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10-18(262) ブッ飛んだ

 約束の日の深夜。


 僕は再び爺さんの家に召喚された。


 今回は虎さん、爺さん、葵ちゃんに加え、伊左美と玲衣亜もいた。


「久しぶり。」


 伊左美と玲衣亜に短く挨拶すると


「おうっす、久しぶりだな。」

「久しぶり~。」


 といままでと変わらない雰囲気の間延びした挨拶が返ってきたもんだから、虎さんから事前に話を聞いてるんだろうかとやや不安になった。虎さんも僕に負けず劣らずときどきいい加減だからね。


「もう聞いてると思うけど……、獣人の女の件については本当にすいませんでした!」


 相手の出方を窺っても仕方ないんで、先手を打って体育会系のノリでビシィ!っと謝り、頭を下げた姿勢を維持。二人からなにかしら声を掛けられるまで頭を上げない方針で心臓をバクバクさせていた。


「ああ、そのことならもう聞いてる。ま、顔を上げなよ。」


 伊左美の柔らかい口調。ああ、伊左美はときどき間抜けだけどやっぱ大人だわ、懐が広いわぁ。


 バッと勢いよく顔を上げると二人とも微笑を湛えていらっしゃる。なにか裏があるようで怖い。


「その件については師匠とも話して不問にすることに決めたからね。別にもういいんだ。んで、靖はこれからどうしたいの?」


 玲衣亜の問い掛けに対し、僕はまた一緒にお菓子屋開店に向けてがんばりたいと伝えると、


「ん、じゃ、表へ出なよ。」


 そう言って顎で玄関を示す玲衣亜さん。これは焼きを入れられるに違いない。生唾を飲み込む僕の肩に手を載せ、僕を表へ誘う玲衣亜。なになに? これからなにが行なわれるっていうんだ?




「靖の仙八宝って、刀も関節技もなんにも受け付けなくするらしいね。確認なんだけど、それってホント?」


 薄ら笑いを浮かべている伊左美に僕は「おそらくね」と返した。


「獣人の女の件は別にいいんだけどさぁ、釈然としないことが一点あんだよね。それは靖が一般社会に戻るとかなんとかっつって私たちを事もなげに騙してくれたことなんだけどさぁ。」


 あ、いま罪状を言い渡されてるわけね。


「それも不問にするから一発ブッ飛ばしていい?」


 そんな歯を食い縛りつつ笑みを浮かべてでも目は笑っていないっていう微妙な表情で尋ねられましてもぉ。


「うん。」


 僕も歯を食い縛って首肯した。もう答える前から殴られる準備はOK的な?


 ひゅるひゅると風が吹いた。


 そして、木々がガサガサと揺れ始める。


 爺さんの家の窓もガタガタ揺れ始めた。


 ギイっと玄関が開き、葵ちゃんが表へ出てきて僕たち三人にニコッと微笑む。


「見学に来ました。」


 あ? おい葵僕はお前だけは許さねえからな!


「いくよ!」


 玲衣亜が死の宣告を僕に言い渡すと、ゴオッという凄まじい衝撃を受けるとともに僕は前後不覚に陥った。足が地に着いていない感覚。内蔵が収まるべき場所を見失いそうになりながらグルングルン身体の中を回っているような、変な感じ。


 僕は宙に投げ出されていた。


 局所的な超強風を一身に受けながら大地が遠のく様子を見てこれはさすがに死ねるんじゃないかとビビりながらも気を失ったときに仙八宝がうまく機能するのかどうか定かでなかったのでとにかくビビりながらも気絶だけはしないように羊を数えて気を紛らわせながら……。


 ドサ。


 どことも判らない場所に僕は墜落した。


 墜落の衝撃はあまりないみたいだった。衝撃を吸収してるのかな? と思ったけどいまは僕の仙八宝について考察してる場合じゃない。っていうかまさかここまでやられるとは思ってなかったんだけど。


 とか考えてたら爺さんに召喚された。


 さては爺さん、墜落のタイミングを待ってたな?


「おかえりなさい靖。」

「いまから靖もお菓子カンパニーの店員だ。歓迎するよ。」


 伊左美と握手した。


「靖さん、もう粗相しちゃダメですよ。」


 葵ちゃんも僕を受け入れてくれたみたい。っていうかお前とはあとでちょっと話があるから待ってろよ。


「おかえり、靖さん。」


 伊左美と玲衣亜の背後から遠慮がちにそう言う虎さん。


 みんなが僕を許してくれたようで嬉しい。




 それから僕はみんなに紹介したい人がいると告げた。


「みんなも知ってる獣人の女なんだけど。」


「ああ、聞いてる。別にオレは構わんぜ?」

「うん、ええよ。」


 伊左美と玲衣亜はもうとっくに腹を決めてたみたいで話が早い。この二人がOKならもう物怖じする必要はなかった。


 爺さんに頼んでアキちゃんを召喚してもらう。


 アキちゃんとみんながそれぞれ挨拶して、アキちゃんもお菓子カンパニーの一員になった。


 それから僕とアキちゃんが宮廷から脱出する作戦をみんなで考えた。


「ちょっとしんどいかもしれないけど、靖さんとアキさんには自力で聖・ラルリーグ領内まで逃げてほしい。転移の術や召喚の術は使わずにね。というのも、靖さんたちの逃走劇の背後に何者かがいる……というふうに思われたくないんだ。二人にはなんの後ろ盾もなく、あくまで自分たちの意志で我武者羅に逃げ出したと思わせておきたいわけ。」


 虎さんが言うには、国境に僕たちを手助けするための仙道を配しておくから、聖・ラルリーグまでは僕たちだけで逃げ延びろってことらしい。


「決行は三日後にしようか。三日目の晩、もし靖さんたちが聖・ラルリーグ領内に姿を現わさなければ、そのときはなにかあったと判断して爺さんに召喚してもらうけど、できれば自力で逃げ切ってね。」


 うう、結構難しい注文をされてる気もするけど、また安心して虎さんたちと合流するためにもがんばらないと!

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