10-14(258) 暴露
虎さんの鎖が僕と椅子を括り付けるようにガッチリと巻かれていた。手と腹は背もたれに、足は椅子の足に繋がれ、身動きが取れない。
「え? なんで急に?」
俄かには虎さんの豹変が信じられずそう言ったものの、爺さんの言葉を反芻してみて冷や汗が滲んだ。召喚されるときのいままでにない違和感こそが召喚に対する抵抗に相当するんじゃないかと思ったからだ。そして、その意味は……。
「あ、ごめん。これ条件反射みたいなもんだから、特に悪気があってやったんじゃないから安心してね。」
やってることが敵対してる者に対するそれなのに依然として微笑みを絶やさない虎さんが今度は爺さんに先程の言葉の意味を尋ねる。
虎さんに尋ねられて、ひょっとすると僕が仙道になっているかもしれない、と爺さん。
そういえば爺さんは葵ちゃんと一緒にすでに異世界人の二人を仙道にしたとか言ってたっけ? 前例を知っているだけに勘付くのも早いね。
「いつから?」
虎さんの質問。
僕が答えあぐねていた数秒の間さえ爺さんにはまどろっこしかったのか、爺さんは僕と虎さんになんの予告もなく葵ちゃんを召喚してみせた。
床の上に現われた寝姿の葵ちゃん。スヤスヤ寝息を立てて幸せそう。
虎さんだけならともかく、葵ちゃんまで登場したんじゃあもうダメだと思った。彼女が起きれば、すべてが白日の下に晒されることになるだろう。
爺さんの呼び掛けに、まもなく葵ちゃんが素っ頓狂な声を上げて飛び起きた。
「嘘!? ええ? マジでウッソでしょ!?」
召喚されたことに驚いたあと、葵ちゃんは爺さんに二言三言文句を言っていたが、僕の姿を目端に捉えると途端に表情が固まった。だがそれも束の間、葵ちゃんは薄く笑みを浮かべると
「どうも。」
と僕に会釈した。
く、葵ちゃんのこの態度……、やっぱダメだわ。
葵ちゃんはもう粗方腹を括ったかのように僕に関する秘密を吐露した。
僕が仙道になった時期のこと。
アキちゃんを攫って異世界へ逃亡して、逃亡先でアキちゃんに食事を与えていたこと。
そして、僕がおそらくアキちゃんの仲間たちと会っているであろうという推測も披露していた。
虎さんは一つひとつの事実に一々盛大に驚いて、爺さんはなぜか半笑いで口をぽかんと開けたままあらぬ方を見ていた。反応はそれぞれだがまあ二人ともショックを受けているのは間違いなさそう。
最後に葵ちゃんがこれまで黙っていたことを謝ると、
「ふ、過ぎたことをとやかく言うつもりはないけど、葵ちゃんもなかなかやるねぇ。」
と虎さん少々混乱気味ながらもなんとか平静を保っている。
過ぎたことは不問にするということは僕も許される流れなのかな? かといって調子に乗って余計な茶々を入れたりはしないのだけれど。まだまだ神妙にしておくに越したことはない。
「じゃあ靖さん、まずは靖さんの武器の性能を教えてもらえるかい?」
そこから改めて僕への質疑が開始された。
仙道になったこと、仙八宝の能力、獣人との関係、アキちゃんを攫った理由と一緒にこっちに戻ってきた理由、まだ異世界にタケシたちが居残っていること、現在の暮らし振りなどなど、なにも隠さず洗いざらい白状した。
話し忘れている点がないか検証しながら、後出しになることがないように。
僕の話を聞いた三人は黙り込んでしまった。
爺さんと葵ちゃんの二人は虎さんがなにか言うのを待ってただけなのかもしれないけど。
沈黙を破ったのは爺さんだった。
「ちなみに仙道になったのは靖さんだけじゃない。こっちで助けた二人の異世界人も仙道になってる。ま、その二人はとっくに向こうの世界に戻っちまってるがな。」
と、爺さんが爆弾を投下する。
「異世界人? 二人ぃ?」
虎さんが大声で驚く。
でも爺さん、なぜ自ら進んで立場を危うくするようなことを言うんだ?
「靖さん、なにか言いたげだな?」
爺さんが僕を見て言う。実際、なぜいまそんな爆弾発言をするのか聞きたかったのだけど、僕が言うべきことじゃない気がして思い留まっていたわけだけど。
「なんで判ったんスか?」
「ふん、口で言わなくっても目がなんか言いたげなのさ。」
「目から想いが溢れちゃったんだね。」
爺さんの言葉に続き、虎さんが変な分析を口にする。
「いえ、なんでこのタイミングで異世界人を仙道にしたとかっていう凄いことを告白したのかと思って。」
「ふん、せっかくの暴露大会じゃないか。オレもネタの一つ二つ提供しようと思ったまでさ。」
暴露大会て……、そんな楽しいノリでしたっけ? むしろ僕にとっていまの状況は針の蓆って感じなんだけど。




