどうされるかも大体見当が付いていたから、僕は拘束されるとすぐに降参した。


「は? 私はまだ靖さんが音を上げてるところを見てないんですが。」


 なのに彼女はそう言って縄で縛られた僕を担ぎ上げて歩き始めた。もう本当に判った! 彼女がめざしているのは池! そこで水責めの憂き目に遭わせようっていうんだろう? まさしく清明さんと同じやり口。僕は彼にそのやり口で負けたんだ。


 ザブン!!


 案の定、池に放り込まれた。


 水に顔を浸けて上げての繰り返しの責苦を受けて呼吸が苦しくなる。胸が死の危険信号を感じて騒ぎ出しやがる。楽になりたいのにそれを許されない状況。これまでの特訓中にも彼女には何度か殺意を抱いたが、いまほど彼女のことをブッ飛ばしたいと思ったことはない。


 しばらくしてようやく満足したのか、彼女が僕を池の脇に放り出した。船の甲板に打ち上げられた魚よろしくジタバタしながら咳き込む僕の姿はさぞ情けないことだろう。清明さんにやられたときの方がまだ気分はマシだった。だって彼女は女の子なんだよ。玲衣亜とかとは違う種類の、まさに女の子って感じの容貌なのに。大の男が歯が立たないなんて。


「ふ。」


 彼女が嘲笑を漏らす。


「靖さん、一言忠告しておきますが、あまり自分の仙八宝の力に溺れない方がいいですよ。」


 なにを言い出すかと思えば、誰がいつ溺れたって? 池で溺れたのと掛けてるつもりかよ。


「捕縛されると滅法弱いですし、かといってそれ以外に破る方法がない。ということはですよ? 靖さんがやられるときは、常に拷問と抱き合わせってことです。大体そういうふうにしかやられようがないんですから。その点、自覚しておいた方がいいと思いますよ?」


 意地悪な言い方だったが、真実だと思った。


 僕の仙八宝も無敵どころじゃないな。デメリット多過ぎない?

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