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10-6(250) お説教

「靖さんなんか勘違いしとるじゃろ?」

 

 居住まいを正した僕にタケシが問う。


「勘違い?」


 僕とタケシが実は友達じゃなかったとか?


 それともアキちゃんが実は僕のことを嫌いだとか?


 ありゃ?

 

 なんとなく僕はタケシと友達で、アキちゃんは僕のことをそれなりに好いてくれていると思っていたのだけれど最近の僕は自惚れが過ぎていたか?


「アキがあっちに戻るっていうんはワシが指示したわけじゃのうて、アキが自分から言い出したことなんで?」


「え? そうなの?」


「ほれッ、やっぱり勘違いしとったろうが?」


「うん、僕はてっきりタケシが決めたんだと思ってた。」


「の。」


「ええ? でもアキちゃんはケンちゃんの面倒も見ないといけないわけだし、みんなが戻ってるからってアキちゃんまで無理して戻らなくてもいいと思うんだけど。」


「無理ゆうてもアキにとっちゃあこっちにおるんもあっち行くんもどっちも無理なんじゃけえ。まあどちらか言やああっちに戻った方が当人にとっちゃええんじゃろうがのお。」


「どういうことよ?」


「靖さんも意外とアキのことが判っちょらんのじゃのお? わしゃあいまのいままでアキの気持ちを一番よう判っとんが靖さんじゃ思うとったが違ったようなわ。のお? あんたがアキをここに連れて来たときあんならどがなかったんない。その前はどうじゃったんなら。わしらは知らんので? ここに来る前のアキをずっと見ちょって見ちょられんけえ言うて攫ってきたんはあんたじゃろうが。ほいじゃのになんで靖さんにアキの気持ちが判らんのんない?」


「ああ、そういうこと?」


 ポポロ市に来て以来アキちゃんと過去のことを話すことはなかった。特に僕と彼女の共通の話題といえばあまり愉快なものではないし当時の話は彼女を苦しめてしまうことになると思っていた。だから避けていた。


「判ったかいの。」


「おお、判ったけど……。」


 そんな僕の思惑とは裏腹に彼女は口に出さなくてもいつも当時のことを心に留めていたんだ。


 連邦やブロッコ国の内情、さらに異世界に出入りしていた事実を聖・ラルリーグ側に吐いた罪を償おうということか。


 なんてこった。辛い過去から目を背けてたのは僕の方だったんじゃん。そして同時に彼女からも目を背けて彼女のことなんて見ちゃいなかったんだな。まあ、これも一種のあるあるだよね。


「じゃあ、誤解が解けたところで聞くんじゃが、靖さんどうすん?」


「どうすんゆうて。」


 どうしよ?


 アキちゃんをこっちに留めておく理由がなくなっちゃったし。


「わしの勘違いじゃないならあんたアキのことが好きなんじゃろうが。」


「うん、大好きです。」


 な、なぜバレてるし……。


「おどれはそれがいけんのんじゃい。なんはぐらかそうとしとんか知らんが大事なことなんじゃけえ真面目っぽく答えや。」


「真面目っぽくゆうて。」


 確かにちょっとおちゃらけた感じで返事したけどもぉ。


「要はふつうに言え言ようんよ。」


 ふつうに言うのってちょっと照れるんだけど。


「うん、好きよ。」


 ふつうに言ってみた。


「男に言われても嬉しゅうないんじゃい気持ち悪いけんやめえや。」


「くっそ、お前が言うから真面目っぽく言ってみただけなのに。誰もお前に好きじゃ言うとらんのじゃぁ。」


「おう、すまんの。面と向かって言われたら寒気がしたけえ。」


「もうマジで人をからかうのも大概にしろや。」


「まあとにかくそんな具合じゃけえ、さっきアキにも言うたがアキが戻る戻らんの話を靖さんとするつもりはないしワシがアキに戻るなとも言わんし言えんけえ。それに靖さんがアキとこれからどんな話しようがワシャ知らんし好きにアキと話しゃあええよ。結論はアキから聞く。そっから先はワシらの話じゃけえもう何遍も言ようるが口出しすなよ?」


「うん。ありがとう。」


 なんだか目から鱗が落ちた気分。


 今夜はちょっとアキちゃんと昔話でもしようかな。


 これまで彼女ときちんと向き合ってこなかったから見落としていた彼女の気持ちもあったけど、彼女が僕に好意を持ってくれてるってことだけは判ってる。ただ、もう少しお互い知り合った方がよさそうだからね。




 タケシのお説教も終わり、僕は部屋を出てみんなにお待たせしましたと声を掛けた。窮屈そうに身を寄せ合っている獣人たちの中にアキちゃんの姿を見つける。彼らの輪に馴染んでいる様子の彼女。そうだよと僕は思う。やっぱり僕は間違ってはなかったんだって。

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