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10-31(275) 靖は弱い

 え~、精明との手合わせですが、散々な内容でしたので結果だけお伝えします。


 負けました。


 解散!




 清明くんは僕の降参を認めるとサッと踵を返してさっきまでいた部屋の方へ向かったので、僕もトボトボとそのあとを追った。


 いやホント参ったよ。


 でもこの手合わせも良い経験だったと思ってる。


 なぜならぁ! 仙道とは真っ向勝負してはならぬということを学んだからだぁ。


 もう絶対仙道と正々堂々と勝負なんてしない。


 やるなら不意打ち。これに限る。


 ブロッコ国から逃げ出すとき、国境まで僕達を迎えに来てくれた鉄斎さんと桔梗さんも不意打ちで追手を始末したって言ってたしね。


 相対する仙道がどんな技を使ってくるのか判ってりゃ少しはやりようもあるのかもしれないけれど、相手がどんな奇術を用いてこちらの裏を掻いてくるか判んないんじゃ命が幾つあっても足りやしない。


 部屋に戻ると清明くんが足を崩して座ったので、僕もそれに倣って座った。


 それからしばらくすると、


「靖さん、わしゃあ決めたで!」


 と、手合わせを終えてからここまで無言でいた清明くんが唐突にそう言った。


「なん決めたん?」


 なんだか手合わせを経て精明くんとの距離が少し縮まったような感じ


「靖さんもワシと一緒に行こうか。」


「どこへよ?」


「パクチー市じゃい。」


「あ? パクチー市へ行ってなんすん?」


 清明がなにか企んでいるんじゃないかと思い、つい語気が荒くなってしまった。


「靖さんとアキさんにはパクチー市征伐隊に所属してもらおう思うたんじゃが。」


「パクチー市征伐隊ぃ?」


 詳しく話を聞けば、まだ清明の考えでしかないそうなのだが、他の町の寝返りの連鎖を未然に阻止するためにも、連邦が動き出す前に素早くパクチー市の寝返りに対する制裁を与えなければならないのだそうだ。いまならまだパクチー市がブロッコ国の現状に嫌気して連邦側に味方する意志を表明しただけで、連邦と開戦しているわけではなければ、連邦がパクチー市を公式の場で自分達の仲間として受け入れたわけでもない。なんといってもパクチー市はブロッコ国内の一つの町に過ぎなければ、いまは国内で起こった反乱を鎮圧する以上の大事にはならない、と。


 そこまで話して清明は一旦言葉を区切ると、


「ここまで話してきたんがふつうに考えた場合の事の成り行きなんじゃが、たぶん現実はそがに甘うないと思うとる。」


 と、今度は悪い方の予測を語り始めた。


 パクチー市は連邦の何者かと繋がっており、パクチー市の反乱の背後には連邦がいる。だからパクチー市を討とうとすれば連邦が出張ってくる。つまり、パクチー市征伐が実質連邦との開戦の狼煙になるだろう、と。もしパクチー市鎮圧に失敗すればほかの町も続々と連邦に寝返るだろう。いや、パクチー市と戦している間にもブロッコ国に反旗を翻してパクチー市との戦に参戦するという都市も現われるかもしれない。


 逆にパクチー市戦でブロッコ国が勝利すれば、それ以降はブロッコ国に逆らおうとする都市も出なくなるだろう。それだけにパクチー市鎮圧は絶対に失敗できないし苦戦をするわけにもいかない。


 だから可能なかぎりの兵力をパクチー市に動員したい。


 清明が僕とアキちゃんをパクチー市征伐隊に所属させようとした理由はそういうことだった。


 つまり猫の手も借りたいってことかな?


 僕がクソ雑魚だってことはもうご存知だろうに。言い訳みたいだから清明には伝えてないけど、左手の指が2本ないことも伝えてやろうかしらん。対人ならまだしも対仙道となると左手のハンデが超影響してきそうだし、実際、さっきの手合わせでも左手がまともだったら結果が変わったりしてたかもしれないんだ。


「話は判ったよ。あとでアキちゃんと相談してどうするか決めるわ。」


 ま、いずれにせよどこかの部隊に所属する必要があったから、無碍に断る必要はなかった。清明の駒になるのはなんとなく癪だったけど、知らない奴に命を預けるよりはいいかなって。


「なんない? 靖さんは女と相談せんにゃ決められんのんか?」


「清明さん、レデーファーストって知ってる?」


「なにそれ?」


「なんかデキる男は女性を立てるらしいよ?」


「そんな話聞いたことないわ。」


「僕は聞いたことがあるし、連邦との戦に関してはアキちゃんが僕の親分だから、子分が勝手な真似はできんのよ。」


「ほうなん? じゃあワシからアキさんに相談するけえ、靖さんはこのことについては話さんでええわ。今日は適当に休んで。」


 清明との面会はひとまず終了した。


 それにしても聖・ラルリーグのやり方も酷いもんだと思う。ブロッコ国の王様のいる都市を軍隊で包囲するような真似して、徒にブロッコ国の人達を混乱させようという狙いが透けて見えるようだ。あいつらはきっと、あわよくばブロッコ国を含む元連邦4ヶ国の全域を自分達の物にしようとしてるんだ。そして、獣人と人間は共生できないから皆殺しか叩き出すかするんだろ。


 ムネノリちゃんはいまごろ聖・ラルリーグのお偉いさん達とどういう話をしてるんだろ?


 アキちゃんは清明の話になんて答えるかな?


 ああ、タケシ、ブロッコ国の一番の敵はやっぱり聖・ラルリーグだよ。


 んで、僕は聖・ラルリーグの人間で……。


 爺さん、爺さんの言ってたことは正しいよ。でも正論吐くのは簡単だからズルいと思うわ。

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