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10-29(273) がんばれるかってんだ

 がんばらないと!


 って思ってたけど、がんばれないよ!


 昨晩ブロッコ市街に到着してからてくてく連邦方面をめざして歩き続けていたわけだけど、あ、もちろん夜は寝たけんだけどね、朝になってまた歩いてたら連邦方面からブロッコ市方面へ向けて聖・ラルリーグ軍が歩いてくるわけよ。一つの部隊だけならブロッコ市へ引き返すのかなって感じだったんだけど、それが三~四回続くと、いろいろ勘繰ったりしちゃうじゃん?


 なんてったってパクチー市が反旗を翻した翌日のことだからね。


 伝達速度がクソ速ええとか思わないこともなかったけど、仙道が絡んでるから情報が一晩で世界を駆け巡ったとしても不思議じゃない。


 もしかすると聖・ラルリーグがブロッコ国に愛想を尽かして帰国を開始したとか?


 もっと悪く想像すると、パクチー市の裏切りをブロッコ国の裏切りと捉えてこれからブロッコ市を聖・ラルリーグ軍で包囲するとか?


 ちょっと僕混乱してきたので、五つ目に見掛けた聖・ラルリーグの部隊に声を掛けたんだ。なのに部隊の連中ときたら「悪いが、部外者に教えられることはなに一つない」の一点張り。でもそれが正しい対応だと思うから文句も言えないし。


 状況が判らないままでは動けないから、僕達の歩みはここで止まる。


 木陰に腰を下ろして僕とアキちゃんは並んで休んだ。

 

 日は高くなり、傾いてゆく。


 頭上に広がる青空とその下に広がる平原を見渡しながら、僕はなんて小さくなってしまったのかと愕然とした。


 思い出した。


 虎さん達といるときはいつだって僕は雲の上にいたんだ。聖・ラルリーグもブロッコ国も連邦のことだって、俯瞰するように情報が入ってきていた。それがいざ別れて大地に足を下ろしてみたらたちまちこの有様だ。


 自分達で連邦相手に大暴れしてやるんだと息巻いて出てきたってのに、このなにか途方もなく大きな渦に巻き込まれて流されてしまうんじゃないかって感覚はなんだ?


 アキちゃんも道行く人に聖・ラルリーグ軍が移動している理由を尋ねてくれていたが、誰もなにも知らないようだった。こんなことなら虎さん達とすぐ離れるんじゃなくて、せめて最低限の情報だけでも得てから離れればよかったなんて後悔したってもう遅いし。


 このままなにも知らずにどこぞのブロッコ国軍の部隊に所属したとするとさ、いざ敵軍と対峙して相手を見ればそれは連邦軍じゃなくて聖・ラルリーグ軍でした、なんてことになりそう。


 だから迂闊にがんばれない……、なにをがんばったらいいのかがもう判らないよ!


 そこでまた思い出す。


 僕にはまだ雲の上の存在だけど話せる奴がいるじゃないかってね。


「アキちゃん、ちょい聞いて。僕、ブロッコ市に戻ろう思うんじゃが。」


「宮廷に行くの?」


 !!


 まさか言い当てられるとは思っていなかった。


「私も付いてく!」


 !!


 まさか付いてくるって言うとは思わなかった。ていうかまだ宮廷に行くとも答えてないんだけど。


 というわけで宮廷で前田の王様から情報を得るのを目的に僕達は来た道を引き返しブロッコ市街へと戻った。




 ブロッコ市の郊外には聖・ラルリーグ軍の陣営が展開されていた。


 郊外で休憩しているだけなのか、ブロッコ市の包囲網を形成しようと企んでいるのか。


「僕も昔、聖・ラルリーグ軍の部隊に所属してたことがあるんだぜ。」


 聖・ラルリーグ軍を横目に見ながらアキちゃんに恰好付けて言うと、


「靖さん、喋り方が昔に戻ってるにゃ。」


 と彼女が肩を竦めた。




 そんなネタで盛り上がりながら聖・ラルリール軍の駐留地を越えて、ブロッコ市街に入った。


 ブロッコ市街はまだマシだった。


 問題は宮廷内。


 僕とアキちゃんは宮廷から逃げ出してるから、いまはお尋ね者になっているかもしれない。僕は仙八宝があるからまだ万一の場合も死にゃしないかもしれなかったが、アキちゃんはそうはいかない。だから一度は木陰で待ってろと言ったんだけど、彼女ったら頑なに付いてくって言って聞かないんだよ。ここで別れたら下手したらもう一生会えないよ? ってさ、彼女が笑って言うんだ。そんなふうに言われたら、もうほかに選択肢はないよね?


 で、宮廷の前まで来た。ブロッコ市庁舎の方は一般人も簡単に通過できるからよかったけど、さすがに宮廷前の門には見覚えのある衛兵もいて突破が困難に思われた。


 無理に門を破ったり飛び越えたりすれば即犯罪者認定されてお縄になりそう。


 雑魚共に僕達の処置を決める権限がないことを想定して、僕達はごり押しで堂々と門から入ることに決めた。


「こんにちは~。靖ですけどぉ、覚えてますかねぇ。」


 見覚えのある顔の衛兵に声を掛けてみる。僕の見張り役の狐々乃ちゃんでも現われてくれれば話が早そうなんだけど。


「ありゃ、あんたらなんしょうん? 逃げたゆうて聞いとったんじゃが戻ってきたんかいの?」


 衛兵が敵意なんてまるでないって感じに驚いてくれたので、


「そうよ。パクチー市が連邦側に寝返ったのって知ってる?」


 と尋ねてみた。


「ああ、そうらしいのお。そのせいでえらいことなっとるみたいなで?」


 屈託なく答えてくれる衛兵さん。中身はないけどこういう姿勢がありがたい。僕この人好きかも。


「でしょ? えらいことになってるっぽかったから戻ってきたん。いざブロッコって。僕もこの宮廷には一宿一飯以上の恩があるから、ね。」


「ふ~ん、まあええわ。そしたら悪いけど武器だけ預からしてもらうけえ、持ち物改めるで? ん、そっちの女の方は婆呼んじゃるけえちょい待っとって。」


 こうして僕は衛兵の男に、アキちゃんは婆さんに持ち物検査をされて、いよいよ宮廷に入ることになった。女中に案内された部屋にいたのは前田の王様じゃなくて江精明だった。


 惜しい、僕が頼りたいのはこいつじゃないんだもう一つ偉い人を頼りたいんだよ。


「こんにちは~、靖ですぅ。ご無沙汰しておりますぅ。」


「ご、ご無沙汰してますにゃ。」


 なんだかヘンテコな挨拶。ちょっと罰が悪いような気がするが、相手の出方次第じゃこっちも命懸けだ!


「ふん、こちらこそ再びお二方のご尊顔を拝する栄誉にあずかることができてなんたらかんたらじゃわ。」


 僕達のふざけた挨拶に付き合ってくれてるのか、江精明もふざけた挨拶を返してきた。

 

 こやつ、やりおるな。


 ただ、江精明の目はふざけてないんだよなぁ。

 目が完全に僕達の正気を疑ってんだ。

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